文献ノートの細かさと構造で迷子にならないための設計ガイド

文献ノートの「正解の構造」を探そうとして、1論文1ノートかテーマ別か、タグとバックリンクをどう使うかで立ち止まってしまう人は多いです。ポイントは、Zettelkasten かプロジェクト単位かと悩む前に、「将来どんな問いに答えたいか」から逆算して細かさと構造を決めることです。この記事では、Obsidian などのノートアプリを前提に、文献ノートの細かさと構造を設計するための具体的な考え方だけに絞って整理します。テンプレやVault構成の詳細は、別記事で扱っているのでそちらに任せます。

主なポイント

  • 文献ノートの細かさは「未来の自分が投げる検索クエリ」から逆算して決める
  • 「1論文1ノート」「テーマ別ノート」「プロジェクトノート」の3層に分けて考える
  • メモは「読みながらの粗いメモ」と「あとからの蒸留ノート」を分けると迷子になりにくい
  • タグは「分類ラベル」、バックリンクは「思考のストーリー」をたどるために使う
  • 材料科学などデータ重視の分野では、「数値だけを抜き出す構造化ノート」を別に用意すると実験計画が楽になる

文献ノートの「細かさ」と「構造」とは?

まず用語をはっきりさせます。

  • 細かさ
    1ノートの「1枚にどこまで情報を載せるか」の細かさです。
    例:1論文まるごと1ノートにする/1つの図・アイデアごとにノートを分ける、など。
  • 構造
    それぞれのノートがどのように関係し合うか、全体の骨組みです。
    例:フォルダ分け、プロパティ(メタデータ)、リンク・タグの貼り方など。

多くの人が詰まるのは、「細かさ」と「構造」を一気に完璧にしようとするからです。この記事では、次の3つの軸だけに絞って考えます。

  1. 単位の軸:論文単位か、テーマ単位か、プロジェクト単位か
  2. 時間の軸:読みながら書くメモか、あとからまとめるノートか
  3. 検索の軸:タグで探すのか、リンクでたどるのか、テキスト検索に頼るのか

この3軸で自分のワークフローを言語化できると、「Zettelkasten かプロジェクト単位か」という抽象的な悩みから解放されます。


1論文1ファイルか、テーマごとか:どう決めればいい?

まず「どんな問いに答えたいか」を10個書き出す

いきなり「1論文1ノートが正しいか?」と考えると迷います。
その前に、未来の自分が文献ノートに聞きそうな質問を10個ほど書き出してください。

例(材料科学系 PhD の場合):

  • 高温養生した試料で圧縮強度が一番高かった条件は?
  • この系で SEM の画像がきれいに出ている論文はどれ?
  • 〇〇学会の発表準備で使えそうな代表的な図はどれ?

この「問い」に素早く答えられるなら、その構造は正解に近いとみなしてよいです。

1論文1ノートが向いているケース

次のような人には、「1論文1ノート」を基本にするのが合理的です。

  • 後で「特定の論文そのもの」を読み直す機会が多い
  • 書誌情報や図表番号をしっかり控えておきたい(論文執筆や査読対応が多い)
  • 「どの論文から出てきたアイデアか」を明確にしておきたい

この場合のおすすめは、「1論文1ノート」を薄く保つことです。

  • メタデータ(著者・年・ジャーナル・キーワード)
  • 3〜5行の要約
  • 自分のコメント・疑問点
  • 関連する実験・プロジェクトへのリンク

くらいに抑え、「テーマごとの深い考察」は別のノートに任せます。
1論文1ノートを厚くしすぎると、結局そこから情報を再構造化する手間が増えます。

👉 具体的な文献ノートのテンプレート自体は、
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集
で扱っているので、ここでは設計の考え方だけに絞ります。

テーマ別・問題別ノートが向いているケース

一方で、次のような人は「テーマ別ノート」を主役にした方が楽です。

  • 個々の論文よりも「分野全体の流れ」を把握したい
  • 学振・申請書・総説などで「まとめを書く」機会が多い
  • 似た論文を横並びで比較することが多い

この場合、

  • 「C-S-H の長期安定性」
  • 「早強セメントの初期強度のメカニズム」

のように、自分の研究テーマに近い粒度でノートを作り、そこに論文ノートをリンクでぶら下げます。

1つのテーマノートに、次のような見出しを置くイメージです。

  • 背景・問題意識
  • 代表的な論文と主張
  • データの傾向(何が増えると何がどうなるか)
  • 自分の研究で埋めたいギャップ

ハイブリッド:薄い論文ノート+厚いテーマノート

実務的に一番バランスが良いのは、ハイブリッド構成です。

  • 各論文に対して「薄い論文ノート」を1枚
  • テーマごとに「厚いまとめノート」を1〜数枚

このときのルールはシンプルにします。

  • 論文ノートには「事実と最低限のコメント」だけ
  • テーマノートには「複数論文からの共通点・違い・自分の解釈」を書く
  • テーマノートから、個別の論文ノートへリンクを貼る

こうしておくと、
「論文ベースで掘る」「テーマベースで俯瞰する」のどちらにも対応しやすくなります。


読みながらメモか、あとからまとめるか?

