セメント硬化体の炭酸化を分析するとき、XRD、TG-DTA、FTIRのどれを使えばよいのか迷うことがあります。
結論からいえば、三つの分析方法には次のような役割の違いがあります。
- XRD:CHや炭酸カルシウムなど、結晶性化合物の変化を確認する
- TG-DTA:CHの減少量や炭酸カルシウムの増加量を計算する
- FTIR:C-S-Hの脱Caやシリカに富む相の生成に伴う結合状態の変化を確認する
ただし、いずれか一つの分析結果だけで、炭酸化の反応経路を判断するのは困難です。
たとえば、XRDで水酸化カルシウム(CH)のピークが低下していても、それだけでは炭酸化によって減少したのか、未反応セメントの水和やポゾラン反応によって消費されたのかを区別できません。
また、炭酸カルシウムの増加量がCHの減少量から予想される量を上回る場合には、C-S-HやAFm相など、CH以外の水和物が炭酸化した可能性も考える必要があります。普通ポルトランドセメントペーストでは、CHとC-S-Hの炭酸化が並行して進み、C-S-HのCa/Si比の低下やシリカに富む相の生成が確認されています。
この記事では、セメントの炭酸化をXRD・TG-DTA・FTIRでどのように調べ、三つの分析結果をどう照合すればよいのかを具体的に解説します。
セメントの炭酸化では何が起きるのか

セメント硬化体の炭酸化として、最初に挙げられるのがCHと二酸化炭素の反応です。
Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ + H₂O
この反応では、CHが減少し、炭酸カルシウムが生成します。
しかし、炭酸化するのはCHだけではありません。C-S-Hからカルシウムが抜け、そのカルシウムが炭酸カルシウムになる反応も起こります。C-S-H側には、シリケート構造の重合が進んだシリカに富む相が残ります。
炭酸化が進むと、概念的には次のような変化が生じます。
- 細孔溶液中のアルカリ成分やCHが炭酸化する
- C-S-Hからカルシウムが抜け、Ca/Si比が低下する
- C-S-Hから放出されたカルシウムが炭酸カルシウムになる
- シリカに富む低結晶性相が残る
- AFm相やAFt相なども条件に応じて変化する
したがって、炭酸カルシウムが増えたからといって、その全量がCHに由来するとは限りません。
三つの分析で確認できること
| 確認したい現象 | XRD | TG-DTA | FTIR |
|---|---|---|---|
| CHが減少したか | 結晶ピークの低下 | 脱水酸基反応に伴う質量減少 | 約3640 cm⁻¹のOH吸収 |
| 炭酸カルシウムが生成したか | カルサイトなどの結晶相 | 脱炭酸に伴うCO₂放出量 | CO₃²⁻に由来する吸収帯 |
| 炭酸カルシウムの種類 | 比較的確認しやすい | 基本的には判別しにくい | 補助的に推定できる |
| C-S-Hが脱Caしたか | 直接の判別は難しい | 炭酸塩量との収支から推定 | Si–O吸収帯の移動から推定 |
| シリカに富む相が生成したか | 通常の測定では捉えにくい | 単独での判別は難しい | Si–O吸収帯から推定 |
| 炭酸化生成物を定量したい | 内部標準法などが必要 | 質量減少から計算できる | 通常は定性的・半定量的 |
XRDでは結晶性の炭酸化生成物を見る
XRDで主に確認するのは、次の結晶相です。
- 水酸化カルシウム(ポルトランダイト)
- カルサイト
- バテライト
- アラゴナイト
- 未反応のエーライトやビーライト
- 条件によって残存するAFm相やAFt相
炭酸化前後のXRDパターンを比較すると、一般にはCHのピークが低下し、カルサイトなどの炭酸カルシウムのピークが増加します。
ただし、XRDで捉えやすいのは、基本的に結晶性の高い化合物です。C-S-Hや炭酸化後に残るシリカに富む相は結晶性が低いため、CHやカルサイトのような鋭い回折ピークとして現れないことがあります。
そのため、次のような判断は避ける必要があります。
XRDでC-S-Hのピークが確認できないため、C-S-Hは存在しない。
通常のセメント硬化体では、C-S-HはXRDパターン上の幅広い盛り上がりとして現れることはあっても、CHやカルサイトのような明瞭なピークにはなりません。
