Mohammed Ali M. Rihan, Richard Ocharo Onchiri, Naftary Gathimba, Bernadette Sabuni, 「」Review Article Mix design approaches of eco-friendly geopolymer concrete: A critical review「」, Hybrid Advances, Volume 7, 2024, 100290
研究の背景と動機
地球温暖化対策が急務となる中、コンクリート産業においても環境負荷の低減が求められています。従来のポルトランドセメントコンクリートに代わる新しい建設材料として、ジオポリマーコンクリート(GPC)が注目を集めています。GPCは、産業副産物であるフライアッシュやスラグなどを主原料とし、アルカリ溶液で活性化させることで硬化する革新的な材料です。
GPCの利点は以下の通りです:
- CO2排出量を従来のコンクリートの44-64%削減可能
- 産業廃棄物の有効利用
- 優れた力学的特性・耐久性
- 早期強度発現
- 耐熱性・耐火性に優れる
しかし、GPCには標準的な配合設計方法が確立されておらず、実用化に向けた課題となっています。本研究では、GPCの配合設計手法に関する最新の研究動向を包括的にレビューし、今後の研究課題を明らかにすることを目的としています。
研究手法
本研究では、Elsevier、Springer、MDPI、Taylor & Francis、Wiley、Scopus、Science Directなどの学術データベースから関連論文を収集し、以下の3つのアプローチに分類して分析を行いました:
- 目標強度アプローチ
- 性能ベースアプローチ
- 統計的モデリングアプローチ
収集したデータは、表やグラフを用いて整理・分析し、各アプローチの特徴や課題について考察しました。
主要な研究結果
1. 目標強度アプローチ
目標強度アプローチは、従来のポルトランドセメントコンクリートの配合設計手法を応用したもので、最も一般的に用いられている方法です。主な特徴は以下の通りです:
- アルカリ溶液/結合材比(AL/B)が圧縮強度と相関
- 水/結合材比(W/B)がワーカビリティと相関
- 骨材の最大寸法、粒度、種類を考慮
このアプローチでは、AL/Bを調整することで目標強度を達成し、W/Bを調整することでワーカビリティを制御します。しかし、GPCに特有の要因(アルカリ溶液の種類・濃度、養生条件など)が考慮されていないという課題があります。
目標強度アプローチの詳細
目標強度アプローチは、以下のステップで行われます:
- 目標強度に基づいてAL/B比を決定
- 結合材量の計算
- 全骨材量の計算
- ワーカビリティに基づいて細骨材率を決定
- 必要に応じて混和剤を添加
- 試験練りによる調整
AL/B比と圧縮強度の関係は、実験データに基づいて経験的に決定されることが多く、研究者によって異なる値が提案されています。例えば、Verma and Dev (2022)は、AL/B比0.60で最適な圧縮強度が得られると報告しています。
2. 性能ベースアプローチ
性能ベースアプローチは、圧縮強度とワーカビリティだけでなく、耐久性に関連する性能指標を考慮して配合を決定する方法です。このアプローチの特徴は以下の通りです:
- 塩化物イオン浸透性などの耐久性指標を考慮
- 使用環境に応じた性能要求を満たす配合を決定
- アルカリ溶液の組成や濃度の影響を考慮
Bondar et al. (2018)は、スラグベースのGPCにおいて、Na2O含有量、SiO2/Na2O比、W/B比が塩化物イオン浸透性に与える影響を調査しました。また、Noushini and Castel (2018)は、海洋環境下でのGPCの性能評価に適した指標を提案しています。
性能ベースアプローチの詳細
性能ベースアプローチでは、以下のような性能指標が考慮されます:
- 塩化物イオン浸透性
- 吸水率
- 空隙率
- 乾燥収縮
- 凍結融解抵抗性
これらの指標は、GPCの長期耐久性に大きく影響します。例えば、Noushini and Castel (2018)は、従来のASTM C1202試験方法をGPC用に修正し、塩化物イオン浸透性の評価基準を提案しています。このような性能ベースのアプローチは、GPCの実用化において重要な役割を果たすと考えられています。
3. 統計的モデリングアプローチ
統計的モデリングアプローチは、実験データに基づいて数学的モデルを構築し、GPCの性能を予測・最適化する方法です。主な手法として以下が挙げられます:
- 応答曲面法(RSM)
- 人工ニューラルネットワーク(ANN)
- タグチメソッド
- 多変量回帰分析
これらの手法を用いることで、少ない実験回数で効率的に配合を最適化できる利点があります。例えば、Gao et al. (2016)は、RSMを用いてスラグベースGPCの初期強度に影響を与える因子を分析しました。また、Dao et al. (2019)は、ANNモデルを用いてGPCの圧縮強度を高精度で予測することに成功しています。
