フライアッシュは、セメントの量を減らすために加えるだけの材料ではありません。セメントの水和によって生じる水酸化カルシウムと反応し、新たな水和物をつくる「化学反応する混和材」です。
この反応が、フライアッシュのポゾラン反応です。
反応の中心になるのは、次の流れです。
- セメントの水和によってCH(水酸化カルシウム)が生成する
- 強アルカリ性の細孔溶液によってフライアッシュのガラス相が溶ける
- フライアッシュからSiやAlが供給される
- CH由来のCaと結び付き、C-S-HやC-A-S-Hが生成する
- 水和物が空隙を埋め、長期的に組織が緻密になる
つまり、「フライアッシュを入れるとCHが減る」という現象だけを見るのではなく、CHに含まれていたCaが、新しいC-S-HやC-A-S-Hに組み込まれていく反応として理解することがポイントです。
この記事では、フライアッシュのポゾラン反応を、CH消費、Alの働き、細孔溶液、材齢、分析方法の順に整理します。
フライアッシュセメントの施工性や耐久性など、材料全体の特徴を先に確認したい場合は、フライアッシュセメントの特性と将来性も参考になります。
ポゾラン反応とは何か

ポゾラン反応とは、フライアッシュなどに含まれる反応性のSiやAlが、セメントの水和で生じたCHと水の存在下で反応し、セメント硬化体を構成する水和物をつくる反応です。
反応を単純化すると、次のように表せます。
反応性Si + CH + 水 → C-S-H系水和物
反応性Si・Al + CH + 水
↓
C-A-S-H系水和物、AFm系水和物など
ただし、実際のフライアッシュは純粋なSiO₂やAl₂O₃ではありません。
一般的なフライアッシュには、次のような成分が混在しています。
- 反応しやすいアルミノシリケートガラス
- 反応しにくい石英
- ムライトなどの結晶相
- 酸化鉄を含む粒子
- 未燃炭素
- Caを比較的多く含む粒子
ポゾラン反応に主に関与するのは、フライアッシュ中の非晶質なガラス相です。XRFでSiO₂やAl₂O₃の含有量が多いことを確認しただけでは、実際の反応性までは判断できません。
同じ化学組成に見えても、ガラス相の割合、粒子の大きさ、ガラスの組成、燃焼条件によって反応速度は変わります。[1][2]
フライアッシュの反応を流れで理解する
フライアッシュのポゾラン反応は、粉体同士が直接反応するのではなく、細孔溶液を介して進みます。
セメント鉱物の水和
↓
C-S-HとCHが生成
↓
細孔溶液が強アルカリ性になる
↓
フライアッシュのガラス相が徐々に溶解
↓
Si・Alが細孔溶液へ移動
↓
Caと反応してC-S-H・C-A-S-Hなどを生成
↓
粗い空隙が減り、硬化体が緻密になる
ここで見落としやすいのが、細孔溶液の役割です。
フライアッシュの表面に水が触れただけでは、ガラス相は十分に反応しません。セメントから供給されるOH⁻、Na⁺、K⁺などによって高いアルカリ性が保たれることで、ガラス相のSi–O結合やAl–O結合が切れ、SiやAlが溶け出しやすくなります。
したがって、ポゾラン反応には次の三つが必要です。
- 反応性を持つフライアッシュのガラス相
- Caの供給源となるCHやセメント水和物
- ガラス相を溶かす強アルカリ性の細孔溶液
細孔溶液に含まれるCa、OH⁻、Na、Kなどの働きは、セメントの細孔溶液とは何かで詳しく整理しています。
CHがポゾラン反応の鍵になる理由
CHは、水酸化カルシウムまたはポルトランダイトと呼ばれる結晶相です。セメント化学の略号では、CaOをC、H₂OをHと表すため、CHと書かれます。
普通ポルトランドセメントでは、主にエーライトやビーライトの水和によってC-S-HとCHが生成します。
簡略化すると、次の関係です。
セメント鉱物 + 水 → C-S-H + CH
CHはセメント硬化体中に比較的大きな結晶として存在しますが、C-S-Hほど直接的に強度を担う水和物ではありません。
フライアッシュを加えると、CHの一部がポゾラン反応に使われます。
CH
↓ 溶解
Ca²⁺・OH⁻
↓ フライアッシュ由来のSi・Alと反応
C-S-H・C-A-S-Hなど
この反応によって、CHとして存在していたCaが、硬化体の骨格をつくるゲル状の水和物に移ります。
そのため、TG-DTAやXRDでフライアッシュ混合試料を調べると、無混合の試料よりCHが少なくなることがあります。CH量は、ポゾラン反応の進行を読む代表的な指標の一つです。[1]