炭酸化後のセメント系試料では、カルサイト、バテライト、アラゴナイトなどが結晶相として検出される一方、炭酸化したC-S-Hに由来するシリカ成分は低結晶性相として残ることがあります。
セメント系試料のXRDパターンの基本的な見方は、セメントXRD解析入門|エーライト・ビーライトのピークの読み方と同定のコツで解説しています。
カルサイトだけでなく炭酸カルシウムの多形にも注意する
炭酸カルシウムには、主に次の形があります。
| 炭酸カルシウム | 特徴 |
|---|---|
| カルサイト | 比較的安定で、炭酸化したセメント試料から多く検出される |
| アラゴナイト | 温度、溶液組成、反応条件などによって生成する |
| バテライト | 準安定相で、反応初期や特定の炭酸化条件で生成することがある |
| 非晶質炭酸カルシウム | 結晶性が低く、通常のXRDでは捉えにくい |
生成する形は、二酸化炭素濃度だけでなく、相対湿度、反応速度、細孔溶液の組成、溶液の過飽和度などにも影響されます。
反応初期に非晶質炭酸カルシウムが生成し、その後に結晶性の炭酸カルシウムへ変化する反応も報告されています。
したがって、カルサイトのピークが小さいからといって、炭酸化量そのものが少ないとは限りません。
- XRDでは炭酸カルシウムの結晶相を確認する
- TG-DTAでは炭酸塩の総量に近い値を求める
このように役割を分けて考える必要があります。
XRDのピーク高さだけを比較しない
炭酸化前後でピーク高さを比較する場合、次の条件がそろっていないと誤った判断につながります。
- 試料量
- 粉砕粒度
- 試料ホルダーへの充填状態
- 測定時間
- 測定範囲とステップ幅
- 結晶の配向
- 非晶質成分の割合
- 骨材や石灰石微粉末の混入割合
炭酸化によって非晶質成分の割合が変化すると、ある結晶相の絶対量が増えていなくても、相対的にピークが高く見えることがあります。
定量値として比較したい場合は、内部標準物質を添加したリートベルト解析などを検討します。単純なピーク高さの比較は、同じ条件で測定した試料間の増減傾向を確認する用途にとどめるのが無難です。
TG-DTAではCH量と炭酸塩量を計算する
TG-DTAでは、加熱に伴う質量減少と熱反応から、水和物や炭酸塩の量を調べます。
セメント硬化体では、おおむね次の温度範囲に注目します。
| おおよその温度範囲 | 主に考えられる反応 |
|---|---|
| 50~300℃ | C-S-H、AFt相、AFm相などの脱水 |
| 400~500℃前後 | CHの脱水酸基反応 |
| 550~900℃前後 | 炭酸カルシウムの脱炭酸反応 |
これらの温度範囲は固定されたものではありません。
炭酸カルシウムの結晶性や粒径、共存する化合物、昇温速度、測定雰囲気によって、反応温度やピーク形状は変化します。そのため、TG曲線だけで区間を決めるのではなく、質量減少速度を示すDTG曲線やDTA曲線も確認します。
CH量の計算方法
CHの脱水酸基反応は、次の式で表されます。
Ca(OH)₂ → CaO + H₂O
Ca(OH)₂のモル質量は74.09 g/mol、H₂Oのモル質量は18.02 g/molです。
したがって、CHの脱水に相当する質量減少量からCH量を求める場合は、次の式を使います。
CH量(質量%)=CHの脱水に伴う質量減少(質量%)× 74.09 ÷ 18.02
係数にまとめると、次のようになります。
CH量(質量%)=CHの脱水に伴う質量減少(質量%)× 4.11
たとえば、CHの脱水に相当する質量減少が2.0質量%だった場合、CH量は次のように計算できます。
2.0 × 4.11 = 8.22質量%
したがって、この試料のCH量は約8.2質量%です。
実際の分析では、CHの反応区間にほかの水和物の脱水が重なる可能性があります。また、ベースラインの引き方によっても計算結果が変わります。
炭酸化前後を比較するときは、次の条件を統一する必要があります。
- 積分する温度区間
- ベースラインの決め方
- 試料質量の基準
- 昇温速度
- 測定雰囲気
詳しい計算手順は、TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する方法で解説しています。
