下水道でコンクリート管を長寿命化させるには、「施工時にエトリンガイト生成を抑えるだけ」では不十分です。下水道の主な劣化要因は、硫化水素(H₂S)から微生物が生成する硫酸による微生物起因コンクリート腐食(MICC)/バイオジェニック硫酸腐食であり、これは外部からの強い酸攻撃です。エトリンガイト抑制は内部硫酸膨張(DEF)対策として有効ですが、下水環境での酸腐食を止める決定打にはなりません。現在は、高炉スラグ系「自己防御型」ヒューム管、レジンコンクリート管、耐硫酸コンクリートなど、材料側で酸腐食に強い管材が各社から導入されつつあります。
主なポイント
- 下水道コンクリート管の主劣化要因は、H₂S → 微生物 → 硫酸 → 石膏・エトリンガイト生成というバイオジェニック硫酸腐食であり、「エトリンガイトを最初から作らない」だけでは防げない。
- エトリンガイト抑制(低C₃Aセメント等)は内部硫酸膨張対策には有効だが、pH2〜3の強酸環境ではポルトランド系水和物自体が溶解し、根本的な寿命延伸には限界がある。
- 耐硫酸性のあるコンクリート管としては、①高炉スラグ高置換「自己防御型」ヒューム管、②レジンコンクリート管(JSWAS K-11/K-12)、③耐硫酸コンクリートや補修材(耐酸スーパーアスコン等)が代表的。
- これらは「Ca(OH)₂を減らす/酸に対して惰性な結合材を使う/緻密化して酸の侵入を遅らせる/表面に犠牲層を形成する」といった劣化メカニズムに対応した設計になっている。
- 実務的な対策は、「管種選定+防食ライニング+H₂S発生抑制(運転管理)」の三点セットで設計するのがベストプラクティスであり、材料単独での完全防御は期待すべきでない。
下水道コンクリート管はなぜ劣化するのか?基本メカニズム
1. バイオジェニック硫酸腐食(MICC)の流れ
下水道環境のコンクリート劣化は、ほぼこのシナリオで説明できます。
- 底部の嫌気条件で硫化水素が生成
- 汚泥・沈殿物中の硫酸還元菌(SRB)が、硫酸イオンなどを還元しH₂Sを生成。
- H₂Sが気相に放散し、コンクリート表面に拡散
- 管頂部(クラウン)付近は特にガスが溜まりやすく、腐食が集中する。
- 好気条件のコンクリート表面で硫黄酸化細菌(SOB)がH₂Sを硫酸に酸化
- Acidithiobacillus属などの酸性好みの細菌が、pH2〜3まで表面pHを低下させる。
- 硫酸がセメント水和物を溶解
- Ca(OH)₂やC-S-Hが溶け、代わりに二水石膏(CaSO₄·2H₂O)や二次エトリンガイト(3CaO·Al₂O₃·3CaSO₄·32H₂O)が生成。
- これらは膨張性・多孔質で、表層を「モロモロの腐食層」に変え、断面欠損と粗度増加を招く。
このように、下水道におけるエトリンガイトは「腐食生成物」として出てくるものであり、施工時に生成を抑えれば解決、という種類の現象ではありません。
2. コンクリート管の時間劣化イメージ
長期の調査・モデル解析から、典型的な劣化プロセスは以下のように整理されています。
- 初期:表面の炭酸化・軽微な酸攻撃 → pHが徐々に低下
- 中期:SOBが定着し、腐食速度が数mm/年オーダーまで増大
- 末期:かぶりが失われ鉄筋腐食、輪荷重に対する耐力低下、クラウン部の破断・崩壊
エトリンガイト抑制だけで劣化は防げるか?
