高炉スラグ微粉末やフライアッシュを使った研究では、「混和材が反応したことを、どの測定結果から判断すればよいのか」と迷うことがあります。
選択溶解後の残渣が減った、発熱量が増えた、水酸化カルシウムが減った、NMRのスペクトルが変化したなど、反応を示す指標はいくつもあります。しかし、これらがすべて同じ意味の「反応率」を測っているわけではありません。
結論から言えば、混和材の評価では、まず次のどれを知りたいのかを分ける必要があります。
- 材料そのものがどの程度反応しやすいか
- 実際のセメント硬化体中で、混和材が何%消費されたか
- どのような水和生成物が生じたか
- 混和材の反応が強度や組織にどう影響したか
R3試験(rapid, reliable, relevant)は材料の反応しやすさを比較する方法であり、実際の配合中で消費された混和材の割合を直接測る試験ではありません。一方、選択溶解法や画像解析は、硬化体に残った未反応粒子から反応率を求める方法です。
そのため、「R3試験だけで反応率を評価する」「水酸化カルシウムが減った量をそのままフライアッシュの反応率とする」といった扱いは避けた方がよいでしょう。
この記事では、高炉スラグ、フライアッシュ、焼成粘土などの反応評価に使われる方法を比較し、研究目的ごとの使い分けを整理します。
混和材の「反応率」とは何か

混和材の反応を評価する前に、「反応率」「反応性」「反応した証拠」を区別しておく必要があります。
| 評価したい内容 | 意味 | 主な測定方法 |
|---|---|---|
| 反応性 | 所定の条件でどの程度反応しやすいか | R3試験、促進試験、熱量測定 |
| 反応率 | 初期に加えた混和材のうち、実際に反応した割合 | 選択溶解法、画像解析、NMR、定量XRD |
| 反応の進行を示す指標 | 水和物の生成や原料の消費を間接的に示す値 | TG-DTA、XRD、熱量測定、結合水量 |
| 性能への影響 | 反応を含む複数の作用が強度や耐久性に与えた結果 | 圧縮強度、空隙率、物質移動試験 |
基本的な反応率は、次のように表せます。
反応率 α(t) = {1 − 材齢tにおける未反応混和材量 ÷ 初期混和材量} × 100
例えば、最初に高炉スラグを100g加え、28日後に未反応スラグが70g残っていれば、反応率は30%です。
ただし、実際の測定では未反応量を完全に分離して量ることが難しいため、選択溶解、NMR、XRD、電子顕微鏡などを使って推定します。
全混和材を基準にするか、ガラス質だけを基準にするか
フライアッシュや天然ポゾランでは、反応率の分母にも注意が必要です。
例えば、フライアッシュ100gのうちガラス質が60gで、そのうち30gが反応したとします。
- フライアッシュ全体を基準にした反応率:30%
- ガラス質だけを基準にした反応率:50%
同じ試料でも、分母の決め方によって反応率が変わります。
論文や発表資料では、「初期フライアッシュ量を基準にした反応率」なのか、「XRDで求めた非晶質量を基準にした反応率」なのかを明記しなければ、数値を正しく比較できません。
高炉スラグとフライアッシュでは反応の意味が違う
高炉スラグとフライアッシュは、どちらもセメントの一部を置き換える材料ですが、反応の仕組みは同じではありません。
高炉スラグは、アルカリ性の細孔溶液によってガラス構造が溶解し、スラグ自身が持つCa、Si、Al、MgなどからC-(A)-S-Hやハイドロタルサイトに似た相を生成します。詳しい流れは、高炉スラグ微粉末はなぜ反応する?水和反応とC-A-S-H生成の仕組みで解説しています。
一方、一般的な低カルシウム型フライアッシュは、セメントの水和で生じた水酸化カルシウムと反応してC-(A)-S-Hなどを生成します。フライアッシュのポゾラン反応とは?CH消費とC-A-S-H生成を先に読むと、TGやNMRの測定結果を理解しやすくなります。
この違いがあるため、水酸化カルシウムの減少量はフライアッシュの反応を考える手掛かりになりますが、高炉スラグの反応率評価にはそのまま使えません。
反応率の評価法を比較する
主な評価法を整理すると、次のようになります。
| 評価法 | 主に測定するもの | 反応率の直接評価 | 主な用途 |
