OneNote から Obsidian へ:研究ワークフロー設計で迷子にならないための考え方

OneNote から Obsidian に移ろうとするとき、多くの研究者がつまずくのは「データ移行」ではなく、「研究ワークフロー全体の設計」です。既にリファレンスマネージャ(Zotero / Readcube / Mendeley など)や RSS、Readwise などを使っているほど、「Obsidian にどこまで何を持たせるか」が決めきれず、手が止まりがちです。本記事では、分野や職位に関わらず使える「ツールの役割分担」と「レイヤー設計」の考え方に絞って、ワークフロー迷子から抜け出すための具体的な整理手順を紹介します。

主なポイント

  • 詰まる原因は「どのツールが正解か」ではなく、「どの情報をどのツールに任せるか」という分担ルールが曖昧なこと
  • OneNote 的な「ノートブック+巨大ページ」の発想をそのまま Obsidian に持ち込もうとすると、構造が崩壊しやすい
  • 研究ワークフローは「情報の流入 → 作業 → 知識として定着 → 公開」のレイヤーに分けて設計すると、ツール選びが楽になる
  • リファレンスマネージャや RSS、Readwise はそのまま活かしつつ、Obsidian は「考える・まとめる・決める」層に絞るのがおすすめ
  • 具体的なテンプレートや文献ノートの作り方は別記事に任せ、「まずはワークフロー全体の地図を描く」ことを優先すると迷子になりにくい

研究ワークフロー設計の前提:何を整理したいのか?

「研究ワークフロー」とは何か?

ここでいう研究ワークフローは、特定のソフトの操作手順ではなく、次のような一連の流れを指します。

  • 情報が入ってくる(論文・ニュース・講義・ミーティング)
  • それを読み・実験し・考え・メモする
  • 自分の知識として整理し直す
  • 論文・スライド・レポートなどのアウトプットに変える

OneNote でも Obsidian でも、この流れ自体は変わりません。変わるのは「どの段階をどのツールで担うか」です。

ツールは「器」にすぎない

多くの人がハマるのは、「Obsidian で全部やる/全部できるはず」という前提で考え始めることです。実際には、研究では次のような器が並行して動いています。

  • ノートアプリ(OneNote / Obsidian / Notion など)
  • リファレンスマネージャ(Zotero / Readcube / Mendeley など)
  • RSS / メール / 学会アラートなどの情報流入源
  • Readwise のようなハイライト集約サービス
  • LaTeX・Word・スライドツールなどの最終アウトプット用ツール

問題は「どれを使うか」ではなく、「どの器に、どの段階の情報を置くのか」という設計が明文化されていないことです。


なぜ OneNote → Obsidian の移行でワークフローが止まりやすいのか?

1. ノートの「形の違い」が想像以上に大きい

OneNote は「ノートブック → セクション → ページ」という階層構造で、1 ページがかなり大きくなりがちです。
一方で Obsidian は「小さな Markdown ファイルがリンクでつながったネットワーク」が前提です。

  • OneNote:大きなファイルの中に多くの情報を詰め込む
  • Obsidian:小さなノートを増やし、リンクで意味づけしていく

この違いを意識せずに「ノートブックをフォルダ、ページをノート」に置き換えると、すぐに破綻します。

2. 既存ツールの前提で頭の中に「暗黙のルール」ができている

例えば、次のようなマイルールを無意識に持っている人は多いです。

  • 「論文 PDF はとりあえず Readcube に入れる」
  • 「実験の条件メモは OneNote のこのセクションに書く」
  • 「後で読みたい記事は RSS / Readwise のどこかに残す」

この暗黙ルールが OneNote 前提で固まっている状態で、「ノートアプリだけ Obsidian に替える」と、全体のバランスが崩れます。
「どの情報がどこからどこへ流れているのか」を言語化しないまま移行すると、ワークフロー全体が止まりやすいのです。


「Obsidian にどこまで何を持つか」を決める 4 つの観点

ここからは、分野や使っているリファレンスマネージャに関わらず使える「判断基準」を紹介します。個別のツール名よりも、考え方に注目してください。

観点 1:その情報の「寿命」はどのくらいか?