CHが少なければポゾラン反応が進んだとは限らない
注意したいのは、測定したCH量が次の収支で決まることです。
測定されるCH量
= セメント水和で生成したCH
- ポゾラン反応で消費したCH
- 炭酸化などで失われたCH
フライアッシュでセメントの一部を置き換えると、最初からCHを生成するセメント量も減ります。したがって、フライアッシュ混合試料のCH量が少なくても、その差がすべてポゾラン反応による消費とは限りません。
CH量を比較するときは、少なくとも次の点をそろえる必要があります。
- セメント置換率
- 水結合材比
- 材齢
- 養生温度
- 水和停止方法
- 乾燥条件
- 試料の炭酸化状態
- セメント量または強熱後質量による基準化方法
「CHピークが小さいため、ポゾラン反応が進んでいる」と結論づけるのではなく、セメントの希釈、炭酸化、未反応量も含めて判断する必要があります。
CH消費とpH低下は同じ意味ではない
CHが消費されると、細孔溶液中のCa濃度やOH⁻の緩衝状態は変化します。ただし、CH量が減った割合だけpHが低下するわけではありません。
細孔溶液のpHには、セメントやフライアッシュから供給されるNa⁺、K⁺と、それに対応するOH⁻も関係します。C-S-HやC-A-S-Hによるアルカリの取り込み、空隙水量、炭酸化なども影響します。
そのため、次のような説明は単純化しすぎています。
不十分な説明
フライアッシュがCHを消費するため、pHが下がる。
より正確な説明
フライアッシュの反応によってCH量や水和物の組成が変化し、アルカリの固定や空隙水量の変化も重なるため、細孔溶液の組成が変わる。
CH量と細孔溶液のpHは関係していますが、同じ指標ではありません。
ポゾラン反応の速度は材齢によって変わる
フライアッシュの反応は、一般にセメントクリンカーの初期水和より遅く進みます。
若材齢では、フライアッシュ粒子の充填効果や、水和物が析出する場所を増やす効果が先に現れる場合があります。その後、セメント水和によってCHとアルカリ性の細孔溶液が確保されると、ガラス相の溶解とポゾラン反応が徐々に進みます。[1][2]
材齢ごとの反応の見方
| 材齢の目安 | 主に起きていること | 実験結果を読むときの注意 |
|---|---|---|
| 練混ぜ直後~1日 | セメントの初期水和、粒子充填、核生成 | フライアッシュ自体の反応は限定的な場合が多い |
| 1~7日 | セメント水和が進み、CHと高アルカリ環境が形成される | 置換による希釈の影響が強度に表れやすい |
| 7~28日 | ガラス相の溶解とポゾラン反応が徐々に進む | フライアッシュの種類や温度による差が現れ始める |
| 28~91日 | CH消費と追加の水和物生成が明確になりやすい | TG-DTA、XRD、反応率の比較に適した期間 |
| 91日以降 | 未反応ガラス相が残る限り反応が続く可能性がある | 水分、温度、CH供給量によって反応が制限される |
この表は一般的な傾向です。すべてのフライアッシュが同じ時期に反応を始めるわけではありません。
反応速度を左右する条件
フライアッシュのポゾラン反応は、主に次の条件で変化します。
| 条件 | 反応への影響 |
| ガラス相の割合 | 反応に利用できるSi・Alの量に関係する |
| ガラス相の組成 | Si、Al、Ca、アルカリなどの構成によって溶けやすさが変わる |
| 粉末度 | 細かいほど反応できる表面積が増える傾向がある |
| 養生温度 | 一般に温度が高いほど初期の反応は速くなる |
| 湿潤状態 | 水が不足すると溶解と物質移動が進みにくくなる |
| 細孔溶液のpH | ガラス相の溶解速度に関係する |
| CH供給量 | 反応生成物をつくるCaの供給に関係する |
| 置換率 | 高すぎるとセメント由来のCHやアルカリが不足する場合がある |
したがって、材齢28日の試験だけで「このフライアッシュは反応しない」と判断するのは早い場合があります。一方で、長期間養生すれば必ず十分に反応するわけでもありません。
フライアッシュのガラス相が残っていても、CH、水分、アルカリ性のいずれかが不足すれば、反応速度は低下します。
C-S-HとC-A-S-Hはどう変わるか
フライアッシュのポゾラン反応を「SiO₂とCHからC-S-Hができる反応」と説明することがあります。
