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セメントのTG-DTA分析入門|結合水量・CH量・炭酸塩の読み方

セメント硬化体をTG-DTAで測定したものの、「TG・DTG・DTAのどこを見ればよいのか」「何度から何度までの減量を使えばよいのか」と迷うことがあります。

先に結論を示すと、セメントのTG-DTAでは主に次の値を評価できます。

評価項目主に使うデータ分かること
結合水量TGの水分放出による減量水和生成物全体の増減
水酸化カルシウム量TGとDTGのCH脱水域CHの生成・消費
炭酸塩量TGとDTGの脱炭酸域炭酸化や石灰石成分の影響
熱反応の位置DTAまたはDSC脱水・分解・相変化の温度
水和度結合水量と基準値基準値を定めた場合のみ算出可能

TG-DTAは水和反応を調べるうえで有効ですが、測定結果から自動的に「水和度」が出る装置ではありません

水和度を求めるには、TGから得た結合水量を何と比較するのか、どの質量を分母にするのか、炭酸化や未水和材料の強熱減量をどう補正するのかを決める必要があります。化学結合水量は水和熱と対応する指標として利用できますが、完全水和時の結合水量などの基準がなければ、水和度という割合には換算できません。

この記事では、水和度の評価方法全体ではなく、セメント硬化体のTG-DTAデータをどのように読み、結合水量・CH量・炭酸塩量を計算するかに絞って解説します。

セメントのTG-DTA分析で分かること

TG-DTAは、試料を加熱したときに起こる質量変化と熱的な変化を同時に測定する方法です。

セメント硬化体を加熱すると、自由水や残留溶媒の蒸発、水和物の脱水、水酸化カルシウムの脱水分解、炭酸塩の脱炭酸などが順番に起こります。

これらの変化を温度ごとに読み分けることで、試料中の水和生成物や炭酸塩について検討できます。

TG-DTAで評価しやすいもの

TG-DTAが特に向いているのは、次のような評価です。

  • 材齢に伴って結合水量が増えているか
  • 普通ポルトランドセメントの水和に伴ってCH量が増えているか
  • 混和材の反応によってCHが消費されているか
  • 試料が炭酸化している可能性があるか
  • 配合や養生条件によって水和生成物量が変化しているか

一方、TG-DTAだけでは次の内容を直接求めることは困難です。

  • エーライトやビーライトごとの反応率
  • C-S-Hだけの正確な含有量
  • 水和生成物の空間的な分布
  • 細孔径分布
  • 圧縮強度
  • 基準値を定めていない状態での水和度

未反応のエーライトやビーライトを調べたい場合はXRD、水和物や未水和粒子の分布を見たい場合はSEM、細孔構造を調べたい場合はMIPなどを組み合わせます。

未反応セメント鉱物の読み方については、セメントXRD解析入門|エーライト・ビーライトのピークの読み方で詳しく解説しています。

TG・DTG・DTAの違い

TG-DTAの解析では、TG、DTG、DTAを別々の役割として読むことが必要です。

TGは質量の変化を見る

TGは熱重量測定を意味し、温度または時間に対する試料質量の変化を測定します。

水や二酸化炭素が試料から放出されると、TG曲線に質量減少として現れます。したがって、結合水量、CH量、炭酸塩量などの量を計算するときはTGの減量幅を使います。

TGとTGAは、実務上ほぼ同じ意味で使われます。

DTGは質量減少が起きた温度を探す

DTGはTG曲線を温度または時間で微分した曲線です。

質量減少が急激に起きた温度では、DTGにピークが現れます。そのため、CHの脱水がどこから始まり、どこで終わったのかを判断するときに役立ちます。

例えば、400~500℃付近にDTGピークがあれば、CHの脱水分解が候補になります。ただし、実際の開始温度と終了温度は、試料や測定条件ごとに確認します。

DTAは吸熱・発熱反応を確認する

DTAは、試料と基準物質の温度差を測定する方法です。

水和物の脱水や炭酸塩の分解では主に吸熱反応が現れます。DTAは「この温度で何らかの反応が起きた」と判断するために役立ちますが、DTAのピーク面積をそのまま物質量として扱うことはできません。

