セメントの等温熱量測定(カロリメーター)は、セメントペーストやモルタルが水と反応するときの「発熱速度」を時間に対して追跡する方法です。TG-DTAやXRDが、ある材齢で止めた試料を分析して水和生成物や相変化を調べるのに対し、等温熱量測定は水和反応の進み方をその場で読むことに向いています。
Standard Practice for Measuring Hydration Kinetics of Hydraulic Cementitious Mixtures Using Isothermal Calorimetryでは、等温熱量計を用いて水硬性セメント系材料の水和反応速度の相対差を測定する手順が示されており、混和剤、SCM、細粒材料を含むペースト・モルタルにも適用できるとされています。
とくに実験系の学生や若手研究者にとって重要なのは、「ピークが高い・低い」だけで判断しないことです。セメントの発熱曲線には、初期溶解、誘導期、加速期、減速期、硫酸塩枯渇やアルミネート反応に関係するピークが重なって現れます。
したがって、セメント等温熱量測定では、ピーク位置、ピーク高さ、累積発熱量、曲線の肩、誘導期の長さをセットで読む必要があります。
セメント水和反応の基礎を先に整理したい場合は、セメントの水和反応メカニズム詳解をあわせて読むと、C₃S、C₂S、C₃A、石膏、C-S-H、エトリンガイトの関係を理解しやすくなります。TG-DTAとの違いを押さえたい場合は、熱分析によるセメント水和度の評価も参考になります。
等温熱量測定で何がわかるか

図1 セメントペーストの代表的な等温熱量測定曲線。初期反応、誘導期、加速期、減速期に分けて水和反応の進行を読むことができる。出典:Han et al. 2022, CC BY
等温熱量測定で得られる代表的なデータは、単位質量あたりの熱流、つまり発熱速度です。横軸に時間、縦軸に熱流を取ると、セメントが水と反応していく過程が曲線として表れます。熱流を時間積分すれば、累積発熱量も得られます。
Standard Practice for Measuring Hydration Kinetics of Hydraulic Cementitious Mixtures Using Isothermal Calorimetryでは、熱出力曲線は、混合後初期の等温水和反応速度を評価するために用いられ、凝結特性、材料間の相性、硫酸塩バランス、初期強度発現に関する示唆を与える可能性があると説明されています。
ただし、同規格は、等温熱量測定だけでコンクリート性能を確定的に予測できるわけではなく、計画した配合・温度・添加量でのコンクリート試験による検証が必要です。
つまり、セメント カロリメトリーの実務的な役割は、次のように整理できます。
- 水和反応が早いか遅いかを見る
- 誘導期が長いか短いかを見る
- 加速期の立ち上がりを見る
- 主ピークの時間と高さを比較する
- 石膏量や混和剤による硫酸塩バランスの崩れを疑う
- TG-DTA、XRD、SEM、圧縮強度試験の解釈を補助する
ここで注意したいのは、「発熱量が大きい=必ず強度が高い」とは限らないことです。発熱は反応の速度や量を反映しますが、空隙構造、C-S-Hの形態、混和材反応、養生温度、後期水和までは単独で説明できません。
典型的な発熱曲線の段階
普通ポルトランドセメントの等温熱量測定では、典型的に、初期溶解、誘導期、加速期、減速期という段階が観察されます。近年の研究でも、ポルトランドセメント系の熱流ピークは、反応開始期、誘導期、シリケート反応の加速期、アルミネート反応やAFm生成を含む減速期として整理されています。
初期溶解ピーク
水を加えた直後に現れる大きな発熱が、初期溶解ピークです。これは、セメント粒子表面からイオンが急速に溶出し、C₃Aや石膏、アルカリ、初期の水和生成物形成が一気に進むために現れます。
このピークは、測定開始までの時間に非常に敏感です。練混ぜしてから試料を装置に入れる方法では、最初の数分の発熱を取り逃がしやすくなります。そのため、初期ピークを厳密に比較したい場合は、練混ぜ方法、投入時間、温度、試料量を必ず固定します。
初期溶解ピークで見るべき点は、ピークの高さそのものよりも、「同じ手順で測ったときに、ある配合だけ極端に大きいか」「混和剤添加で初期反応が過度に促進されていないか」です。初期ピークが異常に大きい場合、C₃A反応の制御不足や硫酸塩供給の問題を疑うきっかけになります。
誘導期
