AAM(アルカリ活性材料)の配合設計入門:Na₂O量・シリカモジュラスから相平衡・耐久まで一直線

研究を始めたばかりの人ほど、AAM(アルカリ活性材料)の配合試験は“闇雲なパラメータ探索”になりがちです。けれど、前駆体の化学と相平衡を手掛かりにすれば、耐久試験までの道筋は驚くほど一直線になります。本稿では、一般の読者にもイメージしやすい比喩を交えつつ、学生・初学者がそのまま実験計画に落とせるレベルまで踏み込んで、「配合(ミックス) → 相平衡(何ができるか) → 耐久(どう持つか)」を一本の線で結びます。[1–3]


1. 出発点は「材料の声」を聴くこと――前駆体を読み解く

最初の数日でやるべきことはシンプルです。使うスラグやフライアッシュ、メタカオリンのCa・Si・Al・Mgの含有と、ガラス相の割合を把握すること。Caが多いほどC-(N)-A-S-H型の“のり”が主体になり、Mgが効けばLDH(ハイドロタルカイト系)が共存しやすくなります。これはAAMの基礎レビューでも繰り返し示されてきた「高Ca系はC-(N)-A-S-H、低Ca系はN-A-S-Hへ」という大枠に合致します。[1–2]

ここで覚えておきたいのは、C-A-S-Hの骨格はC-S-Hの延長線上にあるという視点です。トバモライト様の鎖にAlが置換して入り、層間のCaや水、アルカリ金属の量で性格が揺れます。構造モデルの整理はリチャードソンらによって詳細にまとめられ、以後の定量化の土台になりました。[3]


2. 「アルカリ設計」はレシピの核心――Na2O量とシリカモジュラス

配合設計の第一関門がアルカリ度(Na2O/バインダー、wt%)とシリカモジュラス(SiO₂/Na₂O)です。たとえばNaOH寄りの設計では初期溶解が速く、Na₂SiO₃寄りではシリカ供給が増えてゲルが緻密化しやすい傾向が報告されています。実際、モジュラスやNa₂O量を変えると、発熱挙動、凝結、強度、微細構造が系統的に動くことが多くの研究で示されており、モル比の微調整=微細構造のチューニングだと捉えるのが近道です。[2,7]

ただし、同じモル比でも前駆体が違えば“効き方”は変わる点に注意。だからこそ、孔隙溶液(pore solution)を一度は採って中身を確認する価値があります。古典的なスラグ系では、pHが高いほどSi・Al濃度が上がり、Ca・Mgが下がるという関係が見られ、これが生成相の方向性と結びつきます。最近の研究でも、スラグ/フライアッシュ混合系の孔隙溶液化学が、温度やアルカリ種でどう変わるかが詳細に追跡されています。配合・養生・生成相の“翻訳機”として、孔隙溶液を活用しましょう。[8–9]


3. 「何ができるか」を先に当てる――相平衡の読み方

次のステップは熱力学モデリングです。GEMSなどの環境で、CNASH_ss(C-(N)-A-S-Hの理想固溶体モデル)やLDH、炭酸塩・ゼオライト相を含むデータベースを使えば、与えたアルカリ条件でどの相が優勢になるかを大づかみに掴めます。これは万能の答えではなく“羅針盤”ですが、炭酸化や塩化物環境での挙動予測の初期値として極めて役立ちます。[4]

この「理論の当たり」を、実測で検証して誤差を詰めるのが実験計画の要です。C-(A)-S-Hの定量は難物でしたが、トバモライト由来の原子モデルを使ったQXRDの新手法が提案され、定量の精度向上が進んでいます。相の目星 → QXRD/NMR/TGで整合、と段階を踏む癖をつけると議論が一気にクリアになります。[6]


4. 「見えている相」を増やす――測り方の優先順位

硬化体を評価するときのコアはQXRD(リファイン)+^29Si/^27Al NMR+熱分析。QXRDでは結晶相、NMRでは鎖長やAl置換、TGでは結合水や炭酸化の進み具合を読み、三者を“突き合わせ”てC-(A)-S-Hの像を鮮明にするのが定石です。C-(A)-S-Hの構造像はリチャードソンらのレビューが標準的な参照軸で、NMRで見える鎖の“つながり”と、X線で見える層間の距離感を同じ土俵に上げるのに役立ちます。[3]

同時に、孔隙構造(気孔率・トータル/細孔径分布)と輸送特性(吸水・拡散・電気抵抗)を合わせて測ると、“生成相→組織→輸送”の線が引けます。ここでの注意は、AAMはOPCと比べて試験法の相性が違う場合があること。国際共同試験では、炭酸化や塩化物浸透の評価手法をAAMに適用する際の妥当性が検証され、試験条件の選び方が結果に大きく影響することが示されました。[10]


5. 「耐久」を設計に織り込む――炭酸化・塩化物・硫酸塩

AAMの耐久議論は、配合(Na/Si、Na₂O%、Ca/Si、Al/Si)× 相(C-(N)-A-S-H+LDH)× 環境の三者相関です。高Ca・Mgを含むスラグ系では、LDH共存が塩化物結合に効く一方、炭酸化でpHが下がりやすいなど、OPCとは違う“クセ”があります。耐久に関する包括的レビューは、AAMを“同じ試験に入れて数字を比べる”のではなく“相平衡から読み解く”べきだと強調しており、配合時点での予見が重要です。[5]