DSCは熱流を測定し、ピーク面積から反応熱を求められるのに対し、DTAのピーク面積は吸熱量・発熱量に比例する値ではあるものの、そのまま熱量にはなりません。

TG-DTAの基本的な読み方は、次のように整理できます。

量はTGで求め、温度範囲はDTGで決め、反応の種類をDTAで確認する。

セメント硬化体で見られる主な温度域

セメント硬化体では、複数の水和物が近い温度で脱水します。そのため、「この温度範囲はすべてC-S-H」と単純に分けることはできません。

代表的な温度域の目安は次のとおりです。

温度域の目安主な変化解析時の注意点
室温~約100℃自由水、残留溶媒、吸着水の放出前処理の影響が大きい
約50~200℃C-S-H、エトリンガイトなどの脱水複数の水和物が重なる
約100~400℃C-S-H、AFt・AFm相などの継続的な脱水個別相の定量は難しい
約400~550℃CHの脱水分解CH量の計算に利用しやすい
約500~900℃炭酸塩の脱炭酸炭酸塩の種類や測定条件で変わる

国内のセメント系材料の研究でも、TGAの質量減少から結合水量を求め、約450℃付近のCH脱水量から水酸化カルシウム量を計算する方法が用いられています。

ただし、この表の温度は固定された解析範囲ではありません。

ピーク位置や分解温度は、次の条件によって変化します。

  • 昇温速度
  • 雰囲気ガス
  • 試料量
  • 粒径
  • 水和物の組成
  • 炭酸塩の結晶形
  • 炭酸塩の含有量
  • 装置の構造
  • 前処理方法

特に炭酸塩は、カルサイト、バテライト、アラゴナイトなどの違いによって脱炭酸温度が変わります。炭酸塩量が多い場合や昇温速度が異なる場合にも、二酸化炭素が放出される温度域が変化します。

したがって、文献に書かれている温度範囲をそのまま使用するのではなく、自分の試料のDTGピークから積分範囲を決めることが基本です。

TG-DTA曲線を読む手順

1.最初に測定条件と前処理を確認する

曲線を見る前に、次の条件を確認します。

  • 水和停止方法
  • 乾燥方法
  • 試料の保管方法
  • 試料量
  • 昇温速度
  • 雰囲気ガス
  • 測定開始温度と終了温度
  • 使用したるつぼ
  • 質量の基準

前処理や測定条件が異なる試料を比較すると、材齢や配合による差ではなく、測定条件の差を見てしまう可能性があります。

2.TG曲線全体の形を見る

まずは室温から測定終了温度までの質量減少を確認します。

見るべき点は次のとおりです。

  • 低温側の減量が大きすぎないか
  • 400~550℃付近にCHの減量があるか
  • 高温側に炭酸塩の大きな減量がないか
  • 測定終了時まで質量減少が続いていないか
  • 試料間で最終残存質量が大きく異なっていないか

