2010–2019|C-A-S-HとC-S-H(応用編):スラグ/フライアッシュ配合の設計指針

前回の「基礎編」では、Al が“橋かけ”に座ると鎖が縫い直されること、Ca/Si が上がると Al(Ⅵ) も関与しやすくなることを押さえました。ここからは一歩踏み込み、高炉スラグ(GGBFS)やフライアッシュ(FA)を含む実配合で、その知識を設計の言葉に訳します。狙いはシンプルで、若材齢の立ち上がりを崩さず、長期の緻密化と耐久を押し上げること。キーワードは、C-A-S-H への Al の賢い取り込みAFm の制御(石灰石微粉との連携)、そして**間隙水化学(pH・アルカリ)の舵取りです。総説と一次研究が整ってきた2010年代は、これらを数字で見積もる“地図”**が急速に整った時期でもあります。


1|まず“行き先”を決める:強度・収縮・耐久の優先度

ブレンド配合の善し悪しは、C-A-S-H の連結度(鎖長)と中距離秩序(相関長)に跳ね返ります。初期強度優先なら、w/b を落としすぎずにシーディングや微粉で核形成を下支えし、スラグの反応を温度・養生で後押しする。一方、長期耐久優先なら、FA の緩やかなポゾラン反応Ca/Si をやや下げて鎖を伸ばし等温線の履歴を抑えるよう湿潤・内部養生を徹底する。いずれも、Al を C-A-S-H に“少量・確実に”取り込ませることが出発点です。


2|スラグのさじ加減:**“供給する Al”と“分配の受け皿”**を同時に設計する

スラグはAl の主な供給源で、反応が進むほど C-A-S-H のQ²(1Al) が立ち、鎖の縫い直しが進みます。ただし、Ca/Si が高すぎる系CH が過多な系では、供給された Al の一部がAFm やハイドロガーネットに流れ、ゲル側の取り込みが頭打ちになります。スラグの化学(とくに Al₂O₃ や MgO の範囲)と母セメントの石灰石微粉の有無で**AFm の“相手”(炭酸塩型か硫酸塩型か)が変わるため、ゲル vs. 結晶相の分配は配合由来の“総合格闘技”**になります。だからこそ、熱力学モデリング(相平衡)+間隙水測定(pH・Al活量)でAl の行き先を見取り、スラグの置換率と粉末度、初期温度履歴を調整するのが近道です。


3|フライアッシュの勘所:“遅れて効く”を設計に織り込む

FA は反応が緩やかだからこそ、若材齢の湿潤/内部養生を外すと鎖の伸び秩序の広がりも伸び悩みます。逆に、養生がハマるとCa/Si がじわりと下がりC-A-S-H の連結度が上がって長期の透水・収縮が落ち着く。ここに石灰石微粉を合わせると、AFm の炭酸塩化アルミネートの“受け皿”が整理され、FA→C-A-S-Hへの Al 分配がスムーズになる――この“FA×石灰石”の相乗は、2010年代に多くのデータで裏づけられました。初期は石灰石が核形成と硫酸塩バランスを整え、後半は FA が鎖を整える、という時間差コンビだと捉えると設計が楽になります。


4|AFm を“味方”につける:モノサルフェート⇄モノカーボネートのハンドリング

塩化物固定・硫酸塩耐久・収縮の三題で外せないのがAFm石灰石微粉が入るとモノカーボネートが顔を出しやすく、硫酸塩が多いモノサルフェート寄りになる。FA/スラグ由来の Al 供給も加わると、どの AFm をどれだけ持つかが敏感に動きます。ポア溶液の pH・アルカリ濃度C-A-S-H の Al 取り込みだけでなくAFm の安定にも効くため、配合を動かしたら溶液側の数字を必ず確かめる――この“複式簿記”が、塩化物固定能や炭酸化耐性の期待値を外さないコツです。


5|“低クリンカー”の現実解:メタカオリン×石灰石(LC³)の示唆

2010年代に示されたメタカオリン×石灰石(LC³)の結果は、ポルトランド系ブレンドにも示唆的です。石灰石が AFm を炭酸塩側に寄せて“場を整え”、Alに富むメタカオリン分がC-A-S-H の橋かけを縫い直す――役割分担が効くと、クリンカー 30–35% 置換でも若材齢強度と長期性能の両立が可能でした。スラグや FA を主役に据える場合も、**石灰石微粉の“舞台監督”**という役割は同じ。AFm の種類/量と C-A-S-H の Al 取り込みを同時に動かせる点が肝です。


6|耐久設計への落とし込み:塩化物・炭酸化・自己乾燥の三点を見る

塩化物:C-A-S-H のAl 量AFm 種化学固定を左右します。CaCl₂ 環境ではカリシウムオキシクロライドの関与など、系が複雑化するため、溶液条件を実暴露に合わせて評価するのが安全です。
炭酸化Ca/Si を下げ、鎖を伸ばす方向は長期緻密化に効きますが、Ca 拡散が進みやすい側面も。養生で相関長を確保し、AFm の炭酸塩化緩衝をつくるのが経験的に安定です。
自己乾燥:低 w/b や粉体系の細粒化で自己乾燥→等温線履歴が増幅しがち。内部養生は“水の出入りを穏やかにする”装置と考え、不可逆収縮の増幅を抑えます。――いずれも、**配合(化学)× 養生(物理)**の二本立てで議論すると判断がぶれません。


7|一般読者の比喩:ブレンドは“料理の出汁”

スラグはうま味の基礎(Al と Mg)、FA は甘みと余韻(遅れて効く Si)、石灰石は下ごしらえ(AFm の調味)。強火で一気に煮立てれば**香りは立つがえぐみ(収縮・脆さ)も出る。弱火でじっくり引けば奥行き(連結度と秩序)**が出る。**鍋(養生)**の扱い次第で、同じ材料でも別物になる――ブレンド配合は、そんな設計です。


8|研究を始めた人への“最短コース”

同一バッチで、(1)ポア溶液分析(pH・Na/K・Al)、(2)XRD/TGA(AFm/CH)、(3)29Si/27Al NMR(鎖長・Al 座席)、(4)DVS(等温線)、(5)ナノインデンテーション(弾性分布)を若材齢→長期でそろえ、熱力学計算相平衡の“行き先”を描く。これだけで、Al の行き先/AFm の種類/C-A-S-H の連結度が一本の座標に乗ります。配合因子はスラグ置換率・FA 置換率・石灰石微粉量・w/b・養生温度の5つを主軸にし、一度に一つだけ動かすのが鉄則です。


まとめ

2010年代の知見を踏まえた設計の肝は、(A)Al を C-A-S-H に“少量・確実”に座らせて鎖を整える(B)AFm の相を石灰石と連携して制御する(C)ポア溶液と養生で“履歴”を穏やかにする、の三点です。スラグ・FA の“効かせ方”をC-A-S-H/AFm/溶液の三者で考えれば、初期の立ち上がりと長期の耐久を無理なく両立できます。次回は炭酸化メカニズム(基礎編)。C-A-S-H と AFm の入れ替わりを、距離(PDF)と化学(相平衡)の二軸でほどいていきます。


参考論文

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