セメントペーストをXRD、TG-DTA、SEMで測定するとき、意外と結果を左右するのが「測定前にどう水和を止めるか」です。
セメントは水と混ぜた瞬間から反応が進みます。材齢1日、7日、28日などで試料を採取しても、その後に自由水が残っていれば、粉砕・保管・乾燥中にも水和が進んでしまいます。すると、XRDで見える相、TG-DTAで定量するCH量や結合水量、SEMで観察する組織が、本来見たかった材齢の状態からずれてしまいます。
この「ずれ」をできるだけ小さくする前処理が、水和停止です。英語では hydration stoppage、arresting hydration、stop cement hydration などと呼ばれます。XRDやTG-DTA、SEM、MIP、窒素吸着など、多くの微細構造分析では乾燥試料が必要になるため、水和停止と乾燥は切り離せない前処理です。Zhang and Schererのレビューでも、XRD、TGA、SEM、MIPなどの多くの分析では乾燥試料が必要であり、所定材齢の状態を得るには水和反応を停止させる処理が必要だと整理されています。
この記事では、セメント試料の水和停止方法について、アセトン、イソプロパノール(IPA)、凍結乾燥、真空乾燥を中心に、XRD/TG-DTA/SEM前処理としてどう使い分けるべきかを整理します。
なお、水和反応そのものの流れを復習したい場合は、先にセメントの水和反応メカニズム詳解を読んでおくと、「なぜ止める必要があるのか」がかなり理解しやすくなります。
結論:迷ったらIPA溶媒交換を第一候補にする
最初に結論をまとめると、XRDやTG-DTAで水和生成物の相組成を見たい場合は、基本的にはイソプロパノール(IPA)による溶媒交換を第一候補にするのが無難です。
RILEM TC-238 SCMのラウンドロビン試験では、105℃乾燥、IPA溶媒交換、真空乾燥、凍結乾燥の4手法が比較されました。その結果、105℃乾燥はカルシウムアルミネート系水和物の脱水・変質や炭酸化アーティファクトを生じやすく、推奨されないとされています。一方、IPA溶媒交換は、エトリンガイトやAFm相を含む水和物相の保存性と再現性の点で最も適切な方法として推奨されています。
ただし、IPAが万能というわけではありません。IPAとの接触時間が長すぎると、エトリンガイトなどの水和物に化学的影響が出る可能性があります。2021年のZhang and Schererの研究では、1 mm程度の小片を使い、中心部の水が十分に置換される時間を考えてIPA交換時間を決めることが重要で、24時間のような長時間交換では化学的影響がやや大きくなると報告されています。
つまり実務的には、
「小さく砕く → IPAで短時間かつ十分に溶媒交換 → 低温・真空またはN₂雰囲気で乾燥 → 粉砕して測定」
という流れが、XRD/TG-DTA用の標準的な出発点になります。
なぜ水和停止が必要か
セメントの水和停止が必要な理由は、単に「水を抜きたいから」ではありません。目的は、測定したい材齢の相組成・水和度・組織をできるだけ固定することです。
セメントペースト中の水は、大きく分けると自由水、ゲル水、結晶水・構造水のような形で存在します。水和を止めるときに取り除きたいのは、主に反応を継続させる自由水です。一方で、C-S-Hやエトリンガイト、AFm相などの水和物を構成する水まで強く抜いてしまうと、測定前処理の段階で水和物そのものを変質させることになります。Zhang and Schererは、乾燥による脱水、ゲル細孔の収縮、鉱物相変化、微細構造変化が避けがたい問題であると整理しています。
特に注意したいのは、乾燥による毛管圧です。液体水が蒸発するとき、液相と気相の界面が移動し、微細な細孔内に大きな毛管圧が発生します。これにより、C-S-Hのゲル構造や細孔構造が収縮・変形し、SEMやMIP、窒素吸着で見える組織が本来の湿潤状態から変わってしまう可能性があります。
そのため、水和停止では次の3つを同時に考える必要があります。
- 反応を止める
- 自由水を除く
- 水和物相と微細構造をできるだけ変えない
この3つは完全には両立しません。だからこそ、「何を測りたいか」によって最適な前処理が変わります。
代表的な水和停止方法の比較
代表的な水和停止・乾燥方法をざっくり比較すると、次のようになります。
| 方法 | 主な目的 | 向いている測定 | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| IPA溶媒交換 | 自由水をIPAに置換して水和を止める | XRD、TG-DTA、SEM | 水和物相の保存性・再現性が比較的高い | 接触時間が長いと水和物へ影響する可能性 |
