著者名:Salim Barbhuiya, Edmund Pang
論文タイトル:Strength and Microstructure of Geopolymer Based on Fly Ash and Metakaolin
掲載誌名:Materials
出版年:2022
巻数: 15
ページ範囲: 3732
環境問題解決の糸口となるか?:フライアッシュとメタカオリンを用いたジオポリマーの強度と微細構造に迫る
近年、地球温暖化の主要因とされる温室効果ガスの排出削減が喫緊の課題となっています。特に、セメント産業は世界のCO2排出量の6〜7%を占めるとされており、その削減は待ったなしの状況です。そこで注目されているのが、従来のポルトランドセメントに代わる環境負荷の低い建設材料、「ジオポリマー」です。本稿では、フライアッシュとメタカオリンを主原料としたジオポリマーの強度と微細構造に関する研究成果を紹介します。
ジオポリマー:その可能性と課題
ジオポリマーは、アルミノケイ酸塩材料とアルカリ溶液の反応によって生成される、優れた圧縮強度、低い透水性、高い耐薬品性、そして優れた耐火性を備えた材料です。製造過程で排出されるCO2の量が少なく、フライアッシュやスラグなどの産業副産物を有効利用できることから、持続可能な建設材料として期待されています。しかし、ジオポリマーはポルトランドセメントに比べて強度発現性や長期的な性能における課題も抱えており、実用化に向けてさらなる研究開発が必要とされています。
本研究の目的と成果
本研究では、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーの強度と微細構造の関係を明らかにすることを目的としました。フライアッシュのみ、あるいはフライアッシュとメタカオリンを混合した配合でジオポリマーを製造し、7日、14日、28日後の圧縮強度を測定しました。さらに、SEM(走査型電子顕微鏡)およびXRD(X線回折)分析を用いて、微細構造観察および結晶相の同定を行いました。
圧縮強度試験結果
圧縮強度試験の結果、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーは、フライアッシュのみのジオポリマーよりも高い強度を示しました。これは、メタカオリンが安定した化学組成と粒度分布を持つため、ジオポリマー反応が促進されるためと考えられます。特に、アルカリ溶液のモル比が1.0の場合、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーは、フライアッシュのみのジオポリマーと比較して最大30%の強度増加を示しました。また、アルカリ溶液のモル比の増加に伴い、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーの強度は向上しました。これは、モル比の増加によってジオポリマー反応が促進され、より緻密な構造が形成されたためと考えられています。
微細構造観察結果
SEM観察の結果、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーは、フライアッシュのみのジオポリマーよりも緻密な構造を有していることが確認できました。これは、メタカオリンの微細な粒子径が、未反応のフライアッシュ粒子間の空隙を充填するためと考えられています。また、アルカリ溶液のモル比を増加させた場合、より緻密で均質な構造が観察されました。これは、モル比の増加に伴い、ジオポリマー反応が促進され、未反応のフライアッシュやメタカオリン粒子が減少するためです。これらの結果は、圧縮強度試験の結果と一致しており、ジオポリマーの強度向上には、緻密で均質な構造の形成が重要であることを示唆しています。
本研究の貢献
本研究は、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーの強度と微細構造の関係を明らかにすることで、ジオポリマーの性能向上に繋がる知見を提供しました。Barbhuiyaらは、地球温暖化という課題に対し、フライアッシュとメタカオリンを用いたジオポリマーの配合とアルカリ溶液のモル比を調整することで、ジオポリマーの強度と微細構造を制御できることを明らかにしました。この発見は、ジオポリマーの配合設計指針の確立と、より高強度なジオポリマーの開発に貢献すると期待されます。また、本研究で得られた知見は、ジオポリマーの耐久性や化学的安定性など、他の重要な特性の理解を深める上でも役立ちます。
今後の展望と未解決の課題
本研究では、フライアッシュとメタカオリンを混合したジオポリマーの強度と微細構造の関係を明らかにしましたが、まだ多くの課題が残されています。例えば、長期的な耐久性、乾燥収縮、ひび割れ抵抗性、アルカリ骨材反応など、実用化に向けて克服すべき課題は多岐にわたります。これらの課題を解決することで、ジオポリマーは持続可能な建設材料として、より広範な用途への展開が期待されます。ジオポリマーの研究開発は、環境問題解決への取り組みとして、今後も世界中で活発に続けられると考えられています。地球の未来を守るため、この革新的な材料の可能性を最大限に引き出すことが、私たち人類共通の使命と言えるでしょう。
本記事は学術論文の要約であり、原著作者および出版社の権利を尊重しています。詳細な情報や正確な引用については、原論文を参照してください。