セメント硬化体の細孔構造を調べる方法として、MIP(水銀圧入法、Mercury Intrusion Porosimetry)は広く使われています。
測定結果として細孔径分布が表示されるため、初めて見ると「硬化体の中に、どの大きさの細孔が何個あるかを直接測っている」と考えがちです。しかし、MIPが主に捉えているのは、試料表面から水銀が入るときに通過した細孔の入口径です。
そのため、MIPのピークをそのまま「実際の細孔の大きさ」と断定することはできません。
セメントのMIP結果を読むときは、次の4点を確認する必要があります。
- 累積圧入量はどれくらいか
- どの細孔径付近で圧入量が急増したか
- 微分曲線のピークがどこにあるか
- 試料の水和停止・乾燥方法が同じか
さらに、インクボトル効果、閉鎖細孔、高圧による組織損傷なども考慮しなければなりません。
この記事では、セメントの細孔径分布をMIPで評価するときに、グラフのどこを見て、どこまで結論を出してよいのかを整理します。
MIPで何を測っているのか

水銀を細孔に押し込むために圧力をかける
水銀は、多くの固体表面に対してぬれにくい液体です。水やアルコールのように、自発的に細い細孔へ入っていくわけではありません。
そこでMIPでは、試料の周囲に水銀を満たし、外部から圧力をかけます。
低い圧力では大きな入口に水銀が入り、高い圧力になるほど小さな入口へ水銀が入ります。圧力と圧入された水銀量を記録することで、試料内の空隙構造を評価します。
測定範囲は装置や条件によって変わりますが、規格上の目安は約0.004~400 µmです。
圧力から細孔径を計算するWashburn式
MIPでは、加えた圧力を次のWashburn式によって細孔径へ換算します。
d = −4γcosθ / P
各記号は次の意味です。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| d | 細孔径 |
| γ | 水銀の表面張力 |
| θ | 水銀と試料の接触角 |
| P | 圧入圧力 |
圧力が高くなるほど、計算される細孔径は小さくなります。
ただし、この式は細孔を円筒形とみなした簡略化を含んでいます。実際のセメント硬化体には、球形、板状、枝分かれした空隙などが混在しており、形状も連結状態も単純ではありません。
また、接触角や水銀の表面張力にどの値を使用するかによって、同じ圧力から算出される細孔径が変わります。
セメントペーストでは接触角として140度前後が使われることがありますが、MIPと¹H NMRを比較した研究では、対象試料によっては120度の方が整合しやすいと報告されています。異なる論文の細孔径を比較するときは、接触角の設定も確認する必要があります。
MIPが示すのは「細孔本体」より「入口の大きさ」
MIPで得られる細孔径は、正確には水銀が通過した入口の相当径として読むのが安全です。
例えば、直径1 µmの空洞が、直径50 nmの細い入口を通じて外部につながっているとします。
この空洞に水銀が入るためには、50 nmの入口を通過できるだけの圧力が必要です。その時点で空洞全体に水銀が入るため、直径1 µmの空洞の体積も、50 nm付近の圧入量として計算されます。
したがって、MIPの微分曲線に50 nmの大きなピークが現れても、「試料内の空隙本体が主に50 nmである」とは限りません。
MIPは次の情報を得るのに向いています。
- 外部から水銀が到達できる空隙量
- 水銀の侵入を支配している入口径
- 細孔ネットワークが開通し始める径
- 配合や材齢による相対的な細孔構造の変化
一方、閉鎖細孔や細孔本体の正確な形状、空隙の三次元的な配置を直接測定する方法ではありません。
セメントの細孔径分布の読み方
MIPの結果では、主に「累積圧入曲線」と「微分細孔径分布」が表示されます。
この2つを分けて読むことが、誤った解釈を避ける第一歩です。