基本を理解するには便利ですが、フライアッシュにはAlも多く含まれます。そのため、実際の反応生成物は、Alを含まない単純なC-S-Hだけではありません。
C-A-S-Hとは何か
C-A-S-Hは、カルシウム・アルミニウム・シリケート水和物を表します。
C:CaOに相当するCa成分
A:Al₂O₃に相当するAl成分
S:SiO₂に相当するSi成分
H:H₂O
C-A-S-Hは、C-S-Hのケイ酸鎖やその周辺にAlが取り込まれた水和物として説明されます。
Alを含む混和材が存在すると、普通ポルトランドセメント単味の場合よりもC-S-H中にAlが取り込まれやすくなります。ただし、フライアッシュから溶け出したAlがすべてC-A-S-Hに入るわけではありません。[3]
Alは条件に応じて、次の相にも分配されます。
- AFm相
- エトリンガイトなどのAFt相
- ストラトリンガイト
- アルミネート系の水和物
- 未反応のフライアッシュ粒子
どの相に入るかは、Ca、Si、Al、硫酸塩、炭酸塩の量や、細孔溶液の組成によって変わります。
フライアッシュを入れるとCa/Si比が変わる
ポゾラン反応では、フライアッシュからSiが供給されます。そのため、生成するC-S-H系水和物は、普通ポルトランドセメント単味のC-S-HよりCa/Si比が低くなる傾向があります。[2]
ただし、SEM-EDSで得られるCa/Si比をそのままC-A-S-Hの組成と判断するのは危険です。
電子線を当てた範囲に、次の相が一緒に含まれることがあるためです。
- C-S-HまたはC-A-S-H
- CH
- 未反応セメント
- 未反応フライアッシュ
- AFm相
- エトリンガイト
分析点を増やし、元素比の分布として評価する必要があります。
Alが入れば必ず強度が上がるわけではない
C-A-S-Hの生成は、フライアッシュ反応を理解するうえで重要です。しかし、「C-A-S-Hが増えたから強度が上がった」と単純に結論づけることはできません。
強度には、次の要因が同時に影響します。
- 水和物の総量
- 毛細管空隙の量と連続性
- 水結合材比
- 未反応粒子の割合
- 粒子間の付着状態
- 遷移帯の状態
- 供試体の含水状態
- 養生温度と養生期間
C-A-S-Hは反応を説明する要素の一つであり、強度そのものを直接示す測定値ではありません。
フライアッシュはなぜ長期強度に効くのか
フライアッシュによる強度発現は、一つの効果だけでは説明できません。
主に次の四つが重なります。
1. 追加の水和物が生成する
ポゾラン反応によって、C-S-HやC-A-S-Hなどの水和物が追加で生成します。
これらの水和物は、粒子間を埋め、セメント硬化体の骨格をつくります。
2. 比較的大きな空隙が減る
フライアッシュ粒子の周囲や毛細管空隙に反応生成物が形成されると、粗い空隙が細かい空隙へ移ることがあります。
研究例では、アルカリによってフライアッシュ反応を促進した試料で、CH量の減少とともに、比較的大きな細孔の減少が確認されています。[1]
ただし、「全空隙量が必ず減る」とは限りません。空隙径分布が変化し、大きな空隙が減る一方で、ゲル空隙などの細かな空隙が増える場合もあります。
3. 粒子充填と核生成が初期水和を助ける
フライアッシュの細粒分は、セメント粒子間の隙間を埋めます。また、水和物が析出する表面を増やし、セメント水和に影響する場合があります。
この物理的な効果は、フライアッシュ自体のポゾラン反応が本格化する前にも現れます。
4. 骨材周辺の組織が変化する
コンクリートでは、骨材とセメントペーストの境界付近に、遷移帯と呼ばれる比較的粗な部分が形成されます。
細かなフライアッシュ粒子や反応生成物がこの領域を埋めると、遷移帯が緻密になる場合があります。
初期強度が下がる場合がある理由
フライアッシュを加えると長期強度が期待できますが、初期強度は低下することがあります。
最大の理由は、初期に速く反応するセメントを、反応の遅いフライアッシュで置き換えるためです。
若材齢
セメント量の減少による影響 > ポゾラン反応による追加生成物
→ 初期強度が低くなりやすい
長期材齢
ポゾラン反応による追加生成物が増える
→ 強度差が縮まる、または条件によって上回る
ただし、長期強度が必ず無混合コンクリートを上回るわけではありません。置換率、フライアッシュ品質、水結合材比、温度、養生条件によって結果は変わります。