| アセトン溶媒交換 | 自由水をアセトンに置換して水和を止める | XRD、TG-DTA | 揮発しやすく扱いやすい | IPAより根拠が弱い場面がある |
| 凍結乾燥 | 凍結後に昇華で水を除く | TG-DTA、XRD、一部SEM | 加熱を避けやすい | 氷晶形成や凍結時の構造変化に注意 |
| 真空乾燥 | 減圧で水を除く | TG-DTA、XRD | 装置が比較的単純 | 水が液体から蒸発するため毛管圧の影響が出やすい |
| 105℃炉乾燥 | 加熱で水を除く | 原則おすすめしにくい | 速い・簡単 | AFt/AFmの脱水、炭酸化、相変化が起きやすい |
RILEMのラウンドロビンでは、TGとXRDを用いて水和停止方法の影響が比較され、特に105℃乾燥は避けるべき方法として整理されています。ポルトランダイト量だけを大まかに見る場合は、105℃乾燥以外の複数手法である程度扱えるとされていますが、エトリンガイトやAFm相まで含めた水和物相の議論ではIPA溶媒交換が有利です。
溶媒交換:IPAとアセトンの考え方
IPA溶媒交換
IPA溶媒交換は、セメントの水和停止で最もよく使われる方法の一つです。原理はシンプルで、試料中の自由水をIPAに置き換え、水和反応を継続しにくくします。その後、IPAを低温・真空・窒素雰囲気などで除去します。
IPAがよく使われる理由は、水と混和し、セメント硬化体中の自由水を置換しやすく、直接乾燥に比べて毛管圧による微細構造損傷を抑えやすいからです。RILEM TC-238 SCMの推奨でも、IPA溶媒交換はXRDやTGによる水和物相解析に適した前処理として位置づけられています。
ただし、IPA交換で重要なのは「長く浸ければよい」ではないことです。短すぎると水が残り、長すぎるとIPAが水和物に影響する可能性があります。Zhang and Schererの2021年論文では、1 mm程度の小片を使い、試料中心部まで十分に水が置換される時間を考えるべきだとされています。
実験室での目安としては、次のように考えるとよいです。
- 試料はできるだけ小片化する
- 大きな塊のままIPAに浸けない
- IPA量は試料に対して十分多くする
- 必要に応じてIPAを交換する
- 浸漬後は低温で乾燥する
- 保管中の炭酸化を避ける
特に学生実験でよくある失敗は、「28日材齢のペーストを大きな塊のままIPAに入れて、翌日粉砕する」というものです。これでは表面は止まっていても、中心部では水和が進んでいる可能性があります。
アセトン溶媒交換
アセトンも、セメント試料の水和停止で古くから使われてきた溶媒です。水と混和し、揮発性が高いため、乾燥工程に移しやすいという利点があります。Mitchell and Margesonの論文でも、アセトンやIPAのような極性溶媒を用いて自由水を置換し、水和を止める考え方が説明されています。
一方で、近年の比較研究では、IPAのほうがアセトンやエタノールよりも水和停止が速いという報告もあります。Mezhovらの2023年の比較研究では、試料サイズ、溶媒種、浸漬時間が結果に影響し、IPAはエタノールやアセトンより水和を速く止めるとされています。
そのため、アセトンは「使ってはいけない」わけではありませんが、XRDやTG-DTAで相組成を丁寧に議論するなら、現時点ではIPAを第一候補にしたほうが説明しやすいです。
アセトンを使う場合は、次の点に注意します。
- 溶媒の含水を避ける
- 長時間浸漬しすぎない
- 溶媒交換条件を必ず記録する
- IPAを使った場合と結果を単純比較しない
- TG-DTAでは残留溶媒や低温域の質量減少に注意する
アセトン法の結果を論文や卒論に書く場合は、「アセトンで止めた」とだけ書かず、試料サイズ、浸漬時間、溶媒量、溶媒交換回数、乾燥条件を必ず書きましょう。
凍結乾燥:加熱を避けられるが、構造保存には注意
凍結乾燥は、試料中の水を凍らせた後、減圧下で昇華させて除去する方法です。液体水がそのまま蒸発する過程を避けられるため、加熱乾燥より穏やかに見えます。
Zhang and Schererのレビューでは、凍結乾燥は化学分析用の試料調製には有効な乾燥法になり得る一方、微細構造を変える可能性があると整理されています。
凍結乾燥で注意したいのは、凍結の段階です。水が氷になると体積変化や氷晶形成が起こり、特に若材齢で空隙水が多い試料では、微細構造に影響する可能性があります。したがって、凍結乾燥は「熱をかけないから絶対に安全」ではありません。
