廃棄物利用によるセメント製造の循環型社会貢献

1. はじめに

私たちの身の回りには、製鉄所から出る「高炉スラグ」、火力発電所から発生する「フライアッシュ」、家庭や事業活動から出る「廃プラスチック」など、様々な廃棄物があります。これらは一見すると不要なものに思えますが、実はセメント製造において貴重な資源として活用されているのです。

環境省の整理では、産業廃棄物の排出量は近年「約4億トン前後」で推移しています。こうした中、セメント産業は他産業等から排出される廃棄物・副産物を原料・燃料として受け入れ、セメント生産に有効活用してきました。例えばセメント協会の公表資料では、2023年度の廃棄物・副産物使用量は約2,258万トン(セメント1トン当たり480kg)とされています。

セメント工場の約1,450℃という超高温環境は、ダイオキシン類など有機系の有害物質の分解・無害化に有利であり、適切な燃焼管理・品質管理の下で大量かつ安定的な処理が可能です。例えば東日本大震災の発災後、セメント工場が災害廃棄物の受入・処理に貢献したことが公表されています。

本記事では、このような「廃棄物を宝に変える」セメント産業の技術と取り組みについて、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説します。

2. なぜセメント工場が「究極のリサイクル工場」なのか

2.1 廃棄物処理の強い味方としてのセメント工場

循環型社会では、廃棄物の発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)の3Rが重要ですが、セメント産業は特に「Recycle」の分野で重要な受け皿の一つになっています。その理由は、セメント工場が持つ独特な特徴にあります。

まず、約1,450℃という超高温環境により、一般的な焼却炉では処理が難しい性状のものも含め、分解・無害化に有利な条件を確保できます。例えば、ダイオキシン類などの有機系有害物質は高温で分解されます。また、年間数百万トン規模の処理能力があり、多種多様な廃棄物を同時に受け入れることができます。

さらに重要なのは、単に廃棄物を処理するだけでなく、それらをセメントという有用な製品に変換できることです。これは「二次的な残さを最小化しやすい」リサイクルシステムと言えるでしょう。

2.2 廃棄物がセメント原料に変わる仕組み

セメント製造には、石灰石(カルシウム成分)、粘土(シリカ・アルミナ成分)、鉄原料(鉄成分)が必要です。実は、多くの産業副産物・廃棄物にはこれらの成分が含まれているため、適切な前処理を行うことで天然原料の代替として使用できます。

例えば、建設現場から出る汚泥にはカルシウム成分が含まれる場合があり、石灰石の代替として活用できることがあります。火力発電所等から出る石炭灰(フライアッシュ等)にはシリカ成分が含まれ、粘土代替や混和材としての活用が検討されます。製鉄所から出る高炉スラグも、カルシウムとシリカを含む有用な原料・混合材です。

このように、「ある工場の副産物が別の工場の原料になる」という産業間の資源循環が成立しているのです。これは、単なる廃棄物処理を超えた産業システムと言えるでしょう。

2.3 日本の廃棄物処理システムでの重要な位置づけ

日本では廃棄物の排出量が大きく、最終処分場の制約も指摘されています。その中で、セメント産業が廃棄物・副産物を原料・燃料として受け入れ、循環利用に組み込んでいる意義は大きいと言えます。

実際に、廃プラスチックや使用済みタイヤなどの可燃性廃棄物は、クリンカ焼成用の熱エネルギーの代替として利用されることがあります。特にタイヤは、ゴム部分が熱エネルギーとして利用できるだけでなく、内部のスチールが鉄源としてクリンカに取り込まれるため、残さが出にくい点も特徴です。

3. 実際の廃棄物活用事例 – 製鉄所とのWin-Win関係

3.1 高炉スラグが生み出す高性能セメント

製鉄所の高炉で鉄を作る際に発生する高炉スラグは、現在ではセメント分野で重要な資源となっています。鐵鋼スラグ協会の公表資料では、2023年度の高炉スラグの用途別内訳のうち、セメント用(販売量)は約1,616万トンとされています。