炭酸カルシウム量の計算方法
炭酸カルシウムの脱炭酸反応は、次の式で表されます。
CaCO₃ → CaO + CO₂
CaCO₃のモル質量は100.09 g/mol、CO₂のモル質量は44.01 g/molです。
したがって、CO₂の放出に相当する質量減少量から炭酸カルシウム量を求める場合は、次の式を使います。
CaCO₃量(質量%)=脱炭酸に伴う質量減少(質量%)× 100.09 ÷ 44.01
係数にまとめると、次のようになります。
CaCO₃量(質量%)=脱炭酸に伴う質量減少(質量%)× 2.27
たとえば、脱炭酸に相当する質量減少が5.0質量%だった場合は、次のように計算できます。
5.0 × 2.27 = 11.35質量%
したがって、炭酸カルシウム換算量は約11.4質量%です。
ただし、試料に石灰石微粉末や石灰石骨材が含まれている場合は、炭酸化前から存在している炭酸カルシウムも測定されます。
炭酸化によって新たに生成した量を求めるには、原則として次の差を確認します。
炭酸化によるCaCO₃増加量=炭酸化後のCaCO₃量-炭酸化前のCaCO₃量
CHの減少量と炭酸カルシウムの増加量を照合する
CHが炭酸化した場合、CH 1 molから炭酸カルシウム1 molが生成します。
CHの減少量から予想される炭酸カルシウム生成量は、次の式で計算できます。
CH由来のCaCO₃生成量=CH減少量 × 100.09 ÷ 74.09
係数にまとめると、次のようになります。
CH由来のCaCO₃生成量=CH減少量 × 1.35
たとえば、炭酸化前後でCH量が18質量%から8質量%へ減少したとします。
CH減少量=18-8=10質量%
この10質量%のCHがすべて炭酸化した場合、生成する炭酸カルシウム量は次のとおりです。
10 × 1.35=13.5質量%
一方、TG-DTAから求めた炭酸カルシウムの増加量が20質量%だった場合、CHの炭酸化だけでは説明できない量は次のようになります。
20-13.5=6.5質量%
この6.5質量%分は、C-S-H、AFm相、未反応クリンカー鉱物など、CH以外のカルシウムを含む相の炭酸化によって生じた可能性があります。
ただし、この差をそのまま「C-S-Hの炭酸化量」とすることはできません。AFm相や未反応鉱物などもカルシウムの供給源になるためです。
FTIRによるSi–O吸収帯の変化や、必要に応じて固体NMR、SEM-EDSなどを併用して判断します。
FTIRではC-S-Hの結合状態の変化を見る
FTIRでは、化合物中の結合や官能基に由来する赤外吸収を調べます。
炭酸化したセメント硬化体では、主に次の領域を確認します。
| 波数の目安 | 主な帰属 | 炭酸化に伴う変化 |
|---|---|---|
| 約3640 cm⁻¹ | CHのOH伸縮振動 | CHの消費により低下 |
| 約1400~1500 cm⁻¹ | 炭酸イオンの伸縮振動 | 炭酸塩の生成により増加 |
| 約870~880 cm⁻¹ | 炭酸イオンの変角振動 | 炭酸塩の生成により増加 |
| 約710~750 cm⁻¹ | 炭酸カルシウムの変角振動 | 多形によって位置や形状が異なる |
| 約950~970 cm⁻¹ | C-S-HのSi–O伸縮振動 | 脱Caに伴い高波数側へ移動する場合がある |
| 約1000~1050 cm⁻¹ | 重合が進んだケイ酸構造 | シリカに富む相の増加を示す場合がある |
セメント系試料における吸収帯の基本的な見方は、セメントFTIR入門|Si–O・OH・CO₃・SO₄ピークの読み方で解説しています。
C-S-Hの脱CaはSi–O吸収帯の移動から考える
未炭酸化のC-S-Hでは、Si–O伸縮振動に由来する吸収帯が、おおむね950~970 cm⁻¹付近に現れます。
C-S-Hが炭酸化すると、カルシウムが抜けるとともにケイ酸構造の重合が進み、Si–O吸収帯が1000~1050 cm⁻¹付近へ移動する場合があります。
炭酸化したセメントペーストを調べた研究では、約957 cm⁻¹にあった吸収帯が約1030 cm⁻¹へ移動しており、C-S-Hの脱Caとケイ酸構造の重合に対応すると解釈されています。
たとえば、次の三つが同時に確認された場合、C-S-Hの炭酸化を示す根拠が強くなります。
