お知らせ|研究に役立つ研究設備の検索サイト(キキドコ?)の運用を開始しました!

外部硫酸塩劣化を相平衡で読む:石膏・エトリンガイト・ソーマサイト(Thaumasite)

外部硫酸塩劣化とは、土壌・地下水・海水など外部から侵入する硫酸イオンが、セメント水和物と反応して石膏・エトリンガイト・thaumasiteを生成し、膨張・軟化・強度低下を引き起こす現象です。DEFや下水道腐食との違いを、相平衡の視点から整理します。

外部硫酸塩劣化とは何か

外部硫酸塩劣化、または外部硫酸塩攻撃(External Sulfate Attack, ESA)とは、コンクリートの外側から硫酸イオン(SO₄²⁻)を含む水が侵入し、セメント水和物と反応する劣化現象です。

ここでまず切り分けておきたいのは、似た言葉がいくつかあることです。

現象主な硫酸塩の由来主な特徴
外部硫酸塩劣化地下水・土壌・海水など外部環境石膏・エトリンガイト・thaumasite生成、膨張・軟化
DEF(遅延エトリンガイト生成)セメント中の内部硫酸塩高温履歴後、硬化体内部でエトリンガイトが再生成
下水道腐食(MICC)H₂Sから微生物が生成する硫酸強酸性環境で表層が腐食・断面欠損

外部硫酸塩劣化は、下水道のような強酸腐食そのものではありません。下水道では、硫化水素(H₂S)を起点に微生物が硫酸を生成し、pH2〜3程度の強酸環境でセメント水和物を溶かすことが主問題になります。詳しくは、関連記事の下水道コンクリート管の硫酸腐食対策|MICCの仕組みと耐硫酸管材の選び方で整理しています。

一方、外部硫酸塩劣化では、硫酸塩を含む水がコンクリート内部へ浸透し、反応フロントを形成しながら、AFm相・ポルトランダイト・C-S-Hなどの水和物組成を変えていきます。代表的な劣化症状は、膨張、ひび割れ、表層剥離、ペーストと骨材の付着低下、最終的な軟化・崩壊です。

DEFとの違い

DEF(Delayed Ettringite Formation)は、外部硫酸塩劣化と同じくエトリンガイトが関係するため混同されやすい現象です。しかし、両者の本質は異なります。

DEFは、コンクリートが硬化初期に高温履歴を受け、通常なら初期水和で生成するエトリンガイトが分解・不安定化し、その後の湿潤環境で硬化体内部に再生成する現象です。一般に、65〜70℃程度以上の高温履歴と、その後の水分供給が重要な条件として挙げられます。

詳しくは、下水道コンクリートの隠れた脅威:エトリンガイト遅延生成(DEF)が引き起こす劣化メカニズムと対策も参考にしてください。この記事では、DEFを「硬化後にエトリンガイトが再び生成される現象」として説明し、C₃AやSO₃、養生温度が感受性に関係すると整理しています。

外部硫酸塩劣化との違いを一言でいえば、硫酸塩が外から来るか、内部にあるかです。

観点外部硫酸塩劣化DEF
硫酸塩源外部環境から侵入セメント・混和材など内部由来
典型環境硫酸塩土壌、地下水、海水、硫酸塩を含む水高温養生、マスコンクリート、高温履歴後の湿潤環境
反応の進み方表面から内部へ反応フロントが進行硬化体内部で比較的広く進行
主な生成物石膏、エトリンガイト、条件によりthaumasiteエトリンガイト
対策の軸浸透抑制、低C₃A、混和材、環境遮断温度管理、材料選定、水分管理

石膏・エトリンガイト生成をどう見るか

外部硫酸塩劣化を理解するうえで重要なのは、「硫酸イオンが来たら必ずエトリンガイトだけができる」と単純化しないことです。実際には、細孔溶液のpH、カルシウム濃度、アルミネート相、炭酸塩、硫酸塩濃度、温度などによって、安定になりやすい相が変わります。

典型的には、硫酸イオンが侵入すると、まずポルトランダイト Ca(OH)₂ やC-S-Hから供給されるCa²⁺と反応して、二水石膏 CaSO₄·2H₂O が生成します。さらに、セメント中のC₃A由来のAFm相、特にモノサルフェート相が硫酸イオンと反応すると、エトリンガイトが生成します。

簡略化すると、外部硫酸塩劣化の相変化は次のように読めます。

このとき、エトリンガイトは膨張性生成物として注目されますが、石膏も重要です。石膏生成は固相体積を増やすだけでなく、C-S-Hの脱カルシウム化やペースト組織の軟化にも関係します。硫酸マグネシウム(MgSO₄)の場合は、Na₂SO₄やK₂SO₄よりも劣化が厳しくなることがあり、ブルーサイト Mg(OH)₂ やM-S-Hの生成を伴ってC-S-H自体がより深く変質します。

Thaumasiteはいつ問題になるか

Thaumasite(ソーマサイト)は、外部硫酸塩劣化の中でもやや特殊な生成物です。通常のエトリンガイト型硫酸塩劣化が主にアルミネート相を巻き込むのに対し、thaumasite型硫酸塩劣化では、C-S-Hのシリケート骨格そのものが反応に巻き込まれる点が大きな違いです。

