セメントの細孔溶液とは何か:pH・アルカリ・Ca濃度で読む水和系

セメントの水和反応を学ぶと、C-S-H、CH(水酸化カルシウム)、エトリンガイト、C-A-S-H などの「固体の水和物」に目が向きがちです。しかし、実際のセメント硬化体では、固体だけでなく、そのすき間を満たす細孔溶液も重要です。

細孔溶液とは、セメントペースト内部の毛細管空隙やゲル空隙に存在する強アルカリ性の水溶液のことです。英語では pore solution と呼ばれます。セメントのpH、アルカリ濃度、Ca濃度、OH⁻濃度は、この細孔溶液の中で決まります。

特に、セメント 細孔溶液を理解すると、ASR(アルカリシリカ反応)、AAM(アルカリ活性材料)、混和材の効果、鉄筋腐食、炭酸化、耐久性評価が一つの地図としてつながります。細孔溶液の組成は、水和反応の進行や固相の安定性と関係しており、どの水和物が析出しやすいか、どの相が溶けやすいかを考える入口になります。

細孔溶液とは何か

細孔溶液は、単なる「余った水」ではありません。セメント鉱物が水と反応し、Ca²⁺、OH⁻、Na⁺、K⁺、SO₄²⁻、Al、Si などが溶け込んだ、反応場そのものです。

イメージとしては、セメント硬化体を次の2層で見るとわかりやすいです。

見る対象主な成分役割
固相C-S-H、CH、AFt、AFm、C-A-S-Hなど強度、空隙構造、イオン固定
液相Na⁺、K⁺、Ca²⁺、OH⁻、SO₄²⁻などpH、溶解・析出、劣化反応の場

たとえば、水酸化カルシウム(CH)の役割と反応性を読むと、CHがアルカリ性維持やポゾラン反応に関わることがわかります。ただし、細孔溶液の視点では、CHだけを見ても不十分です。CHはCa²⁺とOH⁻の供給・緩衝に関わりますが、実際のpHやASRリスクには、Na⁺やK⁺といったアルカリ金属イオンも強く関係します。

つまり、セメントの細孔溶液を見るときは、

pHだけでなく、Na⁺/K⁺、Ca²⁺、OH⁻をセットで読む

ことが大切です。

図1:イオン組成の模式図

主要イオンとpH

普通ポルトランドセメント系の細孔溶液は、一般に強アルカリ性です。セメント系材料の初期pHはおおむね 12.0〜13.8 程度とされ、その高pHはポルトランダイト(CH)やセメント中のアルカリ金属成分に由来します。高pHは鉄筋の不動態皮膜を維持するうえで重要ですが、一方でASRなどの劣化反応にも関係します。

主要イオンを整理すると、次のようになります。

成分主な由来細孔溶液での意味
OH⁻CHの溶解、NaOH/KOH相当のアルカリpHを直接支配する
Na⁺セメント中のNa₂O相当分、AAMの活性剤高アルカリ性、ASR、AAM反応に関与
K⁺セメント中のK₂O相当分Na⁺と同様にpH・ASR・導電性に関与
Ca²⁺C₃S/C₂Sの溶解、CH、C-S-H平衡C-S-H生成、CH平衡、ASR生成物に関与
SO₄²⁻石膏、アルカリ硫酸塩エトリンガイト、AFm、初期水和に関与
Al・Si溶解したクリンカー、混和材、AAM前駆体C-A-S-H、N-A-S-H、AFmなどの形成に関与

ここで注意したいのは、pHはOH⁻の指標であって、Na⁺/K⁺/Ca²⁺の分布そのものではないという点です。たとえば同じpHに見えても、Na⁺とK⁺が多い系、Ca²⁺が比較的高い系、混和材によってアルカリがC-S-HやC-A-S-Hに固定されている系では、反応性や耐久性の意味が変わります。

C-S-HやC-A-S-H側の理解を深めるなら、C-A-S-Hの基礎:AlがC-S-Hに入ると何が起きる?と合わせて読むと、液相中のCa・Al・Siと固相側の構造変化がつながりやすくなります。

