AFm相とは何か
AFm相とは、セメントの水和反応で生成するカルシウムアルミネート系の層状水和物の総称です。AFmは “Alumina, Ferric oxide, mono” に由来する名前で、単一の相名というより、層間に入る陰イオンが変わることでさまざまな種類をとる「相のファミリー」と考えると理解しやすくなります。
代表的なAFm相には、次のようなものがあります。
| AFm相 | 主な層間陰イオン | セメント化学での位置づけ |
|---|---|---|
| モノサルフェート | SO₄²⁻ | 石膏が消費された後に生じやすい硫酸塩系AFm |
| モノカーボネート | CO₃²⁻ | 石灰石微粉末の存在下で重要なカーボネート系AFm |
| ヘミカーボネート | CO₃²⁻ + OH⁻ など | モノカーボネートへの中間的・共存的な相として現れることが多い |
| フリーデル氏塩 | Cl⁻ | 塩化物固定と関係するAFm |
| ストラトリンガイト | Siを含むAFm系相 | 混合材・低クリンカー系で重要 |
AFm相の基本構造は、ハイドロカルマイト型の層状構造に近く、一般にカルシウムとアルミニウムを含む正に帯電した層と、その間に入る陰イオン・水分子から構成されます。古典的には、AFm相は 4CaO・Al₂O₃・13–19H₂O 型の水和カルシウムアルミネートを基盤にした相群として説明されます。
つまり、AFm相を理解するコツは「C3Aが何と反応したか」を見ることです。硫酸塩が多ければエトリンガイトやモノサルフェートへ、炭酸塩が関与すればモノカーボネートやヘミカーボネートへ進みます。C3Aそのものの役割は、先に セメント鉱物C3A(アルミネート相)の特性と役割 を読むとつながりやすくなります。
AFtとAFmの違い
セメントのアルミネート系水和物を学ぶとき、AFm相はAFt相と対で理解すると整理しやすくなります。
AFt相の代表はエトリンガイトです。一方、AFm相の代表はモノサルフェートやモノカーボネートです。どちらもC3A由来のアルミニウムを含む水和物ですが、構造と役割が異なります。
| 項目 | AFt相 | AFm相 |
|---|---|---|
| 代表相 | エトリンガイト | モノサルフェート、モノカーボネート、ヘミカーボネート |
| 構造の特徴 | 針状・柱状結晶として説明されることが多い | 層状構造 |
| 主な生成時期 | 初期水和で生成しやすい | 石膏消費後や炭酸塩存在下で重要 |
| セメント中での役割 | 凝結制御、初期組織形成 | 硫酸塩・炭酸塩・塩化物などの固定、相平衡の調整 |
| 見分けるポイント | XRDでAFtピーク、TGで低温脱水 | XRDで8.5〜12°付近の基底反射、TGでAFm由来の脱水 |
AFtとAFmの関係を単純化すると、次のようになります。

重要なのは、AFm相は「エトリンガイトの後に必ずできる副産物」ではなく、硫酸塩・炭酸塩・アルミネート量のバランスで安定相が変わる層状水和物だという点です。ポルトランドセメントの水和では、炭酸塩と硫酸塩の量に応じて、モノサルフェート、モノカーボネート、ヘミカーボネートのいずれか、または複数のAFm相が共存することが報告されています。
モノサルフェートとカーボネート系AFm
AFm相のなかでも、セメント分野で特に重要なのがモノサルフェート、モノカーボネート、ヘミカーボネートです。
モノサルフェート
モノサルフェートは、層間に硫酸イオンを含むAFm相です。セメントの初期水和では、C3Aと石膏が反応してまずエトリンガイトが生成します。その後、石膏が不足すると、エトリンガイトの一部がC3Aと反応してモノサルフェートへ移行する、という説明がよく使われます。
ただし、現代のセメントでは石灰石微粉末が含まれることが多いため、単純に「エトリンガイト → モノサルフェート」とだけ考えると不十分です。炭酸塩が存在すると、モノサルフェートの代わりにカーボネート系AFmが生成しやすくなります。
