Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials を中心に、キーワード「Cement」に関連する新着論文 3 本の要点をまとめました。
Mechanical properties and durability enhancement of MgO-doped engineered cementitious composites (ECC) under long-term chloride exposure
沿岸地域のコンクリート構造物は、海水や融雪剤に含まれる塩化物イオンによる腐食という深刻な課題に直面しています。この塩害は、構造物の鉄筋を劣化させ、コンクリート自体の強度低下やひび割れを引き起こし、最終的には構造物の寿命を著しく短縮させるだけでなく、大規模な補修や交換に伴う莫大なコスト発生、さらには安全性への懸念をもたらします。このような背景から、過酷な環境下においても優れた耐久性と高い性能を維持できる革新的なセメント系複合材料の開発が、持続可能な社会インフラ構築のために不可欠とされています。
この喫緊の課題に応えるべく、本研究は、高い延性とひび割れ分散能力で知られるエンジニアード・セメンタイト・コンポジット(ECC)に着目し、酸化マグネシウム(MgO)を添加することで、その塩化物誘発腐食に対する抵抗性を向上させる可能性を詳細に評価しました。研究チームは、0%から8%までの異なるMgO添加量を持つECCを調製し、最大約270日間にわたる長期的な塩化ナトリウム曝露に供することで、材料の機械的特性、耐久性、微細構造の変化を包括的に分析しました。具体的には、圧縮強度試験、引張試験、促進塩化物浸透試験を実施し、さらに走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折(XRD)、熱重量分析(TGA)を用いて微細構造の変化を詳細に解明しました。その結果、特に8%のMgOを添加したECCが、塩化物曝露後においても優れた性能を発揮することが明らかになりました。この材料は、270日間の塩化物曝露後でも60.7 MPaという高い圧縮強度を維持しつつ、究極ひずみ容量1.6%という最高の引張延性を示し、多重の微細ひび割れを発生させることで破壊を抑制する能力を有していました。また、塩化物透過性試験では1722 Cという最小の電荷通過量を示し、際立った塩化物浸透抵抗性を実証しています。これらの顕著な性能向上は、MgOが水和反応を通じてブルサイトやケイ酸マグネシウム水和物を形成し、これらが材料の細孔構造を緻密化させることによってもたらされることが、微細構造分析から裏付けられました。さらに、環境および経済的影響の評価においても、8% MgO添加ECCは塩化物曝露後、最も少ないエネルギー消費とCO2排出量を示し、持続可能性の観点からも優れた材料であることが確認されました。
今回の研究成果は、塩化物による劣化が課題となる厳しい環境下でのコンクリート構造物の設計と建設に革新的な指針を与えるものです。高性能と高耐久性を兼ね備えたこのMgO添加ECCは、海洋構造物、地下パイプライン、劣化したコンクリートの補修オーバーレイなど、塩化物が多く存在する幅広い分野での適用が期待されます。構造物の長寿命化、維持管理コストの削減、ひいては社会インフラ全体の持続可能性向上に大きく貢献する可能性を秘めており、耐久性とライフサイクル全体での経済性・環境性を両立する次世代のセメント系複合材料として、その実用化への道筋が明確に示されました。
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Fiber alignment mechanism in 3D-printed ultra-high performance concrete based on fluid dynamics theory
建設分野における3Dプリンティング技術は、複雑な構造物を迅速かつ効率的に製造可能にし、超高性能コンクリート(UHPC)との組み合わせは、高強度で耐久性に優れた次世代建築材料として大きな期待を集めています。しかし、3Dプリントプロセスにおいて、材料中の繊維補強材が望まない方向に配向してしまう課題が長らく存在しました。この不均一な繊維配向は、完成した構造物の異方性や強度・靭性のばらつきを引き起こし、UHPC本来の性能を十分に発揮できない原因となっていました。そのため、3Dプリントにおける繊維配向メカニズムの解明と、高精度な制御技術の確立は、高性能コンクリート構造物の信頼性確保における喫緊の課題でした。
