硫化水素によるコンクリート腐食で「白い膜(白い幕)」が出る理由──指が入る柔らかさと二水石膏の関係

下水道・汚水槽・ピットなどで硫化水素(H₂S)が発生すると、気相部の結露水中で酸化が進み、硫酸(H₂SO₄)としてコンクリート表面に作用します。その結果、表層では二水石膏(CaSO₄・2H₂O)などの腐食生成物が増え、白い膜状〜カーテン状(白い幕)に見える層が形成されます。この層は強度がほとんどないため、指が入るほど柔らかい泥状・粉状になりやすいのが典型的な症状です(1)。

主なポイント

  • 「白い膜(白い幕)」+「指が入る柔らかさ」は、下水環境でよく見られる硫化水素起点の硫酸腐食のサインになり得ます(1)。
  • 腐食生成物の中心は二水石膏で、条件によってはエトリンガイトも関与します(ただし確定には分析が必要)(1)。
  • 腐食は水中より、硫化水素が作用しやすい気相部(天端・水面上)で進みやすい傾向があります(1)。
  • 放置すると剥離・断面欠損が進み、鉄筋腐食や耐荷性能低下につながるため、原因(H₂S・結露・換気・滞留)の把握が重要です(2)。

硫化水素腐食とは?(基本概念・定義)

硫化水素腐食は、汚水が嫌気状態になって硫化水素が発生し、その硫化水素が気相部のコンクリート表面で酸化されて硫酸になることで起こる化学的腐食です。下水道分野では、微生物が関わるケースも含めて整理され、コンクリート表面が酸性化し、腐食生成物が堆積して脆弱化する流れが示されています(1)。

この現象のポイントは「硫化水素=即、コンクリートを溶かす」ではなく、硫化水素 →(酸化)→ 硫酸 →(反応)→ 石膏等の生成物 → 表層の脆弱化という段階があることです。硫酸はアルカリ性のコンクリートと相性が悪く、表面から徐々に健全部を侵します(3)。


なぜ「白い膜(白い幕)」が出るのか?

白く見える主因は、硫酸がコンクリート中の成分と反応して生じる石膏(gypsum:二水石膏を含む)などが表面に析出・堆積するためです。特に気相部で結露が繰り返される環境では、薄い層が何度も形成され、膜状→剥がれ→再形成を繰り返しやすく、結果として「白い幕」のように見えることがあります(1)。

現場でこの白い層が目立つのは、発生量が多いからだけではありません。石膏層は健全なセメントペーストのように緻密ではなく、表面に“乗っている”ような状態になりやすいので、照明や湿り具合で白さが強調されます。つまり、見た目の白さは「反応生成物が表面に集まっている」ことの視覚的なサインになり得ます(1)。


なぜ「指が入るほど柔らかい」のか?

結論から言うと、白い層が柔らかいのは“コンクリート”ではなく“腐食生成物の層”になっていることが多いからです。二水石膏や関連生成物は、構造体としての強度を担うセメント水和物(C-S-H など)とは性質が異なり、強度がほとんどない・剥離しやすいと整理されています(1)。

さらに厄介なのは、腐食が進むほど「健全部の密実な層」が薄くなり、表層が粉・泥・粘土のような状態に置き換わる点です。触ると柔らかいのは、単に湿っているからではなく、材料が“化学的に別物へ変質”している可能性が高い、という理解が安全です(2)。


二水石膏(CaSO₄・2H₂O)とは何か? なぜできるのか?

二水石膏は、硫酸とコンクリート中のカルシウム成分が反応して生成しやすい代表的な腐食生成物です。硫酸腐食の整理では、石膏(gypsum)生成が主要な反応のひとつとして扱われ、表層の性状変化に直結します(3)。

実務上は、「白い層=二水石膏」と短絡しないことも重要です。白い析出物には白華(エフロレッセンス)等もあり得ます。ただし、白い層が厚い/剥がれやすい/触ると泥状のような症状が揃う場合は、硫酸由来の生成物(石膏系)を疑う合理性は上がります。確定にはXRD等の分析が有効です(4)。


腐食はどこで起こりやすい?(気相部・結露・滞留がカギ)

硫化水素腐食が目立つ場所として典型なのは、マンホールや沈砂池、汚水槽などの水面上〜天端です。水中よりも気相部で進みやすいのは、硫化水素が気相へ放散し、結露水や湿潤表面に取り込まれて反応が進みやすいから、という整理が示されています(1)。

また、腐食が局所的に進む現場では、たいてい「条件が揃う場所」があります。例えば、下水が嫌気化して硫化水素が発生しやすい滞留域、沈殿物が溜まる箇所、攪拌で放散が起きやすい落差部、そして温度差で結露しやすい天端付近などです。症状が同じでも原因配置が違うと対策も変わるため、「どこがどれだけ傷んでいるか」を位置情報として把握するのが第一歩です(1)。


現場での切り分け:白華(エフロ)と何が違う?

