LCA評価で見るセメントの環境影響

1. はじめに(この記事でわかること)

道路、橋、ビルなどに欠かせないコンクリートは「環境に悪い」と言われがちですが、議論の前提を揃えずに結論だけを語ると、誤解が生まれやすい分野です。そこで有効なのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)という科学的な評価手法です。

LCAでは、原料の採掘から製造、輸送、施工、使用、解体・再資源化までを対象にし、CO2だけでなく酸性化・富栄養化など複数の環境影響を同じ枠組みで比較できます。この記事では、セメント・コンクリートのLCAで「何を、どこまで、どう比較するか」を実務目線で整理し、よくある誤解(例:炭酸化の扱い、境界条件の違い)も含めて解説します。

  • セメントのLCAで最初に決めるべき「機能単位」「システム境界」
  • CO2原単位の読み方(品種比較で注意すべき前提)
  • 炭酸化によるCO2固定は、いつ・どう扱うべきか
  • EPD、CBAM、Buy Cleanなど制度面でLCAが求められる理由

2. LCA評価の基本(機能単位とシステム境界がすべてを決める)

LCAは、ISO 14040/14044に沿って「目的と範囲の定義 → インベントリ分析(LCI) → 影響評価(LCIA) → 解釈」を行います。ここで最重要なのは、比較の前提を揃えることです。前提が違えば、同じ材料でも結果は大きく変わります。

機能単位(Functional Unit)
セメント単体の比較なら「1tのセメント」や「1m³のコンクリート」が一般的です。一方、構造物として比較するなら「床面積1m²あたり」「橋梁上部工1m²を50年間維持する」など、機能を反映した単位が望ましいケースが多くなります。たとえば耐用年数や補修頻度が違う材料を、重量だけで比べると結論を誤りやすくなります。

システム境界(System Boundary)
どこまでを含めるかで結果は変わります。この記事では用語を次のように整理します。

Cradle-to-Gate:原料採取~セメント(またはコンクリート)製造まで
Cradle-to-Grave:上記+輸送・施工・使用(補修)+解体・廃棄まで
Cradle-to-Cradle:上記+再資源化(代替効果の考え方を含む)まで

特に注意したいのは、同じ「CO2原単位」でも、購入電力の扱い、混合材(高炉スラグ等)の配分方法、輸送や施工を含むかどうかで数値が変わる点です。数字の比較は、必ず「境界条件」とセットで読む必要があります。

多機能プロセス(廃棄物利用)と配分問題
セメント産業は、廃棄物・副産物を原料・燃料として受け入れ、製品生産と同時に廃棄物処理(社会的機能)も担うことがあります。このとき環境負荷をどう配分するか(経済配分/物理配分/システム拡張など)で結果が変わります。比較目的(製品比較か、社会システム比較か)に応じて選ぶのが実務上の基本です。

3. セメントの環境影響は「CO2原単位の読み方」で精度が決まる

セメントの環境影響で最も注目されるのは地球温暖化(GWP)ですが、ここでも「どの原単位を、どの境界で」使うかが重要です。プロセス起源(石灰石の脱炭酸)とエネルギー起源(燃料燃焼)が主要因で、一般にプロセス起源が大きな割合を占めます。

品種別CO2原単位(例:セメント協会の公表値の読み方)
以下は、品種比較の際に参照されることが多い“品種別のCO2原単位”の例です。ここで大切なのは、同じ出典・同じ境界条件で揃えて比較することです(出典が示す境界条件の注意書きは必ず確認してください)。

セメント種類CO2原単位(例)普通ポルトランド比(目安)コメント
普通ポルトランド741.3 kg-CO2/t基準比較の基準になりやすい
高炉セメントB種423.3 kg-CO2/t約43%低い混合材比率が高いほど原単位は低下しやすい
フライアッシュセメントB種612.9 kg-CO2/t約17%低い地域の供給条件・品質要求で最適解が変わる
シリカセメントB種634.0 kg-CO2/t約15%低い用途によっては高性能化で材料削減に効く
早強ポルトランド764.4 kg-CO2/t約3%高い施工条件(工期短縮)で別の環境便益が出る場合も

ここから読み取れる実務上のポイントは、「単純に“低いセメント=常に最適”とは限らない」ということです。強度発現、耐久性、施工条件(養生、型枠、工期)、補修頻度まで含めた機能比較に落とし込むことで、初めてプロジェクトとしての最適解が見えてきます。

混合セメントの削減効果(記事内の関連リンク)
混合材の考え方や用途上の注意点は、別記事で詳しく整理しています。
関連記事: 高炉セメント(高炉スラグの活用と性能面のポイント)

CO2以外の影響(AP/EPなど)は「計算式」と「前提」をセットにする
酸性化(AP)や富栄養化(EP)は、使うLCIA手法(例:CML、ReCiPe等)と特性化係数で値が変わります。したがって、記事内で数値を出す場合は「排出量」「係数」「式」を同じ段落内で揃えて示すのが、読者の検証性(信頼性)を上げる書き方です。

たとえばAPの基本形は次の通りです。

AP = Σ(排出量i × 特性化係数i)

本記事では、詳細な係数表を網羅する代わりに、実務での読み方に絞ります。AP/EP/POCPなどは「CO2だけを最適化した結果、別の影響が増えていないか」を確認する用途で特に有効です。発注者説明やEPDでは、ここが評価対象になることが増えています。