- TG-DTAで、CHの減少量から予想される以上に炭酸塩が増えている
- FTIRで、Si–O吸収帯が高波数側へ移動している
- XRDで炭酸カルシウムが増加している一方、対応する結晶性ケイ酸相が確認されない
この組み合わせは、CHの炭酸化に加えて、C-S-Hからもカルシウムが放出され、シリカに富む低結晶性相が残ったと考える材料になります。
1030 cm⁻¹付近の吸収だけでシリカゲルと断定しない
1000~1050 cm⁻¹付近には、シリカに富む相だけでなく、アルミニウムを含む低結晶性相や未反応材料の吸収が重なる可能性があります。
セメント系試料では、800~1200 cm⁻¹付近に複数の結合による吸収が重なりやすいため、一つのピーク位置だけで生成物を決めるのは適切ではありません。
次のような記述は断定が強すぎます。
1030 cm⁻¹にピークがあるため、C-S-Hはすべてシリカゲルになった。
次のように書くと、分析結果に即した表現になります。
炭酸化に伴い、Si–O伸縮振動に由来する吸収帯が高波数側へ移動した。この変化は、C-S-Hの脱Caとケイ酸構造の重合が進んだ可能性を示している。
XRD・TG-DTA・FTIRをどう照合するか
三つの分析結果を見比べるときは、どの分析が正しいのかを選ぶのではなく、それぞれが異なる情報を測定していると考えます。
分析結果の組み合わせと考えられる反応
| 主な測定結果 | 考えられる解釈 | 追加で確認すること |
|---|---|---|
| XRDでCHが減少し、カルサイトが増加。TG-DTAの炭酸塩増加量がCH減少量とほぼ対応 | CHを中心とした炭酸化 | FTIRのSi–O吸収帯が大きく移動していないか |
| CH減少量から予想される以上に炭酸塩が増加し、FTIRのSi–O吸収帯も高波数側へ移動 | CHに加えてC-S-Hなども炭酸化 | AFm相や未反応鉱物の変化、固体NMRやSEM-EDS |
| TG-DTAとFTIRでは炭酸塩が増えているが、XRDの炭酸塩ピークが弱い | 低結晶性または微細な炭酸塩を含む可能性 | XRDの測定時間、内部標準法、試料の均一性 |
| XRDではカルサイトが多いが、炭酸化前後のTG-DTA差が小さい | 原材料に含まれる石灰石の影響 | 未炭酸化試料、石灰石微粉末や骨材の含有量 |
| XRDでバテライトやアラゴナイトを確認 | 反応速度、湿度、CO₂濃度などの影響 | 炭酸化期間、相対湿度、試験条件 |
| FTIRの炭酸塩吸収だけが増加 | 保管中の炭酸化や測定条件の影響も考えられる | 同一試料によるXRDとTG-DTA |
実際の分析手順
1.比較条件をそろえる
少なくとも次の条件をそろえます。
- セメント種類
- 水セメント比または水結合材比
- 材齢
- 試料採取深さ
- 粉砕粒度
- 乾燥方法
- 水和停止方法
- 炭酸化前後の質量基準
表面から採取した炭酸化試料と、試験体内部から採取した未炭酸化試料では、炭酸化以外にも水和度や含水状態が異なる可能性があります。
2.同じ粉末試料を三つの分析に分ける
XRD、TG-DTA、FTIRに別々の場所から採取した試料を使うと、試料のばらつきが分析方法の違いに見えてしまいます。
可能であれば、同じ位置から採取した試料を粉砕・混合し、均一化した後に三つの分析用に分けます。
3.XRDで結晶相を確認する
まず、次の変化を確認します。
- CHの減少
- カルサイトの増加
- バテライトやアラゴナイトの有無
- AFm相やAFt相の変化
- 未反応クリンカー鉱物の変化
ここでは、どの結晶相が増減したのかを整理します。
4.TG-DTAでCHと炭酸塩を計算する
炭酸化前後について、同じ方法で次の量を求めます。
- CH量
- 炭酸カルシウム換算量
- CH減少量
- CH減少量から予想される炭酸カルシウム生成量
- 実際の炭酸カルシウム増加量との差
この差が大きい場合は、CH以外の相からカルシウムが供給された可能性を検討します。
5.FTIRでCHとC-S-Hの変化を確認する
FTIRでは次の点を確認します。
- 約3640 cm⁻¹のCH吸収の低下
- 炭酸イオンに由来する吸収の増加
- Si–O吸収帯の高波数側への移動
- 吸収帯の幅や肩の変化
- 未炭酸化試料との差