白い析出物は、必ずしも硫酸腐食だけで起こるわけではありません。代表的な混同相手が白華(炭酸カルシウム等)です。白華も白く見えますが、必ずしも「指が入るほど柔らかい層」にはなりにくく、表層の強度低下や断面欠損が主症状にならないことも多いです(もちろん環境や経年で例外はあります)。

一方で硫化水素起点の硫酸腐食が疑われるのは、次のような組み合わせが見えるときです。

  • 気相部(天端・水面上)で進行が強い
  • 白い層が厚く、剥がすと下が“脆い・ざらつく・粉化”している
  • 臭気(硫化水素臭)や結露が確認できる
  • 近接箇所でも条件次第で進行度が変わる(局所性)

ただし、最終判断は「見た目」だけで決めず、必要に応じて分析で裏取りするのが安全です。腐食生成物として gypsum/ettringite を主要視する研究整理もあり、分析で相を確認する価値があります(4)。


データ・事例・比較:生成物が“強度を持たない”ことが劣化を加速する

硫酸腐食の怖さは、単なる表面汚れではなく、反応でできた生成物が健全な材料性能を担えない点です。生成物が剥離しやすいと、表層が保護層にならず、むしろ新しい面が露出して反応が継続しやすくなります。これが「白い層を取っても、また同じように出る」現象の背景です(1)。

構造面では、剥離や断面欠損が進むほど鉄筋まで到達しやすくなり、鉄筋腐食や耐久性低下のリスクが高まります。下水道環境でのコンクリート劣化は維持管理上の重要課題として整理されており、早期発見・原因把握・適切な補修設計が不可欠です(2)。


注意点・ベストプラクティス(再発を防ぐ考え方)

対策で失敗しやすいのは、「白い層=汚れ」とみなして除去だけで終えることです。表面除去は必要な工程になり得ますが、硫化水素が発生し、結露が起き、酸が生成される条件が残れば再発します。まずは以下をセットで捉えるのが実務的です(1)。

  • 原因側(発生):滞留・沈殿・嫌気化で硫化水素が出やすい運転・流況になっていないか
  • 移動側(放散):落差・攪拌・気液界面で放散が増える要素がないか
  • 反応側(結露・湿潤):温度差で結露が常態化していないか、換気で湿潤が緩和できないか
  • 材料側(防食):表面被覆・ライニングなど、環境に適した防食仕様になっているか
  • 維持管理:局所進行の有無を点検で追えるよう、写真・位置・進行度の記録が残っているか

補修・防食の個別手法は施設条件で変わりますが、考え方としては「生成物を取り除く」だけでなく、「硫化水素〜硫酸化を起こしにくい環境へ寄せる」ことが再発防止の核になります(2)。


よくある質問(FAQ)

白い膜があれば、硫化水素腐食で確定ですか?

確定ではありません。白華など別要因もあり得ます。ただし、気相部優先で進み、白い層が剥がれやすく、下地が粉化・軟化しているなら硫酸腐食を強く疑います。確定にはXRD等の分析が有効です(4)。

「指が入る」ほど柔らかいのは危険サインですか?

危険側のサインです。表層が腐食生成物へ置換され、強度がほとんどない層になっている可能性が高く、剥離・断面欠損が進行しやすい状態です。点検・補修の優先度を上げる根拠になります(1)。

水中より上(天端側)ばかり傷むのはなぜですか?

硫化水素が気相に放散し、湿潤面や結露水に取り込まれて反応が進みやすいからです。水中は酸の生成・蓄積条件が同じではないため、相対的に気相部で腐食が目立ちやすいと整理されています(1)。

二水石膏とエトリンガイトはどちらが主役ですか?

下水道腐食では gypsum(石膏)が主要生成物として扱われることが多く、条件次第でエトリンガイト等も関与し得ます。どちらが支配的かは環境・材料・進行段階で変わるため、必要なら分析で相を確認します(4)。

白い層を削り取ったら止まりますか?

止まらないケースが多いです。除去は一時的に見た目を戻しますが、硫化水素の発生・放散・結露という条件が残れば再形成され得ます。原因側の条件(滞留、換気、結露)もセットで潰す発想が重要です(2)。


まとめ

硫化水素環境で見える「白い膜(白い幕)」と「指が入る柔らかさ」は、硫化水素が硫酸化し、二水石膏などの腐食生成物が表層に蓄積して脆弱化している可能性を示す典型所見です。白い層は“汚れ”ではなく“反応で別物になった層”であることが多く、剥離と再形成を繰り返しながら断面欠損へ進むリスクがあります(1)。

今すぐできる次の一歩(実務向け)

  1. 腐食位置を「気相部/水中/境界」で分け、写真と位置を固定して進行を記録する。
  2. 滞留・沈殿・落差・換気・結露の有無を点検票に落とし、条件が揃う場所を特定する。
  3. 必要なら試料採取し、XRD等で二水石膏(gypsum)や関連相を確認して対策設計の精度を上げる(4)。

参考文献

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