高炉スラグの興味深い特徴は「潜在水硬性」と呼ばれる性質です。これは、水と反応して徐々に硬化する能力のことで、セメントとして有用な特性です。さらに、時間をかけてゆっくりと強度を発現するため、長期的には普通のセメントとは異なる性能が得られます。

また、高炉スラグセメントは海水に対する抵抗性が高いという特徴があります。このため、海に囲まれた厳しい環境の構造物で採用されることがあります。

高炉セメントには、混合割合によってA種、B種、C種の3つの種類があります。特にB種は、普通ポルトランドセメントと比較してCO2排出量が低いことが示されており、公共工事等でも環境配慮の選択肢として位置づけられています(資料例では削減率約37%として整理されています)。

3.2 火力発電所等の石炭灰が生まれ変わるフライアッシュ活用

石炭火力発電所などで石炭を燃やした後に残る石炭灰(フライアッシュ等)も、セメント産業にとって重要な資源です。発生量は電源構成や稼働状況により変動しますが、石炭灰はセメント原料としての利用や、コンクリート混和材としての利用が行われています。

フライアッシュの特徴として、セメントの水和反応で生成される水酸化カルシウムと反応して、追加的な反応生成物を生み出す「ポゾラン反応」が挙げられます。この反応により、時間とともにコンクリートの組織が緻密化し、長期的な性能向上につながる場合があります。

また、粒子形状によりコンクリートの流動性が改善され、施工性が向上するという実務上のメリットもあります。さらに、水和熱を下げる効果があるため、マスコンクリートの施工で温度ひび割れ抑制の観点から検討されることがあります。

一方で、石炭の性状や燃焼条件によりフライアッシュの性質が変動するため、用途に応じた品質管理・規格適合が重要になります。

3.3 建設現場の泥が復興の礎になった実例

建設工事で発生する土や汚泥も、セメント産業では原料として活用される場合があります。これらを適切に処理・再利用することは、資源循環の観点からも大きな社会課題です。

セメント工場では、建設副産物を受け入れて脱水・乾燥処理等を行い、原料として利用します。ただし、塩分や有機物等が含まれる場合があるため、厳格な品質管理と前処理が必要です。

東日本大震災では、セメント工場が災害廃棄物の処理に貢献したことが公表されています(処理量は「約110万t」等として整理されています)。

3.4 廃プラスチック・廃タイヤの燃料利用

廃プラスチックの処理
プラスチックは多用途で利用されており、廃プラスチックの発生量も大きい素材です。環境省の整理では、2022年の廃プラスチック総排出量は約823万トンと推計されています。セメント工場では、性状に応じて代替燃料として利用される場合があり、化石燃料の使用量低減の選択肢の一つとなります。

廃タイヤの利用
廃タイヤは年間およそ100万トン規模で発生し、その多くがリサイクル利用されていることが報告されています。セメント焼成用を含む熱利用の用途では、ゴム分が熱エネルギーとして、スチール分が鉄源として活用される点が特徴です。

3.5 下水汚泥・浄水場汚泥の処理

下水汚泥の利活用
国土交通省の整理では、下水汚泥は乾燥重量で年間約224万トン相当が回収されているとされています。下水汚泥は、焼却灰の利用や固形燃料化(エネルギー利用)など、多様な利活用の選択肢が検討されており、国土交通省は下水汚泥エネルギー化技術に関するガイドライン等を公表しています。

浄水場汚泥の活用
浄水場から発生する汚泥も、性状に応じてセメント原料としての活用が検討されることがあります。実装にあたっては、成分・含水率・不純物管理など、受入基準に基づく品質管理が重要です。

