2010–2019|C-A-S-HとC-S-H(基礎編):Al置換が骨格と“手触り”をどう変えるか

セメントを低炭素に、長寿命に——配合にスラグやフライアッシュ、石灰石微粉が当たり前になった時代、主役の水和物はC-S-HだけではなくC-A-S-H(アルミニウムを含む C-S-H)です。では、Al(アルミニウム)が骨格に入ると何が起きるのか。この基本を押さえておくと、配合や養生、耐久設計の“勘どころ”が一段とわかりやすくなります。


1|まず押さえたい「どこに入るの?」という問い

C-S-H の骨格は、トバモライト型のシリケート鎖が基本です。Al が入るとき、いちばん起こりやすいのはSi 四面体の“橋かけ(bridging)位置”への置換です。ここに Al(Ⅳ)(四配位)が座ると、鎖の電荷バランスが少し変わり、それを埋めるためにCa(カルシウム)やアルカリ(Na/K)の配置や水の座席が微調整されます。
この“置換→電荷調整→周辺の並び替え”という一連の動きが、平均鎖長の延びや層間の水のまとい方
、さらには等温線(吸脱着)や初期の力学にまで影響してきます。Al の入り方次第で、同じ“ゲル”でも**触れたときの手触り(剛さ/柔らかさ)**が変わる、という感覚を持っておくと全体像が掴みやすいはずです。


2|NMRが教えてくれたこと:Al(Ⅳ)のサインと鎖の手直し

27Al/29Si MAS NMR は、Al がどの座席に入ったかを見分けるのに最強の道具です。四配位の Al(Ⅳ) が橋かけ位置に入ると、29Si スペクトルにはQ²(1Al)という“Al 近接シグナル”が現れ、平均鎖長が伸び気味になります。これは、鎖の中で“切れ目”になりがちな橋かけ位を Al が埋めることで、ネットワークがちょっと縫い直されるからです。
一方、Ca/Si が高め(1.2〜1.6 付近)になると、Al は四配位だけでなく六配位 Al(Ⅵ) の存在比が上がり、層間近傍(TAH 的部位)を含む周辺での電荷補償に関与すると解釈されてきました。配合や溶液化学(アルカリ濃度)によっては、Al の受け皿としてAFm/水和ガーネット/ストラトリング石の安定も顔を出します。つまり「どれだけC-A-S-H
に入るか」は、Ca/Si と溶液の Al 活量、そして競合相の有無で決まります。


3|Ca/Si と Al/Si の“さじ加減”:入れ過ぎると別相が生まれる

Ca/Si が低め(〜0.8)であれば、少量の Al(おおむね Al/Si ≲ 0.05)はほぼ丸ごと C-A-S-H に取り込まれやすいことが合成系の平衡実験で示されてきました。ところが Al を増やし過ぎると、ストラトリング石(C₂ASH₈)やカトアイト型ハイドロガーネットなどの結晶性 Al 含有相が先に析出してしまい、ゲル自体の Al/Si は ≈0.15 前後に頭打ちになりがちです。
Ca/Si が高め(≥1.2)では、四配位 Al(Ⅳ) だけでなくAl(Ⅵ) の寄与が増える一方で、ポルトランダイト(CH)や AFm との分配が効いてきます。「Al は C-A-S-H に入れれば入れるほど良い」わけではなく、“どこに・どれだけ”入れるかが要点です。


4|「鎖が伸びる」と「秩序が保たれる」のちがい

Al を入れると鎖長は伸びやすいのに、**秩序の広がり(ミドルレンジの相関長)**は配合と履歴に強く依存します。総散乱(PDF)と NMR を同一試料で突き合わせると、Q²(1Al) の増加=鎖の“縫い直し”が進みつつも、乾燥や温度履歴が乱暴だと距離方向の秩序は短くなる——という“二面性”が見えてきます。
したがって、Al で鎖を整え、養生で秩序を保つという二段構えがコツです。ブレンド配合の“効き目”は、化学(Al の座席)と物理(水の扱い)の掛け算で出てきます。


5|実務への翻訳:スラグ/フライアッシュ/石灰石の「役割分担」

高炉スラグは Al を供給しやすく、C-A-S-H 化アルカリ固定能塩化物の取り込みサイト(AFm の炭酸塩化とも連動)に影響します。フライアッシュは反応速度が緩やかなぶん、若材齢の養生で鎖の縫い直しを助け、長期の緻密化に寄与します。石灰石微粉は AFm のモノカーボネート化を促してアルミネートの分配を変え、結果としてC-A-S-H 側の Al 取り込みの“余裕”にも効いてきます。
配合を一歩進めるなら、Ca/Si を大きく上げ過ぎない範囲で少量の Al を“橋かけ”に座らせる
、そして加熱・乾燥を急がない。この二本柱だけでも、**初期強度の立ち上がりと長期の戻り(収縮の可逆性)**は目に見えて変わります。


6|一般読者向けの比喩:切れやすい“紐”に栓を打つ

CSH の鎖を洗濯ロープにたとえると、橋かけはロープを張るときの要所のフックです。フックが抜けやすいとロープはたるみます。ここにAl という“良いフック”を打つと、ロープはピンと張りやすくなる——これが鎖長が伸びるという現象の直感的なイメージです。ただし、フックばかり増やしても、ロープ全体の並び(秩序)が乱れていたら意味がありません。風(乾燥)や温度をおだやかにして、ロープを張る環境も整える。配合と養生は、いつも二人三脚です。


7|研究を始めたばかりの人へ:同一バッチで“三つの数字”を揃える

基礎検討では、同一バッチの合成 C-(A-)S-H で Ca/SiAl/Si を段階的に振り、

  1. 29Si NMR の Q¹/Q² 比と Q²(1Al) 成分(=鎖長と Al 近接シグナル)
  2. 27Al NMR の Al(Ⅳ)/Al(Ⅵ) 比(=座席の内訳)
  3. 間隙水の Al・Ca・Si 濃度(=溶液側の“余力”)
    の“三つの数字”を同時に取るのが近道です。ここに**PDF(相関長)熱力学モデリング(競合相の地図)を重ねれば、「どこに Al を座らせ、何を起こさないか」**が定量で語れるようになります。

まとめ

2010年代の成果により、Al はまず“橋かけ”に入り、鎖を縫い直すCa/Si が高いと Al(Ⅵ) も現れて分配が変わるAl を入れ過ぎると結晶性相が先に立つ——この基本図が共有されました。配合の現場では、C-A-S-H に“少量を賢く”入れることと、若材齢の水と温度を丁寧に扱うことが、強度・収縮・耐久を同時に整える第一歩です。次回は**C-A-S-HとC-S-H(応用編)**として、スラグ/フライアッシュ配合の設計指針を実務寄りに整理します。


参考論文

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