Obsidianで研究ノートから論文執筆まで完結させようとすると、Citations・Zotero Integration・Pandoc系・Longform・Novel Word Count…と、プラグインが雪だるま式に増えがちです。結果として「どれが本当に必要かわからない」「アップデートのたびに壊れる」という“プラグイン地獄”に陥る研究者も少なくありません。本記事では、研究用途特有のプラグイン前提の複雑さを整理しつつ、「どこまで入れるか」「どう選び、どうトラブルシュートするか」の考え方をまとめます。
主なポイント
- 研究用途でプラグインが増えやすいのは、「Obsidianだけで論文まで完結させたい」という欲求と、既存ワークフローの埋め合わせ機能が多いから
- PhD勢の「全部入りセットアップ」をそのまま真似すると、初心者ほど設定・相性問題で挫折しやすい
- Zotero Integration × Better BibTeX × Zotero 7 × Pandoc Reference List のように、1つの不具合の裏に複数コンポーネントが絡むため、切り分けが難しくなる(GitHub)
- プラグインは「基礎層」「ワークフロー層」「ニッチ層」に分けて採用し、1つずつテストしながら積み上げるのが安全
- 研究者は「OSSの中身を理解してから使う」のではなく、「壊れたときの逃げ道と、再現可能なテスト」を用意するほうが現実的
「プラグイン前提のObsidianセットアップ」とは?
Obsidianとコミュニティプラグインの関係
Obsidianは、Markdownファイルをローカルに保存し、双方向リンクとプラグインで機能を拡張するノートアプリです。研究用途でよく使われるのは、次のようなコミュニティプラグインです。
- Citations:ZoteroなどからエクスポートしたCSL-JSONを読み込み、文献検索やリテラチャーノート作成を支援するプラグイン(Obsidian Forum)
- Zotero Integration:Better BibTeX for Zotero と連携し、引用・参考文献・PDFアノテーションをObsidianに取り込むプラグイン(GitHub)
- Pandoc Reference List:Pandocのcitekey(
[@key]など)を解析し、サイドバーに書誌情報を表示するプラグイン(GitHub) - Footnote Shortcut / Footnotes:脚注マーカーの挿入やジャンプをショートカットで行うためのプラグイン(Obsidian Stats)
- Longform:複数ノートを「シーン」として管理し、長文原稿を一本の原稿としてまとめる執筆支援プラグイン(GitHub)
- Novel Word Count:ファイル・フォルダごとの語数やページ数、読了時間などを表示する執筆統計プラグイン(Obsidian Stats)
これらを組み合わせることで、論文の下書きから最終原稿のエクスポートまで、かなりの部分をObsidian内で完結させることができます。
なぜ「研究用途ではプラグイン前提」になりやすいのか?
研究用途では、次のようなニーズが重なります。
- 文献管理ツール(Zoteroなど)との連携
- LaTeXやWordへの書き出し(Pandoc経由など)
- 論文・申請書レベルの長文執筆支援(Longform、ワード数トラッキングなど)
- 脚注・参考文献リストなど、アカデミックな書式への対応
これらはObsidianの「素の機能」ではカバーしきれないため、どうしてもプラグインが増えます。その結果、「プラグインを入れないと研究に使えない」という感覚になりやすいのが実情です。
Obsidianそのものの入門や、研究ノート運用の基本設計については
Obsidianで研究ノートと文献整理を最適化するブログ&YouTubeまとめ や
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集 に譲り、
本記事では「プラグイン前提の複雑さ」に絞って話を進めます。
なぜ研究用途のObsidianはプラグインが増えすぎるのか?
PhD勢の「全部入りセットアップ」で何が起きているか?
ある博士課程の研究者は、「学術論文を Obsidian で完結させている」としつつ、次のようなプラグインが「必須」だと述べています(例):
- Citations
- Pandoc Reference List
- Footnote Shortcuts
- Longform
- Novel Word Count
これらを組み合わせると、
- 文献検索・ノート作成(Citations)
- 参考文献リストの自動表示(Pandoc Reference List)
- 脚注の高速入力(Footnote系)
- 長文原稿のチャンク管理(Longform)
- 原稿全体の語数・ページ数管理(Novel Word Count)
と、「文献管理ツール+LaTeX+Word」でやっていた仕事の一部をObsidian側に寄せることができます。
ただし、これは多くの場合、
- LaTeXやPandocに慣れている
- ZoteroやBetter BibTeXもガッツリ使っている
- Obsidianそのものも年単位で使い込んでいる
という「上級者セットアップ」です。初心者がいきなり真似すると、次の壁にぶつかりやすくなります。
初心者が真似するとどこで挫折しやすいか?
