ジオポリマーの初期論文を追っていくと、研究の関心が少しずつ広がっていくのが分かります。Davidovits(1976)の論文では「無機ポリマー」という発想の原点が示され、Davidovits(1989)の論文では「100℃以下でセラミック様材料をつくる」という見方が前面に出ます。さらに Davidovits(1991)の論文では、poly(sialate) という骨格の考え方が整理されました。1994年の論文の特徴は、その流れが放射性廃棄物・ウラン廃棄物の封じ込めという、より具体的な用途に踏み込んでいる点にあります。
この論文の出発点は明快です。放射性廃棄物管理の目的は、現在と将来の人間と環境を守ることにあります。そのために必要なのが複数の封じ込めの仕組みで、現在の国際的な整理では engineered barrier(人工バリア) と natural barrier(天然バリア) を組み合わせる「多重バリア」の考え方が基本です。この記事では、1994年の論文を「ジオポリマーは使えるか」という単純な賛否ではなく、廃棄物を安定化した材料体である waste form(ウェイストフォーム)に何を求めるかという視点から読み解きます。
この論文は何を問題にしているのか
論文では、放射性廃棄物を high-level、medium-level、low-level に分けたうえで、別に uranium mining / milling waste と uranium processing waste も扱っています。とくに medium-level waste では、当時一般的だった hydraulic cement による固化に対し、結合水が多いこと、脱水が遅くひび割れを生じやすいこと、そして放射線や熱の作用下での水の挙動が課題になりうると述べています。これに対して Davidovits は、ジオポリマー系材料の利点として、速い脱水、高温安定性、骨格内での元素固定を挙げています。
ここで重要なのは、廃棄物固化では「強い材料かどうか」だけでは足りないことです。大事なのは、水をどれだけ管理できるか、有害元素の移動をどれだけ抑えられるか、長期にわたって形と機能を保てるかです。1994年の論文は、ジオポリマーを構造材料というより、封じ込め機能を持つ候補材料として扱っています。
技術的に重要なポイント1:速い脱水
論文で最も強く押し出されているのが、medium-level waste に対する脱水の速さです。論文では、K-PSS 系バインダーを用いた geopolymer waste-form について、マイクロ波乾燥で短時間に水分を大きく下げられる例を示しています。ここでいう waste-form は、廃棄物をバインダーで固めて安定化した一体物のことです。Davidovitsは、この速い脱水が残留水分やガス発生リスクの低減につながる可能性を強調しています。
ただし、ここは慎重に読む必要があります。論文は「地下処分に必要な性質」として水素放出や蒸気爆発が起きないことを挙げていますが、現代の処分安全性は材料単体ではなく、容器・人工バリア・地質環境まで含めて評価するのが基本です。したがって、「ジオポリマーなら安全」と書くより、「論文では、速い脱水が安全性向上の候補要因として示された」とまとめるのが適切です。
技術的に重要なポイント2:酸性環境での相対的安定性
ウラン鉱山や製錬由来の廃棄物では、硫化物の酸化などにより酸性条件が生じ、重金属やラジウムの浸出が問題になります。論文はこの点を重視し、Portland 系、slag/Portland 系、calcium aluminate 系、geopolymer 系を酸性環境で比較しています。その記述では、Portland 系は酸性環境で破壊され、calcium aluminate 系も大きな重量減少を示す一方、K-PSS 系 geopolymer は比較的小さい損失範囲にとどまったとされています。
ただし、この結果をそのまま「ジオポリマーは酸に強い」と一般化するのは避けるべきです。論文の Figures 3 と 4 は、試料を粉砕して表面積を大きくしたうえで、一定 pH 5 の酸性条件に 24 時間さらす厳しい溶出試験で、Davidovits自身も “worst case” と説明しています。そのため、厳しい酸性溶出条件でも相対的に安定な候補として示された、という見方にとどめるのが安全です。
技術的に重要なポイント3:骨格内での元素固定
この論文のキーワードの一つが、three dimensional geopolymeric-zeolitic framework です。ここでいう zeolitic framework は、ゼオライトのようなアルミノシリケート骨格を思わせる三次元ネットワークのことで、Davidovitsはその内部に重金属や放射性元素が「閉じ込められる」と説明しています。つまり、固化は単に包み込むだけではなく、元素の移動しにくい状態をつくることでもある、という見方です。
この問題意識は、現在の研究にもつながっています。JAEA の 2017年レビューでは、ジオポリマーは nuclear waste management における confinement matrix の候補として整理されており、特に放射性セシウムやストロンチウムを含む廃棄物への適用可能性が議論されています。さらに 2022年の日本語レビューでも、福島第一原発の内外で発生する放射性セシウム含有廃棄物に対して、ジオポリマーが新しい固型化材として注目されていると説明されています。
論文を読むときに注意したい点