低温側の減量が異常に大きい場合は、自由水や溶媒が残っている可能性があります。

3.DTGでピーク位置を確認する

次にDTG曲線を見て、質量減少速度が大きくなっている温度を確認します。

特にCH量を計算する場合は、400~550℃付近のピークについて、立ち上がりと終了位置を確認します。

積分範囲は「400~500℃で固定」とするのではなく、ピーク前後の谷や接線を参考に決めます。

4.DTAで吸熱反応を確認する

DTGピークと同じ温度にDTAの吸熱ピークがあるか確認します。

TGで質量が減少し、同じ温度でDTAに吸熱反応があれば、脱水や脱炭酸などの分解反応として解釈しやすくなります。

一方、DTAに反応があってもTGに質量変化がなければ、質量変化を伴わない相転移などの可能性があります。

5.積分範囲と分母を決めて計算する

最後にTG曲線の減量を読み、対象物質の量へ換算します。

このとき、次のどの質量を分母にしたのかを明記します。

  • TG測定開始時の試料質量
  • 水分を除いた乾燥試料質量
  • 高温加熱後の残存質量
  • 配合時のセメント質量
  • 配合時の結合材質量

同じ減量でも、分母が違えば百分率も変わります。

TG-DTAの前処理では水和停止が必要

セメント硬化体は、所定材齢で試料を取り出した後も、自由水が残っていれば水和が進みます。

そのため、材齢1日、7日、28日などの状態を比較するには、試料採取後に水和を止め、測定までの状態変化を抑える必要があります。

水和停止方法を比較したRILEMの共同試験では、105℃乾燥はカルシウムアルミネート系水和物の脱水・変質や炭酸化を生じやすいため推奨されず、IPAによる溶媒交換が水和物相の保存性と再現性の面で適していると整理されています。

TG-DTA用試料の基本的な流れ

一般的には次の流れで処理します。

  1. 所定材齢で試料を採取する
  2. 数mm以下の小片にする
  3. IPAなどで自由水を置換する
  4. 低温または減圧条件で溶媒を除く
  5. 必要な粒径まで粉砕する
  6. 炭酸化を避けて保管する
  7. できるだけ早く測定する

ただし、IPAにも残留や水和物との相互作用があり、完全に影響のない方法ではありません。凍結乾燥は化学分析用の試料調製に利用できますが、微細構造を変化させる可能性があります。

アセトンを使用した場合は、残留成分や炭酸塩の生成によってTG曲線の解釈が難しくなることがあります。IPAとアセトンを比較した研究では、アセトン処理した試料で炭酸塩量や低温側の減量が大きくなる結果が示されています。

詳しい手順は、セメント試料の水和停止方法|アセトン・IPA・凍結乾燥の使い分けで確認できます。

TG-DTAの測定条件をどう決めるか

TG-DTAの条件は、測定対象に合わせて設定します。

条件結果への主な影響
昇温速度ピーク位置、ピークの重なり、測定時間
雰囲気ガス酸化、燃焼、脱炭酸などの反応
試料量試料内部の温度差、ガスの抜けやすさ
粒径反応速度、試料の均一性
るつぼ熱伝達、試料と雰囲気の接触
ガス流量発生ガスの排出、ピーク位置
終了温度炭酸塩分解や最終残存質量の確認

昇温速度

昇温速度を速くすると測定時間を短縮できますが、ピークが高温側へ移動したり、近接する反応が重なったりすることがあります。

ピークを分離したい場合は、昇温速度を下げた条件も検討します。

雰囲気ガス

窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気では、酸化反応の影響を抑えながら脱水や分解を観察できます。

空気雰囲気では、有機物の燃焼や酸化反応が生じる可能性があります。混和剤を含む試料や有機溶媒が残っている試料では、雰囲気によってTG・DTA曲線が変わるため注意が必要です。

測定条件の記載例

卒論や論文では、少なくとも次の情報を記載します。

TG-DTA測定は、窒素雰囲気下で室温から1000℃まで実施した。昇温速度は10℃/minとし、試料量およびガス流量を各試料で統一した。CHおよび炭酸塩の積分範囲は、各試料のDTG曲線から決定した。

30~1000℃、10℃/min、窒素雰囲気などはセメント研究で用いられる条件例の一つですが、すべての装置や試料に共通する標準条件ではありません。

研究室内で過去の測定結果と比較する場合は、途中で条件を変えず、同じ装置・同じ条件で測定する方が結果を整理しやすくなります。

TGから水酸化カルシウム量を求める方法

CHは、おおむね400~550℃付近で次の反応によって分解します。Ca(OH)2CaO+H2O\mathrm{Ca(OH)_2 \rightarrow CaO + H_2O}