Si–O吸収帯の移動が明確であれば、C-S-Hの脱Caを考える根拠になります。
6.三つの結果を一つの文章にまとめる
分析結果は、各分析方法を別々に説明するだけでなく、最後に一つの反応としてまとめます。
たとえば、次のように記述できます。
炭酸化後の試料では、XRDによりCHの減少とカルサイトの増加が確認された。TG-DTAから求めた炭酸カルシウム増加量は、CHの減少量から予想される生成量を上回った。また、FTIRではSi–O伸縮振動に由来する吸収帯が高波数側へ移動した。以上から、CHの炭酸化に加えて、C-S-Hの脱Caを伴う炭酸化が進行した可能性がある。
「可能性がある」とするのは、AFm相や未反応鉱物など、ほかのカルシウム含有相も炭酸塩の供給源になり得るためです。
試料前処理による炭酸化と分析誤差に注意する
炭酸化試料の分析では、試験中の反応だけでなく、試料を採取してから測定するまでの変化にも注意が必要です。
粉砕後に空気中で炭酸化が進む
硬化体を粉砕すると比表面積が大きくなり、空気中の二酸化炭素と反応しやすくなります。
特にCHを多く含む試料では、粉砕後の放置によって次の変化が起こる可能性があります。
- XRDのCHピークが低下する
- カルサイトのピークが増加する
- TG-DTAで炭酸塩量が増加する
- FTIRで炭酸イオンの吸収が増加する
粉砕から測定までの時間をできるだけ短くし、測定まで密閉容器に保管します。試料採取日、粉砕日、測定日も記録しておくと、再現性を確認しやすくなります。
水和停止方法によって分析結果が変わる
セメント硬化体では、採取後も水和反応が続く可能性があります。そのため、溶媒置換や乾燥によって水和を停止させることがあります。
ただし、水和停止方法は、残存する水和物の量やTG-DTAの質量減少挙動にも影響します。
複数機関による比較試験では、105℃乾燥はカルシウムアルミネート系水和物の脱水や変質、炭酸化による誤差を生じやすく、セメント水和物全体を調べる方法としては推奨されていません。一方、イソプロパノールによる溶媒交換は、水和物相を比較的保存しやすい方法とされています。
水和停止方法の選び方は、セメント試料の水和停止方法|アセトン・IPA・凍結乾燥の違いでも整理しています。
炭酸化前後を比較するときは、一方を溶媒置換、もう一方を炉乾燥とするのではなく、同じ方法で処理する必要があります。
石灰石を含む材料では初期値を差し引く
次の材料には、炭酸化前から炭酸カルシウムが含まれている可能性があります。
- 石灰石微粉末を含むセメント
- 石灰石ポルトランドセメント
- 石灰石骨材
- 炭酸カルシウムを含む混和材
- 再生骨材や再生セメント原料
この場合、炭酸化後の炭酸カルシウム全量を、炭酸化による生成量として扱うことはできません。
未炭酸化試料の炭酸カルシウム量を測定し、炭酸化前後の差を求めます。
骨材を含むモルタルやコンクリートでは、採取した粉末に含まれる骨材量のばらつきが測定結果に大きく影響します。可能であれば、セメントペースト部分を選別するか、採取方法を統一します。
促進炭酸化を自然炭酸化と同じ反応として扱わない
二酸化炭素濃度を高くすると、短期間で炭酸化を進められます。ただし、濃度が高いほど自然環境での炭酸化を忠実に再現できるとは限りません。
普通ポルトランドセメントペーストを異なる二酸化炭素濃度で炭酸化した研究では、低濃度条件と10%・100%条件とで、炭酸化後に残るC-S-Hやシリカに富む相の状態に違いが確認されています。
促進試験の結果を自然環境へ当てはめる場合は、少なくとも次の条件を記載します。
- 二酸化炭素濃度
- 相対湿度
- 温度
- 炭酸化期間
- 試料寸法
- 前養生条件
- 炭酸化前の含水状態
炭酸化分析で避けたい判断例
NG例1:CHが減ったので炭酸化したと判断する
CHは炭酸化以外にも、ポゾラン反応や水和反応の進行によって減少します。
改善例
CH量が減少するとともに炭酸塩量が増加しているため、CHの炭酸化が進行した可能性がある。
NG例2:カルサイト量をそのまま炭酸化量とする
試料に石灰石微粉末や石灰石骨材が含まれている場合、炭酸化前からカルサイトが存在します。
改善例
炭酸化前後の炭酸カルシウム量の差を、炭酸化に伴う増加量として評価した。