フライアッシュと石灰石微粉末は何が違うか
フライアッシュと石灰石微粉末は、どちらもセメントの一部を置き換える粉体として使われます。しかし、主な化学反応は異なります。
| 比較項目 | フライアッシュ | 石灰石微粉末 |
| 主成分 | Si・Alを含むガラス相、石英、ムライトなど | 主にCaCO₃ |
| 主な初期効果 | 充填、核生成、セメントの希釈 | 充填、核生成、セメントの希釈 |
| 主な化学反応 | CHを利用するポゾラン反応 | Alを含む相とのカーボアルミネート反応 |
| 主な生成物 | C-S-H、C-A-S-H、条件によりAFm相など | ヘミカーボアルミネート、モノカーボアルミネートなど |
| CHとの関係 | 反応によってCHを消費する | 単独ではCHを主反応物として大量に消費する材料ではない |
| 反応速度 | 一般に緩やかで材齢依存性が大きい | 核生成効果は初期から現れやすく、化学反応はAl供給量に左右される |
| XRDで見たい相 | CH、石英、ムライト、AFm相など | カルサイト、ヘミカーボアルミネート、モノカーボアルミネートなど |
石灰石微粉末は、以前は不活性な充填材として説明されることもありました。しかし、実際にはAlを含む水和系でカーボアルミネート相の生成に関与します。
詳しい違いは、石灰石微粉末はなぜ効くのかで確認できます。
フライアッシュと石灰石を併用するとどうなるか
フライアッシュから供給されたAlと、石灰石由来の炭酸塩が反応すると、カーボアルミネート相が生成する可能性があります。
そのため、フライアッシュと石灰石を併用する系では、次の反応を分けて考える必要があります。
- フライアッシュのポゾラン反応
- 石灰石の核生成効果
- フライアッシュ由来Alと炭酸塩の反応
- AFt相とAFm相の変化
- セメント置換による希釈
CH量だけを見ても、水和物全体の変化は把握できません。XRD、TG-DTA、SEM-EDSなどを組み合わせて判断します。
TG-DTAでCH消費を確認する方法
TG-DTAまたはTG-DTGでは、試料を加熱したときの質量減少からCH量を推定できます。
CHは加熱によって次のように分解します。
Ca(OH)₂ → CaO + H₂O
装置や試料条件によって変動しますが、CHの脱水はおおむね400~550℃付近に現れます。
TGで読み取ったH₂Oの減量から、CH量を換算します。
CH量 = CH脱水による減量 × 74.09 ÷ 18.015
CH量 ≒ CH脱水による減量 × 4.11
具体的な計算手順は、TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する方法で詳しく解説しています。
フライアッシュ試料でCHを比較する手順
- 無混合の基準試料を用意する
- 水結合材比と養生条件をそろえる
- 1日、7日、28日、91日など複数の材齢で採取する
- 同じ方法で水和停止と乾燥を行う
- 同じ昇温速度と雰囲気でTG-DTAを測定する
- DTGピークを確認してCHの積分範囲を決める
- セメント量または強熱後質量を基準にCH量を比較する
- 高温側のCaCO₃分解も確認し、炭酸化の影響を検討する
フライアッシュ混合試料と基準試料を単純に同じ試料質量で比較すると、セメント置換による希釈が混ざります。
たとえば、20%をフライアッシュで置き換えた試料には、基準試料の80%しかセメントが含まれていません。ポゾラン反応が起きていなくても、単位試料質量当たりのCH量は少なくなる可能性があります。
CH消費率を出すときの考え方
概念的には、フライアッシュが反応しなかった場合に予想されるCH量と、実際に測定したCH量の差を求めます。
予想CH量
= 基準試料のCH量 × フライアッシュ混合試料のセメント割合
見かけのCH消費量
= 予想CH量 - 混合試料で測定したCH量
ただし、この計算にも限界があります。
フライアッシュ粒子が核生成サイトとして働くと、残ったセメントの水和度が基準試料と変わる場合があるためです。正確な反応量を求めるには、未反応セメント量やフライアッシュ反応率も併せて評価する必要があります。
XRDで確認できること・できないこと
XRDでは、結晶性のある相を確認できます。
フライアッシュ混合セメントでは、主に次の相を追います。
- CH
- エトリンガイト