TGで測定されるのは、CHから放出された水の質量です。

CHのモル質量は74.09 g/mol、水のモル質量は18.015 g/molであるため、CH量は次式で計算できます。mCH=ΔmH2O×74.0918.015m_{\mathrm{CH}} = \Delta m_{\mathrm{H_2O}} \times \frac{74.09}{18.015}mCH4.11ΔmH2Om_{\mathrm{CH}} \approx 4.11\Delta m_{\mathrm{H_2O}}

減量率で計算する場合は、次のようになります。CH量 (wt%)=4.11×CH脱水域の減量率 (wt%)\mathrm{CH量\ (wt\%)} = 4.11 \times \mathrm{CH脱水域の減量率\ (wt\%)}

この換算は、CH1 molから水1 molが放出される化学量論に基づきます。TGによるCH定量では、DTGで分解範囲を確認し、対応するTGの減量を使用します。

具体的な計算例やベースラインの取り方は、TG-DTAで水酸化カルシウム量を算出する方法で詳しく解説しています。

CH量を水和度として扱ってはいけない

普通ポルトランドセメントの同一配合を材齢ごとに比較する場合、CH量の増加は水和進行の参考になります。

しかし、CH量と水和度は同じではありません。

理由は次のとおりです。

  • エーライトとビーライトではCH生成量が異なる
  • アルミネート相やフェライト相の反応を十分に反映しない
  • フライアッシュやシリカフュームの反応でCHが消費される
  • 高炉スラグを含む系でもCHの生成と消費が同時に起こる
  • 炭酸化によってCHが炭酸塩へ変化する

混合セメントでは、化学結合水量と水和熱が対応していても、CH量にはクリンカー水和による生成と混和材反応による消費の両方が含まれます。

したがって、論文では次のように表現します。

CH量を、クリンカーの水和および混和材反応の進行を検討するための指標として用いた。

「CH量からセメント全体の水和度を算出した」と書くには、セメント鉱物組成と反応モデルを含む別の根拠が必要です。

TGから炭酸カルシウム量を求める方法

炭酸カルシウムは、加熱によって次のように分解します。CaCO3CaO+CO2\mathrm{CaCO_3 \rightarrow CaO + CO_2}

炭酸カルシウムのモル質量は100.09 g/mol、二酸化炭素のモル質量は44.01 g/molです。

したがって、脱炭酸による減量からCaCO₃量を求める場合は、次式を使います。mCaCO3=ΔmCO2×100.0944.01m_{\mathrm{CaCO_3}} = \Delta m_{\mathrm{CO_2}} \times \frac{100.09}{44.01}mCaCO32.27ΔmCO2m_{\mathrm{CaCO_3}} \approx 2.27\Delta m_{\mathrm{CO_2}}

減量率が5.0 wt%だった場合、炭酸カルシウム量は次のようになります。5.0×2.27=11.35 wt%5.0\times2.27=11.35\ \mathrm{wt\%}

ただし、計算したCaCO₃がすべてセメント硬化体の炭酸化によって生成したとは限りません。

試料には次の炭酸塩が含まれる可能性があります。

  • セメントの少量混合成分として含まれる石灰石
  • 石灰石微粉末
  • 石灰質骨材
  • 未水和材料にもともと含まれる炭酸塩
  • 水和物の炭酸化によって生じた炭酸塩

そのため、炭酸化量を評価する場合は、未水和セメントや使用材料のTG-DTAも測定し、初期の炭酸塩量を差し引く必要があります。

TGから結合水量を求める方法

結合水量は、水和物の脱水とCHの脱水分解によって放出された水の総量を基に求めます。

ただし、結合水量には統一された一つの測定範囲があるわけではありません。

文献によって、例えば次のような違いがあります。

  • 50~1000℃の減量を使う
  • 105~1000℃の減量を使う
  • 炭酸塩の二酸化炭素減量を除外する
  • 未水和セメントの強熱減量を補正する
  • 高温加熱後の質量を分母にする
  • 配合時のセメント質量を分母にする

