研究ノートが重くなりすぎたと感じたら:Obsidian時代の「情報過多・オーバーヘッド」問題をほどく

Obsidian や Notion で研究ノートを整えたはずなのに、肝心のリサーチや実験が前に進まない——。その原因の多くは、情報そのものではなく「構造を作り込みすぎたことによるオーバーヘッド」です。本記事では、実際の Reddit 投稿や Medium 記事の事例を手がかりに、「第二の脳」を意識しすぎて詰まる典型パターンと、そこから抜け出すための考え方・ワークフローの組み替え方を整理します。

主なポイント

  • 情報過多よりも、「構造やルールが多すぎて一歩が重くなる」オーバーヘッドがボトルネックになりやすい
  • Reddit では、1トピックを「定義・研究プロセス・ファクト・質問・キーワード…」と細分化しすぎて前に進めない事例が共有されている (Reddit)
  • 大規模研究プロジェクトを Obsidian で管理しようとして、タグとリンクを増やしすぎて破綻しかけたという Medium の体験談もある (Medium)
  • 解決の鍵は「最小限の構造」「ノート1枚にかける時間の上限」「タグ・リンクをあとから足す」「フェーズごとに見える情報を絞る」こと
  • 具体的なテンプレートやツール設定は、別記事の Obsidian テンプレート集Obsidian vs Notion 比較記事 に任せ、ここでは「オーバーヘッドを減らす設計思想」に集中する

情報過多・オーバーヘッドとは?(基本概念・定義)

ここで扱う「情報過多・オーバーヘッド」は、単純に「ノートや論文が多すぎる」という意味ではありません。

  • 情報過多
    ノートや文献、タスクが増えすぎて、どこから手を付ければいいか分からない状態。
  • オーバーヘッド
    本題(実験・解析・執筆)に入る前に、構造づくり・整理・ルール確認などの「準備作業」に時間とエネルギーを取られてしまう状態。

とくに Obsidian のような柔軟なツールでは、

  • フォルダ構造
  • ノートの種類やテンプレート
  • タグ、リンク、メタデータ
  • プラグインやダッシュボード

を細かく設計できるため、「第二の脳」を完璧に作ろうとして、本来の研究よりシステム構築に時間を使ってしまうリスクがあります。

この「やりすぎ構造」がどのように研究のスピードを落としていくのか、具体例を見ていきます。


なぜ構造を作り込みすぎるとリサーチが進まなくなるのか?

Reddit 事例から見える「完璧な構造」の落とし穴

2025年の Reddit /r/ObsidianMD には、「How can I make my Obsidian research workflow faster? (Structure inside)」という投稿があります。投稿者は Obsidian で長期プロジェクトのリサーチを行っており、各トピックごとに

  • 定義
  • 研究プロセス(いつ何を調べるかの計画)
  • ファクト(確定した事実)
  • 質問
  • キーワード
  • リサーチログ
  • リソース
  • アクションプラン
  • アドバイス(将来の自分へのメモ)

といったセクションをすべて用意していました。(Reddit)

構造としては非常に整っていますが、投稿者自身が

構造のおかげで整理はできるものの、1トピックを処理するのに時間がかかりすぎて、サブトピックの穴に落ちてしまう

と悩んでいます。要するに、

  • ノートを作るたびに「9セクションすべてを埋める」という暗黙のタスクが発生
  • 1トピックあたりの作業量が大きくなり、着手するのが重くなる
  • 「とりあえずメモして前へ進む」ことができなくなる

という状態です。

「システムのためのシステム」になっていないかを見分ける3つのサイン

次の3つのうち1つでも当てはまるなら、構造を作り込みすぎているサインです。

  1. ノートを開いてから書き始めるまでに 1 分以上かかる
    • どのテンプレートを使うか、どの項目から書くかで迷う。
  2. 1つのアイデアを残すのに、複数ノートやリンクを同時に更新したくなる
    • 「このアイデアはプロジェクトノートにも、文献ノートにも、アイデアノートにも…」と、更新対象が増え続ける。
  3. 「構造を壊したくない」という気持ちが強く、ラフなメモがとれない
    • ノートが「提出用レポート」のようになり、途中の考えや落書きを書きにくい。

研究ノートは、本来「思考と作業を進めるための道具」です。
構造が緻密でも、それを維持・更新するコストが高すぎるなら、研究のスピードをむしろ落としていると考えた方がよいです。


大規模プロジェクトでノートシステムが破綻しかけるのはなぜ?