結論から言うと、「No。ただし一部の劣化には一定の効果あり」という位置づけです。
1. エトリンガイト抑制が効く領域
エトリンガイトが問題になる代表例は次のようなケースです。
- 内部硫酸膨張(Delayed Ettringite Formation, DEF)
- 高温養生や高アルカリ環境下で、後からエトリンガイトが再生成して膨張ひび割れを起こす現象。
- 地盤側からの硫酸塩攻撃(地下水中のSO₄²⁻)
- 外部硫酸塩とC₃A成分が反応してエトリンガイトが生成し膨張する、いわゆる「硫酸塩劣化」。
このような劣化に対しては、
- 低C₃Aセメント(硫酸塩抵抗性セメント)の採用
- 養生温度管理
- 混合材(高炉スラグ、フライアッシュなど)によるC₃A希釈・緻密化
といった「エトリンガイト生成を抑える」設計が有効です。
2. 下水道のバイオジェニック硫酸腐食に対しては不十分
しかし、下水道のMICCでは、
- pH2〜3程度まで表面が酸性化し、
- Ca(OH)₂だけでなくC-S-Hも溶解し、
- 硫酸とAlを豊富に含む溶液から新たにエトリンガイトや石膏が析出します。
したがって、
- 施工時にエトリンガイトを抑制していても、
- 腐食が進めば「外部から」エトリンガイトがいくらでも作られてしまう
という構図です。
また、近年のレビューも、下水道のMICC対策としては、
- コンクリート配合の工夫(高炉スラグ・フライアッシュ・特殊 admixture)
- 表面防食(ライニング・コーティング)
- 硫化水素発生の抑制(運転・換気)
など多層的な対策が必須であるとまとめています。
耐硫酸性コンクリート管・材料にはどんな種類があるか?
ここでは、日本の下水道で実際に導入が進んでいる(または導入例のある)代表的な材料・管種を、メカニズムとともに整理します。
高炉スラグ系「自己防御型」ヒューム管(スリーAパイプ等)とは?
いわゆるヒューム管(遠心力鉄筋コンクリート管)の一種で、セメントの70%以上を高炉スラグに置換し、さらに水砕スラグ骨材を用いた管が「自己防御型ヒューム管(スリーAパイプ)」として開発されています。
特徴と耐酸メカニズム
- ポルトランドセメント由来のCa(OH)₂含有量が大幅に低い
- 硫酸と反応するカルシウム成分が少ないため、腐食速度が小さい
- 表面に生成した二水石膏の層が、犠牲層として酸を受け止める
- ある程度の厚みまで石膏が積層するが、その下の硬化体は健全に近い状態を維持
- 高炉スラグの緻密な水和生成物により、酸やイオンの拡散速度が低下
実験的には、5%硫酸水溶液への浸漬試験で、普通セメントコンクリートと比較して腐食深さが大幅に小さいことが報告されています。(月刊推進技術)
レジンコンクリート管(JSWAS K-11・K-12)
レジンコンクリート管は、セメントと水を用いず、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を結合材にしたコンクリート管です。日本下水道協会規格では、JSWAS K-11(レジンコンクリート管)・K-12(推進工法用レジンコンクリート管)として規格化されています。
主な特徴
- 極めて高い耐酸性
- 結合材が樹脂のため、硫酸・温泉水・酸性土壌・海水などに対しても高い耐食性。
- 高強度・高耐荷力
- 外圧強さ・圧縮強度ともに高く、長距離推進や高土被りに対応。
- 剛性管で変形が小さい
- 布設後の断面変形が小さく、水理条件が安定。
- 内面が非常に平滑(粗度係数 n ≈ 0.010)
- 同径のヒューム管より流量を増やせる、または勾配を緩くできる。
MICCに対しては、「そもそもセメント水和物が存在しない」のでCa(OH)₂を起点とする硫酸腐食メカニズムから外れることが大きなメリットです。
耐硫酸コンクリート・補修材(耐酸スーパーアスコン等)
ヒューム管自体は従来の鉄筋コンクリートとしつつ、内面を高耐硫酸性のモルタル・コンクリートで被覆するアプローチも、国内で多数実用化されています。
代表的な技術例:
- 大成建設らが開発した「耐硫酸コンクリート」
- 耐硫酸性付与剤(ナフタレンスルホン酸塩系)+石灰石微粉末で、通常の約10倍の耐硫酸性を実現。(J-STAGE)
- 耐酸スーパーアスコン(米倉インフラ等)
- セメント+2種の微粉末による三成分系プレミックスモルタル。
