Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials を中心に、キーワード「Cement」に関連する新着論文 3 本の要点をまとめました。
Multiscale characterization of geopolymers modified with alkali-catalyzed nano-silica: Effects on dispersion and mechanical properties
近年、環境負荷の低い次世代型結合材としてジオポリマーが注目を集めています。その性能向上を目指し、ナノシリカが広く添加されるようになりましたが、ナノシリカ自体の合成条件(酸触媒かアルカリ触媒か)が、その材料内での分散性や反応性、ひいてはジオポリマー全体の性能にどう影響するかについては、これまで十分に解明されていませんでした。この知見の不足が、ナノシリカを用いた高機能ジオポリマー開発のボトルネックとなっていました。
このような背景のもと、本研究は、フライアッシュとスラグを組み合わせたジオポリマーに対し、酸触媒およびアルカリ触媒で合成されたナノシリカが、その分散性、ゲルネットワーク構造、細孔構造、そして最終的な機械的特性に与える多尺度(ミクロからナノスケールまで)での影響を系統的に評価しました。透過型電子顕微鏡(TEM)による分散状態の観察、圧縮強度試験によるマクロ特性評価に加え、走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピング、原子間力顕微鏡(AFM)による表面特性と弾性率分布の評価、さらに小角X線散乱(SAXS)によるナノスケール構造解析といった多角的な手法を駆使することで、ナノシリカの合成条件がジオポリマーの性能に与える影響を詳細に解き明かしました。その結果、アルカリ触媒で合成されたナノシリカが、酸触媒NSと比較して格段に優れた分散性を示すことが判明しました。これは、より緻密で均質なゲルネットワークの形成を促進し、ジオポリマー全体の構造を改善することを示唆しています。具体的には、0.16重量%のアルカリ触媒ナノシリカを添加することで、圧縮強度が約38.4%向上し、表面粗さが約50%低減、さらにナノスケールでの均質性を示す回転半径(Rg)が18%低減するなど、顕著な性能向上が確認されました。SEM/EDS分析からは、アルカリ触媒NSが界面でケイ素(Si)とアルミニウム(Al)の顕著な濃縮を促し、緻密で連続的なC-(N)-A-S-Hゲルネットワークを形成することが示されました。また、AFM弾性率マッピングではより高く集中した弾性率ピークと長い相関長が、SAXS解析では強い散乱強度と小さいRgが観察され、これは改善された細孔構造と微細構造の連続性を示しています。一方で、0.32重量%と過剰に添加すると、ナノ粒子が凝集し、かえって微細構造の完全性が損なわれることも明らかになりました。
本研究は、ナノシリカの合成条件がジオポリマーの性能に決定的な影響を与えることを多尺度解析によって初めて明確に示し、特にアルカリ触媒ナノシリカが最適な添加量でジオポリマーの強度と均一性を同時に向上させる極めて有望な材料であることを実証しました。これらの知見は、高機能かつ環境負荷の低い次世代ジオポリマー結合材の設計と開発において、重要な指針となるものであり、持続可能な社会の実現に向けた建設材料分野の技術革新に大きく貢献するものと期待されます。
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Unravelling thermal conduction mechanisms in microwave-cured cement-based composites: Transform from phonon- to electron-based conduction channels driven by nano carbon black
コンクリートの硬化を省エネルギーかつ迅速に行うマイクロ波硬化技術は、その大きな可能性から注目を集めています。しかし、この技術には長年の課題が存在しました。マイクロ波によって誘起される熱伝導が主に原子の振動、すなわちフォノンに依存するため、加熱が不均一になりがちで、コンクリート内部の微細構造劣化や爆発のリスクを引き起こしていました。この熱不均一性が、マイクロ波硬化の幅広い実用化を阻む大きな障壁となっていたのです。
