ケイ酸カルシウム水和物(CSH)の化学的性質と実環境における構造変化

1. はじめに

現代の都市インフラを支えるコンクリートの性能は、その内部で形成される微細な物質によって決まる。なかでもケイ酸カルシウム水和物(Calcium Silicate Hydrate、以下CSHまたはC-S-H)は、ポルトランドセメントの水和反応によって生成される最も重要な物質である。このCSHは、セメント系材料の強度発現に最も寄与する主役といえる[1]。

コンクリート内部では、CSHがいわば「糊」のような役割を果たし、他の成分を結合させる。その量はセメントペースト中で体積の約60-70%にも達する[2]。コンクリート構造物の耐久性や寿命を理解するためには、このCSHの性質と挙動を知ることが不可欠だ。

本記事では、CSHの化学的性質とさまざまな環境条件下での構造変化について、最新の研究成果を整理し総括する。この知見は、より優れたコンクリート材料の開発や、既存構造物の耐久性予測に役立つことが期待される。

2. CSHの化学的性質

2.1 基本構造と組成

顕微鏡で見えないナノレベルの世界で、CSHは興味深い性質を示す。原子レベルでは結晶性を持つナノサイズの材料だが、その構造は一定ではなく、不規則で変化に富んでいる。化学的にも明確な組成比を持たないため、研究者にとって長年の研究対象となってきた[3]。

CSHの基本構造を理解するヒントは、自然界に存在する鉱物に見つけることができる。特にトバモライト(tobermorite)やジェナイト(jennite)といった鉱物との類似性が指摘されており、これらの構造モデルを基にCSHの性質を説明する試みが続いている[4]。

拡大して見ると、CSHの原子構造は層状になっている。カルシウムとシリカから成るシート構造が層間空間によって隔てられ、積み重なった構造をしている。このシリケート部分はダイマー(2量体)、ペンタマー(5量体)、および特定のパターンを持つ鎖状ユニットとして存在する。そして、カルシウムイオンがこれらのシリケート鎖を連結し、複雑な三次元ナノ構造を形成している[3]。この微細構造は、最新の動的核偏極表面増強核磁気共鳴法によって観察されているが、層間部分の正確な性質については、まだ完全には解明されていない。

CSHを特徴づける重要な指標として、Ca/Si比(カルシウム/ケイ素比)がある。この比率は0.6から2.0までの広い範囲で変化し、その変動がCSHの構造や物理的性質に大きな影響を与える[5]。この可変性がCSHの多様な性質をもたらす一方で、その理解と制御を難しくしている。

2.2 シリケート鎖長とポリマー構造

CSHの内部構造をより深く理解するには、シリケート鎖と呼ばれる構造に注目する必要がある。このシリケート鎖の長さは、CSHの重要な構造特性であり、先に述べたCa/Si比と密接な関係がある。

研究によれば、Ca/Si比が減少するにつれて、シリケート鎖は長くなる傾向がある[6]。これはちょうど、短い紐と長い紐の違いのようなもので、物質の性質に大きく影響する。高いCa/Si比の場合、カルシウムイオンが多すぎることで鎖が切断されやすくなり、短い鎖が増える。一方、Ca/Si比が低い場合は、シリケート鎖が切断されにくくなり、より長い鎖が形成される。

この鎖構造の詳細は、29Si MAS NMR(魔法角回転核磁気共鳴)という特殊な分析方法で調べることができる。この分析によると、シリケート鎖は主に三種類の構造単位で構成されている。鎖の端にあるQ1、鎖の途中にあるQ2、そして鎖と鎖をつなぐ架橋部分のQ2pである[7]。

Ca/Si比が低下すると、鎖の端を示すQ1の割合が減り、鎖の中間や架橋を示すQ2とQ2pの割合が増える。これは、ちょうど短いひも同士がつながって長いひもになるように、より長いシリケート鎖が形成され、ネットワーク構造がより発達していることを示している。このネットワーク構造の変化が、CSHの強度や耐久性に直結している。