モノカーボネート
モノカーボネートは、層間に炭酸イオンを含むAFm相です。石灰石微粉末、つまり主成分としてCaCO₃を含む材料が存在すると、C3Aや他のアルミネート源から供給されるAlと反応し、モノカーボネートが生成します。
石灰石微粉末を含むセメントでは、ヘミカーボネートやモノカーボネートの生成と、エトリンガイトの安定化が報告されています。石灰石を含まない場合にはエトリンガイトの一部がモノサルフェートへ移行しやすいのに対し、石灰石があるとカーボネート系AFmが形成され、AFt/AFmのバランスが変わります。
このため、モノカーボネートは石灰石セメント、ポルトランド石灰石セメント、さらにはLC3のような低クリンカー系セメントを理解するうえで欠かせません。
ヘミカーボネート
ヘミカーボネートは、モノカーボネートと同じくカーボネート系AFmに分類されますが、層間の組成が異なります。実際のセメントペーストでは、ヘミカーボネートが長期材齢でも観察されることがあります。
熱力学的にはモノカーボネートが安定と予測される条件でも、ヘミカーボネートが実測されるケースがあり、硫酸塩や塩化物など他の陰イオンを取り込んだ固溶体として安定化することが示されています。
つまり、ヘミカーボネートは「モノカーボネートになる前の一時的な相」とだけ見るより、セメント中の硫酸塩・炭酸塩・塩化物のバランスを反映するAFm相として捉える方が実態に近いです。
AFm相|硫酸塩・炭酸塩・アルミネートのバランス
AFm相を理解するときは、「どの成分が多いと、どの相が安定しやすいか」を整理すると見通しがよくなります。特に重要なのは、C3Aなどから供給されるアルミネート、石膏由来の硫酸塩、石灰石微粉末由来の炭酸塩の3つです。
AFm相は、層間に入る陰イオンの種類によって、モノサルフェート、ヘミカーボネート、モノカーボネートなどに分かれます。C3Aは硫酸塩や炭酸塩の存在下でAFm相を生成し、硫酸塩と炭酸塩の比率によって生成しやすいAFm相が変わります。C3A、硫酸塩、炭酸塩を組み合わせた実験でも、モノサルフェート、ヘミカーボネート、モノカーボネートなどのAFm相が生成することが報告されています。
模式的に整理すると、次のようになります。
| 条件 | 主に起こりやすい反応 | 生成・残存しやすい相 |
|---|---|---|
| 硫酸塩が十分にある | C3Aが石膏と反応する | エトリンガイト、AFt相 |
| 硫酸塩が不足してくる | エトリンガイトがC3Aと反応しやすくなる | モノサルフェート、AFm相 |
| 炭酸塩が少ない | 硫酸塩系AFmが優勢になりやすい | モノサルフェート |
| 炭酸塩が存在する | 炭酸塩がAFm相の層間に入る | ヘミカーボネート、モノカーボネート |
| 炭酸塩が十分にある | 硫酸塩系AFmよりカーボネート系AFmが安定しやすい | モノカーボネート |
これを、テキストで表すと次のようになります。
C3A + 石膏 + 水
↓
エトリンガイト(AFt相)
↓ 石膏が不足する
モノサルフェート(硫酸塩系AFm)一方で、石灰石微粉末がある場合C3A + CaCO3 + 水
↓
ヘミカーボネート
↓
モノカーボネート(カーボネート系AFm)
つまり、石灰石微粉末がない、または炭酸塩が少ない系では、C3Aと硫酸塩の反応からモノサルフェートが重要になります。一方、石灰石微粉末が存在する系では、炭酸塩がAFm相に取り込まれ、ヘミカーボネートやモノカーボネートが生成しやすくなります。
この点は、石灰石微粉末を含むセメントを理解するうえで非常に重要です。セメントペースト中にCO₂または炭酸塩が十分に存在すると、モノサルフェートの代わりにヘミカーボネートやモノカーボネートが生成しやすくなることが報告されています。特に、炭酸塩によってモノサルフェートへの変化が抑えられ、カーボネート系AFmが形成される点は、石灰石セメントの反応を考えるうえで欠かせません。
