2026年、下水道法を中心とする法律が大きく改正されました。
今回の改正で特に注目したいのは、下水道施設の安全性を確認する仕組みだけでなく、維持管理の状況や将来の収支を市民に分かる形で示しながら、下水道を長期的に維持していく方向が明確になったことです。
具体的には、維持管理状況の公表、施設の計画的な改築、改築費用を含む収支見通しの作成・公表、将来の改築に必要な資金を考慮した下水道使用料の算定などが盛り込まれています。
一方で、
「下水道料金がすぐに値上げされるのでは?」
「自分たちの生活に何が関係するの?」
と疑問に感じる方もいるでしょう。
先に結論を示すと、今回の法改正によって全国の下水道使用料が一律に値上げされるわけではありません。
ただし、老朽化した施設を将来にわたって維持・更新するために必要な費用を明らかにし、その財源について利用者にも分かる形で考えていく方向は、これまで以上に強くなります。
この記事では、2026年の改正下水道法について、一般の利用者にも関係する内容を中心に解説します。
※この記事は2026年8月24日時点の情報を基にしています。
2026年の改正下水道法とは
今回の法律の正式名称は「下水道法等の一部を改正する法律」です。
2026年3月27日に法案が国会へ提出され、5月26日に衆議院、7月15日に参議院で可決されました。その後、2026年7月23日に「令和8年法律第65号」として公布されています。
国土交通省は今回の改正について、大きく次の3つに整理しています。
- 安全性の確保を最優先する下水道管理の確立
- 道路地下空間の安全性確保
- 下水道事業を支える基盤の強化
つまり、単に「古くなった下水道管を点検する」という改正ではありません。
点検、修繕、改築、経営、自治体間の連携まで含めて、下水道を将来にわたって維持する仕組みを見直す法律と考えると分かりやすいでしょう。
なお、2026年8月24日時点ですべての改正内容が施行されているわけではありません。
改正法の主要な規定は、原則として公布日から6か月以内の政令で定める日から施行されます。このうち、災害時に都道府県が市町村に代わって公共下水道の復旧工事を行える制度については、2026年8月17日にすでに施行されています。
なぜ2026年に下水道法が改正されたのか
八潮市で発生した大規模な道路陥没事故
今回の法改正を考えるうえで外せないのが、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故です。
八潮市中央一丁目の県道交差点で大規模な陥没が発生し、走行中のトラックが転落しました。埼玉県は当時、中川流域下水道の下水道管の破損に起因するとみられる陥没と発表しています。
国土交通省によると、この事故では約120万人に対して入浴や洗濯などの下水道使用を控えるよう求めるなど、広い範囲に影響が及びました。
普段、下水道管を見る機会はほとんどありません。
しかし、一度大きな下水道管が機能を失えば、道路交通だけでなく、トイレ、入浴、洗濯など、普段の生活そのものに影響します。
八潮市の事故や大口径下水道管の構造については、八潮市の事故と下水道シールド管について解説した記事でも詳しく紹介しています。
全国で進む下水道施設の老朽化
日本の下水道は、高度経済成長期以降に急速に整備されてきました。
その結果、整備された時期が近い下水道施設が、今後まとまって更新時期を迎えていきます。
国土交通省も今回の法改正の背景として、八潮市の事故だけでなく、施設の老朽化や下水道事業を担当する職員数の減少などにより、事業環境が厳しくなっていることを挙げています。
日本の下水道がどのように整備され、なぜ現在「整備する時代」から「維持する時代」へ移っているのかについては、日本の下水道史とコンクリート技術の発展をまとめた記事も参考になります。
改正下水道法の主な変更点
今回の法改正は多岐にわたります。
一般の利用者との関係が分かりやすいものを中心に整理すると、次のようになります。
| 主な変更 | 内容 |
|---|---|
| 安全性の診断 | 下水道施設の安全性を評価する診断基準を法制化 |
| 維持管理状況の公表 | 診断結果など一定の情報を公表 |
| 計画的な改築 | 長期的な視点から計画的に施設を改築 |
| 収支見通し | 改築費用を含む収支見通しを作成・公表 |
| 下水道使用料 | 将来の改築資金を含めた使用料算定の考え方を明確化 |
| 広域連携 | 複数自治体による共同管理などを進めやすくする |
| 災害・事故対応 | 都道府県による復旧工事の代行制度などを整備 |
| 道路管理者との連携 | 地下空間の点検や維持管理について連携を強化 |