2.3 CSHのナノ構造モデル

CSHの複雑な構造を理解するため、世界中の研究者が様々な観点からモデルを提案している。これは、一つの現象を異なる角度から見た時に生じる多様な解釈のようなものだ。

代表的なモデルとしては、まずRichardsonらが提案した「トバモライト/ジェナイトモデル」がある[8]。このモデルは、天然の鉱物構造を基にCSHの構造を説明しようとしている。次に、Jennningsによる「コロイダルモデル」は、CSHを小さな粒子の集合体として捉え、その配列と相互作用に注目している[9]。さらに、Nonatらの「層間Ca2+モデル」は、層状構造の間に存在するカルシウムイオンの役割を重視している[5]。

これらのモデルは一見異なるように見えるが、共通する基本的な理解もある。それは、CSHが層状のシリケート構造を持ち、Ca/Si比の変化によって構造が変わるという点だ。モデルの違いは、同じ山を異なる登山道から見たときの景色の違いのようなもので、それぞれが異なる側面を強調している。これらの多角的な視点があることで、CSHの全体像の理解が深まっている。

3. 実環境におけるCSHの構造変化

コンクリート構造物は、気温の変化や大気中のガス、様々な化学物質にさらされながら長期間使用される。こうした環境条件が内部のCSHにどのような変化をもたらすかを理解することは、構造物の寿命予測に不可欠だ。ここからは、温度、炭酸化、イオン置換という三つの主要な環境要因がCSHの構造にどう影響するかを見ていこう。

3.1 温度による影響

季節の変化や養生条件による温度の違いは、CSHの形成過程と最終的な構造に大きく影響する。実験室での研究によれば、温度はまるで料理の火加減のように、CSHの質を左右する重要な要素だ。

5℃から60℃という一般的な環境温度範囲での研究によると、温度が上がるにつれてCSH内部のシリケート鎖のポリマー化(つながり方)が変化する。具体的には、温度が高いほど鎖同士の結合が増え、より複雑なネットワーク構造が形成される[10]。

さらに興味深いことに、高温条件(60℃以上)ではCSH中の水分子の挙動が大きく変わる。結合水と呼ばれる水分の含有量が著しく減少し、その結果としてCSHの見かけの密度が約25%も増加する[10]。これは、ナノレベルでCSHの詰まり方が変化することによる現象だ。

この変化は一見良いように思えるが、実はコンクリート全体の品質に悪影響を及ぼす。高温で形成されたセメントペーストの微細構造は粗く、多孔質になりやすい。これが、高温養生されたコンクリートの最終強度が低下する主な原因となっている。

より詳しく見ると、CongとKirkpatrickの研究では、110℃という高温で加熱されたCSHにおいて、層と層の間にある水分子やOH基(水酸基)が失われ、層間の距離が縮むことが確認されている[11]。一方、Jenningsらが小角中性子散乱という特殊な方法で調べたところ、60℃で養生されたCSHは低温の場合よりも密度が高くなり、内部の大きな孔(ゲル孔)が減少する傾向があることがわかった[12]。

このように温度はCSHの内部構造を様々な形で変化させ、最終的にコンクリートの性能に大きな影響を与えるのである。

3.2 炭酸化による構造変化

コンクリート構造物が長期間大気に触れていると、空気中の二酸化炭素(CO2)がゆっくりと内部に侵入し、CSHと反応する現象が起こる。これが「炭酸化」と呼ばれる過程だ。古いコンクリートが表面から変色するのはこの炭酸化の一つの表れである。

この炭酸化はしばしばコンクリートの劣化要因と見なされるが、実は別の側面もある。CSHが大気中のCO2を取り込む(固定化する)という環境的な観点からも、近年注目を集めているのだ[13]。

最新の研究によれば、CSHの炭酸化過程は三つの明確な段階に分けられる。まず「溶解期間」では、CSH内のCa/Si比とpH値が徐々に低下し、炭酸カルシウムが形成される。この最初の反応速度は、CSHの初期Ca/Si比によって大きく左右される。

次の「拡散期間」では、CSH構造内で架橋結合(構造内の橋渡し)が少量発生し、その後大量のカルシウム修飾シリカゲルが生成される。興味深いことに、この期間中はCSHの特殊な溶解特性により、Ca/Si比とpH値はほぼ一定に保たれる。

最終段階の「緩慢な継続反応期間」では、CSHは完全に分解し、微細な結晶状の炭酸カルシウムとカルシウム修飾シリカゲルの混合物へと変化する[13]。これがコンクリートの炭酸化の最終形態である。