凍結乾燥が向いているのは、たとえば次のような場合です。
- TG-DTAやXRDで大まかな相組成・結合水を見たい
- 加熱による脱水や相変化を避けたい
- IPAやアセトンの残留・反応を避けたい
- 溶媒を使いたくない事情がある
一方で、SEMで細孔構造やC-S-Hの微細な形態を厳密に議論する場合には、凍結条件の影響を無視できません。特に若材齢ペーストや高水結合材比の試料では注意が必要です。
真空乾燥:簡単だが「水和停止」としては過信しない
真空乾燥は、減圧によって水を除く方法です。装置があれば実施しやすく、TG-DTAやXRD用の粉末試料を乾燥する目的で使われることがあります。
ただし、真空乾燥では水が液体から気体へ移るため、毛管圧の影響を受けやすい点に注意が必要です。特にSEMやMIPなど、細孔構造や微細構造を議論する測定では、乾燥そのものが構造を変える可能性があります。
また、真空乾燥だけでは、水和を瞬時に止めるというより「水を抜きながら反応を抑える」処理に近くなります。若材齢試料では、乾燥が進むまでの間に反応が進む可能性もあります。
そのため、真空乾燥は単独で使うより、IPA溶媒交換後の乾燥工程として使うほうが安全です。
測定法別:どの水和停止方法を選ぶべきか
XRD前処理
XRDでは、エトリンガイト、モノサルフェート、モノカーボネート、ヘミカーボネート、ポルトランダイト、未反応クリンカー鉱物などの結晶相を見ます。
XRD前処理で特に避けたいのは、測定前処理によって相が変わることです。たとえば、エトリンガイトやAFm相は乾燥条件に敏感です。105℃乾燥のような強い加熱乾燥では、脱水・変質・炭酸化の影響が入りやすくなります。RILEMのラウンドロビンでも、105℃乾燥はカルシウムアルミネート系水和物を大きく変えるため推奨されないとされています。
XRDなら、基本は次の優先順位です。
- IPA溶媒交換
- 凍結乾燥
- 真空乾燥
- アセトン溶媒交換
- 105℃乾燥は原則避ける
ただし、研究室の既存データがアセトン法で蓄積されている場合は、途中からIPA法に変えると過去データと比較しにくくなります。その場合は、方法を変えた前後でブランク比較を行うのが安全です。
TG-DTA前処理
TG-DTAでは、温度上昇に伴う質量減少や吸熱・発熱ピークから、水和物の脱水、CHの脱水、炭酸カルシウムの脱炭酸などを読みます。TGとXRDは、セメント系材料の相同定・定量で相補的に使われることが多い分析です。
TG-DTA前処理で注意したいのは、前処理段階で水和物の水を抜きすぎると、測定中に出るはずだった質量減少がすでに消えてしまうことです。特に低温域の質量減少は、C-S-H、AFt、AFmなどが重なりやすく、前処理の影響を受けます。
TG-DTAでは、以下のように考えるとよいです。
| 目的 | 推奨前処理 | 注意点 |
|---|---|---|
| CH量を比較したい | IPA溶媒交換または凍結乾燥 | 炭酸化を避ける |
| 結合水量を比較したい | 条件を統一したIPA溶媒交換 | 乾燥条件の差が結果に出やすい |
| AFt/AFmも議論したい | IPA溶媒交換 | 105℃乾燥は避ける |
| 大まかな水和度を見たい | IPA、凍結乾燥、真空乾燥 | 手法を途中で変えない |
TG-DTAでCH量を計算する場合は、乾燥条件だけでなく、炭酸化の影響も大きくなります。CHの定量計算に進みたい場合は、TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する!セメント硬化体の定量計算手順も合わせて読むと、前処理後のデータ解釈までつながりやすいです。
SEM前処理
SEMでは、相組成というよりも、組織・形態・空隙・反応生成物の分布を見ます。そのため、XRDやTG-DTA以上に「乾燥で構造が変わっていないか」が問題になります。
SEMで観察したい対象によって、前処理の考え方は変わります。
| 観察対象 | 注意すべきアーティファクト | 前処理の考え方 |
|---|---|---|
| 破断面の水和生成物 | 乾燥収縮、C-S-Hの収縮 | IPA交換後に穏やかに乾燥 |
| 研磨面の反応率 | 乾燥ひび割れ、樹脂含浸不良 | 小片化後に水和停止し、樹脂含浸 |
| 空隙構造 | 毛管圧による細孔変化 | 直接乾燥を避ける |
| 若材齢組織 | 試料破壊、乾燥中の水和進行 | 小片化と迅速な水和停止が重要 |