初心者が「研究者のObsidianセットアップ」をコピーすると、だいたい次の3つで止まりがちです。
- どのプラグインを入れるべきか分からない
記事や動画で紹介されているプラグインが多すぎて、「最低限どこまで必要なのか」が見えません。 - どの設定を変えるべきか分からない
同じプラグインでも、- .bibファイルの場所
- CSLスタイルの指定
- ノートテンプレートの書き方
など、前提が人によってバラバラです。
- どこまでやると「やりすぎ」なのか分からない
「Obsidianだけで論文PDFまで出力したい」と欲張るほど、Pandocや外部ツールの設定が増えていきます。その割に、締切前には結局WordやLaTeXに戻ってくることも多く、「投資に見合わない」と感じて燃え尽きがちです。
ポイントは、上級者のセットアップは「その人のワークフロー」「過去のツール履歴」に最適化されているということです。自分の状況を無視してコピーすると、ほぼ必ずオーバースペックになります。
「Obsidianだけで完結させたい欲」とどう付き合うか?
研究者の多くは、
- ノート
- 文献管理
- 論文執筆
- スライド作成
を1つのツールで完結させたい気持ちがあります。しかし、「全部Obsidianで」か「一切使わないか」の二択にする必要はありません。
- ノートとアイデア整理:Obsidian
- 正式な投稿論文の整形:LaTeX+BibTeX/Word+Zotero
- 発表スライド:PowerPoint等+Obsidianから素材を持ってくる
といった役割分担を決めたうえで、「その境界を超える部分だけプラグインで補う」ほうが現実的です。
Obsidianは研究発表のスライド作成にどう活かせるのか? でも述べられているように、「Obsidianは構成と素材の頭脳、スライドの仕上げは別ツール」という発想は、プラグイン地獄を避けるうえでも有効です。
プラグインの相性・バージョン依存はなぜ厄介なのか?
Zotero Integration × Better BibTeX × Zotero 7 × Pandoc Reference List の連鎖
典型的な“難しい事例”として、次のような組み合わせがあります。
- Zotero Integration(Obsidian側プラグイン)
- Better BibTeX for Zotero(Zotero側プラグイン)
- Zotero 7 本体
- Pandoc Reference List(Obsidian側プラグイン)
この場合、「Obsidianで引用がうまく動かない」とき、どこが悪いのかを切り分ける必要があります。
- Zotero 7 本体のバージョン問題(メジャーアップデート直後の互換性など)(Zotero Forums)
- Better BibTeX が Zotero 7 に対応しているか、どのバージョンまで対応しているか(GitHub)
- Zotero Integration が Better BibTeX の出力形式を正しく読めているか(GitHub)
- Pandoc Reference List が citekey を正しく解釈できているか(
[@key]の書き方や .bib の場所)(GitHub)
研究者の多くは、「とにかく結果としてうまく動かない状態」に弱く、OSSプラグインの内部仕様まで追う余裕はなかなかありません。そのため、
- どこが壊れているのか分からない
- どこをアップデート/ダウングレードすべきか判断できない
- フォーラムの英語情報を追うのもつらい
という状況になりがちです。
「結果が出ないとしんどい」研究者にとっての負荷
研究では、実験でも解析でも「結果が出ること」がモチベーションの源泉です。ツール設定に何時間もかけたのに、
- 引用が挿入できない
- 参考文献リストが出力されない
- PDFエクスポート時にエラーで止まる
といった状態が続くと、「そもそもObsidianやめたほうが早いのでは?」という気持ちになってしまいます。
ここで重要なのは、「Obsidian+プラグイン」の世界をブラックボックスとして扱いつつも、最低限の切り分け手順だけは用意しておくことです。その具体例は後述のベストプラクティスで整理します。
ケーススタディ:プラグインまみれセットアップ vs. ミニマル構成
ケース1:PhD向け「全部入り」セットアップ
- コミュニティプラグイン:20〜30個
- 目的:
- ノート
- 文献管理フロントエンド