さまざまなCa/Si比を持つCSHの炭酸化実験では興味深い結果が得られている。初期のCa/Si比の違いは炭酸化の速度にはあまり影響しないが、低いCa/Si比を持つCSHほど炭酸化後も残存量がやや多い傾向がある[14]。これは、ケイ素(Si)の含有量が多い場合、炭酸化を物理的に阻害するシリカゲルの生成量が増えるためと考えられている。

環境条件下でのCSH表面の炭酸化についてBlackらが行った研究では、特殊な分析方法(XPSとラマン分光法)を用いて、CSHからカルシウムが急速に失われる現象と、シリケート鎖の結合が増加する現象が観察されている[15]。

さらに詳細な研究として、SevelstedらはNMR法を用いて炭酸化の二段階メカニズムを提案している。彼らによれば、まずCSH内のCa/Si比が0.67まで段階的に低下し、その後非晶質シリカゲルの形成を伴いながらCSHが完全に分解するという過程をたどる[16]。この知見は、炭酸化の進行を予測する上で重要な手がかりとなっている。

3.3 イオン置換とドーピングの影響

セメントに混合される様々な添加物や環境中の化学物質によって、CSHは異なるイオンを取り込む。これは料理に新しい調味料を加えると味が変わるように、CSHの性質を大きく変える可能性がある。特に注目されているのは、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などのイオンである。

なかでもアルミニウムのCSHへの取り込みは、セメント産業が直面する二つの大きな課題—性能向上と環境負荷低減—の両方に関わる重要な研究分野となっている。

アルミニウムがCSHに取り込まれる場合、特定の位置に入り込むことがわかっている。具体的には、シリケート鎖の架橋部分(Q2位置)の四面体構造にアルミニウムが入り込み、ケイ素原子に置き換わる[17]。この置換によって、通常のCSHではなく、C-A-S-H(カルシウムアルミノシリケート水和物)と呼ばれる新しい構造が形成される。

このC-A-S-Hは通常のCSHとは異なる物理的・化学的特性を示す。最新の分子動力学シミュレーション研究によれば、アルミニウムを含むC-A-S-Hでは、水分子やイオンの移動速度が遅くなるという特徴がある[18]。これは防水壁が強化されるようなもので、コンクリート内部への有害物質の侵入を遅らせ、セメント系材料の耐久性向上につながる可能性がある。

一方、食塩などに含まれるナトリウムや、肥料などに含まれるカリウムといったアルカリ金属イオンは、CSHの層と層の間の空間(層間空間)に主に取り込まれる。これらのイオンは、特にCSHのCa/Si比が低い場合に優先的に取り込まれる傾向がある[5]。

こうしたアルカリ金属イオンの存在はCSHの水への溶けやすさや長期的な安定性に影響を与える。これは、コンクリート構造物がアルカリ性環境や海水などに接する場合の耐久性を考える上で重要な知見である。

4. CSHの合成方法と応用

4.1 合成方法

自然のセメント硬化過程を理解し、より優れた材料を開発するために、研究室でCSHを人工的に合成する試みが盛んに行われている。これは自然現象を実験室で再現し、コントロールすることで理解を深める科学の基本的なアプローチである。

CSHの合成にはいくつかの方法があり、それぞれ特徴と利点がある。研究の目的や応用先に応じて、最適な方法が選ばれる。以下に代表的な三つの合成方法を紹介する。

まず「液相反応法」は、化学実験で最もよく使われる方法の一つだ。硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O)とケイ酸ナトリウム(Na2SiO3・5H2O)などの化学試薬を水溶液中で反応させ、室温でCSHを合成する[19]。この方法の大きな利点は、特別な装置を必要とせず、比較的簡単に行えることだ。また、分散剤と呼ばれる添加物を使うことで、ナノサイズの非常に小さなCSH粒子を作り出すことも可能になる。

次に「ポゾラン反応法」は、実際のセメント中でのCSH形成過程により近い方法である。酸化カルシウム(CaO)とナノシリカを原料として使用し、これらを反応させてCSHを生成する[13]。この方法は、実際のコンクリート内部で起こる反応をより忠実に再現できるため、応用研究に適している。