| 選択溶解法 | 残存する未反応混和材 | 比較的直接的 | スラグ・フライアッシュの反応率 |
| R3試験 | 発熱量または結合水量 | 直接ではない | 原料の反応性比較、品質評価 |
| セメントペーストの熱量測定 | 系全体の発熱 | 直接ではない | 初期反応、反応速度の比較 |
| 固体NMR | Si・Alの化学的な状態 | 条件次第で可能 | 未反応原料と生成物の区別 |
| TG-DTA | CH量、結合水量、炭酸塩量 | 原則として間接的 | ポゾラン反応、水和物量の比較 |
| 定量XRD | 結晶相と非晶質成分 | 条件次第で可能 | 原料相・水和物・未反応量の追跡 |
| SEM-BSE画像解析 | 未反応粒子の面積や体積 | 比較的直接的 | 粒子ごとの反応状態、反応率 |
| 圧縮強度 | 硬化体の性能 | 不可 | 反応を含む総合的な性能確認 |
反応率を数値として求めたい場合は、選択溶解法、画像解析、NMR、定量XRDなど、未反応原料の残存量を追える方法が中心になります。
TG-DTA、熱量測定、圧縮強度は有用ですが、原則として反応率を直接測定しているわけではありません。
選択溶解法で未反応の混和材を測る
選択溶解法の考え方
選択溶解法は、セメント鉱物や水和生成物を溶かし、溶けずに残った未反応の高炉スラグやフライアッシュを回収する方法です。
RILEM TC 238-SCMでは、シリカ質フライアッシュと高炉スラグを対象に、選択溶解法による反応率算出の考え方が整理されています。基本は、硬化体から回収した残渣量と、最初に配合した混和材量を比較する方法です。
概念的には、未反応量を次のように補正します。
未反応混和材量 ≒(硬化体の残渣量 − セメント由来の残渣量)÷ 原料混和材の残存率
そのうえで、初期混入量との差から反応率を求めます。
原料混和材の残存率とは、未反応の原料自体を同じ条件で溶解したときに、何%が残るかを示す値です。混和材が溶解液に一部溶ける場合、この補正を行わないと反応率を過大評価します。
選択溶解法で必要な補正
選択溶解法では、少なくとも次の試料を同じ条件で測定します。
- 未反応の混和材原料
- セメント単味の硬化体
- 混和材を含む硬化体
未反応の混和材原料を測る理由は、溶解処理によって原料そのものが失われる割合を確認するためです。
セメント単味の硬化体を測る理由は、セメントや水和物のうち、溶けずに残る成分を補正するためです。
このほか、ろ過時に微粒子が通過すると、実際より残渣が少なくなり、反応率を高く見積もる可能性があります。逆に、水和物が残渣に混入すると、未反応量を多く見積もり、反応率が低くなります。
国際的な共通試験でも、選択溶解法の結果にはばらつきが見られ、混和材の反応率測定は良好な条件でも数%程度の不確かさを伴うことが示されています。
高炉スラグとフライアッシュで同じ条件を使わない
高炉スラグとフライアッシュでは、化学組成、ガラス構造、未燃炭素量、結晶相が異なります。
あるフライアッシュで適切だった溶解条件が、別のフライアッシュでも使えるとは限りません。特に高カルシウム型フライアッシュや副産物由来の新しい混和材では、原料自体の溶解量を事前に確認する必要があります。
選択溶解法を使う場合は、論文から溶解液だけを抜き出すのではなく、対象材料、固液比、処理時間、温度、ろ紙やフィルターの孔径、洗浄方法、乾燥条件までそろえることが欠かせません。
R3試験は反応率ではなく反応性を評価する
R3試験で測っているもの
R3試験は、混和材、Ca(OH)₂、アルカリ、硫酸塩、炭酸カルシウムなどからなるモデル系を用い、一定温度で反応させる試験です。
主な評価方法には、次の2つがあります。
- 等温熱量計で累積発熱量を測定する方法
- 加熱前後の質量差から結合水量を測定する方法
RILEMによる検討では、さまざまな高炉スラグ、フライアッシュ、焼成粘土、天然ポゾランなどにR3試験が適用され、累積発熱量と結合水量には良好な関係が確認されています。試験方法はASTM C1897-20として規格化されています。
R3試験は、ポルトランドセメントの種類による影響を抑え、混和材そのものの化学的な反応しやすさを比較することを目的としています。
R3試験の数値を反応率と呼ばない
R3試験で得られる代表的な数値は、次のようなものです。
