TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する!セメント硬化体の定量計算手順

セメント硬化体の水和進行を追いたいとき、TG-DTAは「どの温度域で、どれだけ質量が減ったか」を見ながら水和生成物を定量できる実用的な手法です。まず全体像を整理したい方はセメント基礎・化学入門熱分析によるセメント水和度の評価を先に読んでおくと、このあと出てくるCHやC-S-Hの位置づけがつかみやすくなります。CH自体の役割を確認したい場合は水酸化カルシウム(CH)の役割と反応性もあわせて読むと理解が深まります。

TG-DTAで水酸化カルシウム量を定量する考え方

セメント硬化体のTG-DTAでは、加熱にともなう質量減少を相の分解や脱水に対応づけて読みます。特に水酸化カルシウム(CH, portlandite)は、セメント系材料の水和やポゾラン反応の進み具合を考えるうえで重要な指標で、CH量の増減を見ることで反応の進行を追いやすくなります。

実際の解釈では、TGで減量幅を読むDTAやDTGでその減量がどの温度域の反応なのかを見分ける、という流れが基本です。特にCH定量では、単にTG曲線を眺めるだけでなく、DTGのピーク位置を見ながら積分区間を決めるのが重要です。

セメント熱分析で見る3つの主要な減量域

セメント硬化体では、ざっくり次の3領域を押さえると読みやすくなります。文献によって境界温度は少し前後しますが、学生が最初に覚える区分としては十分実用的です。

1. 低温側:自由水・結合水の減量域(おおむね 50〜400℃)

50〜110℃付近では自由水、AFt、AFm、C-S-Hに由来する低温側の脱水が重なり、さらに広く見ると400℃近くまで結合水の放出が続きます。したがって、この領域の減量は「水和生成物全体の水」に関係しますが、CHだけを単独で読む領域ではありません。

2. 中温側:Ca(OH)₂の脱水域(おおむね 400〜500℃)

CHの定量で最も重要なのがこの温度域です。多くの報告で、portlanditeは約400〜500℃、あるいは400〜550℃付近で分解し、Ca(OH)₂ → CaO + H₂O の反応に対応する質量減少が現れます。文献によって窓が少し違うのは、昇温速度、雰囲気、試料状態、重なり相の有無でピーク位置がずれるためです。

3. 高温側:炭酸塩の分解域(おおむね 550〜800℃)

炭酸カルシウムは高温側で分解し、CO₂放出に対応する減量として現れます。セメント系では一般に550〜800℃前後が代表的な炭酸塩の読み取り領域です。ここが大きい試料は、炭酸化の影響を強く受けている可能性があります。

Figure X. Reproduced from Çopuroğlu, O., Revealing the Dark Side of Portlandite Clusters in Cement Paste by Circular Polarization Microscopy, Materials, 2016, 9(3), 176, CC BY 4.0, https://doi.org/10.3390/ma9030176.

Ca(OH)₂の脱水ピークはどう判定する?

CH量を求めるときは、まずDTGまたはDTAで400〜500℃付近の独立したピークを確認し、そのピークに対応するTGの減量を読み取ります。文献では、DTGの積分と線形ベースライン補正を使ってportlandite量を計算する方法が広く使われています。

ここで注意したいのは、成熟したセメント硬化体ではC-S-H、CH、炭酸塩などの熱イベントが完全に分離しないことがある点です。実際、portlanditeとcalciteの定量は、相互干渉のために過小評価や誤差が生じやすいことが報告されています。つまり、「ピークがあるからそのまま全部CH」ではなく、DTGの形と前後のベースラインも見るのがコツです。

減量率からCH量へ換算する計算式

CHの分解反応は次のとおりです。

Ca(OH)₂ → CaO + H₂O

このとき、TGで見えているのは脱離した水(H₂O)の質量減少です。
Ca(OH)₂のモル質量は 74.09 g/mol、H₂Oのモル質量は 18.015 g/mol なので、CH量は次式で換算できます。

CH量 [wt%] = CH脱水域の減量率 [wt%] × (74.09 / 18.015)

つまり、

CH量 [wt%] = 4.11 × CH脱水域の減量率 [wt%]