統計的モデリングアプローチの詳細
統計的モデリングアプローチの主な手法と特徴は以下の通りです:
応答曲面法(RSM)
RSMは、複数の入力変数と出力変数の関係を数学的にモデル化する手法です。Gao et al. (2016)の研究では、SiO2/Na2O比、アルカリ活性化剤濃度、液固比がGPCの初期強度に与える影響を分析し、最適な配合条件を導出しています。
人工ニューラルネットワーク(ANN)
ANNは、人間の脳の仕組みを模倣した機械学習手法です。Dao et al. (2019)は、フライアッシュ、NaOH、Na2SiO3溶液、水の配合比を入力とし、GPCの圧縮強度を予測するANNモデルを構築しました。モデルの精度は決定係数(R2)、平均絶対誤差(MAE)、二乗平均平方根誤差(RMSE)で評価されています。
タグチメソッド
タグチメソッドは、直交表を用いて少ない実験回数で多くの因子の影響を評価する手法です。Dave and Bhogayata (2020)は、タグチメソッドを用いてGPCの配合を最適化し、圧縮強度に対する各因子の影響度を明らかにしました。
多変量回帰分析
多変量回帰分析は、複数の説明変数と目的変数の関係をモデル化する統計手法です。Hadi et al. (2019)は、多変量多項式回帰モデルを用いて、GPCの圧縮強度、スランプ、凝結時間を予測するモデルを構築しています。
考察と今後の課題
本研究のレビューから、GPCの配合設計手法には以下の課題があることが明らかになりました:
- 原料の多様性:GPCは様々な産業副産物を原料として使用するため、標準的な配合設計手法の確立が困難です。原料の特性に応じた柔軟な設計手法が必要とされています。
- 複雑な反応メカニズム:ジオポリマー化反応は、従来のセメント水和反応よりも複雑であり、配合条件が最終的な性能に与える影響を予測することが困難です。反応メカニズムの解明と数学的モデル化が求められています。
- 長期性能の予測:GPCの長期耐久性に関するデータが不足しています。実環境下での長期暴露試験や加速劣化試験による性能評価が必要です。
- 環境影響評価:GPCのライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく環境影響評価手法の確立が求められています。CO2排出量だけでなく、原料採取から廃棄までの総合的な環境負荷を考慮する必要があります。
これらの課題に対応するため、今後は以下のような研究アプローチが重要になると考えられます:
- 原料特性のデータベース化と機械学習を用いた配合最適化
- in-situ観察技術を用いたジオポリマー化反応のメカニズム解明
- 加速劣化試験と長期暴露試験の併用による耐久性評価手法の確立
- LCAと連携した環境配慮型配合設計手法の開発
結論
本研究では、環境に優しいジオポリマーコンクリート(GPC)の配合設計手法に関する最新の研究動向をレビューしました。目標強度アプローチ、性能ベースアプローチ、統計的モデリングアプローチの3つの主要な手法について、その特徴と課題を明らかにしました。
GPCは、従来のポルトランドセメントコンクリートに代わる環境負荷の低い建設材料として大きな可能性を秘めています。しかし、その実用化に向けては、原料の多様性や反応メカニズムの複雑さに対応した柔軟かつ効率的な配合設計手法の確立が不可欠です。
今後は、機械学習や高度な実験技術を活用した新たな研究アプローチが求められています。また、長期耐久性の評価や環境影響評価を含めた総合的な性能評価手法の開発も重要な課題となるでしょう。これらの課題に取り組むことで、GPCの実用化が加速し、建設産業のサステナビリティ向上に大きく貢献することが期待されます。
読者へのインパクト
本研究は、環境に優しい次世代のコンクリート材料であるジオポリマーコンクリート(GPC)の配合設計手法に関する最新の知見を提供しています。これは、建設業界や材料科学の専門家だけでなく、環境問題に関心のある一般読者にとっても重要な情報となるでしょう。
GPCの実用化が進めば、以下のような影響が私たちの生活にもたらされる可能性があります:
- 建設産業のCO2排出量が大幅に削減され、気候変動対策に貢献
- 産業廃棄物の有効利用が進み、循環型社会の実現に寄与
- より耐久性の高いインフラ整備が可能となり、維持管理コストの削減につながる
- 新たな環境配慮型建材市場の創出と関連産業の発展
GPCの研究開発は、持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みの一つといえるでしょう。今後の技術革新により、私たちの身近な建造物にもGPCが使用される日が来るかもしれません。環境に配慮しつつ、安全で快適な社会インフラを構築していくために、GPCのさらなる研究開発と実用化が期待されます。