各種ポルトランドセメントの使い分けガイド:適切な選択で建設品質を最大化

各種ポルトランドセメントの使い分けガイド:適切な選択で建設品質を最大化

1. はじめに

「どのセメントを使えばいいのか?」建設現場で最もよく聞かれる質問の一つです。セメント売り場に行くと、似たような袋が並んでいて、初心者には「全部同じに見える」かもしれません。しかし、その選択がプロジェクトの運命を左右することもあるのです。

日本で使用できるポルトランドセメントは、普通、早強、中庸熱、低熱の4種類です。まるで「4人の個性的なキャラクター」のように、それぞれが得意分野と特技を持っています。普通セメントは「オールラウンドな安定型」、早強セメントは「せっかちなスピード型」、中庸熱セメントは「おっとり温度管理型」、低熱セメントは「クールな超低発熱型」といったところでしょうか。

現実では、多くの現場で「いつも使っているから」や「入手しやすいから」という理由でセメントが選ばれています。しかし、適切な使い分けをすることで、工期短縮、品質向上、コスト削減、環境負荷軽減を全て同時に実現できるのです。

本記事では、セメント選択を「料理の食材選び」のように、わかりやすく解説します。難しい技術論も、実際の使用例や具体的なメリットを交えながら、「現場で実際に使えるガイド」としてお伝えします。

2. ポルトランドセメント4種類の基本特性

2.1 4種類のセメント・「個性派四人組」の特徴

セメントの4種類を人間のキャラクターに例えてみましょう。それぞれが独特の性格と得意分野を持っています。

**普通ポルトランドセメント(OPC)・「信頼できるオールラウンダー」**
3日強度: 12.5N/mm²以上、7日: 22.5N/mm²以上、28日: 42.5N/mm²以上
まさに「長男タイプ」で、バランスが良く、どんな場面でもそつなくこなしてくれます。経済性も抜群で、迷ったらこれを選んでおけば間違いなし。

**早強ポルトランドセメント(HES)・「せっかちなスピード狂」**
3日強度: 22.5N/mm²以上(普通の約2倍!)、7日: 30.0N/mm²以上
「とにかく急いでいる!」という時の頑強な味方。、3日で普通セメントの7日強度を発揮するスーパーマンです。ただし、せっかちさんなので、使いこなしにはコツがいります。

**中庸熱ポルトランドセメント(MH)・「おっとり温度管理型」**
7日強度: 15.0N/mm²以上、28日: 40.0N/mm²以上、水和熱: 290J/g以下
熱くなりすぎない「おっとり系」。普通セメントより発熱量が約12%少なく、厚いコンクリートでも温度上昇を抑えてくれます。初期はおっとりでも、最終的にはしっかりした強度を発揮。

**低熱ポルトランドセメント(LH)・「クールな超低発熱型」**
7日強度: 12.5N/mm²以上、28日: 35.0N/mm²以上、水和熱: 250J/g以下
普通セメントの約25%しか熱を発しない「クールな奴」。ダムや超大型構造物では絶対に必要な存在です。ただし、初期はゆっくりマイペースなので、せっかちさんには不向き。

2.2 鉱物組成の比較・「セメントの中身」を解説

セメントの「中身」を理解することは、まるで「料理の材料」を理解するようなものです。主要な4つの鉱物成分が、それぞれ異なる役割を持っています。

**セメントの「四天王」・主要鉱物成分の性格**:

**C₃S(エーライト)・「早期強度の主役」**
セメントの「スプリンター」で、1-7日で急速に強度を発揮します。早強セメントはこの成分を日本一多く含んでいます(55-65%)。ただし、熱もたくさん発生します。

**C₂S(ビーライト)・「長期強度の縁の下の力持ち」**
セメントの「マラソンランナー」で、初期はおっとりでも、最終的には素晴らしい強度を発揮します。低熱セメントはこの成分が主役(45-60%)で、発熱量も少ないのが特徴です。

**C₃A(アルミネート相)・「熱血な反応役」**
最も熱くなる「熱血漢」で、初期の水和反応をコントロールします。低熱セメントではこの「熱血漢」を3-5%まで減らして、超低発熱を実現しています。

**C₄AF(フェライト相)・「調整役のバランサー」**
セメントの色を決め、全体の反応を調整する「縁の下の力持ち」。目立たないけれど、いないと困る存在です。

この4つの成分の絶妙なバランスが、各セメントの個性を作り出しているのです。

2.3 物理的性質の比較・「見た目と使い勝手の違い」

セメントは、見た目はどれも同じ「灰色の粉」ですが、実際に使ってみると全く違う性格が現れます。

**粉末度(細かさ)の違い・「粉の細かさ=反応の速さ」**
セメントの粉の細かさは、水との反応速度を決めます。早強セメントは特に細かく砕かれており(3,300-4,000 cm²/g)、まるで「超微粉のコーヒー豆」のように、水と触れた瞬間から素早く反応し始めます。