- 混和材1g当たりの累積発熱量
- 乾燥試料100g当たりの結合水量
これらは反応性を示す指標であり、「初期に加えた混和材のうち何%が反応したか」を直接表すものではありません。
したがって、次のような書き方は避けた方がよいでしょう。
避けたい書き方
R3試験により、フライアッシュの反応率は120J/gとなった。
J/gは発熱量の単位であり、割合ではありません。
適切な書き方
R3試験による7日累積発熱量は120J/g-SCMであり、比較試料より高い化学反応性を示した。
実際のセメント硬化体中の反応率を求める場合は、選択溶解法、画像解析、NMRなどを別に行う必要があります。
通常の熱量測定との違い
セメントと混和材を混合したペーストの発熱量には、次の反応が重なっています。
- セメント鉱物の水和
- 混和材の反応
- 微粒子によるセメント水和の促進
- 硫酸塩バランスの変化
- 水結合材比や実質的な水セメント比の変化
反応しない粉体であっても、粒子表面が水和物の生成場所となり、セメントの水和を促進する場合があります。そのため、混合ペーストとセメント単味ペーストの発熱量の差を、そのまま混和材の反応熱とみなすことはできません。R3試験がモデル系を採用しているのは、このようなクリンカ側の影響を小さくするためです。
LC3の評価ではR3試験だけで終わらせない
R3試験は、焼成粘土の反応性を比較するうえで有効です。もともとR3試験は、焼成カオリナイト質粘土の反応性評価を目的として開発され、その後、幅広い混和材へ適用範囲が広げられました。
ただし、実際のLC3では、焼成粘土だけでなく、石灰石、クリンカ、せっこうの量や硫酸塩バランスが水和物の生成に影響します。
そのため、LC3の研究では次のように分けて考えます。
- 焼成粘土原料の反応性:R3試験
- LC3配合中の反応進行:熱量測定、TG、定量XRD、NMR
- 石灰石との反応や相組成:定量XRD、TG、熱力学計算
- 最終的な性能:強度、空隙率、耐久性試験
LC3全体の反応については、LC3セメントとは何か:石灰石焼成粘土セメントの反応と強みも参考になります。
NMR・TG・XRDは反応率評価にどう使うか
固体NMRで未反応原料と水和物を見分ける
固体NMRでは、主に29Si MAS NMRと27Al MAS NMRが使われます。
29Si MAS NMRでは、Si原子の周囲にあるSiやAlの結合状態を、Q⁰、Q¹、Q²などの成分として解析します。セメント鉱物、未反応スラグ、C-S-H、C-A-S-HではSiの結合状態が異なるため、スペクトルを分離できれば、それぞれの量を推定できます。
ただし、高炉スラグの信号とC-S-Hの信号は一部が重なります。NMRのピーク分離だけで反応率を求める場合、ピーク位置、ピーク幅、基準スペクトル、緩和条件などの設定によって結果が変わります。
選択溶解法と29Si MAS NMRを組み合わせ、スラグ由来の信号と水和物由来の信号を分離する方法も提案されています。
NMRが向いているのは、単に「何%反応したか」だけでなく、次の点まで調べたい場合です。
- C-S-HやC-A-S-Hのシリケート鎖がどう変化したか
- Alがどの水和物に取り込まれたか
- 未反応原料と生成物を化学構造から区別したい
- 選択溶解法で回収した残渣の正体を確認したい
一方、測定時間が長く、解析にも専門的な判断が必要です。NMRを使ったからといって、自動的に正確な反応率が得られるわけではありません。
TG-DTAで水酸化カルシウムと結合水を測る
TG-DTAでは、加熱に伴う質量減少から、結合水量、水酸化カルシウム量、炭酸塩量などを推定できます。
フライアッシュ混合系では、ポゾラン反応によって水酸化カルシウムが消費されるため、セメント単味試料とのCH量の差が反応進行の手掛かりになります。
ただし、CH量の差には次の影響も含まれます。
- セメント量の減少による希釈
- フライアッシュ粒子によるセメント水和の促進
- 水結合材比と実質的な水セメント比の違い
- 養生中や前処理中の炭酸化
- C-S-HなどへのCaの取り込み
- セメント自体の水和率の違い
国際的な比較試験でも、CH消費量だけでは混和材の反応を過小評価する場合があり、XRDや電子顕微鏡などによる補正が必要と報告されています。