1994年の論文には、いま読むとそのまま一般化しないほうがよい表現もあります。たとえば「geopolymeric materials conduct no measurable amounts of water」と述べますが、同じ論文の Table 1 では geopolymer cement の透水係数が 10^-9 cm/s、Portland cement が 10^-10 cm/s と示されています。少なくともこの表だけから、一般にジオポリマーのほうがポルトランドセメントより不透水とは言えません。
また、論文内には「2,500〜5,000年の風化に耐える」という強い見立ても出てきますが、これは古代の zeolitic cement やローマンコンクリートとの類比をもとにしたDavidovitsの主張です。現在の処分安全性は、waste form、容器、埋戻し材、人工バリア、天然バリアを含む全体設計で評価されます。したがって、この数字を性能保証のように書くのではなく、「Davidovitsは長期耐久の可能性を強く主張した」と整理するのが適切です。
日本の読者にとっての接点
日本では、低レベル放射性廃棄物処分においてセメント系材料が今も重要な役割を担っています。2022年の JACT 技術報告でも、cementitious materials は構造体、貯蔵セル、トンネルプラグ、engineered barriers などに用いられると整理されています。ここでいう cementitious materials は、セメントやそれに類する無機結合材を広く含む言い方です。つまり、1994年の論文は「従来セメントを全部置き換える話」として読むより、廃棄物固化材に何が求められるかを考える入口として読むほうが理解しやすい論文です。
ジオポリマーや AAM の基礎から確認したい場合は、まず ジオポリマー/アルカリ活性材料(AAM)総まとめ や AAMの反応メカニズム解説 を読むと整理しやすくなります。AAM は alkali-activated materials(アルカリ活性材料) の略で、アルカリ性溶液で粉体を反応させて固める材料群の総称です。そのうえで本稿を読むと、Davidovits がなぜ脱水性、元素固定、耐酸性に注目したのかが見えやすくなります。
まとめ
Davidovits(1994) の意義は、ジオポリマーを単なる新しい結合材ではなく、放射性廃棄物・ウラン廃棄物の封じ込め材料候補として論じた点にあります。読みどころは、速い脱水、酸性環境での相対的安定性、骨格内での元素固定の3点です。ただし、これらはあくまで論文が示した利点であり、現代の処分安全性は多重バリア全体で評価されます。
その意味で、この論文をいま読む価値は、「ジオポリマーは使えるか」を即断することではなく、廃棄物固化材にどの安全機能を期待するのかを考える視点を得られることにあります。すでに公開されている 1976年の論文解説、1989年の論文解説、1991年の論文解説 が「概念の形成」を扱っているのに対し、本稿を「応用の設計思想」を扱う記事として読むと、ジオポリマー研究の流れもつながります。
FAQ
Q1. この論文は「ジオポリマーが放射性廃棄物処分の決定版」と言っているのですか?
そこまで読むのは強すぎます。論文は有望な containment material として強く推していますが、現在の処分設計は waste form、容器、人工バリア、天然バリアを組み合わせた多重バリアで考えます。
Q2. 技術的にいちばん大事なのは強度ですか?
この論文では、強度そのものよりも、脱水性・残留水分・溶出抑制・長期安定性のほうが前面に出ています。廃棄物固化では、これらの評価軸が重要になります。
Q3. 日本の研究とも関係がありますか?
あります。JAEA のレビューや 2022年の日本語レビューでは、放射性セシウムやストロンチウムを含む廃棄物、ゼオライト系二次廃棄物、福島由来の固型化課題の文脈でジオポリマーが整理されています。
参考文献
- Davidovits, J. Recent Progresses in Concretes for Nuclear Waste and Uranium Waste Containment. Concrete International, 16(12), 53–58, 1994.
- IAEA. Disposal of Radioactive Waste. Safety Standards Series No. SSR-5, 2011.
- IAEA. Design Principles and Approaches for Radioactive Waste Repositories. 2020.
- Cantarel, V., Motooka, T., Yamagishi, I. Geopolymers and Their Potential Applications in the Nuclear Waste Management Field: A Bibliographical Study. JAEA-Review 2017-014.
- 佐藤努ほか. 「放射性セシウムを含む廃棄物の固型化マトリックスとしてのジオポリマーの適用性」『廃棄物資源循環学会誌』33(6), 448–455, 2022. DOI: 10.3985/mcwmr.33.448.
- Nakarai, K. et al. Low-Level Radioactive Waste Disposal in Japan and Role of Cementitious Materials. Journal of Advanced Concrete Technology, 20(5), 359–374, 2022. DOI: 10.3151/jact.20.359.