初期ピークのあと、熱流が低く保たれる時間帯が誘導期です。見かけ上は反応が止まっているように見えますが、実際には溶解、イオン濃度の変化、初期水和物の形成準備が進んでいます。
誘導期は、施工性や凝結時間と関係しやすい重要な区間です。誘導期が短すぎると、作業可能時間が短くなり、スランプロスや急結のリスクが高まります。逆に、誘導期が長すぎると、初期強度の立ち上がりが遅れる可能性があります。
近年のレビューでは、セメント水和機構の理解において、特に休止期・誘導期とシリケート反応が重要な検討対象として扱われています。
加速期
誘導期のあと、熱流が急激に上昇する区間が加速期です。ここでは主にC₃Sの水和が進み、C-S-Hと水酸化カルシウムが生成されます。強度発現の骨格となるC-S-Hが増え始めるため、セメント等温熱量測定で最も注目される領域です。
発熱曲線の主ピークは、多くの場合、C₃S反応に対応する主要な熱流ピークとして扱われます。等温熱量測定データの定量解析では、最大熱流時刻、最大熱流値、誘導期の長さ、加速期の傾き、硫酸塩枯渇ピークなどが特徴量として抽出されます。
ここでの読み方は、次のようになります。
- 主ピークが早い:水和反応が早く立ち上がっている
- 主ピークが遅い:遅延剤、低温、混和材置換、低反応性などの影響が考えられる
- 主ピークが高い:短時間に反応が集中している可能性がある
- 主ピークが低く広い:反応が緩やかに分散している可能性がある
- 加速期の傾きが急:C-S-Hの核生成・成長が急速に進んでいる可能性がある
ただし、「主ピークが高い=良い配合」とは限りません。発熱が急激すぎると温度ひび割れや作業性低下のリスクにもつながります。若材齢強度を狙うのか、作業時間を確保したいのか、マスコンクリートで発熱を抑えたいのかによって、望ましい曲線は変わります。
減速期と後続ピーク
主ピークを過ぎると、熱流は徐々に低下します。この減速期では、未水和粒子表面に形成された水和物層や、空間的制約、イオン供給の変化によって、反応速度が下がっていきます。
一方で、主ピークの後ろに肩や小さなピークが現れることがあります。これは、硫酸塩枯渇後のC₃A反応、エトリンガイトからモノサルフェートへの変化、アルミネート系反応などと関係する場合があります。C₃Aと石膏を含むモデルセメントの研究では、アルミネート反応に由来する複数の発熱ピークが観察され、最初のピークは硫酸イオン枯渇時のC₃A溶解に対応すると報告されています。
水和熱ピークの意味をどう読むか

図2 等温熱量測定曲線から抽出できる代表的な特徴量。最大熱流、主ピーク時刻、硫酸塩枯渇ピーク、誘導期終点などを用いて水和反応を定量的に比較する。出典:Jagličić et al. 2025, CC BY 4.0
「水和熱 ピーク 意味」を考えるときは、ピークを単独で名前づけするより、時間帯と材料条件をセットで見るのが安全です。
| 曲線上の特徴 | 主な意味 | 解釈の注意点 |
|---|---|---|
| 混合直後の大きなピーク | 初期溶解、C₃A・石膏反応、初期水和物形成 | 測定開始遅れの影響を受けやすい |
| 低熱流の平坦部 | 誘導期、作業可能時間に関係 | 反応停止ではなく低速反応が続く |
| 急な立ち上がり | C₃S水和、C-S-H生成の加速 | 温度、混和剤、粉末度に敏感 |
| 主ピーク | シリケート反応の最大速度付近 | 硫酸塩枯渇ピークと重なることがある |
| 主ピーク後の肩 | 硫酸塩枯渇、C₃A反応、AFm生成など | 石膏量・C₃A量・混和剤で大きく変わる |
| 累積発熱量の増加 | 全体として進んだ反応量の目安 | 強度や水和度と一対一対応ではない |
近年の定量解析研究では、最大熱流時刻だけでなく、50%最大熱流到達時間、最大加速度時刻、誘導期長さなど複数の指標が使われます。また、関連する方法として、主水和ピークの最大熱流の50%に達する時刻を使う考え方も紹介されています。
石膏・C₃A・混和材で曲線はどう変わるか

図3 焼成粘土・ナノシリカなどのSCMを含むセメントペーストの累積水和熱と熱流曲線。混和材により主ピーク時刻、ピーク高さ、加速期の傾きが変化する。出典:Pinheiro et al. 2023, CC BY 4.0
石膏量が少ない場合