4. 先進的な廃棄物処理技術

4.1 有害廃棄物の無害化処理

セメントキルンの高温環境は、有機系有害物質の分解・無害化に有利であり、制度に基づく認定・許可の下で、特定の有害廃棄物の処理に活用される事例があります。

石綿含有建材廃棄物についても、高温処理により結晶構造が変化し無害化できることが知られており、適切な前処理・管理の下で処理技術の適用が検討されます。

4.2 バイオマス系廃棄物の活用

建設廃木材や剪定枝などの木質バイオマスは、カーボンニュートラルの考え方に基づく燃料として注目されています。セメント工場周辺で間伐材等を燃料として活用する取り組みが紹介されている例もあります。

また、食品廃棄物等についても、含水率や塩分などの管理が課題になり得る一方、前処理技術と組み合わせたエネルギー利用の検討が進められています。

4.3 最新の前処理技術

廃棄物の品質はばらつきやすいため、受入時の成分分析や異物除去、配合最適化が重要です。近年は、オンライン分析、画像・光学選別、最適配合計算などの高度化により、安定品質と処理能力の両立を目指す方向で技術開発が進んでいます。

5. 環境・社会への貢献効果

5.1 CO2削減効果の定量評価

セメント産業における廃棄物利用は、環境負荷削減において効果を持ち得ます。高炉スラグ等の利用により、天然原料の使用量が抑制され、石灰石の脱炭酸反応に由来するプロセス起源CO2の抑制に寄与します。また、混合セメントの活用により、製造段階のCO2排出量が相対的に低いことが示されている資料もあります(例:高炉セメントB種は普通セメント比で約37%の削減率として整理)。

燃料代替の面では、廃プラスチックや廃タイヤなどの代替燃料利用により、化石燃料の使用量削減が期待されます。なお、廃棄物利用によるCO2削減効果については、セメント協会等で試算例が公表されており、算定条件に基づく評価が行われています。

5.2 最終処分場の負荷低減

最終処分場の制約が指摘される中で、セメント産業による廃棄物・副産物の受入・有効活用は、埋立量の抑制や資源循環の促進に寄与します。特に「受け入れたものが製品に取り込まれ、二次的な残さを最小化しやすい」という特性は、処分負荷の観点から重要です。

5.3 資源循環の経済効果

セメント産業による廃棄物処理は、環境面での貢献に加え、排出側(企業・自治体)の処理選択肢を広げ、資源循環を支える産業基盤として機能します。前処理、運搬、品質管理などの周辺分野でも関連産業が形成され、地域経済に影響を与えるケースがあります。

6. 地域循環システムの構築事例

6.1 広域連携による循環システム

製鉄・発電・セメントの連携
製鉄所、発電所、セメント工場が近接する地域では、高炉スラグや石炭灰などの副産物が域内で循環利用されやすく、物流効率と資源循環の両面でメリットが得られます。

6.2 都市型循環システム

大都市圏での多品目受入
都市圏では、建設系副産物、汚泥、廃プラスチック等が多様に発生します。セメント工場は、前処理・品質管理を前提に、複数品目を組み合わせて受け入れることで、安定運用と大量処理に対応します。

6.3 災害廃棄物処理の実績

東日本大震災における貢献
東日本大震災では、セメント工場が災害廃棄物の処理に貢献したことが公表されています(東北地方のセメント工場を中心に約110万tを処理した旨の整理があります)。

復興資材の供給
災害廃棄物等の処理は、復旧・復興の迅速化に寄与します。処理と資材供給が近接地域で回る場合、広域輸送負荷の低減にもつながります。

7. 技術革新と今後の展望

7.1 AI・デジタル技術の活用

スマート廃棄物管理
IoTセンサーや分析技術を活用した品質・性状の見える化、配合計画の最適化など、デジタル技術の導入が進んでいます。廃棄物のばらつきを前提に、より安定した運用を目指す方向です。