SEMでは「きれいに乾いた試料」を作ることが目的ではありません。見たい組織をできるだけ変えずに、真空中で観察できる状態にすることが目的です。
学生実験で使いやすい標準プロトコル例
ここでは、XRD/TG-DTA用のセメントペースト試料を想定した、実験室で使いやすい標準プロトコル例を示します。研究室の既存プロトコルがある場合は、必ずそちらを優先してください。
1. 所定材齢で試料を取り出す
材齢1日、3日、7日、28日など、測定したいタイミングで試料を取り出します。表面水がある場合は、ろ紙などで軽く除きます。
このとき、長時間空気中に放置しないことが重要です。CHやアルカリ性の細孔溶液はCO₂と反応しやすく、炭酸化が進むとTG-DTAやXRDの結果に影響します。細孔溶液や液相側の理解を深めたい場合は、セメントの細孔溶液とは何か:pH・アルカリ・Ca濃度で読む水和系を読むと、炭酸化や液相変化の意味がつかみやすくなります。
2. 数mm以下に小片化する
試料を大きな塊のまま溶媒に入れると、中心部まで水が置換されるのに時間がかかります。可能であれば、1〜2 mm程度の小片にします。2021年のIPA交換研究でも、小さな試料を用い、中心部まで水が置換される時間を考慮することが重要だとされています。
ただし、粉砕しすぎると炭酸化しやすくなります。細かくしすぎず、溶媒が入りやすい大きさにするのが現実的です。
3. IPAに浸漬する
小片化した試料を十分量のIPAに浸します。溶媒量が少ないと、試料中の水でIPAが希釈され、置換効率が落ちます。
実験条件としては、最低限次を記録します。
- 試料質量
- 試料サイズ
- IPA量
- 浸漬時間
- IPA交換回数
- 温度
- 乾燥条件
論文や卒論では、この記録がないと再現性を判断できません。
4. 溶媒を除去する
IPA浸漬後、ろ過またはデカンテーションで溶媒を除きます。その後、真空乾燥、N₂雰囲気乾燥、低温乾燥などで残留溶媒を除去します。
ここで高温にしすぎると、せっかく溶媒交換した意味が薄れます。特にXRDやTG-DTAでAFt/AFm相を議論したい場合は、強い加熱乾燥を避けます。
5. 粉砕・ふるい分け・保管
XRDやTG-DTA用に粉砕します。粉砕中も炭酸化や吸湿を避けるため、作業時間は短くします。
保管する場合は、密閉容器に入れ、可能であれば乾燥剤やN₂置換を使います。長期保管した試料は、測定前に「本当に採取時の状態を保っているか」を疑ったほうがよいです。
よくある失敗
失敗1:105℃で一晩乾燥してしまう
最もよくある失敗です。105℃乾燥は簡単ですが、AFt/AFmなどの水和物を変質させやすく、炭酸化アーティファクトも問題になります。RILEMの比較でも、105℃乾燥は推奨されない方法として明確に整理されています。
CH量だけを大まかに見る場合でも、105℃乾燥を標準法にするのは避けたほうがよいです。
失敗2:大きな塊のまま溶媒に入れる
表面だけ水和停止できても、内部には水が残ります。特に若材齢試料や水結合材比が高い試料では、この影響が大きくなります。
「溶媒に入れたから止まった」と考えるのではなく、「中心部まで置換されたか」を考える必要があります。
失敗3:溶媒に長く浸けすぎる
短すぎるのも問題ですが、長すぎるのも問題です。IPAは比較的よく使われる溶媒ですが、水和物への物理的・化学的影響を完全には避けられません。Zhang and Schererは、IPAの影響は完全には避けられないが、交換時間を短くすることで低減できるとしています。
「不安だから3日浸ける」は、必ずしも良い判断ではありません。
失敗4:前処理条件を論文・卒論に書かない
XRDやTG-DTAの結果だけを載せて、前処理を書かないのはかなり危険です。水和停止方法が違えば、見える相や質量減少が変わる可能性があります。
最低限、次の情報は書きましょう。
- 材齢
- 試料サイズ
- 水和停止方法
- 溶媒の種類
- 浸漬時間
- 乾燥条件
- 粉砕条件
- 保管条件
失敗5:等温熱量測定と同じ感覚で考える
等温熱量測定は、水和反応をその場で追うin-situ測定です。一方、XRDやTG-DTAは、ある材齢で止めた試料を測るex-situ分析です。この違いを意識しないと、「同じ材齢なのに結果が合わない」という混乱が起きます。
発熱曲線から水和反応の進行を読みたい場合は、セメント等温熱量測定(カロリメーター)入門:発熱曲線のピークから水和反応を読むと合わせて考えると、in-situ測定と停止試料分析の役割分担が見えやすくなります。
判断フローチャート
迷ったときは、次のように決めると実験計画を立てやすいです。
まず何を見たいか?