Medium 事例:大規模研究プロジェクトでタグとリンクが雪だるま式に増えた話

2025年の Medium には「Managing Large Research Projects in Obsidian」という記事が公開されています。著者は博士課程の学生で、最初の大きな研究プロジェクトを Obsidian で管理しようとして、途中までかなり苦労したと振り返っています。(Medium)

ざっくり言うと、初期の運用はこんな状態でした。

  • 思いついたタグをどんどん追加し、似た意味のタグが大量に増える
  • 各ノートから関連ノートへリンクを貼りまくり、グラフビューは賑やかだが本人は把握しきれない
  • 会議メモ・実験ノート・文献ノート・タスクリストが混ざり、どこから手をつけるべきか分からなくなる

その後、著者は

  • プロジェクトを「立ち上げ」「実験・解析」「執筆」「発表」などのフェーズ単位で整理し直す
  • 各フェーズごとに「見るべきノート」を限定したビュー(ダッシュボード)を作る

といったシンプルな構造に再設計し、ようやく落ち着いたと書いています。(Medium)

ここで重要なのは、

大規模プロジェクトでは、「全部を一度に見ようとする構造」ほど破綻しやすい

という点です。フェーズ単位に視界を絞ることで、オーバーヘッドを大きく減らせます。

プロジェクトは「フェーズごとの問い」で切り分ける

研究プロジェクトは、ざっくり次のようなフェーズに分かれます。

  • フェーズ1:テーマ設定・文献探索
  • フェーズ2:実験・データ収集
  • フェーズ3:解析・考察
  • フェーズ4:論文執筆・スライド作成

それぞれのフェーズには、支配的な「問い」があります。

  • フェーズ1:「何を問うのか?」「なぜ重要か?」
  • フェーズ2:「どの条件で試すか?」「再現性はあるか?」
  • フェーズ3:「この結果は何を意味するか?」
  • フェーズ4:「どう伝えれば理解されるか?」

ノート構造も、この問いに合わせて

  • いまのフェーズで必要なノートだけが自然に目に入る
  • それ以外のノートは検索すれば出てくるが、ふだんは視界に入らない

という形を目指した方が、結果的にオーバーヘッドが小さくなります。

具体的なスライド作成の活用法は、別記事の
Obsidianは研究発表のスライド作成にどう活かせるのか? に譲り、ここでは「フェーズごとに視界を絞る」という考え方だけ押さえておけば十分です。


情報過多とオーバーヘッドを減らす4つの原則(ベストプラクティス)

原則1:構造は「最小限」から始め、必要になったら足す

最初から完璧な「第二の脳」を作ろうとすると、ほぼ確実にオーバーヘッド地獄に陥ります。

スタートは、次の 3 レベルくらいで十分です。

  1. プロジェクト単位のノート(修論テーマ、共同研究など)
  2. ソースノート(文献、実験、ゼミ・ミーティング)
  3. アイデア・メモノート(思いつき、仮説、疑問)

この3つさえあれば、研究の流れは回り始めます。
詳細なテンプレートや YAML、タグ設計は、「回り始めてから」「不便を感じたところだけ」に限定して追加した方が安全です。

Obsidian を研究ノートや文献整理にどう組み合わせるかは、
Obsidianで研究ノートと文献整理を最適化するブログ&YouTubeまとめ で、外部事例をまとめて紹介しています。そこから「自分に必要な部分だけ」を少しずつ輸入していくと、オーバーヘッドを増やさずに済みます。

原則2:ノート1枚にかける時間の「上限」を決める

オーバーヘッドを可視化するシンプルな方法は、

「1ノートにつき、最初は 5〜10 分まで」という制限を設けること

です。

  • 新しい論文ノート
  • 実験ノートの1本目の叩き台
  • ミーティングメモの初回記録

などは、「5〜10分で粗い枠だけ作る」「後から必要なところだけ足す」と割り切ります。

この制限を入れるだけで、

  • 「全部の項目をきれいに埋めてから次へ進みたい」という完璧主義
  • テンプレートを埋めるための作業

を抑えやすくなります。

テンプレートをきちんと整えたい場合は、別日に「テンプレート改善タイム」を分けると、研究本体とシステムづくりがごちゃ混ぜになりません。

具体的なテンプレート設計は、
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集 の方で扱っているため、本記事ではあえて踏み込まず、「時間上限」という視点に絞っています。