NG例3:XRDで見えないためシリカに富む相は生成していないと判断する
シリカに富む炭酸化生成物は結晶性が低く、通常のXRDでは明確なピークを示さない場合があります。
改善例
XRDでは対応する結晶性ケイ酸相が確認されなかったが、FTIRではSi–O吸収帯が高波数側へ移動しており、シリカに富む低結晶性相が生成した可能性がある。
NG例4:FTIRの一つの吸収帯だけで反応生成物を決める
FTIRでは複数の化合物の吸収が重なるため、一つの波数だけで化合物を特定するのは困難です。
改善例
FTIRの吸収帯の移動に加え、XRDによる結晶相の変化とTG-DTAによる炭酸塩量の増加を併せて判断した。
炭酸化分析の確認項目
- 炭酸化前後で試料採取位置をそろえた
- 粉砕粒度と乾燥方法をそろえた
- 同じ粉末をXRD、TG-DTA、FTIRに分けた
- 粉砕から密閉までの時間を記録した
- XRDでCHと炭酸カルシウムの多形を確認した
- TG-DTAでCH量と炭酸カルシウム量を計算した
- CH減少量から予想される炭酸カルシウム量を求めた
- FTIRでCH、炭酸塩、Si–O吸収帯を確認した
- 石灰石微粉末や骨材由来の炭酸塩を考慮した
- 二酸化炭素濃度、湿度、温度を記録した
- 一つの分析結果だけで反応経路を断定していない
まとめ|三つの分析結果を一つの反応として考える
セメントの炭酸化を調べるときは、三つの分析を次の問いに対応させると整理しやすくなります。
- どの結晶相が変化したかをXRDで確認する
- CHと炭酸塩がどれだけ増減したかをTG-DTAで確認する
- C-S-Hの結合状態が変化したかをFTIRで確認する
特に、CHの減少量と炭酸カルシウムの増加量を照合することが、CHの炭酸化とC-S-Hなどの炭酸化を考え分ける手掛かりになります。
まず、炭酸化前後のCH量と炭酸カルシウム量を同じ質量基準で計算し、CHの減少だけでは説明できない炭酸塩があるかを確認します。そのうえで、FTIRのSi–O吸収帯の変化と、XRDで確認した炭酸カルシウムの種類を見比べます。
三つの分析結果が完全に一致しない場合も、それ自体が測定の誤りとは限りません。
- XRDは結晶構造
- TG-DTAは加熱時の質量変化
- FTIRは化学結合の状態
をそれぞれ測定しています。
測定対象の違いを踏まえて結果を組み合わせることで、炭酸化反応をより妥当に説明できます。
よくある質問
XRDだけでセメントの炭酸化を評価できますか?
XRDでは、CHの減少やカルサイト、バテライト、アラゴナイトの生成を確認できます。
一方、低結晶性のC-S-Hやシリカに富む相は捉えにくいため、XRDだけでC-S-Hの脱Caまで判断するのは困難です。TG-DTAによる炭酸塩量の計算や、FTIRによるSi–O吸収帯の確認を併用します。
TG-DTAでCHが減っていれば炭酸化したといえますか?
CHの減少だけでは炭酸化とは断定できません。
未反応セメントの水和や、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン反応でもCHは減少します。炭酸塩量の増加、XRDによる炭酸カルシウムの確認、FTIRによる炭酸イオン吸収の増加を併せて判断します。
C-S-Hの炭酸化を確認するには、どの分析が適していますか?
FTIRは、C-S-HのSi–O吸収帯の移動を確認できるため、C-S-Hの脱Caを調べる際に役立ちます。
ただし、FTIRだけでは吸収帯の重なりを十分に分離できない場合があります。TG-DTAでCH由来では説明できない炭酸塩量を確認し、XRDで結晶性炭酸塩を確認すると判断しやすくなります。
より詳しく調べる場合は、固体NMRやSEM-EDSなども候補になります。
促進炭酸化試験の二酸化炭素濃度は高いほどよいですか?
高濃度にすると試験期間は短縮できますが、自然環境とは異なる反応生成物や反応経路になる可能性があります。
高濃度条件ではC-S-Hの脱Caが急速に進み、炭酸カルシウムの種類や結晶性も変化する場合があります。試験の目的が劣化の促進なのか、自然炭酸化の再現なのかによって、適切な濃度を検討する必要があります。
主な参考文献
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