そのため、TGの結果は次のように扱うのが適切です。
基準試料と比較してCH量が減少し、結合水量が増加したことから、フライアッシュのポゾラン反応が進行した可能性が示された。
CH量からフライアッシュの反応率を計算するには、セメントの水和率や反応生成物の組成を仮定した物質収支が必要です。
高炉スラグの場合は、スラグ自身がCaを含み、CHを単純に消費する反応だけではないため、CH量だけを使った反応率評価には向きません。
CH量の算出方法は、TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する方法で具体的に解説しています。
定量XRDで原料相と水和物を追う
XRDは、エーライト、ビーライト、CH、エトリンガイト、AFm相、カルサイトなどの結晶相を確認する方法です。
内部標準または外部標準を使ったリートベルト解析を行えば、結晶相の含有量を定量できます。
一方、高炉スラグやフライアッシュの主要な反応成分はガラス質であり、C-S-HやC-A-S-Hも結晶性が低い材料です。通常のリートベルト解析では、これらを個別の相として簡単に分離できません。
PONKCS法では、結晶構造が十分に分かっていない非晶質成分について、実測した回折パターンを使って定量する方法が用いられます。混合セメント中の非晶質材料の追跡にも適用されています。
ただし、次の信号が重なりやすいため、解析条件の統一が必要です。
- 未反応高炉スラグの非晶質ハロー
- フライアッシュのガラス質
- C-S-HやC-A-S-H
- その他の非晶質水和物
RILEMの比較試験でも、スラグとC-S-Hの信号の重なりや解析手順の違いにより、XRD-PONKCSの結果にばらつきが生じています。
定量XRDを反応率評価に使う場合は、原料、未水和混合粉体、各材齢の硬化体を同じ測定条件で比較し、使用した標準物質や解析モデルを明記する必要があります。
SEM-BSE画像解析で未反応粒子を数える
研磨したセメント硬化体を反射電子像で観察すると、原子番号や組成の違いによって、未反応セメント、未反応スラグ、フライアッシュ粒子、水和物、空隙などの明るさが変わります。
複数の画像から未反応粒子の面積率を求め、初期状態と比較することで反応率を推定できます。
画像解析の利点は、未反応粒子を直接観察できることです。反応が粒子表面から進んでいる様子や、粒径による違いも確認できます。
一方で、次の条件によって結果が変わります。
- 研磨状態
- 画像の倍率
- 撮影範囲と画像枚数
- 明るさのしきい値
- セメント粒子とスラグ粒子の判別方法
- フライアッシュ粒子内部の空洞や未燃炭素
- 二次元の面積率を体積率として扱う際の仮定
測定者の判断を減らすため、画像取得条件と分類方法をあらかじめ決め、十分な数の視野を測定する必要があります。
目的別に評価法を選ぶ
材料そのものの反応しやすさを比較したい
新しいフライアッシュ、焼成粘土、スラグなどを複数比較する場合は、R3試験が候補になります。
推奨する組み合わせ
- R3試験の累積発熱量または結合水量
- XRFによる化学組成
- XRDによる結晶相と非晶質量
- 粉末度または粒度分布
R3試験だけで順位を付けるのではなく、材料の化学組成、ガラス質量、粉末度も併記すると、反応性が異なる理由を説明しやすくなります。
実際の高炉スラグ反応率を求めたい
高炉スラグを含むセメントペーストでは、次の組み合わせが考えられます。
反応率の主な評価
- 選択溶解法
- SEM-BSE画像解析
- 定量XRDまたはNMR
反応機構を補う評価
- 熱量測定
- TG-DTA
- 29Si・27Al MAS NMR
- SEM-EDS
CH量だけでスラグ反応率を求めるのではなく、残存する未反応スラグを測定できる方法を主な評価にします。
実際のフライアッシュ反応率を求めたい
シリカ質フライアッシュでは、選択溶解法や画像解析によって未反応粒子を測定し、TGやXRDで反応生成物を確認する方法が考えられます。
反応率の主な評価
- 選択溶解法
- SEM-BSE画像解析
- 定量XRD
反応を裏付ける評価
- TG-DTAによるCH量と結合水量
- 熱量測定
- NMR
- SEM-EDS
