硬化セメント中のC-S-Hの性質:その形態、組成、ナノ構造【1999】

著者名:I.G. Richardson

論文タイトル:The nature of C-S-H in hardened cements

掲載誌名:Cement and Concrete Research

出版年:1999

巻数:29

ページ範囲:1131–1147

研究の背景と動機

カルシウムシリケート水和物(C-S-H)は、すべてのポルトランドセメント系における主要な結合相であり、その正確な性質はセメントとコンクリートの科学の中心的な課題です。本論文は、純粋なポルトランドセメント、ポルトランドセメントと高炉スラグとの混合物、およびアルカリ水酸化物で活性化されたスラグにおけるC-S-H相に関するデータを主に示しています。また、ポルトランドセメントとフライアッシュおよびメタカオリンとの混合物に含まれるC-S-H相がスラグとの混合物におけるC-S-H相と類似していることを示すデータも報告しています。

解決しようとした課題や問題点

C-S-Hの正確な性質は、セメントとコンクリートの科学において中心的な課題であり、その形態、組成、ナノ構造については、いまだ多くの謎が残されています。

既存研究の限界と本研究の位置づけ

これまでの研究では、C-S-Hの形態や組成に関する研究は行われてきましたが、そのナノ構造については不明な点が多く、特にアルカリ活性化されたスラグ系におけるC-S-Hの構造については、十分に解明されていませんでした。本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、固体核磁気共鳴(NMR)などの最新技術を用いて、C-S-Hの形態、組成、ナノ構造を詳細に分析し、その構造と性質の関係を解明することを目的としています。

解決できたこと

得られた結果の詳細な分析

本研究の結果、以下のことが明らかになりました。

  • 大きなポルトランドセメント粒の中に存在するIp C-S-Hは、通常、細かい均質な形態をしており、直径が約10 nm以下の細孔を有しています。
  • 大きなスラグ粒からのIpもまたこの形態を示しますが、MgとAlの含有量が高いという点で化学的に異なっています。
  • 小さな粒子(ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュなど)の水和残留物は、比較的密なC-S-Hで囲まれた多孔質で低密度な生成物を含んでいます。これは、後方散乱電子画像による細孔率と細孔径分布の分析に影響を与えます。
  • セメント-スラグ混合物では、スラグの負荷量が増加するにつれて、Op C-S-Hの繊維状形態は徐々に箔状形態に置き換えられます。この形態変化は、スラグ含有系で実現可能な耐久性性能の向上に大きく寄与している可能性があります。
  • 純粋なポルトランドセメントペースト中のC-S-HのCa/Si比は、約1.2から約2.3まで変化し、平均値は約1.75です。
  • 水で活性化されたセメント-スラグペースト(スラグ0〜100%)中のC-S-HのCa/(Si+Al)比は、約0.7から約2.4まで変化します。これらの限界は、C-S-Hの構造に関するDreierketteに基づくモデルと一致しています。
  • C-S-Hでは、AlはDreierkette鎖の「架橋」四面体でのみSiと置換されます。これは、ポルトランドセメントとスラグ、フライアッシュ、メタカオリンとの混合物など、さまざまな系で当てはまります。これらのデータは、置換されたC-S-H相に関するRichardsonとGrovesの一般的なモデルを支持しています。

成功条件と失敗条件の考察

本研究では、TEM、EDX、NMRなどの最新技術を用いて、C-S-Hの形態、組成、ナノ構造を詳細に分析した結果、これまで知られていなかったC-S-Hの構造と性質に関する新たな知見が得られました。しかし、C-S-Hの構造は非常に複雑であり、その構造と性質の関係を完全に解明するには、さらなる研究が必要です。

新たに得られた知見と他分野への応用可能性

本研究で得られた知見は、セメントとコンクリートの科学だけでなく、他の分野にも応用可能であると考えられます。例えば、C-S-Hのナノ構造に関する知識は、新しいセメント材料の開発や、既存のセメント材料の性能向上に役立ちます。また、C-S-Hの構造と性質に関する知識は、環境問題の解決にも役立つ可能性があります。

研究の貢献

Richardson氏は、セメント系における主要な結合相であるC-S-Hの形態、組成、ナノ構造を詳細に分析し、その構造と性質の関係を解明することで、セメントとコンクリートの科学に重要な貢献をしました。

実世界への応用と影響

本研究で得られたC-S-Hの構造と性質に関する知見は、セメントとコンクリートの性能向上に貢献し、より耐久性のある構造物の建設を可能にするだけでなく、環境問題の解決にも役立つと考えられます。

今後の展望と未解決の課題

本研究では、C-S-Hの構造と性質に関する多くの知見を得ましたが、まだ多くの未解明な点があります。例えば、C-S-Hの構造と耐久性性能の関係をより深く理解するためには、さらなる研究が必要です。

学術的位置づけと読者へのインパクト

本研究は、C-S-Hの構造と性質に関する新たな知見を提供し、セメントとコンクリートの科学の発展に大きく貢献しています。本論文は、セメントとコンクリートの専門家だけでなく、C-S-Hの構造に興味を持つ研究者にとっても、重要な参考資料となるでしょう。

本記事は学術論文の要約であり、原著作者および出版社の権利を尊重しています。詳細な情報や正確な引用については、原論文を参照してください。

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