- 下書き〜最終原稿までの執筆
- スライド素材の管理
- 主な追加要素:
- Citations / Zotero Integration
- Better BibTeX
- Pandoc系プラグイン
- Longform
- Novel Word Count
- タスク管理・ダッシュボード系プラグイン
メリット
- うまく回ると「一人ラボ情報システム」として非常に快適
- 研究生活全体を1つのVaultで俯瞰できる
デメリット
- 環境構築にかかる初期コストが高い
- Obsidian・Zotero・プラグインのアップデートタイミング管理が必要
- ノウハウが暗黙知になりやすく、再現性が低い
ケース2:修士〜ポスドク向け「ミニマル」構成
- コミュニティプラグイン:5〜10個程度
- 目的:
- 研究ノート・実験ログ
- 文献メモ
- プロジェクトノート
- 文献・引用まわりは、
- Obsidian側は「あくまでノートと引用キー管理」
- 書式整形と最終原稿はWord+Zotero/LaTeX+BibTeXに任せる
メリット
- セットアップとメンテナンスの負荷が小さい
- フォールバックパス(WordやLaTeX)にすぐ戻れる
- Vaultが壊れても他ツールで「なんとかなる」
デメリット
- 「Obsidianだけで完結」はしない前提になる
- 引用の自動整形やBibliographyのプレビューは別ツール依存になる
結論としては、研究生活の段階・締切の多さ・技術的な興味に応じて、「どこまでObsidian側に寄せるか」を決め、その範囲だけプラグインを採用するのが現実的です。
注意点・ベストプラクティス:Obsidianプラグイン運用編
1. プラグインを「3層構造」で考える
プラグインは、次の3つの層に分けて考えると整理しやすくなります。
- 基礎層:
- 表示やエディタの改善(テーマ、ステータスバー拡張など)
- 研究ノート運用にほぼ必須だが、外部ツール依存性が低いもの
- ワークフロー層(研究寄り):
- 文献ノート作成(Citations / Zotero Integration など)
- 長文執筆支援(Longform、Novel Word Count など)
- 研究ノート専用テンプレート補助
→ ここは用途ごとに1〜2個に絞るのがおすすめです。
- ニッチ層・実験層:
- 特定のフォーマットへのエクスポート
- AI連携や高度な自動化
- 「あると便利だが、なくても致命的ではない」もの
導入の順番も、この1→2→3の順を守ると壊れにくくなります。
2. 「実験用Vault」で試し、いきなり本番に入れない
新しいプラグインを試すときは、
- 研究用Vaultとは別に「テストVault」を作る
- 最小限のノートで動作確認する
- 問題がなければ研究用Vaultに導入する
という流れにすると、「導入した瞬間に本番環境が壊れた」というリスクを減らせます。
3. プラグインとバージョンをノートにメモしておく
研究でいう「実験条件」のように、
- 使用中のプラグイン名
- 重要なバージョン(Obsidian / Zotero / Better BibTeX など)
- 主要な設定(.bibの場所、テンプレートパス など)
を1ページのノートにまとめておくと、トラブル時の切り分けが楽になります。特に、ZoteroやBetter BibTeXはメジャーバージョンアップで互換性が変わることがあるため、バージョン情報のメモは効きます。(GitHub)
4. メジャーアップデートは「締切の前ではなく後」に
- Obsidian本体
- Zotero本体(特に6→7のようなメジャーアップデート)
- 主要プラグイン(Zotero Integration、Better BibTeX など)
は、最新版のお知らせが来ても即アップデートせず、締切や学会発表が一段落したタイミングで更新するほうが安全です。
5. どうしても動かないときの「撤退ライン」を決めておく
- 論文投稿直前
- 学会発表直前
のタイミングで環境が壊れたときに備え、
- 最低限の引用だけ手作業で入れる
- Zotero+Wordの組み合わせに一時的に戻す
- 参考文献リストは外部ツールに任せる
といった「撤退ライン」をあらかじめ決めておくと、精神的に楽になります。
FAQ:Obsidianプラグインと研究ワークフローに関するよくある質問
Q1. 研究用途で、プラグインは何個くらいまでに抑えるべきですか?