一方、低熱セメントはあえて粗めに作られており(2,800-3,200 cm²/g)、「ゆっくり抽出するお茶」のように、時間をかけて着実に反応します。

**凝結時間の違い・「作業時間の違い」**
セメントの凝結時間は、施工者にとって非常に重要です。早強セメントは「せっかちさん」なので、作業時間が短く、一方で低熱セメントは「のんびりさん」なので、時間に余裕を持って作業できます。

**長期強度の違い・「スプリンター vs マラソンランナー」**
普通・早強セメントは「スプリンタータイプ」で、28日でほぼゴールです。一方、中庸熱・低熱セメントは「マラソンランナータイプ」で、91日、365日と時間が経つほど強くなり続けます。まさに「伸びしろタイプ」ですね。

3. 選択基準の体系化・「最適なパートナー選び」の極意

3.1 主要な選択要因・「セメント選びの5つの軸」

セメント選択は、まさに「プロジェクトに最適なパートナー選び」です。5つの重要な軸で判断することで、間違いのない選択ができます。

**1. 構造物の種類・規模・「プロジェクトのボリューム感」**
住宅の基礎のような「コンパクトサイズ」から、ダムのような「メガサイズ」まで、規模によってセメントの選び方は全く変わります。厚さ80cmを境界線として、「一般建築」と「マスコンクリート」に大別されます。一般建築では普通セメントが王道ですが、マスコンクリートでは「熱対策」が最優先になります。

**2. 工期・施工条件・「時間との勝負」**
「急がば回れ」とはいいますが、建設現場では「急がば早強セメント」が鉄則です。災害復旧工事のように「一刻を争う」場面では、早強セメントが絶対的な味方になります。一方、十分な時間がある場合は、コストパフォーマンスの良い普通セメントや、将来の強度伸びが期待できる中庸熱・低熱セメントが最適です。

**3. 経済性・「総合的なコストバランス」**
「安物買いの銭失い」にならないよう、材料費だけでなく、工期短縮効果、将来の維持管理コスト、さらには構造物の寿命まで考慮した「ライフサイクルコスト」で判断することが重要です。早強セメントは材料費は高いですが、工期短縮により総合的にはコスト削減になることが多いのです。

**4. 環境条件・「自然環境への適応」**
日本は南北に長く、北海道の厳寒から沖縄の酷暑まで、様々な気候条件があります。寒冷地では凍害対策として早強セメントの発熱効果を活用し、高温地域では中庸熱・低熱セメントで温度上昇を抑制します。まさに「適地適材」の考え方です。

**5. 品質要求・「構造物への期待値」**
「100年もつ橋」と「仮設の建物」では、求められる品質レベルが全く違います。超高層ビルや重要インフラには最高品質を、一般建築には標準品質を、というように、構造物の重要性と期待寿命に応じてセメントを選択します。

3.2 決定フローチャート・「3分でできるセメント診断」

セメント選択を「健康診断」のように、簡単なチェックで最適解を見つけることができます。

まず最初に確認すべきは、構造物の「体格」です。部材の最大厚さが80cmを境界線として、一般的な建築物とマスコンクリートに大別されます。80cm未満であれば一般サイズとして温度管理の心配はほとんどありませんが、80cm以上になるとマスコンクリートとして温度対策が必須となります。

次にチェックすべきはスケジュール面です。工期に余裕があるかどうかで、セメントの選択は大きく変わります。急ぐ場合は早強セメントがスピード重視の最適解となり、通常の工期であれば他の要因を考慮して選択できます。

最後に特殊条件を確認します。マスコンクリートの場合は、さらに詳細な分類が必要です。超大型(150cm以上)の場合は低熱セメントが必須となり、大型(80-150cm)の場合は中庸熱セメントが適しています。