原則3:タグとリンクは「あとから付ける」・検索に任せられるものは増やさない

多くのノートアプリでは、検索機能だけでもかなりのことができます。Obsidian もテキスト検索が高速で、フォルダを細かく分けなくても十分運用できます。(gb.readly.com)

次のようなルールにしておくと、タグ地獄・リンク地獄を避けられます。

  • タグは「あとから参照したい塊」が見えたときだけ導入する
    • 例:修論の対象材料だけ #alloy タグで揃える、など。
  • リンクは「関連ノートを 1〜2 個だけ」貼る
    • 「全部つなげたい」という欲を抑える。
  • フォルダはプロジェクト単位+アーカイブ程度に留める
    • 細分化は検索で代替する。

文献ノートや引用の整理が悩みの中心になっている場合は、
Obsidianでの文献管理・引用はなぜ難しい?研究者がつまずきやすいポイント整理 で、構造そのものの設計を掘り下げています。ここでは「タグ・リンクを増やしすぎない」という原則だけ押さえれば、オーバーヘッド削減には十分です。

原則4:大規模プロジェクトでは「今見える情報」を意図的に絞る

大きなプロジェクトでは、ノートが増えるのはある程度不可避です。問題は「全部を同時に見ようとすること」です。

  • 今日の実験に必要なのは、ごく一部のノートだけ
  • 今日の執筆に必要なのも、数本の文献ノートと実験ノートだけ

という前提に立ち、

  • その日の作業に必要なリンクだけを集めた「今日のビュー」
  • そのフェーズ専用の「ホームノート」(ToDo・リンク集・メモ)

を用意し、「あとは検索で呼び出す」くらいに割り切った方が、結果的に速く進みます。

Medium の事例でも、「フェーズごとのビュー」に整理し直したことで、ようやくノートシステムが息を吹き返しています。(Medium)


ケーススタディ:詰まりがちなパターンと「軽量ワークフロー」への組み替え

ケース1:テーマごとの厚すぎるノートがボトルネックになる学生Aさん

Aさんは、あるテーマ(例:腐食、触媒、アルゴリズムなど)ごとに 1 ノートを用意し、

  • 定義
  • 背景理論
  • 関連論文リスト
  • 実験アイデア
  • 実装メモ
  • 質問と未解決事項

…といった見出しをあらかじめずらっと並べていました。

最初は「抜け漏れなく整理できている」ように見えますが、やがて

  • 新しい論文を読むたびに、複数のセクションを更新したくなる
  • ノートが肥大化し、スクロールが長くて全体を把握できない
  • とりあえずメモしたいときも、「どの項目に書くか」で手が止まる

という状態に。

ここから抜けるために、次のような軽量ワークフローに切り替えました。

  1. テーマノートには 「問い」「要約」「次の一手」だけ を残す
  2. 詳しい内容は、文献ノート・実験ノートなど別ノートに分割
  3. テーマノートからは、「今の自分に必要な 3〜5 ノートだけ」へリンク

こうすると、テーマノートは

「テーマに関する現在地と次の一手を示す、軽いダッシュボード」

に変わります。個別の詳細は、必要なときだけリンク先を読めばよく、1ノートに詰め込む必要がなくなります。

ケース2:大規模プロジェクトのノートが手に負えなくなった博士課程Bさん

Bさんは、共同研究プロジェクトを Obsidian で管理していましたが、

  • 会議メモ
  • 実験プロトコル
  • 試行錯誤のログ
  • 文献メモ
  • タスク管理

をすべて 1 つの巨大フォルダで運用しており、100 ノートを超えたあたりで「何がどこにあるか分からない」状態に。

そこで Bさんは、プロジェクトをフェーズごとに分解し、

  • P-プロジェクト名_01_立ち上げ
  • P-プロジェクト名_02_実験
  • P-プロジェクト名_03_解析
  • P-プロジェクト名_04_執筆

のような形で、「フェーズのホームノート」を作成しました。

  • 会議メモや実験ノートは、フェーズごとのホームノートからリンクでたどれるようにする
  • 新しいノートを作るときは、必ずどこかのフェーズホームからリンクする

というルールにした結果、

  • 「今日やるべきタスク」と「今読んでおくべきノート」がホームノートだけ見れば分かる
  • 古い情報や終わったフェーズはホームノートから自然に遠ざかる

ようになり、時間当たりの進捗が大きく改善しました。


注意点・ベストプラクティス:「第二の脳」との距離感をどう保つか?