三つ目の「水熱合成法」は、高温・高圧という特殊な条件下でCSHを合成する方法である。この方法では、より結晶性の高い、つまり原子配列がより規則的なCSHを得ることができる[19]。しかし、特殊な装置と厳密な制御が必要となるため、一般的な研究室では実施が難しい場合もある。

これらの合成方法では、温度、圧力、Ca/Si比、添加物などの条件を変えることで、様々な特性を持つCSHを作り出すことができる。特に注目されているのは、ポリカルボキシレート系分散剤と呼ばれる化学物質の添加効果だ。この分散剤は、CSHの粒子サイズとそれらの集まり方(凝集状態)に大きな影響を与えることが研究で明らかになっている[19]。これらの知見は、より性能の高いコンクリート用添加剤の開発に役立てられている。

4.2 CSHの応用

CSHは主にセメントやコンクリートの基本成分として知られているが、その特殊な性質を活かした新たな応用が次々と研究開発されている。これらの応用は、建設分野だけでなく環境技術の領域にまで広がっている。

最も注目される応用の一つは、「核生成サイト」としての利用だ。人工的に合成したCSHナノ粒子をセメントに少量添加すると、水和反応が始まる際の「種」として機能する。これはちょうど、雪の結晶が微小な塵を核にして成長するのに似ている。この効果により、セメントの初期水和熱値と初期圧縮強度が大幅に向上することが確認されている[19]。この技術は、早期強度が求められる用途や寒冷地でのコンクリート施工に特に有効と考えられている。

環境分野での応用として注目されているのが「リン酸回収」技術だ。工場排水や生活排水には、肥料や洗剤に含まれるリン酸塩が含まれており、これが河川や湖沼の富栄養化を引き起こす原因となっている。CSHは排水中のリン酸塩を効率的に回収する「結晶種」として機能する。具体的には、CSHがカルシウムイオン(Ca2+)と水酸化物イオン(OH-)を持続的に放出し、これが排水中のリン酸イオンと反応してヒドロキシアパタイト結晶を形成する[20]。この技術によって、水環境の保全とリン資源の再利用という二つの課題に同時に対応できる可能性がある。

さらに地球温暖化対策の観点から最も期待されているのが「CO2固定化」技術である。前述のCSH炭酸化過程は、大気中のCO2を取り込み固定化する能力を持つ。この特性を積極的に活用することで、セメント産業から排出されるCO2を一部回収し、環境負荷を低減する取り組みが進められている[13]。特に、使用済みコンクリートの再利用過程でこの炭酸化を促進させることで、リサイクル効率の向上と環境負荷低減を同時に達成する技術が開発されつつある。

これらの多様な応用は、CSHの基礎研究の成果が実社会の様々な課題解決に貢献できることを示している。

5. 最新の分析・観察技術

肉眼では見えない微小な世界で起こるCSHの構造変化を理解するには、特殊な「目」が必要だ。科学技術の進歩により、ナノスケールのCSH構造を詳細に観察・分析できる様々な先端技術が開発されている。これらの技術は、まるで異なる種類の特殊眼鏡をかけて対象を見るように、それぞれが独自の視点からCSHの情報を提供してくれる。

「29Si MAS NMR(ケイ素29魔法角回転核磁気共鳴)」は、シリケート鎖の内部構造を原子レベルで調べることができる強力な技術だ。この方法では、先に説明したQ1(鎖端)、Q2(鎖中間)、Q3(分岐点)などのシリケートユニットの分布を詳細に把握できる[7]。これはちょうど、複雑に絡み合った紐の構造を解明するようなものだ。

「X線回折(XRD)」は、CSHの結晶構造を調べる基本的な手法である[13]。X線を試料に当て、その散乱パターンから原子の配列状態を解析する。この技術により、CSHの基本構造や他の結晶相との区別が可能になる。

「熱重量分析(TGA)」と「示差熱分析(DTA)」は、試料を加熱した際の重量変化や熱の出入りを測定する方法だ。これによりCSH内の水分含有量や炭酸化の程度を正確に定量することができる[14]。特に、環境によるCSHの変化を追跡する際に重要な役割を果たす。

「フーリエ変換赤外分光法(FTIR)」と「ラマン分光法」は、分子レベルでの化学結合の種類や状態を調べる技術である[21]。これらの方法では、CSH内の異なる化学結合が特定の波長の光を吸収したり散乱させたりする特性を利用して、分子構造の情報を得る。

