Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials を中心に、キーワード「Cement」に関連する新着論文 3 本の要点をまとめました。
Enhancing the rheology, reaction kinetics and early-age strength of limestone calcined clay cement (LC3) with sodium silicate addition
セメント産業は主要な温室効果ガス排出源であり、その環境負荷低減は喫緊の課題です。この地球規模の課題に対し、従来のセメントクリンカーの使用量を減らし、焼成粘土と石灰石で代替することでCO2排出量を大幅に削減できる「石灰石焼成粘土セメント(LC3)」が、持続可能なセメントシステムとして大きな注目を集めています。しかし、LC3は優れた環境性能を持つ一方で、施工性を左右するレオロジー(流動性)や、構造物の早期強度発現に不可欠な初期強度において、従来のセメントに劣る可能性があるという課題が指摘されていました。この初期性能の改善は、LC3の普及を加速させる上で極めて重要です。この度、国際学術誌「Cement and Concrete Research」に発表された最新の研究では、LC3セメントのこうした課題を克服し、その性能を飛躍的に向上させる新たな手法が報告され、持続可能な建材の実現に向けた大きな一歩となることが期待されています。
本研究では、少量の水ガラス(sodium silicate, SS)溶液を添加することで、LC3セメントのレオロジー、反応速度、および初期強度がどのように変化するかを詳細に評価しました。その結果、SSの添加はLC3セメント中のコロイド相互作用を効果的に低減させ、初期降伏応力と粘度を大幅に低下させることが明らかになりました。これは、セメントペーストの流動性が向上し、施工性が著しく改善されることを意味します。また、全てのSS添加システムにおいて欧州規格EN 197–1で定められた初期凝結時間の要件を満たしており、凝結時間の遅延といった副作用がないことが確認されました。特に、特定の組成(1%の酸化ナトリウムと0.4のケイ酸塩モジュラス)を持つSS溶液が、セメントクリンカー中のケイ酸塩やアルミン酸塩の反応、さらに焼成粘土と石灰石の相乗反応を著しく加速することが判明しました。この反応加速により、LC3の1日強度は、通常のLC3と比較して120%、従来のポルトランドセメント(CEM I)と比較しても13%それぞれ向上しました。微細構造の分析でも、1日後にセメントマトリックスがより緻密になり、細孔構造が改善されていることが示され、加速された水和反応による相進化と一致する結果が得られています。
これらの成果は、適切に調合された水ガラス溶液がLC3セメントのレオロジーと初期性能の両方を劇的に向上させる、強力な促進剤として機能することを示しています。本研究で確立された技術は、LC3の施工性を高め、構造物の早期強度発現を可能にすることで、持続可能なセメントシステムの普及を大きく後押しするものです。この水ガラス添加技術は、CO2排出量削減に貢献し、環境に優しい建築材料への移行を加速させる上で重要な役割を担うでしょう。環境と性能を両立させた次世代の建材開発に向けた道筋が、一層明確に示されたと言えます。
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Quantification of GGBS hydration using deep learning – A comparison with SEM-EDS mapping, PONKCS XRD and isothermal calorimetry methods
セメント製造に伴う二酸化炭素排出量削減のため、産業副産物である高炉スラグ微粉末(GGBS)を混合したセメントの利用が注目されています。GGBSはセメント性能を向上させる重要な材料ですが、その非晶質性ゆえに、ブレンドセメントペースト中の水和度(DoH)を正確に定量することは長年の挑戦でした。GGBSの水和度は材料の性能評価や設計最適化に不可欠であるにもかかわらず、従来の定量手法にはそれぞれ限界がありました。例えば、電子プローブマイクロアナライザーを用いたEDSマッピングは時間とコストがかかり、元素分布に敏感でした。X線回折法(XRD)では非晶質成分の定量に限界があり、等温熱量測定は長期追跡に不向きであるなど、既存手法の限界がGGBS混合セメントの最適化を妨げていました。