- 従来品の5〜10倍の耐酸性能を持ち、新設・補修双方に適用可能。(米倉社会インフラ技術研究所 社会ンフラ施設の長寿命化を目指す)
メカニズム
- 混合材・付与剤により
- Ca(OH)₂を低減し、
- 緻密なマトリックスと石灰石の中和作用で硫酸の侵入とpH低下を遅らせる
- これにより腐食速度を大幅に小さくし、被覆厚さ分の「腐食余寿命」を確保する考え方です。
樹脂ライニング・強化プラスチック複合管(参考)
厳しい酸環境では、コンクリートの代わりにJSWAS K-2「下水道用強化プラスチック複合管(FRPM管)」など、樹脂系材料主体の管材を選定するケースも増えています。これらは酸に強く電食の心配も少ないため、「耐硫酸性を有する管材」として下水道設計指針でも例示されています。(キョウプラ)
各材料はどの点が劣化に強いのか?メカニズムで比較
材料別の「守り方」の違い
| 管種・材料 | 主な結合材 | 耐硫酸性の基本メカニズム | 想定用途イメージ |
|---|---|---|---|
| 普通ヒューム管(遠心力RC管) | ポルトランドセメント | Ca(OH)₂豊富で硫酸と反応しやすく、石膏・エトリンガイト生成により腐食が進行 | 標準環境・対策必須 |
| 自己防御型ヒューム管(スリーA等) | 高炉スラグ高含有結合材 | Ca(OH)₂が少なく、表面に形成される石膏層が犠牲層として機能 | 高H₂S環境の本管等 |
| レジンコンクリート管(JSWAS K-12) | 不飽和ポリエステル樹脂等 | セメント水和物がほぼ無く、硫酸に対して化学的に安定、吸水も極めて少ない | 推進管・内水圧対応 |
| 耐硫酸コンクリート・補修材 | セメント+混合材+付与剤 | Ca(OH)₂低減+緻密化+中和作用で酸の侵入速度を低減し、腐食余寿命を延ばす | 既設管補修・新設内面 |
実験・現場研究から分かってきたこと
- 高品質な緻密コンクリートは、低品質コンクリートより明らかに腐食速度が小さい
(同一MICC環境で複数の市販管を比較した研究でも確認)。(サイエンスダイレクト) - 高炉スラグ・フライアッシュなどの混合材は、化学的な抵抗性とともに、拡散抵抗を高めて腐食の進展を遅らせる。(SciELO)
- Ca(NO₂)₂を混和したコンクリートでは、硫化物の酸化速度が低下し、腐食損失が約30%低減した実下水道での試験結果も報告されている。(PubMed)
- MICCが進行したRCP(鉄筋コンクリート管)は、クラウン部から耐力が低下し、荷重条件によっては設計耐力を下回るケースもあり、材料選定=構造安全性に直結することが示されている。(MDPI)
実務上の注意点・ベストプラクティス
1. 「エトリンガイト抑制」の位置づけ
- エトリンガイト抑制(低C₃Aセメント・高炉スラグ置換など)は、
- 内部膨張型の硫酸塩劣化には有効
- MICCを「無視できる」と言えるほどには効かない
- したがって、「やっておいて損はないが、決定打ではない」という認識が適切です。
2. 管種選定の考え方
- H₂S濃度が高く、腐食リスクの高い箇所(サイフォン部・マンホール・換気不良部など)では以下を優先的に決定する。
- レジンコンクリート管
- 高炉スラグ系自己防御型ヒューム管
- 樹脂系管・セラミック管
- 一般部では、
- 高炉スラグやフライアッシュを用いた高耐久ヒューム管+内面防食
など、コストとのバランスを取りつつ材料を選定する。
- 高炉スラグやフライアッシュを用いた高耐久ヒューム管+内面防食
3. 防食ライニング・補修材の使い方
- 新設管:
- ヒューム管+耐硫酸モルタルの工場内ライニング
- レジンコンクリート管を本体に採用
- 既設管:
- 耐酸スーパーアスコン等による内面被覆・吹付け
- 樹脂ライニング(FRPライナー、スプレーライニング等)との併用
ライニングはピンホール・剥離・クラックから裏面腐食が始まるため、材料の性能だけでなく施工品質管理が非常に重要です。
4. 運転・維持管理とのセット設計
最新のレビューやガイドラインは、材料対策だけではなく、下水の運転条件を含めた総合対策を強調しています。
- 換気・送風によるH₂S濃度低減
- 上流施設での硫黄循環制御(曝気・薬注)
- 定期的な腐食状況のモニタリング(表面pH・腐食深さ)
FAQ:よくある質問
Q1. 硫酸塩抵抗性セメントを使えば、下水道でも安全ですか?
