Davidovits(1994)「Properties of Geopolymer Cements」を読む:強度・耐久性・ASR主張を原典で検証

ジオポリマーの初期論文をたどると、Davidovits(1976)の原点整理1989年論文の位置づけ1991年の poly(sialate) 概念へと論点が少しずつ整理されていきます。

本稿ではそこから軸をずらし、「ジオポリマーセメントの物性」をどう主張しているかを原典ベースで読み直します。

結論を先に言うと、Davidovits(1994) はジオポリマーセメントを high-alkali (K-Ca)-poly(sialate-siloxo) と位置づけ、室温での早期強度、ASR(アルカリ骨材反応)への抵抗、そして MAS-NMR による骨格解釈を強く打ち出しています。ただし、今日の目線で読むと、強度は比較的具体的に書かれている一方、耐久性の一部は“性質の列挙”に近く、ASRも「すべてのジオポリマーに普遍的」とまでは読めない、という整理が妥当です。

1. まず、この論文は何を「ジオポリマーセメント」と呼んでいるのか

この論文の書誌情報は、Joseph Davidovits, “Properties of Geopolymer Cements,” Proceedings of the First International Conference on Alkaline Cements and Concretes, Kiev, Ukraine, 1994, pp.131–149 です。

原典の要旨では、geopolymer cement を 無機的な polycondensation(重縮合)によって三次元の zeolitic framework(ゼオライト様の骨格)をつくる材料として説明しています。つまり、単に「アルカリで固めた材料」というより、Si–O–Al 骨格をもつ無機ポリマー型の結合材として位置づけているのがポイントです。

ここで出てくる poly(sialate-siloxo) は、ざっくり言えば Si–O–Al–O–Si–O を基本単位とする骨格の呼び名です。sialate は “silicon-oxo-aluminate” を縮めた Davidovits 独自の命名で、1991年論文で整理された語彙が、1994年にはセメント材料の説明へ持ち込まれています。用語の背景を先に押さえたい人は、Davidovits(1991)論文解説:poly(sialate)で理解するジオポリマー化反応を先に読むと流れがつかみやすいです。

また、1994年論文で扱う (K-Ca)-PSS 系は、焼成カオリナイト系原料、アルカリジシリケート、スラグ由来のカルシウムジシリケート、シリカフュームから成る配合として説明されています。ここで Ca が入ってくる点が重要で、現代の整理では、このような材料のすべてを単純に “geopolymer” と呼ぶより、より広い上位概念として AAM(alkali-activated materials、アルカリ活性材料) を使う場面も増えています。日本でも JCI は原料起点でジオポリマーを定義しつつ、近年は AAM という呼び方も一般化しています。

2. 4時間20MPa、28日70–100MPaはどう読むべきか

この論文でいちばん目を引くのは、20℃で4時間後に約20MPa、28日で70–100MPa という強度主張です。原文では、室温硬化し、“the standards applied to hydraulic binder mortars” に従って試験したと書かれています。早期強度のグラフ(Figure 6)では、数時間で強度が立ち上がる様子が示され、12時間程度で約25MPaまで伸びています。

ここで大事なのは、「どの試験体の、どの条件か」を丁寧に読むことです。

本文は「水硬性結合材モルタルに適用される規格で試験した」と書く一方、Figure 6 のキャプションは “concretes made of … cement” となっており、モルタルとコンクリートの語が混在しています。したがって、この 20MPa/4h をそのまま一般的な構造用ジオポリマーコンクリート全体へ横展開するのは危険で、少なくともこの論文の配合・養生・試験体系に依存する値として読むべきです。

それでも、1994年時点で 「室温で早く固まり、早期強度が高い材料」 として打ち出している点は重要です。現代の AAM 研究でも、プレキャスト(工場製品)や早期脱型が必要な用途では、早期強度の高さが大きな利点になり得ると整理されています。一方で、同じ AAM でも原料やアルカリ溶液、養生条件が変わると挙動は大きく変わるため、後年のレビューは「単一材料ではなく設計問題として扱うべき」としています。

3. 耐久性の主張は、どこまでデータで裏づけられているか

要旨では、ジオポリマーセメントの特性として high early strength, low shrinkage, freeze-thaw resistance, sulphate resistance, corrosion resistance が並びます。研究の方向性としては非常に魅力的ですが、論文内で確認できる範囲では、早期強度や ASR、NMR ほどには、凍結融解や硫酸塩抵抗性の詳細条件が丁寧に追えるわけではありません。