このような背景のもと、学術誌「Cement and Concrete Research」に発表された画期的な研究は、流体力学理論に基づき、3Dプリント超高性能コンクリート(3DP-UHPC)のノズル内せん断流動場における繊維配向メカニズムを解明しました。研究チームは、多様なレオロジーパラメーターと押出速度条件下で3DP-UHPCの内部流動場特性を分析。流動場が、繊維回転への影響が小さい「プラグ流領域」と、繊維配向に決定的な影響を与える「せん断流領域」の二つのゾーンから構成されることを明らかにしました。X線コンピューター断層撮影(X-CT)技術で実際の繊維配向を検証し、流動特性が繊維の向きに与える影響を実証しました。重要な発見は、UHPCの粘度を低減し押出速度を増加させることで、両流動領域の速度勾配が強化され、繊維が印刷方向に最適に配向されるというメカニズムです。これらの知見に基づき、Jeffery方程式に速度勾配係数を導入し、ノズル内での速度勾配と繊維回転角の関係を定量的に確立。これにより、既存の繊維配向予測モデルを大幅に洗練させ、繊維配向係数の相対誤差を6%以内という高精度で制御可能にしました。
本研究で確立された流体力学に基づく繊維配向メカニズムの理解と高精度な予測モデルは、3DプリントUHPC技術の実用化と性能向上に貢献します。この成果は、積層造形プロセスにおける繊維補強材の最適配向を理論的かつ定量的に可能にし、3Dプリントされたコンクリート構造物の異方性を効果的に低減することで、UHPC本来の性能を最大限に引き出す道を切り開きます。これにより、耐久性と信頼性に優れた複雑な形状の高機能コンクリート構造物を、設計者の意図通りの性能で自由に製造できるようになることが期待されます。これは、建設・土木分野における3Dプリンティング技術の適用範囲を大きく拡大し、建設産業の持続可能性と効率性向上に貢献する重要な一歩となるでしょう。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)
Impact of calcination time on metakaolin morphology and enhancement of pozzolanic reactivity: Insights from in situ TEM
現代社会において、セメント製造時に排出される二酸化炭素の削減は喫緊の課題であり、カオリンを焼成して得られるメタカオリンは、その優れたポゾラン反応性からセメント代替材料として期待されています。メタカオリンの反応性は焼成温度と時間の両方に依存しますが、これまでの研究は主に温度に焦点を当て、焼成時間の延長が粒子レベルの形態変化とポゾラン反応性にどう影響するかについては、粒子スケールでの直接的な知見が不足していました。
このたび、「Cement and Concrete Research」誌の2026年1月号に掲載予定の最新論文は、この未解明な領域に画期的な光を当てました。本研究は、その場透過型電子顕微鏡(in situ TEM)という先進的な手法を駆使し、加熱ステージ上でカオリン粒子が焼成される過程をリアルタイムで直接観察することに成功しました。その結果、個々のカオリン粒子が焼成されるにつれて、約15ナノメートルの層の薄化と、2〜5%の面積減少という微細な形態変化を伴うことが明らかになりました。焼成時間が粒子内部の物理的構造にも深く影響を与えることを視覚的に証明しました。
さらに本研究では、焼成時間とメタカオリンのポゾラン反応性との間に明確な相関関係があることが示されました。R3テストによる評価では、焼成時間を10分から40分に延長することで、7日間の累積発熱量が850 J/gから950 J/gへと増加し、反応性が向上することが実証されました。特筆すべきは、この反応性向上の傾向が、前述の粒子形態変化(層の薄化と面積減少)の進行と全く同様の指数関数的なパターンを示し、いずれも約40分の焼成時間で飽和するという発見です。この強固な相関は、焼成時間の延長によって誘発される粒子形態の変化が、最終的なポゾラン反応性の向上に直接的に寄与するというメカニズムを明確に裏付けるものです。
本研究が提示する焼成時間と粒子形態、ポゾラン反応性との間の詳細な理解は、高性能なメタカオリンを効率的に製造するための新たな指針を提供します。具体的には、約40分という焼成時間の最適化が、材料性能を最大限に引き出しつつ、エネルギー消費を抑制する可能性を示唆しており、これはセメント産業における持続可能性向上への重要な一歩となります。この画期的な知見は、セメント代替材料の性能向上と製造プロセスの最適化に貢献し、建設分野における環境負荷低減、低炭素社会の実現に向けた技術革新を加速させるものとして期待されます。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)