累積圧入曲線で全体の変化を見る
累積圧入曲線は、ある圧力までに試料へ入った水銀量を積み上げて表示したものです。
横軸には細孔径、縦軸には累積圧入量が使われます。縦軸の単位には、次のようなものがあります。
- cm³/g
- mL/g
- cm³/cm³
- 体積百分率
グラフによって横軸の向きが異なるため、最初に「細孔径が右へ行くほど大きいのか、小さいのか」を確認してください。
累積曲線では、主に次の3点を見ます。
1. 圧入が始まる細孔径
大きな空隙や試料表面のひび割れがある場合、比較的低い圧力から水銀が入ります。
ただし、測定開始直後の圧入には、試料表面の凹凸、試料片の間にある空間、ペネトロメーター内の補正誤差が含まれることがあります。大径側の圧入量を、そのまま硬化体内部の細孔量とみなすのは避けた方が安全です。
2. 圧入量が急増する細孔径
累積曲線が急に立ち上がる部分は、多量の水銀が細孔ネットワークへ入り始めた領域です。
この付近の径は「しきい細孔径」や「臨界細孔径」などと呼ばれることがあります。一般には、累積曲線の変曲点や微分曲線の主要なピークから求めます。
ただし、用語や計算方法は論文によって異なります。「臨界細孔径」と書く場合は、どの方法で決定した値なのかを示す必要があります。
3. 最終的な累積圧入量
最大圧力までに入った水銀量は、測定範囲内で水銀が到達できた空隙量を示します。
ただし、これは必ずしも試料の全空隙量ではありません。
MIPでは、主に次の空隙を捉えにくいからです。
- 外部につながっていない閉鎖細孔
- 装置の下限より小さい細孔
- 水銀が到達できない空隙
- 前処理によって収縮または消失した空隙
- 試料内の残留水や溶媒で塞がれた空隙
したがって、論文では「全細孔量」よりも「累積水銀圧入量」や「MIPで測定された空隙量」と表現する方が正確です。
微分曲線で圧入量が集中する範囲を見る
微分細孔径分布は、細孔径の変化に対して、どれくらい水銀圧入量が増えたかを示します。
一般には、次のような形式で表示されます。
- dV/dlogD
- dV/dD
- dV/dP
ピークが高いほど、その径付近で多くの水銀が侵入したことを意味します。
ただし、微分方法や横軸の取り方が違えば、ピークの高さや位置の見え方も変わります。異なる論文を比較するときは、縦軸が同じ定義かを確認してください。
特に注意したいのは、ピーク位置をそのまま代表細孔径と呼ばないことです。
微分曲線のピークは、次のように表現すると誤解が少なくなります。
微分圧入曲線は約40 nmに主要なピークを示し、この径付近の細孔入口を通じて多くの水銀が侵入したと考えられる。
一方、次の書き方は断定が強すぎます。
試料内の細孔は主に40 nmで構成されている。
後者では、入口径と細孔本体の大きさを区別できていません。
累積圧入量としきい細孔径を一緒に比較する
MIP結果は、1つの値だけで判断しないことが基本です。
例えば、次のような結果が得られたとします。
| 指標 | 基準試料 | 混和材を加えた試料 |
|---|---|---|
| 累積圧入量 | 0.20 cm³/g | 0.16 cm³/g |
| 主要な立ち上がり | 120 nm | 45 nm |
| 微分曲線の主要ピーク | 90 nm | 35 nm |
この結果からは、混和材を加えた試料で、MIPが捉えた空隙量が減少し、水銀の侵入を支配する入口径も小径側へ移ったと読めます。
したがって、次のような記述が考えられます。
混和材を加えた試料では、基準試料と比べて累積水銀圧入量が低下し、累積曲線の立ち上がりと微分曲線の主要ピークが小径側へ移動した。同一の前処理・測定条件で比較した範囲では、外部から到達可能な空隙量が減少し、細孔入口が細かくなった可能性がある。
ここでも「真の細孔がすべて小さくなった」とまでは断定していません。
