w/b(=水結合材比)が 0.35、0.30… と小さくなるほど、硬化体の緻密さと早期強度は伸びます。ところが同時に、打設してから“外へ水が出ていないのに”体積が目に見えず縮む――**オートジェニアス収縮(自己収縮)**が前景化します。2010年代は、**自己乾燥(self-desiccation)**の実像が“数字で”語れるようになり、**内部養生(internal curing)**の作法も、実務へ持ち出せるレベルに整った時期でした。本稿では、一般の方にも伝わる言葉で、研究者が使う座標に接続しながら、低 w/b 時代の体積変化の地図を描き直します。
1|なぜ「水が足りなくなる」と縮むのか:自己乾燥の筋道
セメントの水和は、粉体と水が新しい固相(CSH など)に姿を変える反応です。反応が進むにつれて、化学収縮(chemical shrinkage)によって空隙の合計体積は増え、毛細管の曲率が大きくなります。低 w/bでは連続した自由水域が早く途切れ、毛細管中の水面は強い負圧(毛細管張力)を帯びます。これが骨格を引き締める駆動力になり、外部からは乾かしていないのに体積は縮みます。
感覚的には、乾燥収縮が“外へ水が出ていく”現象なら、オートジェニアス収縮は“中の水が反応で目減りしていく”現象です。低 w/b になるほど、自己乾燥のスイッチが早く入るため、初期強度の立ち上がりと同時に収縮ひずみも立ち上がる――ここが高性能コンクリート(HPC/UHPC)の悩ましい二面性です。
2|何が“増幅器”になるのか:配合・微細構造・温度履歴
自己乾燥の増幅には三つの車輪があります。
一つ目は細孔構造。微粉(シリカフュームなど)で毛細管を細くすれば、同じ含水率でも毛細管張力は高くなります。
二つ目は反応速度。高温や急激な水和促進は、短時間に化学収縮を進めて内部 RH(相対湿度)を速く落とします。
三つ目はCa/Si と骨格の育ち方。Ca リッチな CSH は若齢で通路がつながりやすく、等温線(吸脱着履歴)が荒れやすいため、戻りにくいひずみに結びつきやすい。
結果として、**“強度の立ち上がりを急ぎつつ、通路の整理は後回し”**という前史を持つ試料ほど、微細構造が“縮みやすい”側に寄ります。
3|どう測るのか:化学収縮と自己収縮、同じではない
研究室では、**化学収縮(体積一定で水の目減りを見る)**と、オートジェニアス収縮(密閉・等温の自由変形を測る)を、別の量として取ります。化学収縮は“反応そのものの量”、オートジェニアス収縮は“その結果として骨格がどれだけ動いたか”。両者は若材齢では近い値を取りうるものの、細孔構造や等温線の履歴で差が開きます。したがって、等温・密閉・温度補償という作法を守って“同一バッチの時系列”でそろえることが、再現性の第一歩です。内部 RH の同時計測(小型センサ)を重ねれば、「RH がどこで何%まで落ちたとき、収縮がどれほど進むか」という因果の指標が得られます。
4|設計の打ち手①:内部養生を“設計”として位置づける
自己乾燥の対策は、水を中から補給して負圧を和らげること。含水軽量骨材(LWA)や高吸水性ポリマー(SAP)は、水で満たした小さな“タンク”を生地中に分散させ、必要なタイミングで水を吐き出します。ここで重要なのは、“余分な練混ぜ水”ではない点です。余分な外水は毛細管をつなぎ直して乾燥収縮を増やすことがある一方、内部養生の水は閉じたポケットに保持され、自己乾燥が進んだ“とき”にだけ出てくる。
配合側では、必要水量の見積り(目標水和度までの化学収縮分)とタンクの分散密度が肝です。LWA なら含水率×体積率、SAP なら吸水倍率×添加率で“タンク容量”が決まります。過少なら効かず、過多なら空隙増で強度・耐久が落ちる――バランスの設計が求められます。
5|設計の打ち手②:配合と養生の“二人三脚”
内部養生は万能薬ではありません。w/b をやみくもに下げ、微粉を入れ、高温で急がせる処方は、内部養生を足しても収縮主導になりがちです。目標強度に対して必要最小限の w/bを見極め、初期は温度と水分の履歴を穏やかに。“強度は上げるが、通路の整理も待つ”という若材齢の作法が、戻りやすい微細構造につながります。
ブレンド系(スラグ・フライアッシュ)では、初期は水和が緩く自己乾燥が遅れがちですが、長期には毛細管が細くなって張力が高くなる側面もあります。内部養生+湿潤養生の重ねがけで、**初期の“水不足”と長期の“張力過多”**をまとめていなす設計が安全です。
6|“割れ”をどう抑えるか:拘束・温度と重ねて考える
オートジェニアス収縮はひずみを生むだけでなく、拘束(鉄筋・基盤・断面勾配)があれば引張応力を生みます。若材齢の弾性率上昇と収縮速度の積で応力速度が決まり、温度ひずみとも重なって初期ひび割れの起点になります。現場の翻訳は単純で、(a)収縮を小さくする(内部養生・配合・養生)、(b)拘束を弱める(打重ね・目地・配筋の工夫)、(c)同時に温度履歴を穏やかに、の三本柱。リング試験や自由収縮+ヤング率の同時計測で、狙いの配合が**“割れにくい座標”**に入っているかを事前に確かめます。
7|一般読者の直観:スポンジと水筒
低 w/b の生地は目の細かいスポンジです。最初はたっぷり水を含んでいても、反応で水が“体の中に取り込まれ”るにつれて、スポンジの中はじわじわ乾いていく。握りしめると自分で縮むイメージです。ここに小さな水筒(内部養生のタンク)をいくつも忍ばせておくと、乾きそうなときに少しずつ水がしみ出して、縮み過ぎを防いでくれます。水を足す場所とタイミングを設計する――それが内部養生の要諦です。
8|研究を始めた人への道筋:同一バッチで“三つの縦軸”をそろえる
最短ルートは、同一試料で**(1)化学収縮(容量法)、(2)オートジェニアス収縮(密閉・等温)、(3)内部 RH(小型センサ)を若材齢から並走させること。ここに温度履歴を厳密に重ね、DVS(吸脱着)と等温カロリメトリーを足せば、「反応→水→ひずみ」**の三点測量が成立します。内部養生の検討では、タンクの“水勘定”(LWA/SAP の設計)を事前に計算し、空隙増とのトレードオフを圧縮・透水・電気抵抗で確認するのが定石です。
まとめ
低 w/b の利点(緻密化・高強度)は、自己乾燥という代償と表裏一体です。2010年代の進歩は、化学収縮→内部 RH 低下→毛細管張力→体積変化を測定とモデルで一貫して扱い、内部養生を“設計変数”に昇格させたことにあります。配合(w/b・微粉・ブレンド)× 養生(温度・水)× 内部養生(LWA/SAP)を同じ座標で眺めれば、“強く、割れにくく、戻りやすい”若材齢へ近づけます。次回は**実験×計算の連成(STEM-EELS/EXAFS と多階層モデル)**に進み、微視の化学と巨視の力学をどこまで一本化できるかを覗きます。
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