さらに、炭酸塩を含むAFm相では、一般に炭酸塩量が増えるにつれて、ヘミカーボネートからモノカーボネートへ移行しやすくなります。AFm相の安定性は層間に入る陰イオンに左右され、カーボネート系AFmは硫酸塩系AFmと競合しながら相組成を変化させます。
整理すると、AFm相の見方は次の3段階で考えるとわかりやすくなります。
| 見るポイント | 確認したいこと |
|---|---|
| C3A・アルミネート量 | AFm相をつくるAl源がどれだけあるか |
| 石膏・硫酸塩量 | エトリンガイトが安定するか、モノサルフェートへ進むか |
| 石灰石微粉末・炭酸塩量 | ヘミカーボネートやモノカーボネートが生成するか |
石灰石微粉末でAFm相が重要になる理由
石灰石微粉末は、単なる不活性フィラーではありません。もちろん粒子充填効果や核生成効果もありますが、セメント化学の観点では、CaCO₃がアルミネート相と反応してカーボネート系AFmを形成することが重要です。
特に次のような配合では、AFm相の理解が欠かせません。
- ポルトランド石灰石セメント
- 石灰石微粉末を混和したセメント
- 高炉スラグやフライアッシュを含む混合セメント
- 石灰石+焼成粘土を用いるLC3
- 低クリンカー型の環境配慮セメント
LC3では、焼成粘土から供給される反応性アルミナと、石灰石由来の炭酸塩が反応し、カーボネート系AFmの形成が促進されます。近年のLC3レビューでも、焼成粘土中のアルミナと石灰石中の炭酸塩の相互作用が、カーボアルミネート相の生成や微細構造の緻密化に関係することが整理されています。
また、石灰石が存在すると、アルミニウムの一部がモノカーボネートやヘミカーボネートAFmとして消費されるため、ストラトリンガイトの生成が抑制される場合があります。これはLC3や焼成粘土系セメントで重要な論点です。
このように、AFm相は単なる水和物名ではなく、低CO₂セメントの反応設計を読み解くための相でもあります。
XRDでAFm相をどう見るか
AFm相はXRDで確認される代表的な水和物ですが、ピークの重なりや乾燥状態の影響を受けやすいため、解釈には注意が必要です。
特に注目されるのは、Cu Kα線を用いたXRDでおおむね8.5〜12° 2θ付近に現れるAFm相の基底反射です。この範囲のピーク位置は、層間に入る陰イオンや水分量によって変化します。
XRD模式図:AFt・AFmの低角側ピークイメージ
Cu Kα, 2θ
8° 9° 10° 11° 12° 13°
|---------|----------|----------|----------|----------|
▲
AFt
▲
モノサルフェート系AFm
▲
ヘミカーボネート系AFm
▲
モノカーボネート系AFm
※ピーク位置は試料条件、乾燥状態、固溶、測定条件で変動する。
XRDでAFm相を見るときのポイントは、次の3つです。
1つ目は、低角側を見ることです。AFm相は層状構造をもつため、基底反射が低角側に現れます。通常の鉱物相だけを追っていると、AFm相の変化を見落としやすくなります。
2つ目は、エトリンガイトとの関係を見ることです。AFtが減少し、モノサルフェートが増えるのか、それとも石灰石微粉末によってカーボネート系AFmが増えるのかを比較します。
3つ目は、ピーク位置だけで断定しないことです。ヘミカーボネートは乾燥状態や固溶の影響を受けやすく、湿潤条件と乾燥条件で基底間隔の解釈が変わることがあります。ヘミカーボネート系固溶体の評価では、湿潤条件での測定が重要であることも指摘されています。
TG・DTGでAFm相をどう見るか
TG・DTGでは、水和物が加熱により脱水・分解する温度域を見ます。AFm相は、C-S-HやAFtと温度域が重なりやすいため、XRDと組み合わせて判断するのが基本です。
TG・DTGで見る主な温度域の模式図
温度域 主に関係する相
------------------------------------------------