重量基準か体積基準かを確認する
累積圧入量を比較するときは、縦軸の基準にも注意が必要です。
cm³/gのように試料重量で割った値は、試料の密度や組成が違うと影響を受けます。例えば、軽量な材料や多量の混和材を含む材料では、同じ空隙率でも単位重量当たりの圧入量が変わることがあります。
異なる配合を比較する場合は、次の項目を確認してください。
- 単位重量当たりか、単位体積当たりか
- かさ密度の計算方法
- 骨材を含むか、ペースト部分だけか
- 未水和セメント量や混和材量が大きく違わないか
インクボトル効果とMIPの限界
大きな空洞が小さな細孔として計算される
インクボトル効果とは、大きな空洞が細い入口を通じて外部につながっているため、空洞全体の体積が入口径側に割り当てられる現象です。
インク瓶の胴体は広くても、口は細くなっています。これと同じような空隙がセメント硬化体にあると、水銀は細い入口を通過できる圧力に達するまで内部へ入りません。
その結果、標準的なMIPでは、次の傾向が生じることがあります。
- 大きな細孔本体の体積を過小評価する
- 小さな細孔入口側の体積を過大評価する
- 細孔本体と入口径の対応が分からなくなる
- 押込み時と減圧時の曲線に履歴が生じる
セメント系材料では細孔が複雑につながっているため、インクボトル効果はMIPを読むうえで無視できない問題です。
減圧しても水銀が抜けきらないことがある
圧力を下げても、侵入した水銀のすべてが試料外へ戻るとは限りません。
細い入口の奥にある空洞では、水銀が内部に残留することがあります。この水銀の閉じ込めも、圧入曲線と排出曲線が一致しない原因の一つです。
繰り返し加圧・減圧するPDC-MIPやIEC-MIPと呼ばれる方法では、通常の一方向の測定よりも、入口と空洞の関係や水銀の閉じ込めを検討しやすくなります。ただし、繰り返し測定によってすべての細孔形状を確定できるわけではありません。
高圧でセメント硬化体が変形・損傷する可能性がある
微細な細孔へ水銀を入れるためには、非常に高い圧力が必要です。
対象によっては、加圧中に次の変化が生じる可能性があります。
- C-S-Hを含む微細組織の圧縮
- 空隙壁の破壊
- 既存ひび割れの拡大
- 閉鎖細孔の開通
- 試料片の変形
X線CTを用いた研究でも、MIP前後でセメントペーストやモルタルの空隙構造が変化する可能性が検討されています。特に高圧側の圧入量を細かく解釈するときは、試料本来の細孔への侵入だけでなく、加圧による変化が含まれる可能性を考える必要があります。
MIPから言えること・言いにくいこと
| MIPから比較しやすいこと | MIPだけでは断定しにくいこと |
|---|---|
| 到達可能な空隙量の相対差 | 真の全空隙量 |
| 主要な細孔入口径の変化 | 細孔本体の正確な直径 |
| 累積曲線の立ち上がり位置 | 空隙の三次元形状 |
| 同条件での配合・材齢比較 | 閉鎖細孔の量 |
| 細孔ネットワークの変化の可能性 | 透水係数や拡散係数そのもの |
| 大径側・小径側への変化 | 強度や収縮の原因の確定 |
「小径化したから耐久性が向上した」「累積圧入量が減ったから強度が上がった」といった結論を出すには、強度試験、物質移動試験、NMR、画像解析などの結果も必要です。
乾燥前処理で結果が変わる理由
MIPでは細孔内の水を除く必要がある
水銀を試料内部へ圧入するには、細孔内の水や溶媒を事前に除去しなければなりません。
しかし、セメント硬化体を乾燥させると、水分が抜ける過程で毛細管圧力が発生します。特に若材齢試料や微細な空隙を多く含む試料では、乾燥によってC-S-Hの配置や空隙構造が変わる可能性があります。
つまり、MIPが測定するのは厳密には「水を含んだ元の状態」ではなく、水和停止と乾燥を経た後の試料です。