- AFm相
- 未反応のエーライトやビーライト
- フライアッシュ中の石英
- フライアッシュ中のムライト
- 条件によってストラトリンガイト
- 石灰石を含む場合はカルサイトやカーボアルミネート
CHピークの低下
フライアッシュ混合試料でCHのピークが小さくなる場合、次の原因が考えられます。
- フライアッシュ置換によってセメント量が減った
- ポゾラン反応によってCHが消費された
- 試料が炭酸化した
- セメント自体の水和度が変化した
- 試料調製や配向の影響を受けた
したがって、CHピークの強さだけでポゾラン反応量を決めることはできません。
可能であれば、内部標準を用いた定量XRDやTG-DTAを併用します。
C-S-HやC-A-S-HはXRDで見えにくい
C-S-HやC-A-S-Hは、結晶性の低い水和物です。一般的な粉末XRDでは、明瞭な鋭いピークとして現れにくく、幅の広い散乱として観測されます。
そのため、XRDでCHが減ったことを確認しても、「減った分がすべてC-A-S-Hになった」とまでは言えません。
C-A-S-Hを詳しく調べる場合は、次の分析が候補になります。
| 分析方法 | 主に確認できること |
| SEM-EDS | 反応層の形態、Ca・Si・Alの元素比 |
| TEM-EDS | より小さな領域の組成と形態 |
| 固体NMR | Si鎖の結合状態、Alの取り込み |
| FTIR | Si–O結合やOH、炭酸塩などの変化 |
| 選択溶解 | フライアッシュの未反応量の推定 |
| 細孔溶液分析 | Ca、Si、Al、Na、Kなどの液相濃度 |
| 熱力学計算 | 測定した組成から安定相を検討 |
卒論・修論で組みやすい実験計画
フライアッシュのポゾラン反応を卒論や修論で調べる場合、測定項目を増やしすぎるよりも、「何を根拠に反応を判断するか」を先に決めることが重要です。
基本的な実験計画の例を示します。
配合
- 普通ポルトランドセメント単味
- フライアッシュ10%置換
- フライアッシュ20%置換
- フライアッシュ30%置換
- 水結合材比は一定
材齢
- 1日
- 7日
- 28日
- 91日
- 可能であれば182日
測定
| 確認したいこと | 測定方法 |
| 強度発現 | 圧縮強度 |
| CH量 | TG-DTAまたはTG-DTG |
| 結晶相 | XRD |
| 反応層と元素比 | SEM-EDS |
| 空隙の変化 | MIP、吸水試験など |
| フライアッシュ反応率 | 選択溶解、定量XRD、NMRなど |
結果を結び付ける順番
- 圧縮強度がいつ増えたかを見る
- 同じ材齢でCH量がどう変化したかを見る
- XRDでCH、未反応クリンカー、結晶性水和物を確認する
- SEM-EDSでフライアッシュ粒子周辺の反応層を見る
- 空隙径分布の変化と強度を比較する
- 複数の結果が同じ説明と整合するか確認する
強度だけでは、ポゾラン反応と粒子充填効果を分けられません。CH量だけでは、希釈と炭酸化を分けられません。
複数の分析を組み合わせることで、「フライアッシュが反応した」という説明の根拠が強くなります。
ポゾラン反応の説明でよくある誤り
誤り1:フライアッシュはCHと直接反応する粉である
改善した説明
フライアッシュのガラス相が強アルカリ性の細孔溶液によって溶解し、溶け出したSiやAlがCH由来のCaと反応して水和物を形成する。
CHの結晶とフライアッシュ粒子が、固体のまま直接結合する反応ではありません。
誤り2:フライアッシュを入れるとすぐにC-S-Hが増える
改善した説明
若材齢ではセメント置換による希釈や粒子充填の影響が大きく、ポゾラン反応による追加の水和物生成は材齢とともに明確になる。
反応時期を説明しないと、初期強度の低下を説明できません。
誤り3:CH量が少ないほど性能が高い
改善した説明
CH量の低下はポゾラン反応の手がかりになるが、セメント置換率、炭酸化、水和度を補正して評価する必要がある。
CHが少ないこと自体が、強度や耐久性を保証するわけではありません。
誤り4:フライアッシュからはC-S-Hだけが生成する
改善した説明
フライアッシュからはSiに加えてAlも供給されるため、C-A-S-HやAFm系水和物などを含む複数の相が生成する可能性がある。
実際の生成相は、セメント、フライアッシュ、硫酸塩、炭酸塩の組成によって変わります。