Thaumasiteの生成には、一般に次の条件が関係します。

  • 硫酸塩が存在する
  • 炭酸塩源が存在する
  • 十分な水分がある
  • 比較的低温で湿潤な環境である
  • C-S-Hが反応に巻き込まれる

Thaumasiteの化学式は、しばしば CaSiO₃·CaCO₃·CaSO₄·15H₂O と表されます。低温、特に4〜10℃程度の環境で形成されやすいとされ、進行するとコンクリートやモルタルが「mush」と表現されるような脆い状態になることがあります。

注意したいのは、thaumasiteはエトリンガイトと違ってアルミニウムを必須としないことです。そのため、低C₃Aセメントや硫酸塩抵抗性セメントを使っても、硫酸塩・炭酸塩・低温湿潤条件がそろえば、thaumasite型劣化を完全には避けられない場合があります。

近年の研究でも、MgSO₄溶液に曝露したセメントペーストではNa₂SO₄曝露とは異なり、thaumasiteやbruciteが顕著に確認され、熱力学的相平衡計算によってその相組成がよく再現されたことが報告されています。

相平衡での整理

外部硫酸塩劣化を相平衡で読むとは、単に「硫酸塩が入ると膨張する」と見るのではなく、その環境でどの固相が安定になり、どの水和物が消えるのかを考えることです。

セメント硬化体の中では、C-S-H、ポルトランダイト、AFm、AFt、炭酸塩相、未反応クリンカー、細孔溶液が共存しています。ここに外部からSO₄²⁻が入ると、系は新しい平衡に向かいます。

相平衡的には、次のような見方ができます。

環境条件安定化しやすい相劣化の読み方
Ca²⁺が多く、硫酸塩が供給される石膏ポルトランダイト消費、表層変質
Al相があり、SO₄²⁻が増えるエトリンガイトAFmからAFtへの変換、膨張リスク
MgSO₄が作用する石膏、brucite、M-S-HC-S-Hの脱カルシウム化、強度低下
炭酸塩+硫酸塩+低温湿潤ThaumasiteC-S-H分解、軟化・崩壊リスク
pH低下が大きいC-S-H不安定化膨張よりも溶解・軟化が支配的

この整理で重要なのは、劣化生成物を「原因」としてだけ見ないことです。石膏やエトリンガイトは、硫酸塩が侵入した結果として現れる相でもあります。したがって、XRDやSEM-EDSで石膏・エトリンガイトが見つかったとしても、それだけで「膨張原因はこれ」と断定するのではなく、反応位置、ひび割れの先後関係、硫酸塩濃度分布、pH、ペーストの脱カルシウム化を合わせて読む必要があります。

配合・混和材・環境条件でどう変わるか

外部硫酸塩劣化の進行は、セメントのC₃A量だけで決まるわけではありません。もちろん、C₃AやAFm相が多いほど、硫酸塩と反応してエトリンガイトを生成する余地は増えます。そのため、低C₃Aセメントや硫酸塩抵抗性セメントは、エトリンガイト型の硫酸塩劣化に対して有効な選択肢です。

しかし、実構造物では、次の要因をまとめて考える必要があります。

  • 水セメント比、または水結合材比
  • コンクリートの緻密性
  • ひび割れの有無
  • 養生の良否
  • 硫酸塩濃度
  • 硫酸塩の種類、特にNa₂SO₄かMgSO₄か
  • pH
  • 温度
  • 乾湿繰り返し
  • 炭酸塩源の有無
  • 高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどの混和材

高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの混和材は、組織を緻密化し、外部イオンの浸透を抑え、ポルトランダイト量やアルミネート相の反応性を変えることで、硫酸塩抵抗性を改善する場合があります。ただし、MgSO₄環境や低pH環境では、単純に「混和材を入れれば安全」とは言えません。MgSO₄ではC-S-Hの脱カルシウム化やbrucite生成を伴い、膨張だけでなく強度低下が重要な評価指標になります。

したがって、設計上は次のように考えるのが実務的です。

まとめ

外部硫酸塩劣化は、セメント硬化体に外部からSO₄²⁻が侵入し、石膏・エトリンガイト・thaumasiteなどの相を生成しながら進む化学的劣化です。

ただし、ひとくちに硫酸塩劣化といっても、DEF、下水道MICC、thaumasite型劣化では、硫酸塩源、pH、温度、反応する水和物、支配的な損傷形態が異なります。

この記事の要点を整理すると、次の通りです。

  • 外部硫酸塩劣化は、地下水・土壌・海水など外部からのSO₄²⁻侵入で起こる。
  • DEFは内部硫酸塩と高温履歴が関係する内部膨張であり、外部硫酸塩攻撃とは区別する。
  • 下水道腐食はH₂Sと微生物由来の硫酸による強酸腐食であり、通常の外部硫酸塩劣化とは分けて考える。
  • 石膏とエトリンガイトは代表的な劣化生成物だが、MgSO₄環境ではC-S-Hの分解やbrucite生成も重要になる。
  • Thaumasiteは硫酸塩・炭酸塩・低温湿潤条件で問題になり、C-S-H自体を劣化させる。
  • 相平衡で見ると、「どの相が安定化し、どの水和物が消費されるか」を整理しやすい。

外部硫酸塩劣化を正しく理解するには、「エトリンガイトができるから膨張する」という一文で終わらせず、石膏・AFm・AFt・C-S-H・thaumasiteの相変化として読むことが大切です。セメント化学としては少し複雑ですが、この視点を持つと、配合設計、材料選定、劣化診断、補修方針のつながりがかなり見えやすくなります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です