MIPの試料調製を考える前に、セメント試料の水和停止方法と乾燥方法の違いも確認しておくと、前処理による変化を整理しやすくなります。
乾燥方法ごとに異なる影響が出る
代表的な前処理には、次のような方法があります。
| 方法 | 特徴 | MIPで注意する点 |
|---|---|---|
| 加熱乾燥 | 短時間で乾燥しやすい | 収縮、脱水、水和物の変質が起こりやすい |
| 真空乾燥 | 比較的低温で水を除去できる | 乾燥に伴う毛細管圧力は避けられない |
| 凍結乾燥 | 凍結後に昇華させる | 凍結や昇華の条件によって微細組織が変化する可能性がある |
| 溶媒置換 | 水をアルコールなどに置き換える | 溶媒の種類、交換時間、試料寸法で結果が変わる |
| D-dryingなど | 低水蒸気圧下で乾燥する | 長時間を要し、乾燥の程度が結果に影響する |
水和停止・乾燥方法を比較した研究では、イソプロパノールによる溶媒置換後の乾燥は、セメント硬化体の微細構造への影響を比較的抑えやすい方法として挙げられています。一方、凍結乾燥は化学分析用の試料調製には使いやすいものの、微細構造を変える可能性があります。どの方法にも影響がないわけではありません。
前処理条件が違うデータを単純に比較しない
同じ配合・同じ材齢でも、乾燥方法が異なればMIP曲線が変わる可能性があります。
特に次の比較には注意が必要です。
- 自分の実験結果と過去の論文
- 異なる研究室で測定した試料
- 加熱乾燥と溶媒置換を使った試料
- 粉砕試料と塊状試料
- 乾燥時間が大きく異なる試料
- 保管中に炭酸化した試料
MIPで配合や材齢の影響を比較したい場合は、少なくとも同じ実験系列内で、次の条件をそろえます。
- 試料採取位置
- 試料片の大きさ
- 水和停止方法
- 使用する溶媒
- 溶媒量と交換回数
- 交換時間
- 乾燥温度と乾燥時間
- 乾燥後の保管方法
- 接触角と表面張力の設定
- 最大圧力と昇圧条件
前処理条件を記録していなければ、曲線の差が材料によるものか、試料調製によるものかを判断できません。
実験方法に書いておきたい項目
卒論や修論では、単に「MIPにより細孔径分布を測定した」と書くだけでは、第三者が条件を確認できません。
次のような形で記載すると、測定条件が伝わりやすくなります。
材齢[ ]日に試料を約[ ]mmの大きさに分割し、[使用溶媒]を用いて水和停止および溶媒置換を行った。溶媒は[ ]時間ごとに交換し、合計[ ]日間処理した。その後、[乾燥方法・温度・時間]により乾燥させた。水銀圧入法による測定では、接触角を[ ]度、表面張力を[ ]N/m、最大圧力を[ ]MPaとして細孔径を算出した。
試料寸法や溶媒置換条件は、実際の測定条件をそのまま記入してください。
NMR・細孔溶液・収縮とのつながり
セメント硬化体の細孔は、MIPだけで完全に評価できるものではありません。
測定法によって見ている対象が異なるため、研究目的に応じて組み合わせる必要があります。
¹H NMRは水を含んだ状態の空隙を調べられる
¹H NMR緩和法では、細孔内に存在する水を測定対象として、異なる水分状態や空隙集団を評価します。
MIPと異なり、乾燥して水を除く必要がないことが大きな特徴です。
MIPと¹H NMRを同じセメントペーストで比較した研究では、NMRによって次のような水の集団が区別されています。
- C-S-H層間の水
- C-S-Hゲル空隙内の水
- 小さな毛細管空隙内の水
- 大きな毛細管空隙内の水
同研究では、MIPが毛細管空隙の多くと、一部のC-S-Hゲル空隙を捉えていると解釈されています。ただし、MIPとNMRでは細孔径を求める原理が違うため、両者の径を単純に一対一で対応させることはできません。
²⁹Si NMRはC-S-Hの結合状態を見る方法
²⁹Si MAS NMRは、細孔径を直接測る方法ではありません。