読みながらメモするメリット・デメリット

読みながらObsidianでメモを取ると、

  • 集中しやすく、眠くなりにくい
  • どこで引っかかったかが、そのまま思考ログとして残る

というメリットがあります。
一方で、

  • メモが断片的で、後から読み返すと意味不明
  • テンションの高い日にだけ詳しく書いて、他の日との密度がバラバラ

といった問題も起きがちです。

あとからまとめるメリット・デメリット

PDF にコメントを書き込み、読了後に Obsidian へまとめるやり方は、

  • 「その論文で結局何が重要だったか」を落ち着いて整理できる
  • ノートのフォーマットを揃えやすい

という利点があります。
ただし、

  • 忙しいと「あとでまとめる」をサボりやすい
  • まとめ作業が心理的に重く、積読ノートが溜まりやすい

という現実もあります。

おすすめは「ライブメモ+5分の蒸留」

両極端を避けるために、次のルールをおすすめします。

  1. 読んでいる最中は、遠慮なく雑メモを書く(ライブメモ)
  2. 読了したら 5分だけタイマーをセットして、要点だけを上部にまとめる
  3. その5分で整理しきれない細部は、無理に完璧にしようとしない

具体的には、

  • ノートの上部に「3〜5行の要約」と「自分への示唆」を書く
  • 下部に読みながらの雑メモをそのまま残す

という2層構造にしておくと、「最低限の要約」と「思考ログ」の両方を確保できます。


タグとバックリンクをどう設計するか?

タグとバックリンクは、「何を探したいか」で役割を分けると迷いにくくなります。

タグは「どんな観点で絞り込みたいか」に対応させる

タグを決めるときは、次の順番で考えます。

  1. どんな軸で文献をまとめて見たいかを書き出す
  2. その軸ごとにタグを1つ決める
  3. 1ノートあたりのタグ数に上限を設ける(例:最大5個まで)

研究ノートでよく機能するのは、次の3系統です。

  • 分野・トピックタグ(例:#hydration #early_strength
  • 手法タグ(例:#XRD #SEM #calorimetry
  • 対象・材料タグ(例:#slag #fly_ash

プロジェクト名や締切などは、タグではなくノートへのリンクやプロパティで持たせた方が、後から構造を変えやすいです。

タグ設計そのものの落とし穴や、文献管理全体での悩みは、
Obsidianでの文献管理・引用はなぜ難しい?研究者がつまずきやすいポイント整理
で整理しているので、合わせて読みつつ、自分のタグポリシーを1行で書き出しておくと良いです。

バックリンクは「思考のストーリー」を残すために使う

バックリンクは、単なる「分類」ではなく、

  • どの議論の中でその論文が出てきたか
  • どの実験・プロジェクトと関係があったか

といった「ストーリー」を残すために使うと威力を発揮します。

例えば、

  • デイリーログから、その日に読んだ論文ノートへリンク
  • 実験ノートから、「条件設定の根拠にした論文」へリンク
  • プロジェクトノートから、「背景説明で引用した論文」へリンク

といったリンクが、あとでバックリンク一覧として浮かび上がります。

こうしておくと、

「この実験条件は、どの論文を参考に決めたんだっけ?」

という問いに対して、
実験ノート → 論文ノート → 背景テーマノート
という流れでスムーズにたどれます。


材料科学系 PhD の「数値を再び取り出したい」問題をどう解く?

Research/PhD/Academics 系の海外掲示板では、材料科学系の博士課程の人から、

実験計画のために、大量の PDF から数値やアイデアを「再び取り出す」必要があるが、Obsidian でそのための良い仕組みが作れない

という相談も見られます。

これは、「粒度」と「構造」の問題がはっきり表面化しているケースです。

「数値カタログ用ノート」を別に作る

おすすめは、通常の文献ノートとは別に、数値だけを集約するノートを用意することです。
イメージとしては、次のような1枚です。


○ 高温養生試料の圧縮強度カタログ

papermaterialcuringagestrengthfigurenote
[[2021_Smith_high-temp-cure]]OPC + slag80°C, 24h7d70 MPaFig.3w/b 0.35
[[2022_Yamada_steam-cure]]OPC60°C, 12h3d55 MPaFig.2air-cured later