A. それだけでは不十分です。硫酸塩抵抗性セメントは、外部硫酸塩による膨張劣化には有効ですが、MICCのような強酸(pH2〜3)環境では、C-S-Hなどの水和物自体が溶解します。配合改善は重要ですが、材料選定+防食+運転対策のセットで考える必要があります。
Q2. 耐硫酸コンクリート管はどのくらい長持ちするのでしょうか?
A. 一概には言えませんが、5%硫酸溶液を用いた実験では、通常コンクリートに比べて侵食深さが1/5〜1/10程度に低減する配合が報告されています。(大生) 下水道本管の設計寿命(50〜100年)を狙う場合でも、適切な配合と被覆厚を取れば、腐食余寿命として現実的なレベルと考えられます。
Q3. 既設のヒューム管は、全てレジンコンクリート管に更新すべきですか?
A. コスト面・施工制約を考えると、全更新は現実的でないことが多いです。腐食が顕著な区間(高H₂S部・重要構造部)を優先的にレジンコンクリート管や樹脂管に更新し、その他は防食ライニングや耐硫酸補修材を組み合わせる「選択的更新」が一般的な戦略です。
Q4. pHはいくつ以下になると、コンクリート腐食が急激に進みますか?
A. 多くの研究で、pH4以下で腐食速度が急増し、pH2〜3で数mm/年オーダーの侵食が報告されています。MICC環境では、SOBの活動により表面pHが2前後まで低下することも珍しくなく、この領域では材料側の工夫をしても、「完全に腐らない」ことは期待しづらいと考えるべきです。
Q5. 硫化水素濃度管理と材料選定、どちらを優先すべきですか?
A. 実務的には両方必須です。H₂S濃度を下げれば腐食速度は確実に下がりますが、完全にゼロにはできません。逆に材料側だけ強化しても、極端な高H₂S環境では寿命が短くなります。最新のレビューでも、「硫黄循環の制御+材料・防食の最適化」が最も合理的な戦略とされています。
まとめ:今すぐできる次の一歩
- 劣化メカニズムの整理
- 下水道コンクリート管の主敵は「エトリンガイト」ではなく、
H₂S → 微生物 → 硫酸 → 石膏・エトリンガイト生成による外部酸攻撃である、と整理しておく。
- 下水道コンクリート管の主敵は「エトリンガイト」ではなく、
- 管種選定の再確認
- 計画中・更新予定の路線で、
- 高H₂Sリスク箇所にレジンコンクリート管や自己防御型ヒューム管を配置できないか
- 一般区間に耐硫酸コンクリートや防食ライニングを組み込めないか
を検討してみる。
- 計画中・更新予定の路線で、
- 運転・維持管理との連携
- H₂S濃度測定・表面pH・腐食深さ測定などのモニタリング計画を立て、「どこまで材料で守り、どこから運転で抑えるか」を施設全体の戦略として整理する。
参考文献(DOI付き)
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- Chaudhari, B., et al. Microbiologically Induced Concrete Corrosion: A Concise Review of Assessment Methods, Effects, and Corrosion-Resistant Coating Materials. Materials, 15(12), 4279, 2022. doi:10.3390/ma15124279. (MDPI)
- 大成建設ほか. 「下水道施設に用いる耐硫酸コンクリートの開発」大成建設技術センター報, 第39号, 2006. (大生)
- 日本レジン製品協会ほか. 「下水道用レジンコンクリート管 JSWAS K-11/K-12」各種カタログ・技報. (東海ヒューム管)