誤り5:XRDでC-A-S-Hのピークを探せばよい
改善した説明
C-A-S-Hは低結晶性のため、一般的なXRDだけで直接定量するのは難しい。TG-DTA、SEM-EDS、固体NMRなどを組み合わせて評価する。
分析方法ごとに、見えるものと見えないものを分けて考える必要があります。
まとめ:フライアッシュはCHを新しい水和物へ変える
フライアッシュのポゾラン反応は、次の流れで理解できます。
セメント水和によるCH生成
↓
強アルカリ性の細孔溶液が形成
↓
フライアッシュのガラス相が溶解
↓
Si・Alが供給される
↓
CH由来のCaと反応
↓
C-S-H・C-A-S-Hなどが生成
↓
材齢とともに細孔構造が変化
CHは、単に消えてなくなるのではありません。CHから供給されたCaの一部が、C-S-HやC-A-S-Hなどの水和物へ移ります。
一方で、CH量の減少だけを見てポゾラン反応を断定することはできません。セメントの希釈、炭酸化、水和度の違いもCH量を変えるからです。
研究で反応を確かめる場合は、まず次の組み合わせから始めると整理しやすくなります。
- TG-DTAでCH量を追う
- XRDで結晶相を確認する
- 圧縮強度で物性の変化を見る
- SEM-EDSでフライアッシュ粒子周辺を観察する
最初の一歩としては、無混合試料とフライアッシュ混合試料を用意し、材齢7日、28日、91日のCH量を同じ条件で比較してください。時間とともにCH量、強度、XRDパターンがどう変わるかを見ると、ポゾラン反応を一つの測定値ではなく、反応の流れとして理解できるようになります。
FAQ
フライアッシュのポゾラン反応はいつから始まりますか?
練混ぜ直後から表面反応が全く起きないわけではありませんが、一般にはセメントの初期水和より遅く進みます。7~28日以降にCH消費や反応生成物の影響が確認しやすくなり、91日以降も反応が続く場合があります。実際の速度は、フライアッシュの品質、温度、粉末度、置換率、養生条件によって変わります。
フライアッシュはCHをすべて消費しますか?
配合や材齢によってはCHが大きく減ることがありますが、必ずすべて消費されるわけではありません。反応性ガラスの量、水分、温度、細孔溶液のpH、フライアッシュ置換率などによって反応が制限されます。
CH量が減れば圧縮強度は上がりますか?
CH消費と強度発現には関係がありますが、一対一では対応しません。強度には、水和物量、空隙構造、水結合材比、未反応粒子、養生条件なども影響します。CH量と圧縮強度に加えて、XRDや空隙構造の結果も確認する必要があります。
フライアッシュの反応はXRDだけで確認できますか?
XRDではCHや石英、ムライト、AFm相などを確認できますが、低結晶性のC-S-HやC-A-S-Hを直接定量するのは困難です。TG-DTA、SEM-EDS、固体NMR、選択溶解などを組み合わせると、反応をより確実に評価できます。
参考文献
[1] Bui, P. T., Ogawa, Y., Nakarai, K., & Kawai, K. “Pozzolanic Reaction of Fly Ash Cement Paste in the Presence of Alkali Activator,” Proceedings of the Japan Concrete Institute, 2015.
[2] National Institute of Standards and Technology, “Mineralogical and Microstructural Evolution in Hydrating Cementitious Systems.”
[3] Yan, Y. et al. “Al uptake in calcium silicate hydrate and the effect of alkali hydroxide,” Cement and Concrete Research, 2022.
[4] Shehata, M. H., Thomas, M. D. A., & Bleszynski, R. F. “The effects of fly ash composition on the chemistry of pore solution in hydrated cement pastes,” Cement and Concrete Research, 1999.