そのため、「結合水量を測定した」とだけ書かず、温度範囲と計算基準を示します。

結合水量の基本的な考え方

水の放出に対応する減量を ΔmH2O\Delta m_{\mathrm{H_2O}}​、基準質量を mrefm_{\mathrm{ref}}とすると、結合水量は次式で表せます。wb=ΔmH2Omref×100w_b = \frac{\Delta m_{\mathrm{H_2O}}} {m_{\mathrm{ref}}} \times100

ここで使用する ΔmH2O\Delta m_{\mathrm{H_2O}}には、原則として次の減量を含めます。

  • C-S-Hなどの脱水
  • AFt・AFm相などの脱水
  • CHの脱水

一方で、次の減量は分けて扱います。

  • 自由水
  • 残留溶媒
  • 二酸化炭素
  • 有機成分
  • 未水和材料がもともと持つ強熱減量

高温加熱までの総減量を使う場合は、簡略的には次のように考えられます。wb(mstartmfinal)ΔmCO2Δmothermref×100w_b \approx \frac{ \left(m_{\mathrm{start}}-m_{\mathrm{final}}\right) -\Delta m_{\mathrm{CO_2}} -\Delta m_{\mathrm{other}} }{ m_{\mathrm{ref}} } \times100

ここで、Δmother\Delta m_{\mathrm{other}}は残留溶媒や未水和材料由来の減量などです。

未水和セメント、混和材、石灰石微粉末などを同じ条件で測定しておくと、水和前から存在する減量を補正できます。

炭酸化補正は条件付きで行う

炭酸化によって水和物が炭酸塩へ変化すると、炭酸化の過程で水が失われます。

そこで、炭酸化によって増加した二酸化炭素量から、炭酸化前に水和物が保持していた水を補正する方法があります。

二酸化炭素と水のモル質量比を使うと、補正量は次のように表せます。ΔmH2O,corr=ΔmCO2,new×18.01544.01\Delta m_{\mathrm{H_2O,corr}} = \Delta m_{\mathrm{CO_2,new}} \times \frac{18.015}{44.01}ΔmH2O,corr0.409ΔmCO2,new\Delta m_{\mathrm{H_2O,corr}} \approx 0.409\Delta m_{\mathrm{CO_2,new}}

ただし、この補正には「増加した炭酸塩が水和物の炭酸化によって生成した」という仮定が含まれます。

石灰石微粉末や石灰質骨材を含む試料では、そのまま適用できません。

結合水量から水和度を計算する方法

材齢 ttt の結合水量を wb(t)w_b(t)、完全水和時の結合水量を wb,w_{b,\infty}とすると、TGに基づく水和度は次式で表せます。αTG(t)=wb(t)wb,\alpha_{\mathrm{TG}}(t) = \frac{w_b(t)} {w_{b,\infty}}

この式で重要なのは、分母となる wb,w_{b,\infty}です。

完全水和時の結合水量は、次の方法で設定します。

  • 長期養生試料の実測値を使う
  • セメント鉱物組成から理論値を求める
  • 反応モデルから推定する
  • 既往研究の値を仮定して使う

既往研究では、結合水量に基づく水和度を wb/wb,w_b/w_{b,\infty}​、発熱量に基づく水和度を Q/QQ/Q_\infty​ として評価しています。

完全水和時の結合水量を決められない場合は、無理に水和度へ換算せず、次のように結合水量のまま示す方が適切です。

材齢7日から28日にかけて、結合材質量に対する結合水量が増加した。

水和度を算出する場合は、次のように基準値を明記します。

完全水和時の結合水量を0.○○ g/gと仮定し、TGから求めた結合水量との比を、結合水量に基づく見掛けの水和度とした。

根拠を示さずに「結合水率に係数を掛ける」という計算は、他の研究者が結果を再現できないため避けます。

質量の基準を統一する

TG-DTAの解析で見落とされやすいのが、百分率の分母です。

例えば、CH量20 wt%と書いてあっても、次のどれを分母にしているかで意味が変わります。

表示方法分母
測定試料基準TG測定開始時の質量
乾燥試料基準所定条件で乾燥した後の質量
強熱後質量基準高温加熱後の残存質量
セメント基準配合時のセメント質量
結合材基準セメントと混和材の合計質量

