著者名:Tero Luukkonen, Hanna Runtti, Mikko Niskanen, Emma-Tuulia Tolonen, Minna Sarkkinen, Kimmo Kemppainen, Jaakko Rämö, Ulla Lassi
論文タイトル:Simultaneous removal of Ni(II), As(III), and Sb(III) from spiked mine effluent with metakaolin and blast-furnace-slag geopolymers
掲載誌名:Journal of Environmental Management
出版年:2016
巻数:166
ページ範囲:579e588
研究の背景と動機
水資源におけるニッケル、ヒ素、アンチモンなどの有害金属やメタロイドの存在は、世界的な懸念事項です。これらの物質は、高濃度では急性中毒を引き起こし、低濃度でも長期間暴露されると発がん性を持つ可能性があります(IARC, 1989; IARC, 1990; IARC, 2012)。
鉱山事業は、水生環境にニッケル、ヒ素、アンチモンを排出する主要な人為的要因の一つです。しかし、地質構造の自然な溶解も地下水の汚染を引き起こします。地下水中のヒ素濃度上昇(数mg/Lまで)は、アルゼンチン、チリ、中国、台湾、メキシコなど多くの国で頻繁に見られます(IARC, 2004)。ヒ素とアンチモンは化学的に類似しており、しばしば共存します(An and Kim, 2009; Lehr et al., 2007)。
鉱山活動の影響を受けた地域の一例として、ガーナのプレステアがあります。ここでは、地下水中のヒ素とアンチモンの濃度はそれぞれ最大0.9e8.25mg/Lと0.09e0.75mg/Lに達する可能性があります(Serfor-Armah et al., 2006)。一方、pH 6.2未満の地下水では、最大0.98mg/Lのニッケル濃度が報告されています(RIVM, 1994)。
世界保健機関(WHO)の飲料水に関するガイドラインでは、ニッケル、ヒ素、アンチモンの許容濃度はそれぞれ70mg/L、10mg/L、20mg/Lとなっています。そのため、効果的な除去方法が必要です(WHO, 2011)。
本研究では、これらの有害物質に対する効果的で経済的な水処理方法として、ジオポリマーに着目しました。ジオポリマーは、アルカリ活性化されたアルミニウムシリケート材料であり、その構造はゼオライトと類似しており、水溶液中のイオンを交換することができます。ジオポリマーは、その原料が豊富で安価であることから、有害金属やメタロイドの除去に適した低コストな吸着材として注目されています。
解決できたこと
本研究では、メタカオリンと高炉スラグを原料としたジオポリマーを合成し、それらのニッケル(II)、ヒ素(III)、アンチモン(III)の同時除去性能を評価しました。その結果、高炉スラグジオポリマーは、メタカオリンジオポリマー、高炉スラグ、メタカオリンと比較して、最も高い除去性能を示すことが明らかになりました。
高炉スラグジオポリマーのニッケル、ヒ素、アンチモンの最大吸着量はそれぞれ3.74mg/g、0.52mg/g、0.34mg/gでした。水質が複雑であったため、吸着量は比較的低い値となりましたが、吸着材の量を適切に増やすことで、ニッケル、ヒ素、アンチモンの90e100%除去が達成されました。
除去速度論は、擬二次の速度モデルによく適合しました。これらの結果から、ジオポリマー技術は、高炉スラグを鉱山業界における特異的な利用可能性を持つ効果的な吸着材に変える、シンプルかつ効果的な方法を提供できることが示唆されました。
研究の貢献
著者らは、高炉スラグとメタカオリンを原料としたジオポリマーの合成と特性評価を行い、鉱山排水の処理におけるジオポリマーの有効性を明らかにしました。この研究は、高炉スラグなどの産業副産物を利用することで、環境負荷を低減し、持続可能な資源利用に貢献する可能性を示しました。
実世界への応用と影響
本研究の結果は、鉱山排水やその他の産業排水中から有害金属やメタロイドを除去するための、ジオポリマー技術の実用的な応用可能性を示唆しています。ジオポリマーは、従来の吸着材に比べて、低コストで環境負荷が低いことから、鉱山業界における廃水処理技術の革新に貢献する可能性があります。
今後の展望と未解決の課題
本研究では、ジオポリマーの吸着性能について基礎的な知見が得られました。しかし、実用化に向けて、さらなる研究が必要です。例えば、ジオポリマーの長期安定性や耐久性に関する評価、複数金属の存在下での吸着挙動の解明、および実スケールでの処理システムの開発などです。
学術的位置づけと読者へのインパクト
本研究は、ジオポリマーを用いた有害金属やメタロイドの除去に関する重要な知見を提供します。特に、高炉スラグを有効利用できる可能性を示した点は、学術的に重要な貢献と言えるでしょう。本研究は、ジオポリマー技術のさらなる発展と応用を促進し、水質汚染の解決に貢献する可能性があります。また、本研究は、鉱山業界だけでなく、その他の産業分野における持続可能な資源利用に関する研究開発にも、重要な示唆を与えるものと考えられます。
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