│
├─ XRDで水和物相を見たい
│ ├─ AFt/AFmまで議論する → IPA溶媒交換
│ ├─ CHや未反応鉱物が中心 → IPA溶媒交換または凍結乾燥
│ └─ 105℃乾燥は避ける
│
├─ TG-DTAでCH量・結合水量を見たい
│ ├─ 相組成も丁寧に議論する → IPA溶媒交換
│ ├─ 大まかな比較が目的 → 条件統一したIPAまたは凍結乾燥
│ └─ 炭酸化に注意
│
├─ SEMで微細構造を見たい
│ ├─ 破断面・水和物形態 → IPA交換後に穏やかに乾燥
│ ├─ 研磨面・反応率 → 水和停止後に樹脂含浸
│ └─ 直接乾燥は構造変化に注意
│
└─ 研究室の既存データと比較したい
├─ 既存法と同じ条件を優先
└─ 方法を変えるなら同一試料で比較実験まとめ:水和停止は「測定前の雑用」ではなく、分析結果の一部
セメント試料の水和停止は、XRD/TG-DTA/SEMの前に行う単なる準備作業ではありません。前処理そのものが、測定結果を変える可能性があります。
現時点での実用的な判断は、次のようにまとめられます。
- XRD/TG-DTAで相組成を見るなら、IPA溶媒交換を第一候補にする
- 105℃乾燥は、AFt/AFmや水和物相を議論する場合は避ける
- アセトンは使えるが、IPAより条件依存性に注意する
- 凍結乾燥は加熱を避けられるが、凍結時の構造変化に注意する
- 真空乾燥は単独より、溶媒交換後の乾燥工程として使う
- 試料サイズ、浸漬時間、乾燥条件を必ず記録する
特に学生実験では、「水和停止方法を変えたら結果が変わった」ということが普通に起こります。XRDのピーク強度、TG-DTAの質量減少、SEMの見え方が違うとき、すぐに材料の違いだと考えるのではなく、まず前処理条件を疑いましょう。
良い分析は、良い前処理から始まります。
参考文献
- Zhang, J. and Scherer, G. W. “Comparison of methods for arresting hydration of cement.” Cement and Concrete Research, 2011. DOI: 10.1016/j.cemconres.2011.06.003.
- Snellings, R. et al. “Report of TC 238-SCM: hydration stoppage methods for phase assemblage studies of blended cements—results of a round robin test.” Materials and Structures, 2018. DOI: 10.1617/s11527-018-1237-5.
- Snellings, R. et al. “RILEM TC-238 SCM recommendation on hydration stoppage by solvent exchange for the study of hydrate assemblages.” Materials and Structures, 2018. DOI: 10.1617/s11527-018-1298-5.
- Zhang, Z. and Scherer, G. W. “Physical and chemical effects of isopropanol exchange in cement-based materials.” Cement and Concrete Research, 2021. DOI: 10.1016/j.cemconres.2021.106461.
- Mezhov, A. et al. “A Comparative Study of Factors Influencing Hydration Stoppage of Hardened Cement Paste.” Sustainability, 2023. DOI: 10.3390/su15021080.
- Mitchell, L. D. and Margeson, J. C. “The effects of solvents on C-S-H as determined by thermal analysis.” Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, 2006. DOI: 10.1007/s10973-006-7712-1.


