Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials を中心に、キーワード「Cement」に関連する新着論文 3 本の要点をまとめました。
Monitoring the water saturation and damage in reinforced concrete subjected to alkali-silica reaction gradient by non-destructive testing
コンクリート構造物の耐久性を脅かす主要な劣化現象の一つに、アルカリシリカ反応(ASR)が挙げられます。ASRは、コンクリート中のアルカリ成分と骨材中のシリカ鉱物が反応し、生成物が吸水・膨張することでコンクリート内部にひび割れや膨張損傷を引き起こす現象です。この反応の進行は、水分レベルや応力状態など多岐にわたる要因に複雑に影響されるため、ASRによる損傷を受けた構造物を現場で適切に評価するには、内部の水分飽和度勾配を正確に把握すること、さらには鉄筋の存在が損傷の発生・進展に与える影響を定量的に明らかにすることが不可欠です。しかし、これらの複雑な要因を同時に、かつ非破壊的に評価する既存の手法は限られており、より包括的かつ高精度な診断技術の開発が求められていました。
このような背景のもと、本研究は、非破壊試験(NDT)手法の適用により、ASRによって誘発される水分勾配と、鉄筋の存在が影響する膨張勾配に起因するコンクリート損傷を評価する能力を検証することを目的に実施されました。研究では、反応性骨材と非反応性骨材を用いた無筋コンクリートおよび鉄筋コンクリートの試験体を作製。これらの試験体を、異なる水分飽和状態(完全浸漬、半浸漬、1/4浸漬)で38℃の水中養生することにより、多様なASR促進環境を再現しました。膨張や損傷の進行は、二次元長さ変化測定、誘電率試験による物理化学的条件の特性評価に加え、線形振動解析、アコースティックエミッション(AE)、ひび割れ観察といった複数の非破壊手法を用いて多角的に評価されました。特に本論文では、コンクリートが膨張した後、機械的負荷を加えながらAEをモニタリングするという、従来の評価方法にない独自の複合的な手法が提案され、損傷評価の精度向上に大きく貢献しました。
その結果、線形振動法が、コンクリートの水分勾配や鉄筋の有無といった条件に左右されることなく、損傷の程度と平均膨張率との間に明確な相関があることが明らかになりました。これは、構造物全体の健全度評価に有効な指標となり得ます。一方で、新たに提案された機械的負荷中のAEモニタリングとひび割れ観察を組み合わせる手法は、水分勾配や鉄筋の存在に起因する損傷の局所的な発生箇所を、より効果的に特定できることが示されました。これらの結果は、線形振動法が「構造物全体の損傷度」を把握するのに適しているのに対し、機械的負荷中のAEモニタリングは「個別の損傷箇所とその深刻度」を特定するのに強みがあることを示唆しています。すなわち、これら二つの異なる非破壊試験技術は、ASRによる影響を受けた無筋コンクリートおよび鉄筋コンクリート構造物双方の損傷モニタリングにおいて、互いに補完的な関係にあることが実証されました。本研究で確立された評価手法は、ASR劣化した構造物のより正確な診断と、効率的かつ適切な補修計画の策定に寄与し、ひいてはコンクリート構造物の長寿命化と安全性の向上に大きく貢献することが期待されます。
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Enhancing nano-CaCO3 dispersion with cellulose nanocrystals for high-strength low-carbon concrete
近年、地球温暖化対策としてCO2排出量削減が喫緊の課題となる中、建設業界においても低炭素化への貢献が強く求められています。その解決策の一つとして、セメントの一部を代替する材料にナノ炭酸カルシウム(nano-CaCO3)を用いる低炭素コンクリートの開発が注目されています。nano-CaCO3は、CO2を原料として合成できるだけでなく、コンクリートの強度や耐久性を向上させる「核生成効果」や「充填効果」を持つため、持続可能な社会の実現に不可欠な材料と期待されています。しかし、このnano-CaCO3の利用には大きな課題がありました。ナノ粒子特有のファンデルワールス力により凝集しやすく、この凝集がコンクリート内部での均一な分散を妨げ、機械的性能や耐久性を著しく損ねるため、特に高配合での適用が困難でした。