これらの診断を総合すると、一般建築で急ぐ場合は早強セメント、一般建築で通常工期なら普通セメント、マスコンクリートの大型なら中庸熱セメント、超大型なら低熱セメントという結論に至ります。この診断フローに従えば、どんなプロジェクトでも適切なセメントを選択できます。

3.3 詳細選択マトリックス・「プロ仕様の選択表」

**部材厚さ別推奨・「厚さで決まる運命」**:

建設業界には「厚さ80cmの法則」という経験則があります。これを超えると温度管理が急に難しくなるのです。

| 部材厚さ | 第一推奨 | 第二推奨 | 現場での通称 |
|———|———|———|——|
| ~40cm | 普通 | 早強 | 「お手軽サイズ」温度の心配なし |
| 40-80cm | 普通 | 中庸熱 | 「要注意サイズ」夏は温度チェック |
| 80-150cm | 中庸熱 | 低熱 | 「マスコンサイズ」温度対策必須 |
| 150cm~ | 低熱 | 中庸熱 | 「メガサイズ」超厳重温度管理 |

**用途別推奨・「目的で選ぶベストパートナー」**:

建設現場では「適材適所」が鉄則です。目的に応じて最適なセメントを選ぶことで、品質もコストも大幅に改善できます。

| 用途 | 推奨セメント | 現場での合言葉 |
|—–|————-|——|
| 一般建築躯体 | 普通 | 「迷ったら普通、間違いなし」 |
| プレキャスト製品 | 早強 | 「型枠回転、時は金なり」 |
| 道路・舗装 | 普通・早強 | 「早期開放で渋滞回避」 |
| ダム・大型基礎 | 低熱・中庸熱 | 「熱制御で100年安心」 |
| 寒冷地施工 | 早強 | 「発熱パワーで凍害防止」 |
| 緊急補修 | 早強 | 「一刻も早く、社会復旧」 |

4. 用途別詳細ガイド

4.1 一般建築物

住宅や低層建築物では、普通ポルトランドセメントが圧倒的に推奨されます。これらの建築物では部材厚が薄いため温度管理の必要がなく、経済性を重視した選択が可能です。また、普通セメントは安定した品質と供給体制が確立されており、施工者にとっても扱いやすい材料です。

中高層建築物になると、部位によって使い分けが必要になります。基礎や地下部分では基本的に普通セメントを使用しますが、部材厚によっては中庸熱セメントの検討も必要です。上部躯体は一般的に普通セメントで十分ですが、特殊部位では異なる選択が求められます。早期脱型が要求される部分では早強セメントが効果的で、厚い壁やスラブでは温度管理のため中庸熱セメントが適しています。

施工上の注意点として、配合設計時には水セメント比の調整が重要です。普通セメントでは50-65%の範囲で設定しますが、早強セメントでは45-60%とやや低めに設定し、流動性確保のため減水剤を併用することが一般的です。これらの調整により、各セメントの特性を最大限に活かした施工が可能になります。

4.2 土木構造物

道路構造物では、用途に応じた明確な使い分けが必要です。舗装コンクリートでは早期の交通開放が求められるため、早強セメントが標準的に使用されます。橋台や橋脚では普通セメントが基本ですが、厚い部材では温度管理のため中庸熱セメントの採用を検討します。ボックスカルバートは構造物の規模により、普通セメントまたは中庸熱セメントを選択します。

これらの選択において重要な判断基準があります。交通開放要求がある場合は早強セメントの選択が必須となり、厚部材(1.5m以上)では中庸熱セメント以上の低発熱セメントが必要です。また、海洋環境では塩害対策として高炉セメントなどの混合セメントも検討する必要があります。

ダムや大型構造物では、さらに厳格な温度管理が求められます。重力式ダムではリフト厚3mに対応するため低熱セメントが必須となり、アーチダムでは中庸熱または低熱セメントを使用します。大型基礎も同様に低熱セメントが標準となります。

温度管理の目標値も明確に設定されています。最高温度は普通セメントで65℃以下、中庸熱セメントで55℃以下、低熱セメントで45℃以下とし、内外温度差は25℃以下、冷却速度は1日あたり1℃以下に管理することで、温度ひび割れを防止します。

4.3 プレキャスト製品

プレキャスト・プレストレストコンクリート部材の製造では、早強ポルトランドセメントが圧倒的に推奨されます。工場生産の効率化のため、型枠の回転率向上が最重要課題となるからです。蒸気養生条件は60-80℃で6-12時間が標準的で、脱型強度は設計強度の70%以上を確保することが求められます。