~105℃ 自由水・吸着水
80~130℃ AFt、C-S-Hの一部
130~180℃ AFm相の脱水
400~500℃前後 水酸化カルシウム CH
600~800℃前後 CaCO3、炭酸塩相の分解
------------------------------------------------
AFm相については、130〜180℃付近で水を放出する範囲が報告されています。 また、モノサルフェート、ヘミカーボネート、モノカーボネートなどのAFm相は、180℃付近のDTGピークとして整理されることがあります。
ただし、TGだけで「これはモノカーボネート」「これはヘミカーボネート」と断定するのは危険です。AFm相、C-S-H、AFtの脱水域は部分的に重なります。したがって、AFm相の同定では、次のように複数の情報を組み合わせるのが安全です。
| 分析手法 | 見るポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| XRD | AFmの基底反射、AFtとの共存 | 低角側ピークの重なり、乾燥影響 |
| TG/DTG | 130〜180℃付近の脱水、CaCO₃の分解 | C-S-HやAFtとの重なり |
| SEM/EDS | Al、Ca、S、C、Clなどの分布 | 微細相の同定は単独では困難 |
| NMR | Alの配位状態、AFm/AFtの違い | 専門性が高く、解釈に注意 |
XRDは「どの結晶相があるか」を見る手法、TGは「どの温度域で質量減少があるか」を見る手法です。AFm相では、両方を組み合わせることで、モノサルフェート系なのか、カーボネート系なのかをより確からしく判断できます。
AFm相を理解するとセメント水和の見方が変わる
AFm相を理解すると、セメント水和を単なる「C3SがC-S-Hをつくる反応」だけでなく、アルミネート相が硫酸塩・炭酸塩・塩化物をどう固定するかという視点で見られるようになります。
たとえば、次のような疑問がつながります。
- なぜC3Aには石膏が必要なのか
- なぜ石灰石微粉末を入れるとエトリンガイトやAFm相のバランスが変わるのか
- なぜ低クリンカーセメントではアルミナ源と炭酸塩の関係が重要なのか
- なぜXRDで8〜13°付近を見る必要があるのか
- なぜTGだけで相同定するのは危ないのか
AFm相は、エトリンガイト、C3A、石灰石微粉末、LC3、ストラトリンガイト、DEFなどをつなぐ「橋渡し」のような相です。特にAFt相との違いを理解しておくと、硬化後のエトリンガイト再生成や膨張劣化を扱う 下水道コンクリートの隠れた脅威:エトリンガイト遅延生成(DEF)が引き起こす劣化メカニズムと対策 も読みやすくなります。
まとめ
AFm相は、セメント中で生成する層状のカルシウムアルミネート系水和物です。代表的なものに、モノサルフェート、モノカーボネート、ヘミカーボネートがあります。
AFt相であるエトリンガイトが、C3Aと石膏の初期反応を理解するうえで重要なのに対し、AFm相はその後の硫酸塩・炭酸塩・アルミネートのバランスを読み解くうえで重要です。特に石灰石微粉末を含むセメントでは、カーボネート系AFmの生成が相組成や細孔構造、エトリンガイトの安定性に関係します。
XRDでは8.5〜12°付近の低角側ピーク、TG・DTGでは130〜180℃付近の脱水挙動が手がかりになります。ただし、AFm相は他の水和物とピークや温度域が重なりやすいため、XRD、TG、必要に応じてSEM/EDSやNMRを組み合わせて判断することが大切です。
これから石灰石セメントやLC3のような低CO₂セメントを学ぶなら、AFm相は避けて通れません。C3A、エトリンガイト、石灰石微粉末の反応をつなぐ中心的な水和物として、まずは「AFm=層状相」「AFt=エトリンガイト系相」という違いから押さえておくと、セメント化学の全体像がかなり見えやすくなります。