こうした課題に対し、最新の研究が革新的な解決策を提示しました。本研究は、自然界に豊富に存在するセルロースを原料とする「セルロースナノクリスタル(CNC)」に着目し、その表面に豊富に存在する水酸基がnano-CaCO3の分散性を向上させる可能性を探りました。具体的には、水酸化カルシウム懸濁液の炭酸化反応によってnano-CaCO3を合成する際にCNCを共存させる手法を開発し、得られたナノ複合材料をセメントペーストに最大0.9%の代替量で添加して評価しました。その結果、CNCが水中およびセメントペースト中のnano-CaCO3の分散性を劇的に改善することが確認されました。CNCの存在下で合成されたnano-CaCO3は、その結晶性が低下し、表面積が増加することでより多くの核生成サイトを提供しうることが示唆されました。
さらに、CNCはナノ炭酸カルシウムの結晶多形にも影響を与えることが明らかになりました。CNCがない環境では主に方解石が形成されるのに対し、CNCが存在する環境では、アラゴナイトやバテライトといった異なる結晶形が促進される現象が観測されました。これらのメカニズムが複合的に作用した結果、CNCによって良好に分散されたnano-CaCO3を添加したコンクリートは、顕著な性能向上を示しました。具体的には、コンクリートの圧縮強度が最大で52%も向上し、曲げ強度も30%増加するという画期的な成果が得られました。これは、単なる分散性の改善だけでなく、結晶構造の制御がコンクリートの機械的特性に大きく寄与することを示すものです。
本研究は、低炭素コンクリートの普及を阻害してきたnano-CaCO3の分散性という根本的な課題に対し、セルロースナノクリスタルを用いるという、環境に優しく実用的な戦略を提示しました。この技術は、nano-CaCO3の大規模生産と建設材料への効果的な応用を可能にし、性能を飛躍的に向上させた低炭素コンクリートの実現に大きく貢献すると期待されます。将来的に、この革新的なアプローチが建設業界全体のCO2排出量削減に繋がり、持続可能な社会の構築に向けた重要な一歩となるでしょう。
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Monoethanolamine-catalyzed CO2 mineralization in cementitious materials via in situ CO2 mixing and its synergy with cement hydration
現代社会において、気候変動問題への対処は喫緊の課題であり、二酸化炭素(CO2)排出量の削減はあらゆる産業分野で求められています。特に、世界のCO2排出量の約8%を占めるとされるコンクリート産業では、その削減に向けた技術開発が活発に進められています。その中で、セメント系材料の製造工程中にCO2を直接混合し、材料内部に固定する「その場でのCO2混合(in situ CO2 mixing)」は、有望な炭素利用戦略として注目されてきました。しかし、この技術の普及には大きな課題が伴います。具体的には、CO2の炭酸化効率の低さ、生コンクリートの流動性の低下、そして長期的な圧縮強度の低下といった問題が実用化を阻む要因となっていました。
このような課題を克服するため、2025年10月に発表される研究論文では、モノエタノールアミン(MEA)を新たな化学混和剤として導入し、その効果を詳細に検証しました。本研究は、MEAがCO2ミネラル化を促進し、かつセメントの水和反応と相乗的に作用することで、セメント系材料の性能を向上させる可能性を示しています。実験の結果、セメント重量に対して0.1%から1%のMEAを添加することで、セメント1kgあたりのCO2吸収量が既存の5.10gから最大8.67gへと大幅に増加し、実に70%もの改善を達成しました。さらに、MEAにはセメントの水和反応を適度に遅らせる効果も確認され、これにより生コンクリートの適切な作業性を維持できるという利点も明らかになりました。
MEAによるセメント水和の遅延は、単に作業性を確保するだけでなく、CO2の安定したミネラル化を促進する上で重要な役割を果たしました。具体的には、CO2が炭酸カルシウム(方解石)として材料中に安定的に固定されることを助長します。また、この遅延効果は、CO2–AFm相や、コンクリートの強度発現に不可欠なカルシウム(アルミノ)シリケート水和物(C–(A)–S–H)相の形成をも促進しました。これらの複合的な反応が、材料の微細構造を緻密化させ、結果として総空隙率が47.64%から27.06%へと劇的に低減されることを実証しています。
最終的に、MEAがCO2吸収の促進、水和反応の適切な制御、そして微細構造の改善という多角的な効果を相乗的に発揮することで、セメント系材料の長期圧縮強度が顕著に向上することが示されました。このMEA-CO2システムは、セメント系材料におけるその場でのCO2混合技術の実用化と普及に向けた画期的な進展であり、持続可能な建築材料の開発に大きく貢献する可能性を秘めています。この研究成果は、コンクリート産業が直面するCO2排出量削減という課題に対し、有望な解決策を提示するものとして、今後の社会実装に大きな期待が寄せられます。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)