各論 第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価

はじめに――“投資の言語”で語る評価

投資家が意思決定に使う数字は、売買当事者の交渉感覚よりも、キャッシュフローの強さと持続可能性で説明できることが求められます。本章はそのための設計図。どの不動産が「証券化対象」かを定義し、評価の前提・調査・手法(特にDCF)・レポートの書きぶりまで、投資家向けの一貫したルールを示しています。


第1節 基本的姿勢:何を“証券化対象”と呼ぶのか

基準は、資産流動化法・投信法/J-REIT・不特法・金商法に該当する枠組みで行われる不動産取引(信託受益権も含む)に関与する不動産を「証券化対象不動産」と定めます。ここに該当する場合、以後の各節に沿って評価を進めることになります。

この分野の評価は、鑑定評価書の利用者(投資家・レンダー等)の利益に重大な影響を及ぼしうるため、恣意的な想定条件の設定は原則禁止。ただし、後述の要件を満たすときに限り、未竣工建物等の評価が許容されます。


第2節 未竣工建物等の評価(概要)

開発中案件や大規模改修を織り込む場面では、価格形成要因に想定上の条件を置く必要が生じます。基準は、その実現性・合法性を厳格に点検し、利用者の利益を害さない限りでのみ許容できると明示します。地域要因の想定は、基本的に公的機関が権限を持つ計画・規制の変更等に限定されます。
そのうえで、証券化対象不動産に関する評価では、一定の要件を満たす場合に限り未竣工建物等の鑑定評価を行えるとしています。


第3節 鑑定評価の手法(総論)

証券化対象不動産の価格を示す際は、収益還元法を中核に、必要に応じて取引事例比較法や原価法による検証を関連づけて最終判断します。目的が投資採算価値(投資家に示す価格)なら、DCF法を標準として直接還元法で検証し、さらに比準・積算でクロスチェックするという、多層の“整合”が原則です。


第4節 個別的要因の調査:ER(エンジニアリング・レポート)と実地確認

投資目的の評価では、物理・法的リスクの見立てがキャッシュフローの前提を左右します。基準は、内覧を含む実地調査を依頼者立会いで行い、権利関係・公法規制・アスベスト等有害物質・耐震性・増改築履歴などを確認し記載せよ、と求めます。
さらに、ERをどう使ったか/自ら調査したか修繕計画再調達価格土壌汚染・地震リスク・地下埋設物等、専門性の高い要因への対応方針と根拠を明記するのが作法。鑑定士自身もERの理解深化・連携に努めるべきだと説いています。


第5節 DCF法の適用等:投資家が読む“キャッシュフローの型”

証券化対象の収益価格を求める際は、DCF法の適用が必須。併せて直接還元法で検証することが適切と定められています。

1) 適用過程と資料の取り扱い

DCFに用いる資料は、

  • 依頼者提供をそのまま活用
  • 依頼者資料に修正を加える
  • 鑑定士が自ら入手した資料を活用
    のいずれかに整理し、どのように採用したかを明示します。加えて、最終還元利回り・割引率・将来予測など、設定値と採用の理由、経済事情の変動可能性、検証事例、論理整合性をレポートで説明することが求められます。複数物件を同時に扱う場合は、物件相互での前提の整合性も不可欠です。

2) 収益・費用項目の統一(NOIの骨格)

DCFで期別に記載すべき収益費用項目は基準で統一定義が与えられています。たとえば貸室賃料収入(満室想定)、共益費収入等の運営収益、プロパティマネジメントフィーテナント募集費用公租公課保険料その他費用等の運営費用、そこから得られる運営純収益、そして一時金の運用益資本的支出を経て導かれる純収益が、期ごとに積み上げるべき標準形です。

3) レポーティング:DCFと他手法の“つなぎ方”

鑑定評価書では、DCFで査定した収益価格(直接還元の検証を含む)と、原価法・取引事例比較法で得た試算価格の関係を明確化し、なぜその鑑定評価額に着地したのかを理由付けすることが義務づけられています。


特定価格としての「投資採算価値」

投資家提示用の投資採算価値は「特定価格」に位置づけられ、DCFを標準直接還元で検証、さらに比準・積算でクロスチェックして決定するのがルールです。早期売却前提や事業継続前提など他の特定価格の枠組みも、比較考量の仕方が明瞭に規定されています。


実務の運び方(ストーリーで押さえる)

朝、依頼が届いたらまず枠組みの確認――対象が第1節の定義に当たるか、依頼目的は投資採算か、価格時点はいつか。想定条件は妥当か(未竣工なら実現性・合法性の検証)を点検し、依頼者と合意しておきます。
昼、実地調査へ。内覧・管理者聴取・権利と規制・アスベスト・耐震・改修履歴まで一気通貫で確認し、ERの結果と突き合わせて、修繕計画や資本的支出のラインを描きます。
午後、DCFモデルを組み、収益・費用項目を定義どおり期別に積み上げ、最終還元利回り・割引率は市場証拠と論理整合性で裏づけます。複数物件の案件なら、前提の横串整合を最後に再チェック。
夜、レポーティング。DCFと直接還元の整合、比準・積算との関係を言語化し、重要仮定と採用理由を余白なく記載して、投資家が“自分のモデルにそのまま載せ替えられる”程度の透明性を確保して仕上げます。


まとめ

証券化対象不動産の評価は、

  1. 定義の適用範囲を厳密に確認し(第1節)、
  2. 想定条件の妥当性を担保したうえで未竣工にも対応し(第2節)、
  3. 収益還元法(DCF)を中核に他手法で検証(第3・5節)、
  4. ERと実地調査でキャッシュフロー前提を“地に足の着いたもの”にし(第4節)、
  5. 整合的な前提・透明な記載で投資家の意思決定を支える

――という“投資の言語”で貫かれています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です