です。文献でも、portlanditeに対応する質量減少 m_CH に対し、CH = (74 / 18) × m_CH として計算しています。

まず覚えるべき最短式

  • TGで読んだ400〜500℃付近の減量率Δm_CH とする
  • CH量 = 4.11 × Δm_CH

これだけです。学生実験では、まずこの式を手元に置いておくとかなり楽になります。

具体例:実際に計算してみる

ここでは、105℃程度で乾燥後の試料質量を20.00 mgとし、TGから400〜500℃の減量が1.20 mg読めたケースで計算します。計算の基準質量を最初に決めておけば、mgでもwt%でも同じ答えになります。

条件

項目
乾燥後試料質量20.00 mg
400〜500℃の減量1.20 mg

手順1:CH脱水域の減量率を出す

Δm_CH = 1.20 / 20.00 × 100 = 6.00 wt%

手順2:換算式を使う

CH量 = 6.00 × 4.11 = 24.66 wt%

手順3:mgでも確認する

CH質量 = 1.20 × (74.09 / 18.015) = 4.94 mg

4.94 / 20.00 × 100 = 24.7 wt%

したがって、この試料の水酸化カルシウム量は約24.7 wt%です。セメント硬化体のCH量として十分あり得るオーダーで、計算結果としても自然です。

炭酸化の影響を無視すると、CH量は過小評価しやすい

TG-DTAでCHを読むときに最も多いミスは、400〜500℃のピークだけ見て「これが全CH量だ」と思い込むことです。実際には、炭酸化した試料では、もともとCHだった一部がCaCO₃へ変わっており、その分は高温側の炭酸塩分解ピークへ移っています。TGは炭酸化評価にもよく使われ、CHの減少とCaCO₃の増加をあわせて解釈する必要があります。

さらに厄介なのは、炭酸塩ピークがすべて「炭酸化したCH」由来とは限らないことです。炭酸塩は長期炭酸化だけでなく、原料由来の残存炭酸相、石灰石系成分、石灰質骨材由来でも現れ得ます。実際、石灰石を含むセメント系や石灰質骨材を含むコンクリートでは、炭酸塩ピークの解釈が単純ではありません。

炭酸化補正を考えるときの近似式

炭酸化補正をあえて行うなら、550〜800℃付近のCO₂脱離量Δm_CO2 として、
「その炭酸塩がすべて元CH由来だった」と仮定したCH当量を近似的に出せます。

CaCO₃のモル質量は 100.09 g/mol、CO₂は 44.01 g/mol、Ca(OH)₂は 74.09 g/mol なので、

CaCO₃量 [wt%] = 2.27 × Δm_CO2

CH当量 [wt%] = 1.68 × Δm_CO2

と書けます。これは炭酸塩の起源がCHだけであるという強い仮定を置いた近似なので、石灰石微粉末や骨材由来の炭酸塩がある試料では、そのまま使わないでください。

学生実験で外しにくい実務的なコツ

同じ試料系を比較するなら、試料採取・水和停止・乾燥条件・昇温速度・雰囲気ガス・解析窓を固定してください。熱分析は便利ですが、条件が変わるとピーク位置や減量幅がずれ、比較の意味が薄れます。

アセトン、イソプロパノールなど有機溶媒の違いでも炭酸塩量に違いが生じます。

Weise, K., Ukrainczyk, N., & Koenders, E. (2021). A Mass Balance Approach for Thermogravimetric Analysis in Pozzolanic Reactivity R3 Test and Effect of Drying Methods. Materials, 14(19), 5859. https://doi.org/10.3390/ma14195859

また、CH量だけで結論を出し切らないのも大切です。混合セメント、ポゾラン反応系、炭酸化試料では、CHの消費が「水和が進んでいない」のか「二次反応で消費された」のかをTG単独で断言しにくい場合があります。必要に応じてXRDやSEMと組み合わせると、解釈の精度が上がります。

まとめ

TG-DTAでセメント硬化体中の水酸化カルシウム量を求める流れは、次の4ステップで整理できます。

  1. 400〜500℃付近のCH脱水ピークをDTG/DTAで確認する
  2. その温度域のTG減量 Δm_CH を読む
  3. CH量 = 4.11 × Δm_CH で換算する
  4. 550〜800℃の炭酸塩ピークも見て、炭酸化の影響を疑う

まずはこの基本形だけ覚えれば、実験ノートのTG曲線からCH量をかなり安定して計算できるようになります。特に学生のうちは、「400〜500℃の減量を読む → 4.11倍する」を確実に身につけるのが最短です。

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