ここから、特に重要な項目を詳しく見ていきます。
維持管理状況の公表が義務付けられる
今回の改正で大きなポイントとなるのが、下水道施設の状態を「見えるようにする」ことです。
改正後の下水道法では、公共下水道管理者に対し、施設の工事や維持管理の状況に関する一定の情報を、インターネットなどを利用して公表することを求めています。
ここで重要なのは、単に自治体が点検を実施するだけではなく、その状況を外部から確認できる仕組みにすることです。
これまでにも自治体は下水道事業に関するさまざまな資料を公開してきました。
しかし、一般の利用者にとって、
「自分の地域の下水道管はどのような状態なのか」
「どのくらい修繕や更新が必要なのか」
といったことを知るのは簡単ではありませんでした。
今回の改正は、下水道管理を自治体内部だけの情報にせず、市民にも示していく方向をより明確にしたものといえます。
計画的な改築と「収支見通し」の作成・公表
施設の状態を把握できても、修繕や更新に必要なお金がなければ、下水道を維持することはできません。
そこで今回の改正では、公共下水道管理者に対して、長期的な視点から計画的に施設を改築することを求めています。
さらに重要なのが、改築に必要な費用を含む、下水道管理の収支見通しを作成して公表することです。
ただし、ここは注意が必要です。
維持管理状況について一定の情報を公表することは「義務」とされていますが、計画的な改築と収支見通しの作成・公表は「努力義務」です。
つまり、法律上の扱いは同じではありません。
それでも、将来どれくらいのお金が必要になり、その費用をどのように賄うのかを利用者に示す方向が法律に盛り込まれたことは、大きな変化です。
国会審議でも、国土交通省は、下水道事業への住民の理解を高め、自分たちの地域の下水道のあり方を判断しやすくするため、分かりやすい収支見通しの作成・公表を進める考えを示しています。
下水道使用料の算定は何が変わるのか
一般の利用者にとって、最も気になるのは下水道使用料ではないでしょうか。
改正前の下水道法でも、下水道使用料には一定の算定原則が定められていました。
今回の改正では、その考え方に**「改築を実施するため将来必要となる資金として積み立てるべき額」**を加える内容が盛り込まれています。
簡単にいえば、
「今の下水道を動かすために必要なお金」
だけでなく、
「将来、古くなった施設を更新するために必要なお金」
についても、使用料を考える際に意識する仕組みへ変わるということです。
改正下水道法で下水道料金は値上げされる?
ここで誤解してはいけないのが、
法改正=全国一律の下水道料金値上げ
ではないということです。
今回の法律によって、国が全国一律の下水道使用料を決めるわけではありません。
実際の使用料は、それぞれの自治体が施設の状況や経営状況などを踏まえて決めます。
そのため、
- 現在の使用料収入
- 今後必要となる維持管理費
- 施設の更新費用
- 人口や使用水量の見通し
- 自治体の経営状況
などによって状況は異なります。
一方で、将来の改築に必要な資金まで含めた収支が明らかになれば、現在の使用料水準で持続的に事業を運営できるのかを考える材料は増えます。
その結果として、使用料の見直しを検討する自治体が出てくる可能性はあります。
重要なのは「値上げするか、しないか」だけではありません。
なぜその使用料なのか、将来どれくらい費用が必要なのかを利用者が確認できることが、今回の改正ではより重要になっています。
自治体だけでは維持が難しい場合は広域連携を進める
もう一つの大きな変更が、自治体間の連携です。
下水道は基本的に、それぞれの地方公共団体が管理しています。
しかし、人口が減少する地域などでは、技術者や職員を確保しながら、自治体単独で点検、修繕、改築を続けていくことが難しくなる可能性があります。
そこで改正法では、都道府県が「広域連携推進計画」を策定する制度を設け、複数の下水道管理者が協力して事業を運営しやすくします。
また、本来は市町村が管理する公共下水道を一定の場合に都道府県が管理したり、自治体間の協議によって点検、修繕、改築などを別の自治体が行ったりできる仕組みも設けられます。
「すべての自治体が何でも単独で行う」のではなく、必要に応じて地域全体で下水道を維持する方向へ進めるための改正です。
道路と下水道の管理も連携を強化
下水道管の多くは道路の地下にあります。
そのため、下水道管理者だけでなく、道路を管理する側との情報共有も重要です。
今回の改正では、下水道の点検に道路管理者の協力が必要な事項を下水道の事業計画に記載できるようになります。