扱う情報を、ざっくり次の 3 つに分けます。

  • 数時間〜数日で価値が薄れるもの
    例:今日の ToDo、会議の接続情報、一時的な計測メモ
  • 数週間〜数か月は見返すが、その後は薄れるもの
    例:プロジェクト進行中のメモ、レビュー途中のメモ
  • 数年単位で使い回したいもの
    例:理論の整理ノート、研究テーマの背景、重要な文献のポイント

Obsidian に優先的に置きたいのは、**三つ目の「長く使う情報」+二つ目の「後でまとめ直したい情報」**です。
一方、1 つ目の超短命情報は、カレンダーやタスク管理ツール、紙のメモでも構いません。

観点 2:その情報は「どのツールが唯一の正本」か?

研究では同じ情報が複数の場所に散らばりがちです。例えば、論文タイトルや DOI は次のように重複しやすい領域です。

  • Readcube / Zotero などのライブラリ
  • Obsidian の文献ノート
  • 学会や投稿用の .bib ファイル

このとき大事なのは、「どこを正本(system of record)とするか」を決めることです。

  • 書誌情報:リファレンスマネージャを正本にする
  • 自分の要約・コメント:Obsidian を正本にする
  • フォーマットされた引用(LaTeX / Word):執筆ツール側に任せる

というように、「どの種類の情報の責任をどのツールが持つか」を宣言してしまうと、Obsidian に何を写すかがはっきりします。

文献管理・引用の細かい話は、すでに
Obsidianでの文献管理・引用はなぜ難しい?研究者がつまずきやすいポイント整理
で詳しく扱っているため、ここでは考え方だけに留めます。

観点 3:その情報は「個人の頭の中」か「チームで共有したい」か?

同じメモでも、「共有したいかどうか」で置き場所は変わります。

  • 共有前提:ラボの共有フォルダ、Notion、Teams / Slack など
  • 個人の理解・試行錯誤:Obsidian やローカルノート

OneNote は個人向けにも共有向けにも中途半端に使えてしまうため、この境界が曖昧になりがちです。
Obsidian に移行するタイミングで、

  • 「共同研究やラボ運営に関わる情報」は共有ツールに寄せる
  • 「自分の仮説・失敗・途中結果」のような、むしろ生々しい情報は Obsidian に寄せる

と決めておくと、情報の「恥ずかしさレベル」で分けやすくなります。

共有ツールとの役割分担そのものについては、
研究者目線で考える Obsidian vs Notion:個人研究の「母艦」に向いているのはどっち?
で詳しく整理しているので、必要に応じて参照してください。

観点 4:その情報を「後でどう再利用したいか?」

最後に、「この情報を将来どんな場面で使い回したいか」を考えます。

  • 発表スライドの材料として使いたいのか
  • 論文執筆のときにコピペしたいのか
  • 似たテーマの研究を始めるときの出発点にしたいのか

「再利用される未来」が思い浮かぶ情報ほど、Obsidian に置いたほうが得です。
逆に、「その場限りのログ」と割り切れるものは、他のツールに任せて構いません。

スライドにどうつなげるかの具体例は、
Obsidianは研究発表のスライド作成にどう活かせるのか?
で掘り下げているので、本記事では全体設計に集中します。


既存ツールから出発してワークフロー全体を再設計するステップ

ここからは、「すでにリファレンスマネージャ+RSS+Readwise などを使っている」状態を前提に、ワークフロー全体を描き直す手順を示します。

ステップ 1:今使っているツールと「実際にやっていること」を書き出す

いきなり新しい構成を考えず、まず現状を見える化します。
ツール名ではなく、「そのツールで何をしているか」に注目します。

例:

  • Readcube:論文 PDF の保管、タグ付け、引用エクスポート
  • RSS リーダー:新着論文のチェック、あとで読む候補の保存
  • Readwise:Kindle・ブラウザ・論文 PDF のハイライト集約
  • OneNote:ゼミメモ、実験ログ、研究アイデア、タスクのメモ…(ごちゃ混ぜ)
  • メール:査読依頼、学会案内、締切通知の保管

「OneNote が何でも屋になっている」場合は、その中身をざっくりカテゴリに分けておくだけでも十分です。

ステップ 2:「流入 → 作業 → 定着 → 公開」の 4 レイヤーに整理する

ツール一覧ができたら、情報の流れを 4 つのレイヤーに分けてみます。

  1. 流入(インプット)
    • 論文アラート、SNS、RSS、メール、セミナー
  2. 作業(ワークベンチ)
    • 読む・考える・実験する・ディスカッションする
  3. 定着(知識ベース)
    • 後で検索・再利用したい形で残す
  4. 公開(アウトプット)
    • 論文・スライド・レポート・授業資料

Obsidian は主に 2 と 3 を担当させると考えると、役割がはっきりします。
一方、リファレンスマネージャは 1 と 3(文献ライブラリ)にまたがる存在です。