あくまで目安ですが、
- 修士〜ポスドクレベルで「研究ノート中心」:
5〜10個程度 - 「論文執筆もかなりObsidianに寄せる」:
10〜20個程度
におさめ、20個を超え始めたら抜くことも検討するくらいの感覚が現実的です。数よりも、「外部ツール依存のプラグインが何個あるか」のほうが重要です。
Q2. Citations と Zotero Integration、どちらを選べばいいですか?
ざっくり分けると、
- Citations:
- CSL-JSONをもとに、文献検索+ノート作成が得意
- 構成が比較的シンプルだが、開発はやや落ち着き気味(Obsidian Forum)
- Zotero Integration:
- Better BibTeX と組み合わせて、引用・Bibliography・PDFアノテーションの取り込みまでカバー(GitHub)
- その分、Zotero側の設定やバージョンに敏感
「まずは文献ノートだけObsidianに持ってきたい」なら Citations などシンプルな系統、「Zoteroのハイライトも含めてがっつり連携したい」なら Zotero Integration という切り分けが一つの基準になります。
Q3. Zotero 7 へのアップデートが怖いのですが、どうすればいいですか?
Better BibTeX は現行では Zotero 7 と互換性のあるバージョンが提供されていますが、メジャーアップデート直後には一時的に動かなくなることもあります。(GitHub)
実務的には、
- 研究の山場(投稿・学会前)を避けてアップデートする
- 事前に「Zotero 7 対応状況」を Better BibTeX や Zotero Integration のリリースノートで確認する
- 不安なら、Zotero 6 を残した環境(別PCやポータブル版)を一時的にキープする
といった運用が安全です。
Q4. Longform や Novel Word Count は論文執筆にも役立ちますか?
もともと小説や長編向けに設計されていますが、「複数ノートをまとめて1本の原稿にする」「章ごとの語数を管理する」といった機能は、修論・博論・長めの英語論文にも役立ちます。(GitHub)
ただし、最終的な投稿フォーマット(Word / LaTeX)への変換フローを別途決めておくことが前提です。「LongformでまとめたMarkdown → Pandoc → Word/LaTeX」といったパイプラインが維持できるかどうかを先に確認しましょう。
Q5. プラグイン同士のコンフリクトを見分ける簡単な方法はありますか?
完全に自動で見分けることは難しいですが、次の手順が現実的です。
- すべてのコミュニティプラグインを一度オフにする
- 問題が再現するか確認する
- 再現しなければ、プラグインを半分ずつオンにしてテストする(いわゆる二分探索)
- 問題の出るグループをさらに半分に分けてテストする
この手順をメモしておき、「調子が悪くなったら淡々と実行する」と決めておくと、精神的なダメージを減らせます。
まとめ:プラグインを「増やす」前に決めておきたいこと
研究用途でObsidianを使うとき、プラグイン前提の複雑さは避けて通りにくいテーマです。ただし、
- 上級者の「全部入りセットアップ」をそのまま真似しない
- 自分のワークフローで Obsidianに任せる範囲 を先に決める
- プラグインを「基礎層/ワークフロー層/ニッチ層」に分けて1つずつ積む
という3つを意識するだけで、かなり被害を減らせます。
最後に、「今すぐできる次の一歩」を挙げておきます。
- いま入っているプラグインを棚卸しする
それぞれが「基礎層/ワークフロー層/ニッチ層」のどこに属するかを書き出し、目的が重複しているものは一旦オフにしてみましょう。 - 研究用Vaultとは別に「実験用Vault」を作る
新しいプラグインや危険そうなアップデートは、まずそこで試す習慣をつけると、本番環境の安定度が上がります。 - 「壊れたときの逃げ道」を決めておく
「最悪、Word+Zoteroに戻せばいい」「Obsidianはノートと構成だけでも役に立つ」といったラインをあらかじめ決めておくと、プラグイン設定に挑戦する気持ちも楽になります。
プラグインはあくまで「研究を楽にする道具」です。道具の調整に人生を持っていかれないよう、自分にとっての「ほどよい複雑さ」を見極めていきましょう。