道路法についても改正され、道路管理者と道路の地下にある施設の管理者が、点検や修繕について協力するための仕組みが設けられます。
地下にある施設は地上から状態を確認しにくいからこそ、道路と下水道を別々に管理するだけでなく、情報を共有しながら安全を確保することが重要になります。
下水道管そのものの腐食や劣化について詳しく知りたい場合は、下水道コンクリート管の硫酸腐食と対策を解説した記事も参考にしてください。
今回の法改正は「下水道経営の見える化」という点でも重要
今回の改正は、施設の安全対策に注目が集まりやすいですが、下水道経営という面から見ても重要です。
下水道を維持するには、
- 点検
- 清掃
- 修繕
- 改築
- 処理場の運転
- 職員の確保
などに継続的な費用がかかります。
施設が老朽化すれば、更新のための費用も必要です。
つまり、
安全な下水道を維持する問題と、下水道事業を持続的に経営する問題は切り離せません。
今回の改正では、施設の維持管理状況に加え、改築費用を含む収支見通しや使用料算定についても見直されました。
これは、市民が「自分の自治体の下水道は今後も維持できるのか」を考えるための情報が、これまで以上に重要になることを意味します。
一般の利用者は何を見ればよいのか
では、私たちは自分の地域の下水道について、何を確認すればよいのでしょうか。
最初から自治体の決算書をすべて読む必要はありません。
まず確認したいのは、
- 毎月どれくらい下水道使用料を払っているか
- 使用料収入で汚水処理費をどの程度賄えているか
- 汚水1m³を処理するためにどれくらい費用がかかっているか
- 他の自治体と比べてどのような位置にあるか
- 最近、使用料が改定されているか
といった基本的な数字です。
自治体や総務省は、これらを判断するための決算情報を毎年公開しています。
しかし、公営企業の決算資料は項目が多く、下水道に詳しくない人が自分の自治体の状況を把握するのは簡単ではありません。
そこで、全国の自治体の下水道経営に関するデータを調べやすい形に整理したのが「まる見え!全国の下水道使用料」です。
自分の自治体の下水道経営を調べると、経費回収率や使用料単価などの情報を自治体ごとに確認できます。
また、地域全体の傾向を知りたい場合は、全国の下水道経費回収率を地図で確認することもできます。
2026年8月24日時点では、2024年度の総務省「地方公営企業決算状況調査」などを基にしたデータを掲載しています。
あなたのまちの下水道使用料はどのくらい?
下水道は普段見えないからこそ、数字を見ることが重要
水道は蛇口から水が出てくるため、比較的身近な存在です。
一方、使った水が流れていく下水道管は、ほとんどが地下にあります。
処理場やポンプ場を見る機会も多くありません。
そのため、下水道は生活に欠かせないにもかかわらず、普段は意識されにくい社会基盤です。
しかし、八潮市の事故が示したように、大規模な下水道が機能を失えば、道路交通だけでなく、多くの人の日常生活にも影響します。
その下水道を適切に維持していくためには、施設の状態を確認することに加えて、それを支える財源についても考える必要があります。
だからこそ、今回の改正で進められる「見える化」は、自治体や下水道関係者だけの問題ではありません。
利用者側も、
「自分の自治体ではどのような状況なのか」
と関心を持つことが、下水道を将来にわたって維持していくための第一歩になります。
まとめ
2026年に成立した改正下水道法では、下水道施設の老朽化や八潮市の道路陥没事故などを背景に、下水道を安全かつ持続的に管理するための仕組みが大きく見直されました。
特に重要なのは、次の点です。
- 下水道施設の安全性を評価する診断基準を設ける
- 維持管理状況の一定の情報を公表する
- 長期的な視点から計画的な改築を進める
- 改築費用を含む収支見通しの作成・公表を進める
- 将来の改築資金を考慮した下水道使用料算定の考え方を明確にする
- 自治体間の広域連携を進める
- 道路管理者との連携を強化する
今回の法改正によって、全国の下水道使用料が一律に値上げされるわけではありません。
一方で、施設を将来にわたって維持するためにどれくらい費用が必要なのか、その費用をどう負担するのかについて、自治体と利用者が考える重要性は高まっています。
まずは、自分の自治体の下水道使用料や経営状況を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
普段は見えない下水道だからこそ、公開されている数字を見ることで、その地域の下水道が置かれている状況が少しずつ見えてきます。
あなたのまちの下水道使用料はどのくらい?