CH量の減少は有力な情報ですが、セメント水和の変化を含むため、単独で反応率としないことがポイントです。
LC3や焼成粘土を評価したい
焼成粘土原料の比較にはR3試験が使いやすい一方、LC3硬化体の反応を調べるには複数の方法が必要です。
| 調べたい内容 | 主な方法 |
| 焼成粘土原料の反応性 | R3試験 |
| メタカオリンの消費 | 定量XRD、NMR |
| CHの消費 | TG-DTA、定量XRD |
| カーボアルミネート相の生成 | 定量XRD、TG |
| 初期反応速度 | 熱量測定 |
| C-A-S-Hの構造 | 29Si・27Al MAS NMR |
| 最終的な性能 | 強度、空隙率、耐久性試験 |
R3試験の結果が高くても、実配合では石灰石量、せっこう量、クリンカの種類、養生条件によって反応が変わります。
卒論・修論では最低でも2種類の指標を組み合わせる
研究室にある装置が限られている場合、すべての測定を行う必要はありません。
ただし、「混和材が反応した」と結論付けるなら、できるだけ異なる意味を持つ指標を組み合わせます。
高炉スラグの場合
- 選択溶解法または画像解析:未反応スラグの減少
- 熱量測定:反応速度
- TGまたはXRD:水和物の変化
フライアッシュの場合
- 選択溶解法または画像解析:未反応フライアッシュの減少
- TG:CHの消費と結合水量
- XRDまたはNMR:水和物や原料相の変化
反応率を直接測れない場合
研究環境によっては、選択溶解、NMR、定量画像解析が難しいこともあります。
その場合は、「反応率を測定した」とせず、次のように範囲を限定して結論を書きます。
本研究では混和材の反応率を直接定量していないが、累積発熱量の増加、CH量の減少および水和生成物の変化から、混和材の反応が進行した可能性が示された。
測定していない数値を無理に算出するより、測定結果が示せる範囲を明確にした方が、研究として信頼されやすくなります。
評価結果を論文でどう書くか
選択溶解法を使った場合
本研究では、混和材の反応率を、初期混入量に対して材齢ごとに減少した未反応混和材の割合と定義した。未反応量は選択溶解後の残渣から求め、原料混和材の溶解損失およびセメント単味試料に由来する残渣を補正した。
加えて、溶解液、固液比、処理時間、ろ過条件、乾燥条件、反復回数を実験方法に記載します。
R3試験を使った場合
R3試験による7日累積発熱量を、各混和材の化学反応性を比較する指標として用いた。なお、本試験値は実際のセメント硬化体中における混和材の反応率を直接示すものではない。
「反応率」ではなく、「反応性指標」「累積発熱量」「結合水量」と書き分けます。
TG-DTAを使った場合
フライアッシュ混合試料では、セメント単味試料と比較してCH量が減少し、結合水量が増加した。この結果はポゾラン反応の進行を支持する。ただし、CH量はセメントの水和率や炭酸化の影響も受けるため、CH量の差のみからフライアッシュ反応率は算出していない。
複数の方法を組み合わせた場合
選択溶解法により未反応フライアッシュ量が材齢とともに減少した。これに加えて、TG-DTAではCH量の減少、XRDではCHピーク強度の低下が確認された。以上から、フライアッシュの消費とポゾラン反応の進行を相互に確認した。
このように、「未反応原料の減少」と「生成物側の変化」を分けて示すと、結論の根拠が明確になります。
避けたい判断と改善例
| 避けたい判断 | 問題点 | 改善例 |
| 強度が上がったので混和材が反応した | 充填効果やセメント水和の促進も含まれる | 強度に加え、未反応量や水和物を測定する |
| CHが減ったのでFA反応率は40% | CH差とFA消費量は単純に一致しない | CH減少を反応の間接指標として扱う |
| R3試験で反応率を測定した | R3は反応性試験 | 累積発熱量または結合水量を反応性指標とする |
| XRDの非晶質ハローが減ったのでスラグが反応した | C-S-Hなどの非晶質生成物と信号が重なる | PONKCS、NMR、選択溶解などを併用する |
| 残渣が減ったので全量が反応した | 原料の溶解損失や微粒子流出の可能性がある | 原料試料とセメント単味試料で補正する |
反応率評価を始める手順
1.研究で答えたい問いを決める
