ナトリウムシリケート活性化スラグの初期反応性と流動特性への影響を解明【2021】

出典: Palacios, M., et al. (2021). Early reactivity of sodium silicate-activated slag pastes and its impact on rheological properties. Cement and Concrete Research, 140, 106302.

Motivation: ナトリウムシリケート活性化スラグセメントの流動性低下メカニズムの解明

ナトリウムシリケート活性化スラグ(SS-AAS)セメントは、環境負荷の低い次世代セメント材料として注目されています。しかし、急速な流動性の低下が実用化の妨げとなっており、そのメカニズム解明が求められていました。本研究では、SS-AASペーストの初期反応と流動特性の関係を詳細に調査し、流動性低下の原因を明らかにすることを目的としています。

Method: 多角的な実験手法と熱力学計算の組み合わせ

研究チームは以下の手法を組み合わせて、SS-AASペーストの初期反応と流動特性を分析しました:

  • レオロジー測定:回転粘度計とレオメーターを用いて、ペーストの粘度と弾性率の経時変化を追跡
  • 細孔溶液分析:ICP-OESと27Al NMRにより、溶液中のイオン濃度変化を測定
  • 固体相分析:FTIR、29Si/27Al MAS NMR、SEMにより、反応生成物の形成を観察
  • 熱力学計算:GEMSソフトウェアを用いて、反応生成物の予測と飽和指数の計算を実施

また、従来の有機溶媒を用いた反応停止法に代わる新たな手法(水洗浄後イソプロパノール処理)を開発し、初期反応の正確な分析を可能にしました。

Insight: 初期反応生成物の形成と流動特性の関係

主な発見は以下の通りです:

  • 反応開始後40分頃から、ペーストの弾性率が急激に上昇
  • 同時期に、細孔溶液中のAl、Si、Ca、Mg濃度が急激に低下
  • FTIR、NMR分析により、非晶質N-A-S-HとC-N-A-S-Hの形成を確認
  • 熱力学計算も、これらの反応生成物の形成を予測
  • 一定のせん断を加えると、粘度が低下し流動性が回復

これらの結果から、SS-AASの流動性低下は以下のメカニズムで説明できます:

  1. スラグの溶解により、Al、Ca、Mgイオンが溶出
  2. 活性化溶液中のNaとシリケートイオンと反応し、N-A-S-HとC-N-A-S-Hが形成
  3. これらの反応生成物がスラグ粒子間に架橋を形成し、凝集構造を作る
  4. 凝集構造により弾性率が上昇し、流動性が低下
  5. せん断力を加えると、弱い凝集構造が破壊され流動性が回復

Contribution Summary: SS-AASの流動性低下メカニズムの解明と制御への示唆

Palacios氏らは、SS-AASの流動性低下が初期反応生成物の形成に起因することを実験的に証明しました。また、せん断力による流動性回復現象も明らかにし、SS-AASの流動特性をより詳細に理解することに成功しました。

Unknown: 残された課題

本研究では以下の点が未解明です:

  • N-A-S-HとC-N-A-S-Hの詳細な構造と組成
  • 反応生成物の形成速度と量が流動特性に与える影響の定量的関係
  • 長期的な反応進行と流動特性の関係

今後の展望と課題

本研究の成果を踏まえ、以下の方向性が考えられます:

  • 初期反応を制御する添加剤の開発:リンゴ酸やナノZnOなどの遅延剤の効果メカニズム解明
  • 最適な混練条件の探索:混練時間延長による流動性改善効果のさらなる検討
  • 活性化溶液の組成最適化:シリカモジュールやアルカリ濃度が反応生成物形成に与える影響の解明

読者へのインパクト

本研究は、SS-AASの実用化に向けた重要な知見を提供しています:

  • 建設現場での作業性向上:流動性制御技術の開発につながる基礎的知見
  • 配合設計の最適化:活性化溶液組成と流動特性の関係の理解
  • 品質管理技術の向上:初期反応のモニタリング手法の確立

これらの知見は、環境負荷の低いセメント材料の実用化を加速し、建設業界のサステナビリティ向上に貢献すると期待されます。

専門家向け追加情報

反応生成物の詳細分析

29Si MAS NMR分析により、反応46分後のシリコンの約21%が反応生成物に由来することが示されました。これは、スラグのシリケート部分の水和度が約8%であることを示唆しています。この比較的小さな反応度でも、ペーストの構造を大きく変化させるのに十分であることが分かりました。

熱力学モデリングの詳細

GEMSソフトウェアを用いた熱力学計算では、C-N-A-S-H相のモデリングにCNASH_ssモデルを使用しています。これにより、C-S-H相へのアルカリとアルミニウムの取り込みを考慮した予測が可能になりました。また、Na含有ゼオライトのデータも追加し、より現実的な反応生成物の予測を行っています。

レオロジー測定の技術的詳細

Small Amplitude Oscillatory Shear (SAOS)測定では、線形粘弾性領域の限界を示す臨界ひずみγcが0.01%と非常に小さいことが分かりました。これは、ポルトランドセメントや地球重合体システムと比較して、SS-AASペースト中の粒子間相互作用が短距離的であることを示唆しています。

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