コンクリート二次製品でも早強セメントが主流です。U字溝やL字溝では早期脱型による生産性向上が必須であり、インターロッキングブロックも同様の理由から早強セメントを使用します。擁壁ブロックは製品サイズにより普通セメントと早強セメントを使い分けますが、大量生産品では早強セメントが有利です。

早強セメント使用による生産性向上効果は劇的です。脱型時間が24時間から12時間へと50%短縮され、製造サイクルは1日1回転から2日3回転へと大幅に改善されます。結果として生産性は約40%向上し、工場の設備投資効率も大きく改善されます。この効果により、材料費の増加分を十分に回収できるため、プレキャスト工場では早強セメントが標準的に採用されているのです。

4.4 特殊条件での使い分け

寒冷地施工では、気温によってセメントの選択が決定的に重要となります。気温5℃以下では早強セメントが推奨され、0℃以下では早強セメントの使用が必須となり、さらに材料加温も併用する必要があります。早強セメントの高い水和熱を積極的に活用することで、初期凍害を防止し、適切な強度発現を確保します。

高温環境施工では逆のアプローチが必要です。気温30℃以上では中庸熱セメントの使用が推奨され、35℃以上の酷暑では低熱セメントの検討も必要になります。高温による急激な水分蒸発と過度な温度上昇を防ぐため、材料冷却も必要に応じて実施します。これらの対策により、温度ひび割れのリスクを最小限に抑えることができます。

緊急・災害復旧工事では、時間との勝負になります。迅速な復旧が要求される場合は早強セメントの使用が必須で、仮設構造物でも同様です。特に24時間以内の開放が必要な場合は、早強セメントに加えて蒸気養生を併用することで、極めて短時間での強度発現を実現します。災害時の社会インフラ復旧において、早強セメントは欠かせない存在となっています。

5. 経済性の比較分析

5.1 材料費の比較

セメントの材料費は種類によって明確な差があります。普通ポルトランドセメントを基準(1.00)とすると、早強セメントは1.10-1.20倍、中庸熱セメントは1.05-1.15倍、低熱セメントは1.20-1.40倍の価格設定となっています。この価格差は、製造工程の複雑さと生産量の違いを反映しています。

しかし、セメント費用がコンクリート価格全体に占める割合を考慮すると、影響は限定的です。例えばC25コンクリート(セメント300kg/m³)の場合、セメント費はコンクリート価格の約15%程度です。このため、早強セメントを使用しても価格上昇は1.5-3.0%、中庸熱セメントでは0.8-2.3%程度に収まります。この程度の価格差であれば、工期短縮や品質向上効果を考慮すると、十分に経済的メリットが得られる場合が多いのです。

5.2 工期短縮効果の経済評価

早強セメントの使用による工期短縮効果は、経済的に大きなインパクトをもたらします。脱型期間が3日から1-2日に短縮されることで、型枠回転率が20-30%向上します。これにより、構造物の種類にもよりますが、全体工期を5-15%短縮することが可能になります。

具体的な経済効果を中規模建築プロジェクト(工期12ヶ月、工事費10億円)で試算してみると、その効果は驚くべきものです。早強セメントの追加費用は約500万円ですが、工期が1ヶ月(約8.3%)短縮されることで、現場管理費や仮設費などの間接費が3,000万円削減されます。差し引きの正味経済効果は2,500万円となり、投資収益率(ROI)は実に500%に達します。

この試算からわかるように、材料費の増加だけに注目するのではなく、工期短縮による総合的な経済効果を評価することが重要です。特に都市部の建設プロジェクトでは、工期短縮による早期稼働開始のメリットも加わるため、さらに大きな経済効果が期待できます。

5.3 ライフサイクルコスト比較

**維持管理費への影響**:
– 普通: 基準
– 早強: ほぼ同等
– 中庸熱: 10-20%削減(ひび割れ減少)
– 低熱: 20-30%削減(高品質化)

**耐用年数への影響**:
– 温度ひび割れ防止による耐久性向上
– 中庸熱・低熱: 5-10年の耐用年数延長効果

6. 品質管理・施工管理のポイント

6.1 セメント種類別管理項目

普通ポルトランドセメントでは、標準的な管理項目に従った品質管理で十分です。ただし、夏季と冬季の温度管理、凝結時間の管理は基本事項として確実に実施する必要があります。これらは一般的な管理手法で対応可能なため、多くの施工者にとって扱いやすいセメントといえます。