最後に、「第二の脳」づくりと研究本体のバランスを取るための注意点を整理します。

  1. 「ツールいじり」と「研究」を時間的に分離する
    • たとえば「金曜の30分だけは Obsidian の構造を整える時間」と決め、それ以外の時間はシステムには手を入れない。
  2. 新しいルールを入れるときは「実験」と割り切る
    • 「2週間だけこのテンプレートで試す」「うまく回らなかったらやめる」と、あらかじめ撤退ラインを決める。
  3. ツール選びは「母艦」を1つ決め、他は周辺ツールと考える
  4. 「情報をためる」より「次の一手を決める」メモを優先する
    • ノートの最後に「明日やること」「次に確認する論文」を必ず 1 行書く。
    • これだけで、ノートが「倉庫」ではなく「行動のトリガー」になります。

FAQ:情報過多・オーバーヘッドに関するよくある質問

Q1. 「第二の脳」を意識すると、どこまで構造を作り込んでいいのでしょうか?

答え:現時点で回っているワークフローを壊さない範囲に留めるのが安全ラインです。
「作り込んだおかげで、1日のアウトプットが増えた」と実感できるなら続けてよく、「設定に時間を取られている」と感じたら一歩戻すサインです。新しい構造を入れるときは、「2週間試して、アウトプットが増えなければ撤退」といったルールを決めておくと、際限なく複雑化するのを防げます。

Q2. ノートが散らかってきたとき、どのタイミングで整理すべきですか?

答え:フェーズの区切りか、締切の後を「大掃除タイム」にするのがおすすめです。
日々の作業中に細かく整理すると、作業フローが分断されます。修論の中間発表後や学会発表後など、自然な区切りで「過去ノートのアーカイブ」「タグ整理」「テンプレートの見直し」をまとめて行う方が、オーバーヘッドを抑えつつ構造も整えやすくなります。

Q3. タグ・フォルダ・リンクはどれを優先すればいいですか?

答え:最優先は検索、その次にプロジェクト単位のフォルダかホームノート、タグは最後で構いません。
現代のノートアプリは検索が強力なので、「とりあえずキーワードを入れておく」だけでも十分役に立ちます。フォルダやホームノートは「プロジェクト」を単位に最小限作り、その中でよく出てくる概念にだけタグを付ける、といった順番がおすすめです。

Q4. AI 要約や自動タグ付けは、オーバーヘッド削減に役立ちますか?

答え:適切に使えば役立ちますが、「AI を活用するための仕組みづくり」が新たなオーバーヘッドになることもあります。
長い論文の初回要約や、関連するキーワードの候補出しなど、明らかに時間がかかる部分にだけ AI を使うと効果的です。逆に、「すべてのノートで AI 要約を自動生成し、すべてに自動タグを付ける」ような運用は、メンテナンスの負荷が高くなりがちなので注意が必要です。(Bright SEO Tools)

Q5. Obsidian 以外のツールに分散させた方が、情報過多を防げますか?

答え:目的がはっきりしているなら「役割分担」は有効ですが、単なる分散は混乱を増やします。
たとえば「文献 PDF とメタデータは Zotero、研究ノートは Obsidian」といった役割分担は、すでに多くの研究者が実践しています。(Reddit) ただし、「なんとなく不安だから別ツールにもコピーしておく」といった運用は、むしろ管理対象を増やしてしまいます。各ツールの役割を 1 文で言語化できるかどうかを基準にするとよいでしょう。


まとめ:今日から試せる「軽量ノート」への一歩

情報過多やオーバーヘッドの問題は、ツールの善し悪しよりも「構造の欲張りすぎ」と「完璧主義」が原因であることが多いです。最後に、今日からできる一歩を整理します。

  1. 1ノートにかける時間を 5〜10 分に制限してみる
    • テンプレートを埋め切るのではなく、「問い」「要点」「次の一手」だけ書いて次へ進む。
  2. 今のプロジェクトに 1 つだけ「フェーズごとのホームノート」を作る
    • そこに今日やるべきことと、必要なノートへのリンクだけを集める。
  3. 新しい構造やプラグインは「2週間だけ実験」のつもりで導入する
    • 効果がなければ潔く捨て、システムが研究本体の足を引っ張らないようにする。

構造を軽くし、「ノートを開くたびに前へ進める」状態を作れれば、Obsidian でも Notion でも、第二の脳は十分に機能します。
テンプレートや具体的な設定は他の記事に任せつつ、自分の研究スタイルに合った「ちょうどいい重さ」のノートシステムを育てていきましょう。

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