少なくとも本論文単体を読む限り、これらの一部は“性質の一覧”として提示されている側面が強いと見ておく方が安全です。

一方で、論文中で比較的追いやすいのは、酸性環境や有害元素固定、透水性の低さに関する議論です。たとえば geopolymer cement は acid-resistant material と表現され、別の箇所では permeability の比較表も示されます。もっとも、これも今日の材料評価の基準から見ると、長期暴露条件、再現性、標準試験法との対応まで十分に書き込まれているとは言いにくい面があります。だからこの論文は、「耐久性がすでに完全に証明された」と読むより、“どの性能を売りにしたかったか”が分かる原点資料として読む方がしっくりきます。

この見方は、国内の整理とも整合します。JCI はジオポリマーに 耐酸性、高温抵抗性、ASR を起こしにくいといった期待を認めつつも、同時に 固化機構の未解明部分や長期性状データの不足を課題として挙げています。つまり、1994年論文の“期待される性能”は今も重要ですが、現代では「期待」と「標準化された検証」を分けて考えるのが普通です。

4. 「高アルカリでもASRを起こさない」は、どこまで言えるか

ASR(アルカリ骨材反応)は、コンクリート中の反応性シリカを含む骨材が高アルカリ環境で劣化し、膨張やひび割れを招く現象です。1994年論文で最も挑戦的な主張の一つが、アルカリ量が高くても有害な alkali-aggregate reaction を起こさないという点でした。実際、Figure 15 では ASTM C227 のバー膨張試験で、geopolymer 側の膨張が OPC より小さい図が示され、本文でも 9.2% という高いアルカリ含有でも危険な反応を生じないと書かれています。

ただし、ここは現代の読者ほど慎重に読むべき箇所です。まず、この論文が示しているのは特定の材料系と ASTM C227 条件での結果です。したがって、記事としては「ジオポリマーはASRを起こさない」と一般化するより、“この論文の系では、C227 条件で膨張が小さかった”と書く方が正確です。特に student-subscription.com の一般読者向け記事では、この一点を断定調で書かないほうが安全です。

しかも後年の研究では、AAM に既存の OPC 向け試験法をそのまま当てることの難しさが議論されています。Provis(2018) は、AAM は酸・硫酸塩環境に強い傾向がある一方、炭酸化や凍結融解には未解明部分が残り、標準試験法の適用にも限界があると整理しています。

RILEM の round robin test でも、硫酸塩抵抗、ASR、凍結融解の評価法の妥当性そのものを確かめる必要があったことが示されています。

さらに、低カルシウム・フライアッシュ系ジオポリマーを扱った Lei ら(2020)は、ASR 膨張が小さい理由として、間隙溶液中の OH⁻ がフライアッシュ溶解に消費されやすいこと、Ca が少ないこと、Al の存在がシリカ溶解を抑える可能性を挙げています。同論文は、過酷な外部アルカリ供給を伴う試験より、ASTM C1293 のような実環境に近い評価のほうが適している可能性も指摘しました。つまり、ASR 抵抗は「高アルカリだから即危険/即安全」ではなく、間隙溶液の化学と骨材・Ca・Al の組合せで決まるという理解が現在の標準です。

一方で、1994年論文の問題提起が完全に古びたわけでもありません。Ye and Chen(2019) でも、高容量フライアッシュを含むアルカリ活性化系では、一定条件下で ASR が顕著でないことが報告されています。したがって、1994年の主張は「全面否定」ではなく、“なぜ一部の AAM/GP 系で ASR が抑えられるのか” という後年研究の出発点として読むのがいちばん建設的です。

5. MAS-NMR は何を示したのか

MAS-NMR は Magic Angle Spinning Nuclear Magnetic Resonance の略で、固体材料の中で Si や Al がどんな近傍環境にいるかを調べる分析法です。コンクリート系材料では少し専門的ですが、「どんな骨格ができているのか」を化学的に読むための強力な手段です。論文では、27Al MAS-NMR で約54 ppm の単一ピーク、29Si MAS-NMR で主ピーク約 -92 ppm が報告され、これをそれぞれ AlQ4(4Si)SiQ4(2Al) に対応づけています。

ここでの Qn は、ざっくり言うと 一つの Si や Al のまわりが何個の架橋酸素でつながっているかを示す記号です。Davidovits はこの結果をもとに、ジオポリマーセメントを tecto-alumino-silicates(枠組み型アルミノシリケート、たとえばゼオライトや長石のような三次元骨格)合成アナログと見なしました。Figure 5 と Figure 9 の構造モデルは、その考え方を視覚化したものです。

ただし、ここも読み方に注意が要ります。論文自身が、MAS-NMR による alkali-activated cements の構造決定は “still in its earliest stages”、つまりまだ初期段階だと述べています。したがって、この構造モデルは「確定解」ではなく、当時得られたスペクトルをもとにした有力な提案として受け取るべきです。

現代のレビューでは、Ca を多く含む系、高炉スラグが強く効く系、フライアッシュ主体の低 Ca 系などをまとめて扱うため、geopolymer だけでなく AAM という包括語が使われるようになりました。そこでは N-A-S-H や C-(A)-S-H といった生成相の議論も重視されます。