材齢が進むと結合水量が増えるため、測定開始時の試料質量に占める未水和材料と水和物の割合も変化します。

材齢間で水和物量を比較する場合は、配合時のセメント質量または結合材質量へ換算した方が、結果の意味を説明しやすくなります。

論文や卒論では、例えば次のように記載します。

結合水量およびCH量は、配合時の結合材質量に対する質量百分率として示した。

モルタルやコンクリートを測定するときの注意点

モルタルやコンクリートでは、TG-DTA試料に骨材が含まれます。

骨材は水和反応に直接関与しないため、その質量が分母に含まれると、結合水量やCH量が小さく表示されます。

さらに、石灰石骨材を含む場合は、高温側に大きな二酸化炭素減量が現れます。これをセメントペーストの炭酸化と誤認する可能性があります。

モルタルやコンクリートを分析する場合は、次の方法を検討します。

  • セメントペースト試料を別に作製する
  • 骨材量を補正して結合材基準に換算する
  • 使用した骨材を単独で測定する
  • 石灰石骨材の有無を確認する
  • 試料採取位置と粒径を統一する

細孔構造との関係も調べる場合は、セメントのMIP(水銀圧入法)入門も参考になります。

混合セメントのTG-DTAをどう解釈するか

高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどを含む場合、TG-DTAの読み方は普通ポルトランドセメントより複雑になります。

高炉スラグを含む場合

高炉スラグの反応によってC-A-S-Hなどが生成し、結合水量が増加します。

一方で、CHはスラグ反応や相平衡の影響を受けるため、CH量の増減だけからクリンカーの水和度を判断することはできません。

フライアッシュやシリカフュームを含む場合

ポゾラン反応では、セメントの水和によって生成したCHが消費されます。

そのため、材齢の経過とともに結合水量が増えているにもかかわらず、CH量が減少することがあります。

これは「水和が進んでいない」のではなく、混和材の反応が進んだ結果である可能性があります。

石灰石微粉末を含む場合

石灰石微粉末を含む試料では、脱炭酸による減量の多くが材料由来です。

高温側の減量をすべて炭酸化生成物として扱うことはできません。

混合セメントでは、次の測定を組み合わせて解釈します。

確認したい内容組み合わせる方法
クリンカーの反応率XRD・リートベルト解析
混和材反応を含む全体の進行結合水量、等温熱量測定
CHの生成・消費TG-DTA、XRD
水和物の種類XRD、NMR
組織の緻密化SEM、MIP
強度発現圧縮強度試験

混合セメントでは、TG-DTAから得られる結合水量を結合材全体の反応進行の指標とし、XRDなどで未反応量を補う方法が現実的です。

TG-DTA解析でよくある失敗

温度範囲をすべての試料で機械的に固定する

「CHは400~500℃」と決めて減量を読み取ると、ピークの一部を外したり、別の反応を含めたりすることがあります。

まずDTGでピーク位置を確認し、試料ごとに妥当な範囲を決めます。ただし、材齢間比較では解析ルールが変わりすぎないようにします。

DTAのピーク面積から含有量を求める

通常のTG-DTAでは、物質量の計算はTGの質量減少を使います。

DTAは反応温度の確認に使用し、定量値として扱う場合は装置の校正や検量線が必要です。

105℃乾燥後の減量をそのまま結合水量とする

105℃乾燥では、自由水だけでなくAFt・AFm相などの水和物からも水が失われる可能性があります。

過去の研究との比較のために105℃乾燥を使う場合は、その値が前処理条件に依存することを明記します。水和物相全体を評価する目的では、IPA溶媒交換などを検討します。