早強ポルトランドセメントでは、その特性から特別な注意が必要です。重点管理項目として、スランプロスによる急激な流動性低下への対応、高温時の急結防止、初期養生の徹底が挙げられます。管理基準も厳格で、運搬時間は60分以内、打設温度は30℃以下を推奨します。これらの管理を怠ると、施工不良や品質低下につながるため、細心の注意が必要です。

中庸熱・低熱ポルトランドセメントでは、初期強度が低いことから異なる管理アプローチが必要です。初期強度の確認を慎重に行い、長期養生計画を立案し、温度履歴を詳細に管理することが重要です。特に脱型強度の判定は慎重に行う必要があり、供試体の養生条件も実構造物の条件に合わせて適切に設定する必要があります。これらの管理により、低熱セメントの長所を最大限に活かしつつ、施工上のリスクを回避できます。

6.2 配合設計の調整指針

**水セメント比の調整**:
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基準配合からの調整目安:
– 早強セメント使用時: W/C = -3~-5%
– 中庸熱セメント使用時: W/C = +2~+5%
– 低熱セメント使用時: W/C = +3~+8%
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**混和剤の併用**:
– **早強セメント**: 高性能AE減水剤推奨
– **中庸熱・低熱**: 標準的な混和剤で対応可能
– **遅延剤**: 高温時の早強セメントで有効

6.3 養生管理の最適化

**標準養生期間**:
– 普通: 7日間
– 早強: 3-5日間
– 中庸熱: 7-14日間
– 低熱: 14-28日間

**養生条件の調整**:
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温度・湿度管理:
– 早強: 20℃、湿度95%以上(標準)
– 中庸熱・低熱: 初期の保温に注意
– 乾燥防止: 全種類共通で重要
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7. トラブル事例と対策

7.1 よくある選択ミス

マスコンクリートでの普通セメント使用は、最も多い選択ミスの一つです。部材厚が1メートルを超える構造物で普通セメントを使用した結果、内部温度が80℃を超え、大規模な温度ひび割れが発生した事例があります。原因はセメント種類の検討不足で、コスト優先の選択が結果的に補修費用の増大を招きました。部材厚80cm以上では必ず中庸熱セメント以上の検討が必要です。

緊急工事での普通セメント使用も重大なミスです。災害復旧工事で3日以内の交通開放が必要だったにもかかわらず、普通セメントを使用して目標強度に到達せず、開放が大幅に遅れた事例があります。早期強度要求への対応不足が原因で、工期制約条件の事前確認が不十分でした。緊急工事では早強セメントの使用を第一に検討すべきです。

寒冷地での中庸熱セメント使用による初期凍害も深刻な問題です。北海道の冬季施工で、温度ひび割れを恐れて中庸熱セメントを選択した結果、低い水和熱により保温効果が不足し、初期凍害が発生しました。気温5℃以下では、水和熱を積極的に活用する早強セメントの選択が基本となります。これらの事例から、セメント選択には総合的な判断が必要であることがわかります。

7.2 セメント変更時の注意点

**配合の再設計**:
– 強度発現パターンの違い確認
– 水セメント比の調整
– 混和剤の適合性確認

**施工条件の見直し**:
– 打設可能時間の再評価
– 養生期間・方法の調整
– 品質管理基準の見直し

**コスト影響の精査**:
– 材料費の増減
– 工期への影響
– 総合的な経済性評価

8. 実践的な選択手順

8.1 プロジェクト初期段階

プロジェクト初期段階でのセメント選択は、まず基本情報の整理から始まります。構造物の種類と規模、部材の最大厚さ、要求強度と品質、工期制約、気象条件と季節、特殊要求事項を体系的にチェックリスト化して整理することが重要です。この段階での情報収集の精度が、最終的な選択の成否を左右します。

次に予備選定を行います。部材厚さによる第一次スクリーニングで大まかな方向性を決定し、工期制約による絞り込みで現実的な選択肢を抽出します。さらに経済性の概算評価を行い、プロジェクトの予算枠内で実現可能な選択肢を明確にします。この段階で2-3種類程度に候補を絞り込むことが一般的です。