そこで役に立つのが、前項の熱力学モデリング+孔隙溶液の二枚看板。たとえば炭酸化リスクが高い用途では、Na₂Oを過剰に上げず、Si供給でゲルを緻密化し、LDHの生成余地を確保する設計が候補になります。孔隙溶液のpH・イオン組成、相平衡での炭酸塩生成の当たりを付けてから、炭酸化チャンバーで条件を振る――この順番にするだけで試行錯誤は劇的に減ります。[4,8–9]


6. ミニケース:スラグ系AAMの「炭酸化に強い」配合を探す

想定するのは、地域入手のGGBFSと市販水ガラスを主成分とした常温硬化モルタル。まずXRFでCa・Si・Al・Mgを押さえ、初期配合はNa₂O=4.5–5.5 wt%/b、SiO₂/Na₂O=1.2–1.6あたりから入ります。仕込んだら、発熱(等温)と凝結時間で“暴れ”の有無を確認。次に孔隙溶液を抜き、pHとSi・Al・Naの濃度を測り、CNASH_ss+LDHを含む相平衡計算で炭酸化下の相変化を推定します。そこでQXRD+^29Si NMR+TGで相の実測を当て、吸水・電気抵抗・拡散で輸送特性を並べる。最後に1%CO₂・60%RHなど強めの条件で炭酸化促進を回し、pH・鉄筋不動態化・強度保持まで一気通貫で見る――という流れです。実際、こうした“仮説→当て→更新”のループは、国際ラウンドロビンの知見とも整合的で、試験条件の選定が結果を左右する点にも注意が行き届くようになります。[4,10]

この一連の設計で核になるのは、孔隙溶液の読みと相平衡の見立てです。スラグの孔隙溶液はpHとSi・Alの関係が反応の舵を取り、温度やアルカリ種で動く様子もよく知られています。ここを測っておくと、単なる“経験則の足し算”ではなく、反応系としてのAAMを扱えるようになります。[8–9]


7. 初学者へのメッセージ:地図はシンプル、道は一直線

配合の“正解”は現場や資源で変わりますが、「前駆体→アルカリ設計→相平衡→相定量→耐久」の順番は普遍です。どこか一つを飛ばすと、議論がにわかに霧がかります。逆に、この順番を守れば、実験室のデータは街中で使える設計情報へと変わっていきます。AAMは“難しい新素材”ではなく、見えない“のり”を設計する学問なのだ――そう腹落ちすれば、毎週の実験はもっと面白くなるはずです。[2]


参考文献(外部リンク一覧)

  1. Provis, J. L., & Bernal, S. A. (2014). Geopolymers and Related Alkali-Activated Materials. Annual Review of Materials Research, 44, 299–327. DOI: 10.1146/annurev-matsci-070813-113515. Annual Reviews
  2. Provis, J. L., Palomo, A., & Shi, C. (2015). Advances in understanding alkali-activated materials. Cement and Concrete Research, 78, 110–125. DOI: 10.1016/j.cemconres.2015.04.013. ScienceDirect White Rose(PDF)
  3. Richardson, I. G. (2014). Model structures for C-(A)-S-H(I). Acta Crystallographica Section B, 70(6), 903–923. DOI: 10.1107/S2052520614021982. IUCr PubMed PMC(本文)
  4. Myers, R. J., Bernal, S. A., & Provis, J. L. (2015). Thermodynamic modelling of alkali-activated slag cements. Applied Geochemistry, 61, 233–247. DOI: 10.1016/j.apgeochem.2015.06.006. ScienceDirect White Rose(PDF)
  5. Bernal, S. A., & Provis, J. L. (2014). Durability of Alkali-Activated Materials: Progress and Perspectives. Journal of the American Ceramic Society, 97(4), 997–1008. DOI: 10.1111/jace.12831. Wiley
  6. Mesecke, K., Warr, L. N., & Malorny, W. (2022). Structure modeling and quantitative X-ray diffraction of C-(A)-S-H. Journal of Applied Crystallography, 55(1), 133–143. DOI: 10.1107/S1600576721012668. Wiley PMC(本文)
  7. Choi, S., et al. (2019). Influence of Na2O Content and Ms (SiO2/Na2O) of Alkaline Activator on Workability and Setting of Alkali-Activated Slag Paste. PMC
  8. Puertas, F., Fernández-Jiménez, A., & Blanco-Varela, M. T. (2004). Pore solution in alkali-activated slag cement pastes. Relation to the composition and structure of calcium silicate hydrate. Cement and Concrete Research, 34(1), 139–148. DOI: 10.1016/S0008-8846(03)00254-0. ScienceDirect
  9. Zuo, Y., Nedeljković, M., & Ye, G. (2019). Pore solution composition of alkali-activated slag/fly ash pastes. Cement and Concrete Research, 115, 230–250. ScienceDirect
  10. Gluth, G. J. G., et al. (2020). RILEM TC 247-DTA round robin test: carbonation and chloride penetration testing of alkali-activated concretes. Materials and Structures, 53, Article 21. DOI: 10.1617/s11527-020-1449-3. SpringerLink TU Delft(PDF)

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