この「4 レイヤー」のどこにギャップがあるかを見つけるのが、ワークフロー再設計の出発点です。

ステップ 3:Obsidian に任せるのは「どのレイヤーのどの部分か」を決める

レイヤーごとの担当を、ざっくり次のように宣言してしまうと迷いが減ります。

  • 流入:これまで通り RSS・メール・学会サイトに任せる
  • 作業:
    • 読みながらのメモ → Obsidian(後で整理し直せるように)
    • 実験の作業ログ → 研究室のルールに合わせて、必要に応じて Obsidian に転記
  • 定着:
    • 文献の要約と自分の解釈 → Obsidian
    • 書誌情報や PDF → リファレンスマネージャ
  • 公開:
    • 実際の論文・スライド → 専用ツール
    • 発表準備の構成メモ → Obsidian

このように「Obsidian が直接触る領域」を線で囲ってしまうと、「そこに入れるべきもの/入れなくてよいもの」が自然に決まってきます。

具体的なノート構造やテンプレートの例は、
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集
に詳細があります。本記事は、その前段階としての「全体設計」にフォーカスしています。

ステップ 4:OneNote は「アーカイブ兼ブリッジ」としてしばらく残す

よくある失敗は、「OneNote を一気に空にしてから Obsidian に移す」ことです。
おすすめは次のような扱い方です。

  • OneNote:過去のノート/まだ Obsidian に移していないプロジェクトの一時保管庫
  • Obsidian:今後育てたいワークフロー専用の新しい母艦

過去ノートは、必要になったタイミングでだけ Obsidian に「書き直して」移します。コピペ移行ではなく、「今の考え方で再整理する」つもりで移すと、知識ベースがきれいな状態のまま保てます。

ステップ 5:毎日触る「入口ノート」を 1 つだけ決める

ワークフローが回り始めるかどうかは、「毎日の入口」が決まっているかに大きく依存します。
Obsidian であれば、次のような入口ノートを 1 つ決めるのがおすすめです。

  • 研究用のデイリーノート
  • 特定プロジェクトの「ハブ」ノート
  • 「今日の研究ログ」専用ノート など

入口ノートはテンプレートや詳細構成を作り込む必要はありません。
大事なのは、「研究を始めるときはまずこのノートを開く」という習慣を作ることです。


事例:ツールが増えすぎている院生がワークフローを整理するとどう変わるか

ここでは、架空のケースで変化のイメージをつかみます。

Before:なんとなく回っているけど、どこに何があるか分からない状態

  • OneNote
    • ゼミメモ、実験ログ、読書メモ、ToDo、雑談メモが混在
  • リファレンスマネージャ(Zotero / Readcube など)
    • とりあえず PDF と書誌情報だけ突っ込んである
  • RSS + メール
    • 「気になる論文」「締切」「セミナー案内」が未処理のまま溜まり続ける
  • Readwise
    • ハイライトは溜まるが、どこにもつながっていない

本人の感覚としては、「全部あるけど、どこから手をつけたらいいか分からない」状態です。

After:Obsidian を「作業と定着の中継点」に据えた状態

  • OneNote
    • 過去のノートと、まだ整理していない古いプロジェクトのログだけを残す
  • リファレンスマネージャ
    • 正本として整理し、Obsidian からは論文ごとにリンクだけ貼る
  • Obsidian
    • 入口ノート(デイリーログ or プロジェクトハブ)だけを毎朝開く
    • そこから、
      • 今日読む論文のメモ
      • 今日の実験のポイントメモ
      • 思いついたアイデアの断片
        をすべて Obsidian に集める
  • Readwise
    • Obsidian に持ってきたいハイライトだけを選び、「後でまとめるノート」に貼り付けていく

この状態では、「情報の最初の受け皿」は従来どおりのツールが担いつつ、「考えた結果」と「再利用したい知識」が自然に Obsidian に集まるようになります。

既存のブログや動画で他の研究者の事例を見たい場合は、
Obsidianで研究ノートと文献整理を最適化するブログ&YouTubeまとめ
もあわせて参照すると、さまざまなスタイルを比較しながら自分なりの形を決めやすくなります。