詳細検討段階では、より具体的な技術検討を行います。マスコンクリートの場合は温度解析を実施し、温度ひび割れのリスクを定量的に評価します。施工性の評価では、現場の設備や作業員のスキルレベルも考慮し、実現可能性を確認します。品質管理方法についても、選択したセメントに応じた管理体制が構築可能かを検証します。これらの検討を通じて、最適なセメント選択を確定します。

8.2 設計段階での最終決定

**技術的妥当性の確認**:
– 構造計算への反映
– 耐久性検討への影響
– 施工方法との整合性

**経済性の最終評価**:
– 詳細コスト比較
– 代替案との比較検討
– LCC評価の実施

**リスク評価**:
– 品質リスク
– 工期リスク
– コストリスク

8.3 施工段階での管理

**品質管理計画の策定**:
– セメント種類に応じた管理項目
– 試験頻度・方法の設定
– 判定基準の明確化

**施工条件の最適化**:
– 気象条件への対応
– 設備・機械の準備
– 緊急時対応計画

9. 将来動向と新しい選択肢

9.1 新技術の動向

高性能セメントの開発は急速に進展しています。超早強セメントは6時間で20N/mm²の強度を発現し、災害復旧や緊急補修での活用が期待されています。極低熱セメントは7日水和熱を200J/g以下に抑え、超大型構造物での温度管理を革新的に改善します。さらに、自己修復機能を持つ多機能セメントなど、従来の概念を超えた製品開発も進んでいます。

環境対応型セメントの開発も加速しています。低炭素セメントはCO₂排出量を30%削減し、地球温暖化対策に貢献します。リサイクル原料を100%使用したセメントは、循環型社会の実現に向けた重要な技術です。究極的にはカーボンニュートラルセメントの実現を目指し、製造時に排出したCO₂を再吸収する技術開発が進められています。これらの新技術により、セメント選択の基準も大きく変化していくことが予想されます。

9.2 選択基準の進化

**デジタル化の影響**:
– AI による最適選択支援
– IoT による品質管理
– ビッグデータ活用の最適化

**持続可能性の重視**:
– LCA(ライフサイクルアセスメント)
– カーボンフットプリント
– 循環経済への貢献

9.3 国際動向の影響

**グローバル標準化**:
– 国際規格の調和
– 技術基準の統一
– 品質要求の高度化

**新興技術との融合**:
– 3Dプリンティング対応
– スマート材料化
– ナノテクノロジー応用

10. まとめ

ポルトランドセメントの適切な使い分けは、建設プロジェクトの成功を左右する重要な決定事項です。本ガイドで示した選択基準と実践的手順を活用することで、技術的妥当性と経済性を両立した最適な選択が可能となります。

重要なポイントとして、まず体系的な選択プロセスの確立が挙げられます。部材厚さ、工期、品質要求を明確に優先順位付けし、プロジェクトの特性に応じた判断を行うことが基本となります。次に、材料費だけでなくライフサイクルコストを考慮した総合的評価が必要です。初期投資の増加が長期的なメリットをもたらす場合が多いことを認識すべきです。

セメント種類に応じた適切な品質管理の実施も欠かせません。各セメントの特性を理解し、それぞれに適した管理手法を適用することで、品質トラブルを未然に防ぐことができます。また、実績データに基づく選択基準の継続的な見直しにより、より精度の高い選択が可能になります。さらに、新技術や環境要求への対応準備を怠らないことで、将来の変化にも柔軟に対応できます。

建設技術者として、セメント選択を「習慣」ではなく「技術的判断」として行うことが重要です。本ガイドを参考に、各プロジェクトの特性に応じた最適な選択を実現し、より良い建設技術の発展に貢献していきましょう。適切なセメント選択により、工期短縮、品質向上、コスト削減、環境負荷軽減を同時に実現し、持続可能な建設業界の発展に寄与することが我々の使命です。

参考文献

[1] Taylor, H.F.W. (1997). Cement Chemistry (2nd ed.). Thomas Telford Publishing, London.

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[4] 日本コンクリート工学会 (2022). コンクリート技術の要点’22. 東京官書普及.

[5] JIS R 5210 (2019). ポルトランドセメント. 日本規格協会.

[6] Neville, A.M. (2011). Properties of Concrete (5th ed.). Pearson Education Limited.

[7] Mehta, P.K., Monteiro, P.J.M. (2014). Concrete: Microstructure, Properties, and Materials (4th ed.). McGraw-Hill Education.

[8] ASTM C150/C150M (2020). Standard Specification for Portland Cement. ASTM International.

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