石膏は、ポルトランドセメント中のC₃A反応を制御するために加えられます。硫酸塩が十分に供給されないと、C₃Aが急速に反応し、作業性低下やフラッシュセットにつながる可能性があります。TA Instrumentsの資料では、硫酸塩はアルミネート相の水和を遅らせる目的で添加され、硫酸塩が不足するとアルミネート水和物が急速に形成され、ワーカビリティ低下やフラッシュセットが起こり得ると説明されています。
発熱曲線では、石膏不足の系で、硫酸塩枯渇に関係するピークが主シリケートピークより前に現れたり、主ピークが乱れたりすることがあります。Quennozらのモデルセメント研究でも、石膏量によって低硫酸塩型と適正硫酸塩型の挙動が変わり、低硫酸塩系では石膏枯渇後のアルミネート反応ピークがシリケート反応より前に現れると説明されています。
石膏量が適正な場合
適正な石膏量では、C₃A反応が初期に暴走せず、主なシリケート反応のピークがきれいに現れやすくなります。古典的なLerchの知見を整理した資料では、適正に近い硫酸塩量を持つポルトランドセメントでは、硫酸塩枯渇が主シリケート水和ピークの後に起こる熱量プロファイルを示すとされています。
実験で石膏量を振る場合は、以下のように読むと整理しやすくなります。
- 硫酸塩枯渇ピークが主ピークより前:硫酸塩不足の可能性
- 硫酸塩枯渇ピークが主ピーク直後:比較的バランスが良い可能性
- 後続ピークが遅く大きい:硫酸塩過多、C₃A反応遅延、混和剤影響などを検討
- 主ピークが低く広がる:反応が遅延または分散している可能性
C₃Aが多い場合
C₃Aは非常に反応性の高い相です。C₃A量が多いと、石膏とのバランスが曲線に強く表れます。C₃Aが多いのに硫酸塩供給が不十分だと、初期発熱が大きくなり、誘導期が短くなり、作業性の低下が生じやすくなります。
C₃Aの基本的な役割を整理したい場合は、セメント鉱物C3A(アルミネート相)の特性と役割を読んでください。
混和材・SCMを入れた場合
フライアッシュ、高炉スラグ、石灰石微粉末、メタカオリンなどのSCMを入れると、曲線は単純に「セメントが薄まった」だけでは説明できません。希釈効果、フィラー効果、核生成促進、アルミナ供給、ポゾラン反応、潜在水硬性反応が重なります。
Zunino and Scrivenerの研究では、ポルトランドセメントの早期性能最適化には水和速度、硫酸塩要求量、相組成の理解が重要であり、石膏はC₃A反応を制御するだけでなく、C₃S反応にも影響することが示されています。
混和材入りセメントの曲線を読むときは、次の3点を分けて考えます。
- セメント量が減ったことによる発熱量低下
- 微粉末がC-S-H析出の核になり、主ピークを早める効果
- アルミナや硫酸塩バランスの変化により、後続ピークが変わる効果
とくにフライアッシュや高炉スラグを含む系では、等温熱量測定だけで長期反応を判断しすぎないことが重要です。長期材齢ではポゾラン反応や潜在水硬性反応が効いてくるため、TG-DTAやXRDと組み合わせて解釈する必要があります。
TG-DTA・XRDとどう併用するか
等温熱量測定は「反応速度」を見る方法です。一方、TG-DTAやXRDは、ある時点でどの相がどれだけあるかを見る方法です。この違いを押さえると、実験計画がかなり整理しやすくなります。
熱分析によるセメント水和度の評価でも解説していますが、、TG、DTA、DSCがセメント分野で重要な熱分析手法として整理され、TGは加熱中の質量変化から水和生成物や炭酸塩量の推定に用いられます。
また、混合セメントではCH量が水和進行だけでなく消費反応も反映するため、CH量、結合水量、XRD、化学分析、強度試験など複数指標で判断しやすいです。
そのほか、XRDについては、XRDとSEMで解明するセメント硬化体の微細構造で、構成鉱物の同定・定量、水和生成物の特定、未水和セメントの定量に使えると解説しています。
以上を踏まえて、組み合わせ方の例は、次の通りです。
| 目的 | 等温熱量測定 | TG-DTA | XRD |
|---|---|---|---|
| 初期反応速度を見たい | 主役 | 補助 | 補助 |
| 誘導期や凝結傾向を見たい | 主役 | 不向き | 補助 |
| CH量を見たい | 間接的 | 主役 | 補助 |
| エトリンガイトやモノサルフェートを確認したい | ピークから推定 | 補助 | 主役 |
| 混和材反応を追いたい | 初期反応の比較 | 結合水・CH量 | 相同定・未水和相 |
| 強度発現を説明したい | 反応速度の根拠 | 水和度の根拠 | 相変化の根拠 |