各文献を読むたびに、実験計画に関係する数値だけをこの「カタログ」に追記していきます。

ポイントは、

  • 文献ノートには「文脈とコメント」
  • カタログノートには「実験条件と数値」

と役割を分けることです。

文献ノートからカタログへ「逆リンク」を残す

さらに、

  • 文献ノート側の「キーデータ」セクションから、このカタログノートへリンクを貼る
  • カタログの table には、必ず論文ノートへのリンク(paper列)を入れておく

という運用にすると、

  • 実験計画を立てるときは、カタログノートだけを見る
  • 詳細な図・議論が知りたくなったら、そこから論文ノートに飛ぶ

という2段構えで情報を辿れます。

Obsidianの具体的なプラグインや一覧化テクニックは、
Obsidianで研究ノートと文献整理を最適化するブログ&YouTubeまとめ
で紹介している外部記事・動画を参考にしつつ、自分の分野に合ったカラム構成にチューニングしてください。


文献ノート設計の注意点とベストプラクティス

  1. 「構造から決める」のではなく「問いから逆算する」
    未来の自分の検索クエリを書き出してから、粒度と構造を決める。
  2. ルールは「半年で100本読む」前提で設計する
    今ある10本だけを基準にせず、「半年で100本たまったときに破綻しないか」で考える。
  3. タグは最初から増やしすぎない
    系統ごとに3〜5個の「コアタグ」を決め、それ以外はテキスト検索で妥協する。
  4. Zettelkasten を「教義」ではなく「道具」として扱う
    原子的ノートは便利な方法の一つであって、必ずしも全ノートを1アイデア単位にする必要はない。
  5. プロジェクトの区切りごとに、構造を見直す時間を取る
    修論提出や学会シーズンのあとに、「この構造で何が困ったか」をメモして、ルールを微修正する。

よくある質問(FAQ)

Q1. とりあえず全部「1論文1ノート」にしておけば安心ですか?

「とりあえず」のルールとしては悪くありませんが、
1論文1ノートだけで完結させようとすると、テーマ別の俯瞰がしづらくなります。
最低でも、主要な研究テーマごとに「まとめノート」を1枚作り、重要な論文ノートをそこからリンクする構造をセットで採用すると良いです。

Q2. 途中で構造を変えたくなったらどうすればいいですか?

構造変更は避けられない前提で考えた方が楽です。
おすすめは、まず「新ルールでこれから増えるノート」から適用し、過去ノートは重要なものだけを徐々に移行するやり方です。
完璧な移行ではなく、「今後2年間で確実に何度も参照するノート」だけを優先して整えましょう。

Q3. Zettelkasten の原則通り、すべて原子的ノートにすべきですか?

必須ではありません。
むしろ研究では、実験やプロジェクトなど「ある程度まとまりのある単位」がたくさん出てきます。
Zettelkasten の考え方は、「アイデア同士を細かくリンクさせる技法」として、テーマノートの中で部分的に使うくらいが現実的です。

Q4. 実験系でも理論系でも、この設計は使えますか?

使えますが、重心が少し変わります。
実験系では「数値・条件・図表」が重要なので、カタログノートや実験ノートとのリンクを厚くするのがおすすめです。
理論系では「定理・証明・アイデア」の粒度が重要になるので、テーマ別・概念別ノートを厚くし、論文ノートは薄く保つと機能しやすくなります。

Q5. Notion や他のツールでも同じ考え方でよいですか?

はい。
フォルダやページ階層、データベースなど表現方法は違っても、
「どの粒度(細かさ)でノートを分けるか」「どうやって再び取り出すか」という設計の本質は同じです。
ツールごとの具体的な違いは、
研究者目線で考える Obsidian vs Notion:個人研究の「母艦」に向いているのはどっち?
も参考になるはずです。


まとめ:完璧な構造より「今の自分にとって十分な構造」を

文献ノートの粒度と構造は、一度決めたら固定ではなく、研究の段階や分野によって変わっていくものです。
重要なのは、「自分がどの問いに答えるためにノートを作っているのか」を定期的に言語化し、それに合わせて細かさと構造を微調整していくことです。

今すぐできる次の一歩としては、次の3つをおすすめします。

  1. 未来の自分が文献ノートに投げそうな質問を10個書き出す
  2. その質問に答えるために、「1論文1ノート」「テーマノート」「カタログノート」のどれが必要かをざっくり決める
  3. これから読む10本だけでよいので、新しいルールでノートを作り、1か月後に「何がうまくいったか・何が面倒だったか」をメモする

テンプレやVault構成など、具体的な設定・実装は
Obsidianを「研究ノート専用アプリ」にする具体的な使い方とテンプレート集
Obsidianは研究発表のスライド作成にどう活かせるのか?
と組み合わせつつ、「自分の研究スタイルに合う粒度と構造」を少しずつ育てていってください。

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