さらに微細な構造を直接観察するには、「走査型電子顕微鏡(SEM)」や「透過型電子顕微鏡(TEM)」が使われる[19]。これらの顕微鏡技術により、ナノメートルサイズのCSH粒子の形状や配列、表面特性などを視覚的に捉えることができる。

より高度な技術として、「小角中性子散乱(SANS)」がある。これはCSHのナノ構造や細孔(微小な穴)の分布を非破壊で調べることができる[12]。中性子は物質内部に深く侵入するため、試料の内部構造に関する貴重な情報を提供してくれる。

最後に、CSHの機械的性質を調べるための「ナノインデンテーション」という技術がある[2]。これは極小の針で試料表面を押し込み、その際の抵抗力から硬度や弾性係数などの機械的特性を測定する方法だ。

これらの先端分析技術が相互補完的に用いられることで、CSHの複雑な構造と性質に関する理解は飛躍的に深まっている。さらに技術の発展により、今後もCSHの未解明部分が次々と明らかになることが期待される。

6. 結論

私たちの身の回りにある橋、ダム、高層ビル、住宅の基礎など、あらゆるコンクリート構造物の内部では、目に見えない微小な物質「ケイ酸カルシウム水和物(CSH)」が重要な役割を果たしている。本記事では、このCSHの基本的な性質から環境による変化、最新の研究動向まで幅広く解説してきた。

CSHは単純な化合物ではなく、複雑で変化に富む構造を持つことがわかっている。特にCa/Si比(カルシウムとケイ素の比率)の違いにより、その性質は大きく変わる。これはちょうど、同じ材料でも配合比を変えると全く異なる性質の製品ができあがるのに似ている。

また、温度や二酸化炭素、周囲のイオン環境などによってCSHは様々な変化を示す。高温ではシリケート鎖の結合が増え、また水分が減少して密度が高まる。大気中の二酸化炭素に長期間さらされると、段階的な構造変化を経て最終的に炭酸カルシウムとシリカゲルに分解する。さらに、アルミニウムなどの異なるイオンが取り込まれると、CSHの物理的・化学的特性が変化する。

これらの知見は、より耐久性の高いコンクリートの開発や、既存構造物の寿命予測に直接役立てられる。例えば、環境条件に応じた適切な配合設計や養生方法の選択、また劣化対策などに活用できる。さらに、CSHの炭酸化過程を利用したCO2固定化技術や、排水からのリン回収技術など、環境問題解決への応用も進んでいる。

最新の分析技術の発展により、かつては見ることも測定することもできなかったナノスケールでのCSHの構造や変化を詳細に調べることが可能になってきた。こうした技術進歩は、CSHの理解をさらに深め、コンクリート科学の新たな発展を促している。

コンクリートは人類が最も大量に使用する人工物質であり、その主要成分であるCSHの研究は、持続可能な社会基盤の構築に不可欠である。

参考文献

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[16] Sevelsted, T.F., et al., “Carbonation of C-S-H: Understanding the structural changes through 29Si MAS NMR spectroscopy”, Cement and Concrete Research, Vol. 71, pp. 56-65, 2015.

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[18] Zhou, Y., et al., “Structure of Water Adsorbed on Nanocrystalline Calcium Silicate Hydrate Determined from Neutron Scattering and Molecular Dynamics Simulations”, The Journal of Physical Chemistry C, Vol. 126, pp. 12820-12835, 2022.

[19] Jung, S., et al., “Synthesis of calcium silicate hydrate nanoparticles and their effect on cement hydration and compressive strength”, Construction and Building Materials, Vol. 371, 131597, 2023.

[20] Kuo, Y.M., et al., “Synthesis and Enhanced Phosphate Recovery Property of Porous Calcium Silicate Hydrate Using Polyethyleneglycol as Pore-Generation Agent”, Materials, Vol. 6, No. 7, pp. 2846-2861, 2013.

[21] Madadi, A., et al., “Characterization of Calcium Silicate Hydrate Gels with Different Calcium to Silica Ratios and Polymer Modifications”, Crystals, Vol. 8, No. 2, p. 75, 2022.

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