主にC-S-H中のSiO₄四面体のつながり方を、Q¹やQ²などの信号から評価します。
MIPで空隙構造が変わった理由を考えるとき、²⁹Si NMRを組み合わせることで、C-S-Hの生成量やシリケート鎖の変化との関係を検討できます。
測定原理やQ種の読み方は、セメント固体NMR入門:²⁹Si MAS NMRでC-S-Hの鎖長を読むで詳しく解説しています。
細孔溶液は空隙の「中身」を調べる
MIPが主に空隙への入口と圧入量を評価するのに対し、細孔溶液分析では、空隙内に存在する液相の組成を調べます。
測定対象となるのは、主に次の成分です。
- Na⁺
- K⁺
- Ca²⁺
- OH⁻
- SO₄²⁻
- AlやSiを含む溶存成分
同じ「細孔」という言葉が使われますが、MIPは空隙構造、細孔溶液分析は液相組成を見る方法です。
細孔溶液の基本は、セメントの細孔溶液とは何かで整理しています。
MIPだけで収縮の原因は決められない
自己収縮や乾燥収縮は、細孔内の水分状態、内部相対湿度、毛細管圧力、C-S-Hの変形などが関係する現象です。
MIPによって毛細管空隙の入口径が小さくなったことが確認できても、それだけで収縮量の増減を説明できるとは限りません。
例えば、MIP上では小径側の空隙が増えていても、次の条件によって収縮挙動は変わります。
- 細孔内に残っている水の量
- 自己乾燥の進み方
- C-S-Hゲル空隙の変化
- 骨材による拘束
- 内部養生材の有無
- 測定時の温度と湿度
収縮との関係を調べる場合は、MIPに加えて、ひずみ、質量変化、内部相対湿度、¹H NMRなどを組み合わせます。
C-S-H自体の性質を確認したい場合は、ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)の化学的性質も参考になります。
初めてセメントMIPを使うときの進め方
1. 何を比較する測定なのか決める
最初に、MIPで確認したい変化を一つに絞ります。
例えば、次のような比較です。
- 水セメント比による違い
- 材齢による変化
- フライアッシュやスラグの影響
- 養生温度の影響
- 炭酸化前後の変化
- 乾湿繰返し前後の変化
複数の条件を同時に変えると、どの要因がMIP曲線の差を生んだのか分かりにくくなります。
2. 前処理条件を先に決める
測定後に前処理の影響を疑っても、元の状態には戻せません。
測定を始める前に、指導教員や装置担当者と次の点を確認します。
- どの水和停止方法を使うか
- どれくらいの大きさに試料を割るか
- 骨材を含む試料を測るか
- 何試料測定するか
- 同じ試料から別の分析用試料を採るか
- 乾燥後から測定までどう保管するか
水銀圧入後の試料は水銀で汚染されるため、原則として別の一般分析へそのまま使い回す試料には向きません。ISOでも、MIPは通常、試料の水銀汚染を伴う破壊的な比較試験として位置付けられています。
3. グラフから4つの指標を読み取る
最初から平均細孔径だけを見るのではなく、次の4つを確認します。
| 確認項目 | 読み取る内容 |
|---|---|
| 累積圧入量 | 到達可能な空隙量の目安 |
| 曲線の立ち上がり | 水銀が本格的に侵入し始める径 |
| 微分曲線のピーク | 圧入量が集中した入口径の範囲 |
| 圧入・排出の差 | 水銀の閉じ込めや履歴の程度 |
そのうえで、大径側と小径側のどちらで差が生じているかを確認します。
4. MIP以外の結果と照らし合わせる
MIP曲線の変化を説明するときは、次のような結果と対応させます。
- XRD:結晶相と未反応鉱物
- TG-DTA:水和物や炭酸塩の量
- SEM:空隙や水和物の形態
- ²⁹Si NMR:C-S-Hのシリケート鎖
- ¹H NMR:水を含む空隙集団
- 圧縮強度:力学性能
- 透水・拡散試験:物質移動
- 収縮試験:体積変化