CH量を水和度と書く

CH量は水和反応の一部を示す指標であり、セメント全体の反応割合ではありません。

特に混和材系や炭酸化試料では、CH量が減少しても反応が進んでいる場合があります。

分母を記載しない

「CH量15%」「結合水量18%」だけでは、測定試料基準なのかセメント基準なのか判断できません。

計算式と基準質量を併記します。

未水和材料のTGを測定しない

未水和セメントや混和材にも、石膏の結晶水、炭酸塩、有機成分などによる減量があります。

水和試料だけを測定すると、水和によって生じた減量と材料が最初から持っていた減量を区別できません。

卒論・論文に使える測定方法の記載例

以下は、TG-DTAの測定方法を記載するときのひな型です。数値や条件は実際の測定内容に合わせて変更してください。

所定材齢に達したセメントペーストを約○mmの小片にし、イソプロパノールに○時間浸せきして水和を停止した。溶媒交換後、○℃の真空条件下で○時間乾燥し、○µm以下に粉砕した。試料は測定まで窒素雰囲気下で保管した。

TG-DTA測定は、窒素雰囲気下において○℃から○℃まで、昇温速度○℃/minで実施した。試料量は約○mgとした。

CH量はDTG曲線から決定した脱水範囲の質量減少量に、Ca(OH)₂とH₂Oのモル質量比である74.09/18.015を乗じて求めた。

炭酸塩量は脱炭酸範囲の質量減少量から算出し、未水和結合材に含まれる炭酸塩量を補正した。

結合水量は、自由水および残留溶媒に由来する低温側の減量と、炭酸塩の脱炭酸による減量を除いた水分放出量として求め、配合時の結合材質量に対する割合で示した。

TGに基づく水和度は、各材齢の結合水量を完全水和時の結合水量で除して算出した。

FAQ

TGとTGAは違う測定方法ですか?

一般には同じ熱重量測定を指します。

日本ではTG、海外論文ではTGAと書かれることが多くあります。装置名としてTGAが使われる場合もあります。

CHピークの温度が文献と違っていても問題ありませんか?

数十℃程度の違いであれば、直ちに異常とは限りません。

ピーク位置は昇温速度、雰囲気、試料量、水和物組成などによって変わります。温度の数値だけで相を決めず、TG、DTG、DTA、材料構成を合わせて判断します。

低温側の減量からC-S-H量を計算できますか?

低温側の減量だけから、C-S-H量を正確に求めることは困難です。

C-S-H、エトリンガイト、AFm相、吸着水、残留溶媒などの減量が重なるためです。低温側の減量は、水和物全体の結合水量を比較する目的で使う方が適しています。

TG-DTAだけで水和度を求められますか?

完全水和時の結合水量など、比較する基準を設定できれば算出できます。

基準値がない場合に得られるのは結合水量やCH量であり、それだけでは水和度という割合にはなりません。混和材を含む場合は、クリンカーの水和と混和材の反応が重なるため、XRDや等温熱量測定などとの併用が必要です。

まとめ|TG・DTG・DTAの役割を分けて読む

セメント硬化体のTG-DTAでは、結合水量、CH量、炭酸塩量を評価できます。

解析の基本は次のとおりです。

  • 物質量はTGの減量から計算する
  • 反応の開始・終了温度はDTGで確認する
  • 脱水や分解反応はDTAで補足する
  • 温度範囲を文献から機械的に当てはめない
  • 水和停止と乾燥条件を統一する
  • 未水和材料も同じ条件で測定する
  • 質量の分母を必ず明記する
  • CH量と水和度を同一視しない

次の測定に入る前に、まず「結合水量、CH量、炭酸塩量のどれを求めたいのか」を決めてください。

そのうえで、前処理方法、解析する温度範囲、補正方法、基準質量を実験ノートに記録します。ここまで決めておけば、材齢や配合が増えても比較できるTG-DTAデータを作りやすくなります。

主な参考文献

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