本研究は、このGGBS水和度定量における長年の課題に対し、ディープラーニング、具体的には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を導入することで画期的な解決策を提示しました。研究チームは、37,000組以上の画像ペアを用いてCNNを訓練し、後方散乱電子(BSE)画像からGGBS粒子を自動的にセグメント化し、その水和度を推定するモデルを開発しました。その結果、開発されたCNNモデルは、様々な反応時間、画像品質、セメント種類、置換率、GGBS源といった多様な条件下においても、最小限の人的介入でGGBSの水和度を一貫して高精度に推定できることが実証されました。従来のEDSマッピングにおける時間や手間、元素分布への感度、また等温熱量測定の長期追跡限界といった課題を、ディープラーニング手法は効果的に克服しました。PONKCS XRDも非晶質GGBSの定量に有効で画像分析と良好な一致を示しましたが、ロバスト性(頑健性)と効率性ではCNNモデルが優位性を示しています。
本研究で確立されたディープラーニングによるGGBS水和度定量手法は、GGBSを含む混合セメントの研究開発に革命をもたらす可能性を秘めています。この高精度かつ効率的な評価能力は、混合セメントの配合設計の最適化を加速させ、高性能で持続可能なセメント材料の開発に貢献します。産業副産物であるGGBSの利用促進は、セメント産業における二酸化炭素排出量削減という環境目標達成への重要な一歩であり、本成果は持続可能な社会の実現に大きく寄与するものです。さらに、このAIを活用した画像解析技術は、他の非晶質材料や複合材料の水和・反応評価への応用も期待され、材料科学研究のデジタル化とAI活用のさらなる進展を促すでしょう。これは、建設分野の技術革新を象徴する成果であり、セメント技術の未来を拓くものです。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)
Breaking strength-ductility trade-off dilemma for Engineered Cementitious Composites (ECC) through filler effect
エンジニアードセメンタイトコンポジット(ECC)は、ひずみ硬化と多重ひび割れ特性により高い延性を持つ高性能コンクリートとして注目されてきました。この優れた性能は、材料を構成するマトリックスの低い破壊靭性(K_m)を維持することで実現されます。しかし、K_mを低く保つことは、一般のセメント系結合材において破壊靭性と圧縮強度(f_c)が正の相関にあるため、その圧縮強度の低下を招くという課題がありました。結果として、ECCは強度と延性という相反する特性の間でトレードオフのジレンマを抱え、さらなる高性能化が困難でした。
本研究は、この課題を克服するため、マトリックスのK_mとf_cの相関を「デカップリング(切り離す)」画期的なアプローチを試みました。具体的には、「フィラー効果」を応用し、これら二つの特性を独立して制御することで、複合材の圧縮強度と引張延性の双方を同時に向上させる可能性を探ったものです。これは、材料設計で長らく困難だった「強度と延性の両立」に向けた重要な一歩であり、ECCの性能を根本から引き上げることを目指しました。
実験の結果、異なるセメント反応性を持つフィラーを操作することで、K_mとf_cを独立して調整できることが判明しました。特に、不活性粒子の充填効果(inert-particle-packing effect)を活用し、K_mをほぼ変化させずにマトリックスのf_cを大幅に向上させることが可能になりました。微視力学分析では、繊維とマトリックス間の界面結合が最適化され、ひずみ硬化を示す擬似ひずみ硬化指数も改善されていることを示唆。これらのマトリックスレベルでの変化は、最終的に複合材全体の引張強度、引張延性、そしてひび割れ制御能力の向上に寄与することが実証されました。
本研究で示されたフィラー効果を活用した新たなECC設計戦略は、強度と延性のトレードオフという長年の課題に対する画期的な解決策を提示します。これにより、高強度と高延性を両立したECCの実現が可能となり、幅広い建築・土木構造物への適用において、その性能と耐久性を飛躍的に向上させることが期待されます。コスト効率の良い設計にもつながるため、持続可能な社会構築に貢献する基盤材料として、その応用に大きな注目が集まるでしょう。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)