注意点・ベストプラクティス:設計段階で陥りやすい罠

「ノートの分類」から入らず、「流れ」から設計する

最初にやりがちなのは、「フォルダ構造やタグをどうするか」から考え始めることです。
しかし、タグやフォルダはあくまで「流れを支える仕組み」でしかありません。

  • まずは「情報の流れ(どこから来て、どこへ行くか)」を紙に書く
  • その流れを支える最小限のノートの種類だけを決める

という順番で考えると、後からの修正が楽になります。

研究の種類ではなく「よく行う行動」でノートを分ける

「分野別(材料 / 数学 / データ解析)」のような分類だけでノートを分けると、すぐに破綻します。
それよりも、「自分がよくやる行動」に合わせてノートの種類を決めると回しやすくなります。

例:

  • 読んだものを簡単にメモする
  • 実験や調査の計画を書き出す
  • ミーティングの結論と宿題を整理する
  • 論文・発表の構成を考える

行動ベースでノートの型を決めておくと、新しい分野に広がってもワークフローがそのまま使えます。

他人のワークフローを「そのまま真似しない」

ネット上には Zotero 前提、Notion 前提の高度なワークフローが多数ありますが、自分の環境にそのまま当てはめると混乱しやすくなります。

  • まずは「自分が今どのツールを持っているか」
  • 「どのレイヤーが一番詰まっているか」

を言葉にしてから、必要な部分だけ取り入れるほうが安全です。

テンプレートや具体的なノート構造を試したい場合は、
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集
で紹介しているパターンを、自分のワークフローに合わせて部分的に取り入れてみてください。


FAQ:OneNote から Obsidian への移行でよく出る疑問

Q1. OneNote のノートは全部 Obsidian に移したほうがいいですか?

A. 原則として「全部移さない」ほうがうまくいきます。
過去ノートはアーカイブとして OneNote に残し、

  • 今後 1〜2 年で確実に使いそうな情報
  • 今まさに進行中のプロジェクトに関連する情報

だけを、Obsidian に「書き直して」持ってくるのがおすすめです。

Q2. リファレンスマネージャと Obsidian のどちらに何を書けばいいか分かりません

A. 書誌情報・PDF・タグなど、論文そのものの情報はリファレンスマネージャを正本にし、自分の要約・コメント・アイデアは Obsidian に置く、と決めてしまうと分担が明確になります。
細かな運用パターンは、文献管理に特化した記事でカバーしているので、必要に応じて参照してください。

Q3. ワークフローの途中で設計を変えてしまっても大丈夫でしょうか?

A. むしろ、設計を少しずつ変えていく前提で運用したほうが健全です。
重要なのは、「変えると決めたタイミングで、その理由と新しいルールを一度言語化しておく」ことです。そうしておくと、「このノートは旧ルール」「このノートは新ルール」と区別して扱えます。

Q4. Obsidian にもタスクや締切を書きたいのですが、他ツールと重なりませんか?

A. タスク管理をどこまで Obsidian に寄せるかは好みによりますが、「最終的な締切と公式スケジュール」はカレンダーや共有ツールに集約しておくと安心です。Obsidian には「研究に特化したタスク」や「自分のメモと紐づいたタスク」を置く、という分担が現実的です。

Q5. まず何から Obsidian に移せばいいか分かりません

A. おすすめは、今一番時間を使っているプロジェクトだけを対象にすることです。
そのプロジェクトについて、

  • 入口ノート(ハブ)を 1 つ作る
  • 関連するメモや文献の要約を、少しずつそこにつなげていく

という形で試すと、「自分にとっての適切な粒度」が見えてきます。


まとめ:ツール選びではなく「役割分担」と「レイヤー設計」を決める

OneNote から Obsidian への移行で詰まるのは、特定分野だからでも、特定ツールを使っているからでもありません。
根本原因は、研究ワークフロー全体の中で、各ツールがどのレイヤーを担当するのかが曖昧なまま、ノートアプリだけを入れ替えようとしていることです。

  • 情報の寿命
  • 正本となるツール
  • 個人か共有か
  • 将来どう再利用したいか

という 4 つの観点で「どこに何を置くか」を決めていくと、Obsidian に持ち込む情報の範囲が自然に見えてきます。

今すぐできる次の一歩

  • 紙やテキストで構わないので、「流入 → 作業 → 定着 → 公開」の 4 レイヤーに分けて、自分の現状ワークフローを書き出してみる
  • OneNote の中身をざっくり眺めて、「今後も使いたいプロジェクト」と「過去ログ」に分ける
  • そのうち 1 つのプロジェクトだけを選び、Obsidian に入口ノートを作って、今日のメモから少しずつ集約してみる

この「小さな実験」を重ねることで、分野やツール構成に関わらず、自分にフィットした研究ワークフローが少しずつ形になっていきます。

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