2004|Jennings:コロイドモデル(グロビュール仮説)

Powers–Brownyardが「水と空隙の収支」を、Feldman–Seredaが「水の居場所の序列(層間水)」を与えたあと、**Jennings(2004)はCSHを“コロイド(微粒子)の凝集体”**として描き直しました。硬化体は連続体ではなく、**数ナノメートル級の“グロビュール”が集まり、時間とともに詰まり方(パッキング)**を変える。乾燥・再吸水・荷重・時間で起こる収縮やクリープの多くは、**粒子間の水と相互作用(表面力)**の変化として説明できる――これがコロイドモデルの核心です。


1. 何を“粒子”と見なすのか

Jennings は、CSHをナノスケールの粒子(グロビュール)の集まりと見なします。粒子そのものは、トバモライト的な短距離秩序をもちつつも、全体としては非晶質~準結晶的。粒子と粒子の間にはゲル水(interglobular water)があり、その量と配置が比表面積・等温線の形・透過性を左右します。粒子が**疎に集まった状態(LD寄り)から、時間と湿度履歴で密に詰まる状態(HD寄り)**へ移るにつれ、同じ“固形成分量”でも力学と水移動の顔つきが変わる、という考え方です。


2. 乾燥収縮・クリープを“粒子間の物理”で語る

乾燥でゲル水が減ると、粒子間の距離が縮み、表面力(ディスジョイニング圧、ファンデルワールス力、毛細力)のバランスが変わります。すると、粒子パッキングが可逆(弾性戻り)のみで終わらず、不可逆な密度化(densification)を伴うことがある。これが履歴(ヒステリシス)や不可逆乾燥収縮の源になります。荷重下では、粒子接触の滑り・再配置が進み、**時間依存の変形(クリープ)**が現れる。すなわち、乾燥収縮とクリープは“別々の現象”ではなく、粒子間の相互作用が支配する同根のプロセスだ――という一本化がここでなされます。


3. 吸脱着等温線と比表面積の“読み替え”

当時ばらばらに見えていた吸着データは、「窒素が入れる空隙=粒子間のアクセス可能孔(主にLD寄り)」という視点で統一的に読めるようになります。相対湿度を上げ下げしたときのヒステリシスや、等温線の折れ曲がりは、粒子間の通路(スロート)の開閉と、粒子の詰まり具合の変化として解釈できる。これにより、比表面積・吸着量・透水性の三点が同じ座標で議論できるようになりました。後年のCM-II(2008)は、この読み替えをさらに数理化し、可逆・不可逆成分や履歴の扱いを精密にしています。


4. LD/HDモデルとの接続――“状態”の二相を粒子で説明する

Tennis & Jennings(2000)のLD/HD二相は、CSHが疎に詰まった状態と密に詰まった状態を取るという経験的な整理でした。コロイドモデルは、そのメソ的な実体を与えます。すなわち、LD=粒子間距離が相対的に大きいパッキングHD=粒子接触とブリッジが増えたパッキング。この対応づけにより、ナノインデンテーションで観測される弾性の二峰性や、非乾燥で決まるCSH固体密度の基準値とも、矛盾なく整合できる枠組みが整いました。


5. 研究の流れをどう変えたか

コロイドモデル登場以降、測定とモデルの“往復”が加速します。小角散乱(SAXS/SANS)は粒子サイズと凝集のスケールを、29Si NMRは鎖長(Q¹/Q²)を示し、原子シミュレーションは表面吸着水やイオンの配置を裏づける。こうして、化学(C/S・鎖長)—物理(粒子パッキング)—力学(水・応力の履歴応答)が一本の線に。CSHを単一の“相”として扱う時代から、“粒子の集合”として設計する時代に、議論の重心が移りました。


6. 一般読者の直観――「湿った粉砂糖」のたとえ

粉砂糖に水を少しずつ垂らすと、最初はふわふわの塊ができ、やがてねっとり密な塊に変わります。見た目は同じ白でも、粒子間の水の量と繋がり方が違えば、手ざわり・流れ方・固まり方が変わる。コロイドモデルは、CSHをまさにそのような**“湿った粉の集合”**として見直し、乾湿・荷重・時間で塊の“詰まり方”がどう移ろうかを言葉にしました。


7. 実務への翻訳――“粒子を育てる”養生と配合

若材齢で水を逃がさない(湿潤・内部養生)ことは、粒子の再配置と架橋を促し、HD寄りのパッキングへスムーズに移行させます。逆に、早期乾燥は疎な通路(LD寄り)を固定化しやすく、乾燥収縮と浸透の感度が上がる。減水剤や微粒子の添加は、初期の核形成と粒子分散を整え、のちのdensificationに有利な足場を与える。配合=量の調整に留まらず、粒子の集まり方を段取りする――この視点が実務の精度を上げます。


8. 限界と今後

コロイドモデルは**“連続体”からの解放をもたらしましたが、粒子サイズや形状、表面化学のばらつきをどこまで明示的に扱うかは、なお発展途上です。アルミニウム取り込み(C-A-S-H)や塩類・アルカリの影響、炭酸化のような化学変化を、粒子レベルの相互作用としてどこまで統合できるか。こうした課題に、CM-II以降の等温線解析や分子動力学・メソスケール計算**が橋をかけつつあります。


9. まとめ

Jennings(2004)のコロイドモデルは、CSHを**“ナノ粒子の集合”と見なし、乾湿・荷重・時間に伴う現象を粒子間の水と相互作用で一気通貫に語る道を開きました。Powers–Brownyardの“量”、Feldman–Seredaの“場所”、Tennis & Jennings の“状態(二相)”を、粒子という共通舞台に招き入れた――それがこの論文の最大の功績です。
次回は
2004|Richardson:tobermorite/jennite 混成モデル**へ。今度は“粒子の中身”に降りて、結晶学モチーフでCSHの幅を言葉にします。


参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です