最初に、次のどちらを知りたいのかを決めます。
- 原料の反応しやすさを比較したい
- 実際の硬化体中で反応した割合を求めたい
前者ならR3試験、後者なら選択溶解法や画像解析などが中心です。
2.原料の状態を測定する
少なくとも、次の情報を確認します。
- 化学組成
- 結晶相
- 非晶質量
- 強熱減量
- 粉末度または粒度分布
原料のガラス質量が分からなければ、「ガラス質のうち何%が反応したか」は計算できません。
3.基準試料を用意する
セメント単味試料や、不活性粉体で置換した試料を用意すると、希釈効果や粒子による水和促進を区別しやすくなります。
4.反応率の主な測定法を1つ決める
反応率を示す場合は、未反応原料を追跡できる方法を中心にします。
- 選択溶解法
- SEM-BSE画像解析
- NMR
- 定量XRD
5.別の方法で反応を確認する
主な測定法とは異なる情報を持つ方法を組み合わせます。
- 原料の消費:選択溶解、画像解析
- 水和物の生成:XRD、NMR、TG
- 反応速度:熱量測定
- 性能への影響:強度、空隙率、耐久性試験
6.反応率の定義と不確かさを書く
研究結果には、次の内容を明記します。
- 反応率の分母
- 原料全体基準かガラス質基準か
- 溶解損失やセメント残渣の補正方法
- 測定の反復回数
- 平均値とばらつき
- 水和停止と乾燥の条件
混和材の反応率は、測定方法によって数%以上の差が生じる可能性があります。小さな差を議論する場合は、測定誤差と試料間のばらつきを分けて考える必要があります。
よくある質問
R3試験だけで高炉スラグやフライアッシュの反応率を求められますか?
R3試験だけでは、実際のセメント硬化体中における反応率は求められません。
R3試験で得られるのは、所定のモデル条件における累積発熱量または結合水量です。原料の反応性比較や品質評価には適していますが、実配合で消費された混和材の割合を求める場合は、選択溶解法、画像解析、NMR、定量XRDなどが必要です。
フライアッシュ混合試料でCHが減れば、ポゾラン反応したと判断できますか?
ポゾラン反応を支持する結果にはなりますが、CH量の減少だけでは断定できません。
セメント量の減少、セメント水和率の変化、炭酸化などでもCH量は変わります。セメント単味試料や不活性粉体を用いた基準試料と比較し、未反応フライアッシュ量や水和物の変化も確認するのが望ましい方法です。
高炉スラグとフライアッシュに同じ選択溶解法を使えますか?
同じ条件をそのまま使えるとは限りません。
高炉スラグとフライアッシュでは、ガラス組成や結晶相、溶解液に対する安定性が異なります。対象材料に対応した手順を選び、未反応原料を同じ条件で処理して残存率を確認する必要があります。
圧縮強度から反応率を推定できますか?
圧縮強度だけから反応率を求めることはできません。
強度には、混和材の化学反応だけでなく、粒子の充填、セメント水和の促進、水結合材比、空隙構造、養生条件などが影響します。強度は最終的な性能を確認する指標として使い、反応率とは分けて評価します。
まとめ:最初に「何を反応率と呼ぶか」を決める
高炉スラグやフライアッシュが反応していることを示す方法は、一つではありません。
評価法を選ぶときは、まず次の区別を付けます。
- R3試験は、材料の反応しやすさを比較する試験
- 選択溶解法や画像解析は、残存する未反応材料から反応率を求める方法
- NMRや定量XRDは、未反応原料と水和生成物の状態を詳しく調べる方法
- TG-DTAや熱量測定は、反応の進行を示す間接的な指標
- 圧縮強度は、反応を含むさまざまな作用の結果
研究を始めるときは、実験計画書の最初に次の一文を書いてみてください。
本研究で評価したいのは、原料の反応性か、実際の配合中における反応率か。
この問いが決まれば、必要な試験方法も整理しやすくなります。
反応率を数値として示す場合は、未反応原料を測定できる方法を中心にし、TG、XRD、NMR、熱量測定などで反応生成物や反応速度を補います。単一の測定値で断定するのではなく、異なる測定原理から同じ傾向を確認することが、混和材の反応を説得力のある形で示す方法です。
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