7.2 新規廃棄物への対応

新素材・複合材への検討
複合材や電池関連廃棄物など、新しい素材の普及に伴い、分離・選別・安定化などの課題が増えています。セメント産業に限らず、資源循環の枠組み全体で技術・制度の整備が求められます。

7.3 国際展開の可能性

技術・運用ノウハウの共有
廃棄物の適正処理と資源化を両立する仕組みは、国や地域の制度・インフラに依存します。一方で、前処理・品質管理・操業管理などの運用ノウハウは国際的にも応用可能性があり、今後の連携余地があります。

8. 課題と解決への取り組み

8.1 技術的課題

品質の安定化
廃棄物は天然原料と比較して品質のばらつきが大きく、セメント品質の安定化が課題となります。この解決のため、以下の技術開発が進められています:

  • 多成分同時分析技術の高精度化
  • 配合最適化の高度化
  • 前処理技術の自動化・高度化

処理困難物への対応
従来技術では処理が困難な廃棄物への対応技術開発が求められています:

  • 高塩分含有廃棄物の前処理技術
  • 重金属含有廃棄物の安定化技術
  • 複合材料の分離・選別技術

8.2 制度・社会的課題

法規制・運用の整備
廃棄物の広域利用を促進するため、自治体間運用の整理や手続きの効率化が課題となることがあります。適正処理の確保と資源循環の促進を両立する制度運用が重要です。

社会受容性の向上
住民の理解促進のため、工場見学や情報公開などの取り組みが行われています。処理状況の透明性確保と、科学的根拠に基づくコミュニケーションが鍵になります。

8.3 経済的課題

収集・運搬コストの最適化
廃棄物の収集・運搬コストが処理費用の大部分を占めるため、効率的な物流システムの構築が重要です。デジタル技術を活用した配車最適化や中継基地の設計などにより、コスト削減を図ります。

処理対価の適正化
持続可能な廃棄物処理システムを維持するため、処理費用の適正化が課題となります。社会的価値の評価と、合理的な対価設定を行う仕組みの構築が求められています。

9. まとめ

セメント産業による廃棄物利用は、単なる廃棄物処理を超えて、循環型社会の実現に向けた重要な社会インフラの一部として機能しています。高温焼成と原料・燃料代替という特性を生かし、廃棄物・副産物を受け入れて資源化し、資源循環と脱炭素の両面で貢献し得る取り組みです。

技術面では、分析・選別・配合最適化などの高度化により、処理効率と品質安定性の更なる向上が図られています。また、新しい廃棄物への対応や制度整備、社会受容性向上など、技術以外の課題にも取り組むことが重要になります。

参考文献

  1. 環境省. 令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(廃棄物等の発生・処理の現状).
  2. セメント協会. 循環型社会形成推進自主行動計画フォローアップ(2023年度実績:廃棄物・副産物使用量 22,579千t 等).
  3. 鐵鋼スラグ協会. 鉄鋼スラグ需給の概要(2023年度:高炉スラグ用途別内訳等).
  4. 環境省 環境影響評価情報支援ネットワーク掲載資料. 主なセメントの二酸化炭素排出量比較(国土交通省資料等を基に作成).
  5. セメント協会. 製造工程(生産技術、省エネ設備)、廃棄物・副産物利用等(東日本大震災における災害廃棄物処理に関する整理を含む).
  6. Japan Automobile Tyre Manufacturers Association (JATMA). タイヤ業界としての取組み(廃タイヤ発生量・リサイクル状況等).
  7. 国土交通省. 下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン(下水汚泥回収量等の整理を含む).
  8. セメント協会. セメントハンドブック(高炉スラグ、石炭灰、下水汚泥等の利用状況).
  9. セメント協会. 廃棄物のセメント資源化について(廃棄物利用によるCO2削減効果の試算例等).
  10. 経済産業省. 「トランジションファイナンス」に関するセメント分野技術ロードマップ(廃棄物利用等に関する整理を含む).

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