南米プマプンク遺跡の巨石は古代のジオポリマーコンクリート?【2018年】

著者名:Joseph Davidovits, Luis Huaman, Ralph Davidovits

論文タイトル:Ancient geopolymer in south-American monument. SEM and petrographic evidence

掲載誌名:Materials Letters

出版年:2018

ページ範囲:120–124

南米プマプンク遺跡の巨石の謎に迫る:古代のジオポリマーコンクリートの可能性

古代文明の遺跡に見られる巨石建造物は、その規模と精巧さから、現代の私たちに畏敬の念を抱かせるとともに、どのようにして建設されたのかという謎を投げかけています。本稿では、南米ボリビアのプマプンク遺跡で見られる巨石の構成成分を分析し、古代のジオポリマーコンクリート技術の存在を示唆する興味深い研究成果を紹介します。

背景と動機:巨石建造物の謎

世界各地に残る巨石建造物は、古代文明の技術力の高さを物語るものです。しかし、巨大な石材をどのようにして切り出し、運搬し、積み上げたのか、その具体的な方法は未だ謎に包まれています。従来の考古学では、これらの石材は遠く離れた採石場から切り出され、人力や動物の力、あるいはローラーや滑車などの単純な機械を用いて運搬されたと説明されてきました。しかし、一部の研究者は、このような方法では、巨石建造物の建設に必要な時間と労力を説明するには不十分であると主張し、別の可能性を探求してきました。

ジオポリマーコンクリートの可能性:古代の叡智

近年、一部の材料科学者たちは、古代文明が現代のコンクリートに類似した材料、すなわちジオポリマーコンクリートを使用していた可能性に注目しています。ジオポリマーコンクリートは、火山灰や鉱滓などの天然素材をアルカリ溶液で反応させて硬化させるもので、現代のコンクリートに比べて環境負荷が低く、耐久性に優れているという特徴があります。本研究では、プマプンク遺跡の巨石が、このジオポリマーコンクリートの一種である可能性を示唆する証拠を発見しました。

プマプンク遺跡の巨石分析:構成成分と微細構造の調査

プマプンク遺跡の巨石は、その大きさから輸送が困難であったと考えられています。そこで本研究では、プマプンク遺跡の巨石と周辺地域の砂岩を比較分析し、巨石の起源と構成物質を特定することを試みました。分析には、走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、X線回折(XRD)、薄片観察などの手法が用いられました。

分析結果:ジオポリマーコンクリートを示唆する証拠

プマプンク遺跡の巨石の薄片観察を行った結果、石英や長石の結晶粒界に、赤色の流動性の高いフェロシアル酸塩マトリックスが存在することが明らかになりました。このような特徴は、自然に形成された砂岩では非常に珍しく、人工的に作られたジオポリマーコンクリートの可能性を示唆するものです。さらに、SEM/EDS分析の結果、プマプンク遺跡の巨石には、周辺地域の砂岩に比べてナトリウム(Na)が非常に多く含まれていることが判明しました。これは、巨石の作製過程で、アルカリ硬化剤として天然ソーダ灰(Na2CO3)が添加された可能性を示唆しています。

結論:古代の高度な材料科学技術

これらの分析結果を総合的に判断すると、プマプンク遺跡の巨石は、カラマルカ地域の風化したカオリナイト質砂岩を材料とし、そこに天然ソーダ灰などのアルカリ溶液を加えて硬化させた、古代のジオポリマーコンクリートである可能性が非常に高いという結論に至りました。この発見は、古代文明が、現代の私たちが考えるよりもはるかに高度な材料科学技術を有していたことを示唆するものであり、今後の考古学研究に新たな視点をもたらす可能性を秘めています。

今後の展望:古代の技術の解明と応用

本研究で得られた成果は、プマプンク遺跡の巨石建造技術の一端を明らかにしたに過ぎません。古代文明がどのようにしてジオポリマーコンクリートのレシピを発見し、巨大な建造物に適用したのか、その詳細を解明するためには、さらなる研究が必要です。また、古代のジオポリマーコンクリート技術を現代に蘇らせることができれば、環境負荷の低い建築材料の開発など、持続可能な社会の実現に貢献できる可能性も考えられます。今後の研究の進展に期待したいと思います。

本記事は学術論文の要約であり、原著作者および出版社の権利を尊重しています。詳細な情報や正確な引用については、原論文を参照してください。

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