この橋渡しをやさしく整理したい人は、AAM(アルカリ活性材料)/C-A-S-Hをやさしく深掘りする や、アルカリ活性材料(AAM)の反応メカニズム:Na₂SiO₃(水ガラス)の役割とC-A-S-H/N-A-S-H生成 を合わせて読むと、1994年の「骨格モデル」と現代の「生成相モデル」がつながります。

6. 日本の読者がこの論文を読むときの実務的な勘どころ

日本語でこの論文を紹介するとき、いちばん大事なのは“主張の強さ”を現代の基準で調整することです。たとえば「ASRを起こさない」は「本論文の ASTM C227 条件では膨張が小さい」へ、「硫酸塩や凍結融解に強い」は「そのような性能が期待され、後年も多く研究されているが、原典単体で規格レベルまで証明されたとまでは言いにくい」へ言い換えると、かなり公開向けになります。

次に、規格・試験法との橋渡しを入れることです。1994年論文は ASTM C227 を使っていますが、今日の AAM 研究では、既存規格の適用妥当性そのものが論点になります。読者が実務者なら、単に「すごい材料です」で終えるより、“どの試験法で、どの材料系を、どの暴露条件で評価したか”を確認する癖づけまで含めて記事化した方が役立ちます。

最後に、JCI の整理と接続することです。国内では、ジオポリマーは魅力的な低炭素材料候補である一方、長期データ、品質の安定化、規準類の整備が重要課題とされています。だから 1994年論文は、現代の完成形をそのまま先取りした文献というより、何を目指した材料だったのかを知るための原点資料として読むのがいちばん有益です。

まとめ

Davidovits(1994)「Properties of Geopolymer Cements」の核心は、ジオポリマーセメントを (K-Ca)-poly(sialate-siloxo) として定義し、室温での早期強度、ASR への低膨張、そして MAS-NMR による三次元骨格モデルをセットで提示したことにあります。これにより、ジオポリマーは単なる代替セメントではなく、“天然のテクトアルミノシリケートに似た無機骨格をもつ材料”として語られるようになりました。

一方で、現代の読者が公開記事として扱うなら、4時間20MPa・28日70–100MPaは条件付きの強度値、ASR主張は ASTM C227 と材料系に依存する結果、耐久性の一部は後年研究で補うべき論点として整理するのが安全です。こう読めば、この論文は誇張ではなく、いまも通用する問題設定のうまい原典として使えます。

FAQ

Q1. この論文は「ジオポリマーは絶対にASRを起こさない」と証明したのですか?

いいえ。原典が示したのは、その材料系で ASTM C227 条件の膨張が小さかったという結果です。後年研究でも ASR が過大ではない系は多い一方、評価法の妥当性や材料系依存性は引き続き重要です。

Q2. 4時間で20MPaなら、どのジオポリマーでも早強ですか?

そうは言えません。1994年論文の数値は、特定配合・室温・規格試験条件に基づくものです。AAM/GP は原料、活性化剤、Ca量、養生条件で挙動が大きく変わります。

Q3. いまは「ジオポリマー」より「AAM」と呼ぶことが多いのはなぜですか?

高炉スラグや Ca を多く含む系まで含めて議論すると、反応生成物や組成が多様になるからです。国内外とも、研究上はより広い上位概念として AAM を使う場面が増えています。

参考文献

  1. Davidovits, J. (1994). Properties of Geopolymer Cements. In: Proceedings of the First International Conference on Alkaline Cements and Concretes, Kiev, Ukraine, pp. 131–149.
  2. 一宮一夫ほか. 「建設分野へのジオポリマー技術の適用に関する研究委員会」, 日本コンクリート工学会.
  3. Provis, J.L. (2018). Alkali-activated materials. Cement and Concrete Research, 114, 40–48. DOI: 10.1016/j.cemconres.2017.02.009.
  4. Lei, J., Fu, J., Yang, E.-H. (2020). Alkali-Silica Reaction Resistance and Pore Solution Composition of Low-Calcium Fly Ash-Based Geopolymer Concrete. Infrastructures, 5(11), 96. DOI: 10.3390/infrastructures5110096.
  5. Winnefeld, F. et al. (2020). RILEM TC 247-DTA round robin test: sulfate resistance, alkali-silica reaction and freeze–thaw resistance of alkali-activated concretes. Materials and Structures. DOI: 10.1617/s11527-020-01562-0.
  6. Ye, H., Chen, Z. (2019). Mechanisms of Alkali-Silica Reaction in Alkali-Activated High-Volume Fly Ash Mortars. Journal of Advanced Concrete Technology, 17(6), 269–281. DOI: 10.3151/jact.17.269.

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