水和進行でどう変わるか

セメントに水を加えた直後、クリンカー鉱物や石膏、アルカリ硫酸塩などが溶解し、細孔溶液中のイオン濃度が急に上がります。その後、C-S-H、CH、エトリンガイトなどの水和物が析出し、液相と固相の間でイオンが分配されます。

大まかな時間変化は次のように考えると理解しやすいです。

材齢・段階細孔溶液で起きること解釈のポイント
練混ぜ直後Na⁺、K⁺、SO₄²⁻、Ca²⁺、OH⁻が溶出液相が一気に高イオン強度化する
誘導期〜加速期C-S-HやCHが生成し始めるCa²⁺やOH⁻は固相との平衡に支配される
数時間〜数日水和物が増え、空隙水量が減るNa⁺/K⁺は液相に残りやすく、濃縮されることがある
長期材齢混和材反応、アルカリ固定、炭酸化などが進むpHやNa⁺/K⁺濃度は配合・環境で変わる

細孔溶液は、時間とともに「水和反応の結果」を映します。RILEM系のレビューでも、細孔溶液組成は水和反応の理解や、SCM(高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなど)が液相に与える影響を整理するうえで重要な情報源とされています。

図2:時間変化の模式図

混和材・AAM・ASRとの関係

混和材:CHを消費するだけではなく、液相も変える

フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグなどの混和材は、単にCHを消費してC-S-Hを増やす材料ではありません。細孔溶液の観点では、Na⁺/K⁺濃度、Ca²⁺濃度、OH⁻濃度、Al・Si濃度のバランスを変える材料です。

たとえば、ポゾラン反応ではCHが消費され、追加のC-S-HやC-A-S-Hが形成されます。これにより、Ca²⁺やOH⁻の緩衝条件が変わり、さらにC-S-H/C-A-S-Hがアルカリをどの程度取り込むかによって、細孔溶液中のNa⁺/K⁺濃度も変化します。

このため、混和材の効果を読むときは、

「CHが減る」→「pHが下がる」だけで判断しない

ことが重要です。実際には、固相量、空隙水量、アルカリ固定、Ca/Si比、Alの取り込みが重なって、細孔溶液の組成が決まります。

AAM:細孔溶液そのものを設計する材料

AAM(アルカリ活性材料)やジオポリマーでは、NaOHやNa₂SiO₃(水ガラス)などの強アルカリ溶液を使って、フライアッシュ、メタカオリン、高炉スラグなどを溶解・再結合させます。つまり、AAMでは細孔溶液は副産物ではなく、反応を始動させる変数です。

ジオポリマーコンクリートとは?水ガラス(ナトリウムケイ酸塩)の役割でも扱われているように、Na₂SiO₃は溶解反応を促進し、シリケート種を供給し、ゲル構造の形成にも関わります。AAMでは、Na⁺濃度、OH⁻濃度、Si濃度、Ca濃度のバランスが、C-A-S-H、N-A-S-H、あるいはその中間的なゲルの生成に影響します。

したがって、AAMを理解するには、普通ポルトランドセメント以上に「液相側の理解」が必要です。

ASR:pHだけでなくNa/K/Ca/OHの組み合わせで見る

ASR(アルカリシリカ反応)は、反応性骨材中のシリカが高アルカリ性の細孔溶液中で溶解し、アルカリやCaを含む反応生成物を生じ、膨張・ひび割れにつながる劣化現象です。

ここで大事なのは、ASRを「pHが高いから起こる」と単純化しすぎないことです。OH⁻はシリカの溶解に関わりますが、Na⁺/K⁺は高アルカリ性の維持やASR生成物の化学に関わります。さらにCa²⁺も、ASR生成物やC-S-Hとの競合に関係します。ASR研究では、アルカリ濃度やCa濃度がASR生成物形成に強く影響することが報告されています。