4. コンクリートのLCAは「使用段階」と「炭酸化」の扱いで結論が変わる

コンクリートのLCAは、製造段階(材料製造+練混ぜ)だけでなく、輸送・施工・使用(補修)・解体まで含めると見え方が変わります。特に構造物は寿命が長いため、補修頻度や更新計画が効いてきます。

概算例:普通コンクリート(24MPa)1m³のGWP
以下は説明用の概算例です。セメント以外の原単位や輸送距離で結果は変わるため、プロジェクトでは必ず自社・現場条件のデータに置き換えてください。

原料使用量(例)GWP(概算)コメント
セメント300 kg/m³約222 kg-CO2 eq./m³CO2原単位741.3 kg/tを使用した場合の単純計算
骨材・水・混和剤など配合条件による数kg~数十kg-CO2 eq./m³地域の供給・輸送条件で変動

この例からわかる通り、一般的な配合ではセメントがGWPの主要因になりやすい一方で、輸送距離が長い場合や、混和剤・補修材が多い設計では、寄与構造が変わります。ここを見誤ると「セメントだけ下げたが全体最適になっていない」状態になりがちです。

輸送・施工は“固定値”ではなく、式で置くと議論が速い
輸送は「重量×距離×輸送手段の排出係数」で積み上げるのが基本です。Ready-mixedコンクリートは現場制約が強いため、輸送距離(プラント配置)と施工計画(待機・再運搬)を一緒に見直すと、LCA上もコスト上も改善することがあります。

熱性能の便益は「設計条件」とセットで書く
コンクリートの熱容量効果で冷暖房負荷が変わる可能性はありますが、地域気候・外皮性能・運用条件で結果がぶれます。したがって“何%削減”と断定するより、「条件が揃うと削減が見込まれる」程度に整理し、必要なら別途シミュレーションで確認するのが安全です。

炭酸化によるCO2固定効果:重要だが、会計上の扱いは慎重に
コンクリートは時間とともに大気中CO2を取り込む炭酸化が起き得ます。学術研究では、セメント由来の炭素吸収が無視できない規模になる可能性が示されています。

一方で、プロジェクトLCAやEPDでの計上は、対象範囲(供用中のみか、解体後の破砕・再資源化まで含むか)、測定・推計方法、二重計上の回避など論点が多く、断定的な扱いは避けた方がよい領域です。本記事では、炭酸化は「影響を左右し得る要素」として位置付け、数値評価は目的と境界条件を明確にした上で行うことを推奨します。

5. LCAが“実務要件”になる領域:EPD、CBAM、カーボンニュートラル主張

LCAは研究・技術評価の道具であると同時に、調達・制度対応の言語になっています。とくに輸出入や公共調達、サプライチェーン開示の場面で「比較可能な形で示す」ことが求められます。

EPD(環境製品宣言)
EPDは、第三者検証を前提に環境影響を開示する仕組みで、建設分野では調達条件に組み込まれるケースが増えています。日本でも運用枠組みが整備されており、製品比較の入口として活用されます。

EU CBAM(炭素国境調整)
EU向けに関連品目を輸出する場合、排出量情報の報告や将来的なコスト影響が論点になります。制度は移行期間と本格運用で要求が異なるため、最新要件は必ず一次情報で確認してください。

カーボンニュートラルの主張は「規格の更新」に追随する
従来参照されることが多かったPAS 2060は、運用面での取り扱いが変化しており、近年はISO 14068-1(カーボンニュートラリティ)を軸に整理するのが実務的です。記事内の関連トピックは以下も参照してください。
関連記事: カーボンニュートラル
関連記事: CO2削減

CCUSはLCAの境界設定が“本体”になる
CCUS(回収・利用・貯留)は削減ポテンシャルが期待される一方、回収工程のエネルギー、輸送、貯留の長期性、利用製品の配分など、境界設定で結論が大きく変わります。導入検討では、技術の優劣以前に「何を比較したいか」を定義し、LCA設計から入るのが近道です。

6. まとめ(公開用の結論)

セメント・コンクリートの環境影響は「セメント製造時のCO2」だけで決められるものではありません。LCAで重要なのは、機能単位とシステム境界を揃え、CO2以外の影響も含めて全体最適で評価することです。

また、混合セメントはGWP低減の有力な手段になり得ますが、最適解は用途・品質要求・施工条件・補修計画で変わります。炭酸化は見落とされがちな要素である一方、計上方法には注意が必要で、断定よりも前提の明示が信頼性を高めます。

制度面ではEPD、CBAM、カーボンニュートラル主張などでLCAが“実務要件”になりつつあります。公開記事としては、最新規格・制度に追随しつつ、数値は必ず境界条件とセットで示すことが、読者の信頼と検索評価の両方に直結します。

参考・出典(一次情報を中心に)

  • 日本セメント協会:セメントのCO2原単位(品種別の公表値)
  • Wernet, G. et al. (2016). The ecoinvent database version 3 (part I): overview and methodology. The International Journal of Life Cycle Assessment.
  • Xi, F. et al. (2016). Substantial global carbon uptake by cement carbonation. Nature Geoscience.
  • ISO 14040/14044(LCAの枠組み)、ISO 14067(CFP)、ISO 14071(クリティカルレビュー)
  • EU CBAM(欧州委員会の一次情報)
  • ISO 14068-1(カーボンニュートラリティ)

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