本研究は、この課題に対し、セメント系複合材料にナノカーボンブラック(nCB)を導入し、材料内に電子ベースの新たな伝導経路を構築するという革新的なアプローチを採用しました。nCBの導入により、マイクロ波吸収が改善され、コンクリート内部に均一な熱分布を促す熱チャネルが形成。その結果、初期強度が約70%向上という顕著な成果が得られました。さらに、nCB最適化マイクロ波硬化はセメント水和を加速し、コンクリートの強度発現に不可欠なC-S-Hゲル(カルシウム・シリケート・ハイドレート)の重合を促進するとともに、エトリンガイトやポーランド石などの結晶相も効果的に改質しました。マルチフィジックスシミュレーションでは、電磁場の固有の不均一性にもかかわらず、適切なnCB含有量が熱チャネルを通じて熱伝導を強化することが実証されています。
最も画期的な発見は、nCBの導入によって熱伝導メカニズムが、従来のフォノンベースから、双極子分極、界面分極、伝導損失といった相乗効果に駆動される電子ベースへと根本的に転換した点にあります。これは、セメント系材料における熱伝導の従来の理解を覆す画期的な知見であり、熱不均一性の問題を分子レベルからのアプローチで解決する新たな道筋を示唆しています。
本研究は、ナノスケールでの材料設計を通じて、セメント系複合材料のマイクロ波硬化挙動を最適化する全く新しい戦略を提供するものです。この技術は、建設分野における省エネルギーなコンクリート製造、構造物の早期強度発現と耐久性向上に貢献するだけでなく、熱伝導に関する学術的理解を深める上でも大きな意義を持ちます。今後、さらなる研究と実用化が進めば、持続可能な社会実現に向けた次世代コンクリート技術として、幅広い応用が期待されます。
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Tensile properties and self-healing mechanism of pre-cracked UHPC under different curing environments
現代社会を支えるインフラにおいて、超高強度コンクリート(UHPC)は、その優れた強度と耐久性から広く利用されています。しかし、UHPCもひび割れの発生を完全に防ぐことはできず、一度発生したひび割れは構造物の性能低下や寿命短縮につながるため、その修復は喫緊の課題です。こうした背景から、自己修復機能を持つセメント系材料の研究は、維持管理コストの削減とインフラの長寿命化を実現する上で極めて重要視されており、自己治癒メカニズムの解明や、外部環境が性能に与える影響の定量的な評価、さらには予測モデルの確立が強く求められてきました。
本研究は、硬化環境、養生期間、そして初期のひび割れ幅が、あらかじめひび割れを導入したUHPCの自己治癒性能に及ぼす影響を詳細に調査しました。損傷と治癒の定量的指標としてひび割れ幅を用いた直接引張試験を実施した結果、全ての試験体において引張強度が著しく回復し、56日後には自己治癒した試験体が未損傷の対照群の強度を上回ることを示しました。さらに、単一繊維引抜き試験を通じて、治癒メカニズムにおける温度依存的な界面効果を解明しました。具体的には、60℃での水浴養生はセメント粒子の二次水和を促進し、強度の回復に寄与する一方で、鋼繊維の腐食を加速させ、繊維の破壊モードが引抜きから破断へと変化することを発見しました。また、熱分析、X線CT、SEMを用いた微細構造解析により、水浴養生が水和反応と材料の緻密化を促進することを裏付けましたが、表面のひび割れが治癒することで、内部への水分や二酸化炭素の侵入が制限され、かえって内部の水和反応が阻害されるという、多層的なメカニズムの一端も明らかにしました。これらのマクロな引張回復とミクロな治癒メカニズムを多尺度で関連付けた分析に加え、本研究の最も重要な成果は、水和反応速度論とアレニウスの式に基づき、修復可能なひび割れ幅を推定する理論モデルを新たに提案した点にあります。このモデルによる予測値は、実験データと極めて良好な一致を示し、UHPCの自己治癒能力を定量的に評価し予測する上で強力なツールとなることが期待されます。
本研究の成果は、UHPCの自己治癒現象に対する理解を飛躍的に深めるものであり、セメント系材料の耐久性向上と長寿命化に大きく貢献するものです。特に、環境条件に応じた自己治癒メカニズムの解明と、修復可能なひび割れ幅を予測できる理論モデルの確立は、将来的に高性能な自己治癒コンクリートを設計する際の重要な指針を与えます。これにより、インフラ構造物の維持管理コストの削減、資源の有効活用、そして持続可能な社会の実現に向けた新たな道筋が拓かれると期待されます。
出典: DOIリンク(Cement and Concrete Research,Cement and Concrete Composites,Construction and Building Materials)