おすすめの実験設計は、まず等温熱量測定で「どの材齢で差が出るか」を見つけ、その時間点で水和停止試料を作り、TG-DTAやXRDを測る流れです。これにより、「曲線が違う」だけで終わらず、「どの相や水和生成物が違うのか」まで説明できます。
よくある誤読
誤読1:ピークが高いほど良いセメントだと考える
ピークが高いことは、短時間に反応が集中していることを示す場合があります。しかし、それが施工上望ましいとは限りません。早強性が必要な場合には有利でも、作業時間を確保したい配合やマスコンクリートでは不利になることがあります。
誤読2:主ピークをすべてC₃S反応と決めつける
普通ポルトランドセメントでは主ピークをC₃S反応の指標として扱うことが多いですが、硫酸塩枯渇ピークやC₃A反応が重なる場合があります。Jagličićらは、最大熱流時刻は硫酸塩枯渇イベントと重なる可能性があり、反応速度解析の指標としては注意が必要だと述べています。
誤読3:累積発熱量を水和度そのものとみなす
累積発熱量は水和反応の進行を反映しますが、水和度そのものではありません。鉱物組成が違えば、同じ水和度でも発熱量は変わります。混和材を含む系では、希釈効果、反応熱の違い、CH消費、ポゾラン反応が重なるため、累積発熱量だけで水和度を比較するのは危険です。
誤読4:TG-DTAやXRDなしでピーク帰属を断定する
発熱曲線は、複数の反応が重なった結果です。ピークの時間帯から反応を推定することはできますが、エトリンガイト、モノサルフェート、CH、未水和クリンカー相を確認するには、XRD、TG-DTA、SEM-EDSなどの補助分析が必要です。
誤読5:測定温度や混練条件の違いを軽視する
等温熱量測定は、温度、混練時間、水セメント比、試料量、外部混練か内部混練か、装置投入までの時間に敏感です。配合差を議論する前に、測定条件が本当に揃っているかを確認する必要があります。
まとめ:等温熱量測定は「水和反応の速度」を読む方法
セメント等温熱量測定は、セメントの水和反応を時間軸で追える強力な方法です。初期溶解ピーク、誘導期、加速期、主ピーク、後続ピークを読むことで、材料の反応性、凝結傾向、硫酸塩バランス、混和剤やSCMの影響を推定できます。
ただし、発熱曲線は複数反応の重ね合わせです。ピークの高さや時刻だけで結論を出すのではなく、TG-DTA、XRD、SEM、強度試験と組み合わせて解釈することが重要です。
最後に、実験データを見るときは次の順番で確認すると、誤読を減らせます。
- 測定条件は揃っているか
- 誘導期は長くなったか短くなったか
- 主ピークは早くなったか遅くなったか
- 主ピークは高くなったか低くなったか
- 後続ピークや肩は出ているか
- 石膏量、C₃A量、混和剤、SCMで説明できるか
- TG-DTAやXRDの結果と矛盾しないか
この順番で読むと、セメント カロリメトリーは単なる曲線比較ではなく、配合差や材料相性を説明するための強力な実験データになります。
参考文献
- ASTM C1679-22, Standard Practice for Measuring Hydration Kinetics of Hydraulic Cementitious Mixtures Using Isothermal Calorimetry.
- John, E. et al., Cement hydration mechanisms through time – a review.
- Jagličić, A. et al., Automatic and simple: how to analyze isothermal calorimetry data of cement hydration quantitatively.
- Zunino, F. and Scrivener, K., The influence of sulfate addition on hydration kinetics and C-S-H morphology of C₃S and C₃S/C₃A systems.
- Quennoz, A. and Scrivener, K., Interactions between alite and C₃A-gypsum hydrations in model cements.
- TA Instruments, Optimization of Cement Sulfate Part 2 – Cement with Admixture.