つまりASRの液相側は、

OH⁻:シリカを溶かす力
Na⁺/K⁺:高アルカリ環境と生成物化学を支える成分
Ca²⁺:ASR生成物とC-S-H形成の分岐に関わる成分

として読むと整理しやすくなります。

図3:ASR/AAM/耐久性との接続図

どう測るか

細孔溶液の測定には、主に次のような方法があります。

方法概要注意点
高圧抽出法硬化ペーストやモルタルを高圧で圧搾し、細孔溶液を取り出す低水結合材比や長期材齢では液量が少なく難しい
外部溶出測定(ex-situ leaching)粉砕試料を水などで浸出し、溶液を分析する希釈・溶解・再平衡の影響を補正する必要がある
pH測定電極などでpHを測る温度、試料調製、炭酸化、希釈の影響を受けやすい
ICP-OES/ICP-MSNa、K、Ca、Al、Siなどを測る前処理と希釈倍率の管理が重要
イオンクロマトグラフィーOH⁻、SO₄²⁻、Cl⁻などの陰イオンを測る高アルカリ溶液の取り扱いに注意

高圧抽出法は、試料から液相を直接取り出す代表的な方法です。一方、外部溶出測定(ex-situ leaching)は比較的扱いやすいものの、得られる値が元の細孔溶液そのものではなく、粉砕・希釈・再溶解の影響を受けた値である点に注意が必要です。RILEM Technical Lettersの研究でも、Na⁺/K⁺濃度を評価する際、高圧抽出と浸出法の違いや補正の重要性が議論されています。

また、熱力学モデリングと組み合わせると、液相組成と水和物相の関係を同時に考えやすくなります。相平衡や間隙水を含めて理解したい場合は、セメント水和の熱力学モデリング入門も合わせて読むと、細孔溶液の位置づけがより明確になります。

学生が解釈で迷いやすい点

1. 「CHがある=pHは全部CHで決まる」と考えてしまう

CHはCa²⁺とOH⁻の重要な供給源ですが、セメント pH アルカリを考えるうえではNa⁺やK⁺も無視できません。特に長期材齢や混和材使用時には、CH量、アルカリ固定、空隙水量、炭酸化の影響が重なります。

2. pHだけでASRリスクを判断してしまう

pHは重要ですが、ASRではNa⁺/K⁺濃度、Ca²⁺の供給、反応性骨材、湿潤条件、温度も関係します。pHが高いかどうかだけでなく、「どのアルカリが、どれくらい液相に残っているか」を見る必要があります。

3. 全アルカリ量と細孔溶液中アルカリ量を混同する

セメント中のNa₂Oeqが高いことと、細孔溶液中のNa⁺/K⁺濃度が高いことは関係しますが、同じ意味ではありません。アルカリの一部はC-S-HやC-A-S-H、AFm相などに取り込まれる可能性があります。

4. Ca濃度を「C-S-Hが多い少ない」と直結させてしまう

細孔溶液中のCa²⁺濃度は、C-S-H、CH、炭酸塩、硫酸塩系相などとの平衡に影響されます。Ca²⁺が高いからC-S-Hが多い、低いからC-S-Hが少ない、とは単純には言えません。

5. AAMを「アルカリが強いほどよい」と考えてしまう

AAMでは高アルカリ環境が必要ですが、NaOHやNa₂SiO₃の濃度を上げれば必ず性能が良くなるわけではありません。作業性、収縮、未反応アルカリ、白華、ASR的な懸念、ゲル組成の変化も同時に考える必要があります。

まとめ:細孔溶液はセメント化学の“液相側の地図”

セメントの細孔溶液は、C-S-HやCHのように目立つ水和物ではありません。しかし、pH、Na⁺/K⁺、Ca²⁺、OH⁻のバランスを見ることで、セメント系材料の反応と耐久性をかなり立体的に理解できます。

特に重要なのは、次の3点です。

  • pHだけでなく、Na⁺/K⁺、Ca²⁺、OH⁻をセットで読む
  • 固相の水和物と液相の細孔溶液を分けずに考える
  • ASR、AAM、混和材、炭酸化、鉄筋腐食を液相側からつなぐ

セメント化学を学び始めた段階では、C-S-HやCHなどの固相に注目するのが自然です。しかし、そこから一歩進むなら、細孔溶液を見ることが大きな近道になります。

固相が「何ができたか」を教えてくれるなら、細孔溶液は「なぜそれができたか」「次に何が起こりやすいか」を教えてくれるからです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です