C-S-H研究におけるMIPの位置付けを年代とともに確認したい場合は、C-S-H研究の歩みも参考になります。
MIP結果のNG表現と言い換え例
NG例1:ピークを真の細孔径と断定する
NG
MIPのピークが30 nmであるため、試料内の細孔は主に30 nmである。
改善例
微分圧入曲線は約30 nmに主要なピークを示した。この結果は、測定条件下で約30 nmの細孔入口を通じて多くの水銀が侵入したことを示している。
NG例2:累積圧入量を全空隙量と呼ぶ
NG
試料の全細孔量は0.18 cm³/gであった。
改善例
最大圧力までの累積水銀圧入量は0.18 cm³/gであった。
NG例3:小径化だけで耐久性向上を断定する
NG
細孔径が小さくなったため、耐久性が向上した。
改善例
累積曲線の立ち上がりが小径側へ移動し、主要な細孔入口が細かくなった可能性が示された。ただし、耐久性への影響を判断するには、透水性やイオン移動などの試験結果も確認する必要がある。
NG例4:前処理の違う論文と数値だけを比較する
NG
既往研究より細孔量が多かったため、本試料の組織は粗い。
改善例
既往研究より累積圧入量が大きかったが、試料寸法、水和停止方法、乾燥方法、接触角などの測定条件が異なるため、数値の直接比較には注意が必要である。
まとめ:MIPは細孔入口と到達可能な空隙量を読む
セメントのMIP結果を読むときは、表示された細孔径を「真の細孔径」と考えないことが出発点です。
MIPが主に示すのは、外部から水銀が到達できる空隙量と、水銀が通過するときの入口径です。
測定結果は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 累積圧入量を確認する
- 累積曲線が急増する径を確認する
- 微分曲線の主要ピークを確認する
- 大径側と小径側の変化を分けて見る
- 水和停止・乾燥条件を確認する
- インクボトル効果と高圧の影響を考える
- NMR、XRD、TG-DTA、SEM、強度などと照らし合わせる
初めて自分のMIPデータを読む場合は、まず各試料について「累積圧入量」「立ち上がり径」「主要ピーク」「前処理条件」の4項目を表にまとめてください。
この4項目を同じ条件で比較するだけでも、グラフの形だけを見て判断するより、セメントの細孔構造を慎重に読み取れるようになります。
FAQ
MIPの細孔径が小さいほど、セメント硬化体は緻密ですか?
小径側への移動は、細孔入口が細かくなった可能性を示します。ただし、累積圧入量が多い場合や、大きな空洞が細い入口の奥に存在する場合もあります。
細孔径だけでなく、累積圧入量、曲線の立ち上がり、インクボトル効果を一緒に確認してください。
MIPと窒素吸着法はどちらを使うべきですか?
測定したい細孔径範囲と研究目的によって変わります。
MIPは毛細管空隙を含む広い範囲を測りやすい一方、細孔入口径や高圧の影響を受けます。窒素吸着法は、より小さな空隙や比表面積の評価に使われますが、乾燥前処理や吸着モデルの影響を受けます。
両者の細孔径分布が一致しない場合でも、すぐにどちらかが誤りとは限りません。測定原理と到達できる空隙が異なるためです。
MIP用試料は何度で乾燥すればよいですか?
一律に決められる温度はありません。高温乾燥は短時間で処理できますが、C-S-Hやエトリンガイトなどの水和物、微細な空隙構造を変える可能性があります。
研究目的、材齢、対象とする水和物を踏まえて、水和停止と乾燥を一つの工程として決める必要があります。既往研究と比較する場合も、温度だけでなく溶媒置換の有無や乾燥時間まで確認してください。
MIP測定後の試料をSEMやXRDに使えますか?
通常は別試料を準備した方が安全です。
MIP後の試料には水銀が残留する可能性があり、高圧によって微細組織が変化していることもあります。水銀を含む試料の取扱いと廃棄は、所属機関の安全管理規程と装置担当者の指示に従ってください。

